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2021-08-17 23:49:59
2274文字
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ふたり酒

中の人の誕生日企画。うちの子、芦川が登場する短編です。この時期をテーマにちょっと書いてみました。

ふたり酒
 
 縁側で上弦の月をうつした酒を舌で転がすように味わう。
「やっぱり仕事のあとの酒は美味いな」
 おちょこを口から離すと、透き通った琥珀色の酒瓶を持ちもう一つの器に注ぐ。
「ほらよ、香りが良いやつ選んどいた。今日ぐらい良いだろ?」
「ありがとう。本当にお酒好きだよな」
「俺が一杯、飲もうと誘うと大体仕事あるからって断るお前が呑まなすぎなんだよ」
「そんなことないと思うけどな」
「まあ、実際運転することが主だし、お巡りさんなら仕方ないとは思うが……それにしても夜ぐらい付き合えよ」
「ああ、楽しむぐらいはさせてもらうな」
 小さな二つの月が水面に浮かぶ。ゆっくり眺めたあと、零れないようそっと口に運んだ。前から後ろにと、以前より心許なくなった髪を手ぐしで流す。彼はそうだとお盆の上にあった炙った裂きイカを摘む。
「これ、美味いから手が止まらなくなるんだよ」
「はは、またおっさん化が進んだな」
「お前は甘い方が好きなのは知ってるけど、酒と言ったらこういうのだろ」
「好みがあるからいいんじゃないか。それにそう言いながらもうひとつ用意してくれてるのに。素直じゃないな」
 ふっと笑うともうひとつ、小皿が用意されている。豆大福が二つ並んでいた。
「あー、それにしても早いな。今年もというか、夏が過ぎるぞ」
「そうだな。今年はなんか楽しいことはあったか?」
「夏過ぎたけど……変わらず家の家畜の世話して美味い酒飲んでの繰り返しだな。あとは不死男と偶に話すぐらいか」
「良い毎日だな」
「ああ、生きてるもんの世話が仕事だから休みはないようなもんだけど、何だかんだやり甲斐はあるしな。酒もあるし。変わらない日々だけど同じ日はないから飽きてはないよ」
 手に持つおちょこが空になると、とくとくと酒を追加する。少し甘めの香りが鼻を通るのを味わいながら、月を見上げ綺麗だなと目を細める。
「酒のペースが早くないか?」
「なんだろうな。器が小さいからかもしれん。つい注いじまう」
「好きだからって呑みすぎは良くないぞ。明日も早いんだろう」
「ははは、仕事は待っちゃくれないからな。でも今日はいいんだ」
……ゆっくり呑みたがってたもんな」
 じっと見つめる先はゆれる水面越しの底に描かれている金魚だった。まるで泳いでるようなその姿に凄いなと一言こぼす。
「せっかく呑むなら面白い容器にしようと思ってさ。こんなん用意してんだぜ。お前は知らなかっただろ」
「うん、知らなかったよ」
「あとさ、近所の和菓子屋の大福だって用意した。前遊びに来た時に出した、これ、美味いなって食ってたの覚えてるんだからな」
「懐かしいな」
「小さい頃から一緒に虫捕まえに行ったり川まで泳ぎに行ったり、ふたりでよく遊んでたよな」
「ああ、楽しかった」
「お前が勉強頑張って警察官になった時はめっちゃ嬉しくて、家族皆で祝ってたよな。俺も負けないように家の仕事頑張って、良い報告出来るようにって、目の前のことめいっぱいやってたわ」
「それは知ってる。今もだろう」
 そう言うとぐっと目を閉じ、空を仰ぐ。
……次会えるのはいつだろうなって言いながら別れて、何だかんだ次の日や週末に会うとかしてたのに……
「うん」
なんで………
「うん」
……お前はなんでもかんでも、さきにいくんだよ………
……ごめんな」
「早すぎるんだよ武斗……馬鹿やろう
 名前をつぶやく彼は残りの酒を呷ると、勢いよく後ろに倒れる。
「はぁ、もっとゆっくり話す予定だったんだぞ。去年よりは整理できたと思ってるがくそっ、まだやりきれねぇ」
 左手を月に向けて伸ばす。
「まだまだ話し足りないんだ……こっちに帰ってくる時期だから最後くらい俺に付き合ってくれても良いだろう?」
 じっと隣で聞いていた彼の微笑みは申し訳なさそうなでも少し嬉しそうなものだった。
「ああ、瑛聡が満足するまで付き合うよ」
 お盆にある小さな器には月がひとつ浮かんだままだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あとがき
 
 中の人の誕生日企画でちょっと短編を作成~。何とか間に合ってよかった。
 はい、うちの子の芦川家の二人を元に、この時期ならではのテーマです。今回は最近の探索者、芦川瑛聡とその苗字を持っていた芦川武斗、親戚二人が登場人物の話になります。
 リアルアイディアが高い方は最初の方であれ?と違和感を感じているかもしれませんが、そう、武斗は亡くなっています。うちの子でいう、唯一のロスト探索者です。武斗もこう良い奴でした……生きてたら今でも使っていたであろう探索者ですが、シナリオの最後は納得の選択をしたのでエンドに悔いはありません。でももうちょっと話が出来たら良いなと思い、今回触れさせていただきました。そんな亡くなった同い年の従兄弟に想いをはせる瑛聡ですが、まだ信じられないというか信じたくないというか……気持ちがざわついてるようでした。武斗が亡くなった時期も夏ということもあり、このお盆の時期に瑛聡は彼を思って晩酌をしています。ひとりごとがとても多くなりますね。そんな瑛聡の傍には心配ででも今も想ってくれていることに少し嬉しさを感じている彼は居るんじゃないかなと思っています。
 ふたりは前のように遊ぶことは出来ませんが、今も互いに大事な友人を思っていることでしょう。
 
 
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