11155.
2021-07-17 23:32:29
12751文字
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想いは天高く

テーマ「七夕」でうちよそ大集合です!主人公は実と海さん。海さんが引きこもりから復帰したくらいだから初期設定から数年経ってますね。探索者たちの日常の一場面です。
▼元
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 想いは天高く
 
 キュッキュッと音を響かせながらペンを勢いよく走らす。
「よし! 書けた!!」
 腕まくりしながら短冊に書いた文字を得意げに見る。髪はそのままに流す姿はまるで男子と言っても信じてしまうような彼女に思わずクスクスと笑いながら声をかける。
「実ちゃん、どんな願い事にしたの?」
「えへへへ! 生! これは、内緒だ!!」
 にかっと大きく口を開けて笑うと書いた面を見せないように短冊を胸に抑える。
「え~、妹にも見せてくれないの?」
「うん、駄目だよ! これは誰にも見せないやつだからな」
 姉妹の様子を見ていた蛍が声をかける。
「私も見たい~! 私は? 私は見せてもらえない?」
 ダメかな?とにこにこ微笑む彼女に実は首をふりながら答える。
「蛍さんにも見せないよ……あとすずめさんにも!」
 わくわくと期待に満ちた顔で覗く蛍とそれに便乗して見ようとしていたすずめに、実は短冊が見えないようダメ!と背を向ける。
「駄目か~~」
「そうなの? 残念~~~」
「はは、残念だったな蛍ちゃん、すずめちゃん。それにしても、実ちゃんはなんでそんなに内緒なんだ? どうせあの笹に飾るんだろう?」
 残念そうにする蛍の横にいた謙之介が浜辺に飾られている大きな笹を指さす。周りにいた人たちもざわざわと近寄ってくる。
「そうだよ、謙おじさんが言うようにどうせ見られるじゃんか」
「うんうん。実、そんなに隠されると逆に気になってくるよ?」
 そうだよなぁと碧も鈴丸の意見に賛同する。自分よりも背が大きい幼なじみたちを見上げながら実は笑う。
「だって特に意味はないよ! ただ内緒にしたいだけなんだもん」
 得意げに話す実に周りが聞き間違えかと一瞬考える。
 そんな時、短冊を飾り終わった結と丸介が集まる皆の元に来る。
「飾ってきました~ えっと……皆さん、どうしたんですか?」
「戻ったッス! うん? 何かあったんですか? それか何か始まるんスか?」
 カラーコーンを被った彼は首を傾け、声をかける。結もどうしたんだろうと立ち止まり様子を伺う。
「あ、いや……何も無いんですけど、実の行動が謎過ぎて変な空気になった所です」
「変な空気ってなんだよ! 碧!!」
「まあまあ、実。実際よく分からないんだけど、意味は無いのに内緒なの? それ?」
 鈴丸が蛍の持つ短冊を見つめながら確認する。
「うん!」
 そのやり取りを聞いた結は実と周りを見ながら聞く。
「えっと、実ちゃんが持ってる短冊が気になってるんですか? 皆さん?」
 顔に手を当て困ったなとしながら生が答える。
「そうなんです。実ちゃんが何故か書いた短冊を見せないようにしてて」
 それに続くように蛍とすずめが付け加える。
「そうなの、結さん。うーん、そこまで見たいって訳じゃないんだけど……
「誰にも教えないって気になっちゃうよね🌸」
……まあ、あれだ。何か理由があるのかと思ったけど実ちゃん曰く理由はないが内緒なんだそうだ」
 苦笑してこんな感じだと謙之介が言う。
 目をぱちぱちしてなるほどとこぼす結。思わず丸介が実に体を向けながら聞く。
「実さん? 特に見られて困るんじゃないなら見せるくらいいいんじゃないっスか?」
「え、内緒だから内緒なんだけど?」
「え??? 意味ないんですよね?」
「うん! でも内緒なんだ」
 満面の笑みの実に丸介と結はまた頭に?が浮かぶ。二人は思わずえーとと言いながらどうしようかと顔を見合わせる。
「ほら、実。お前のせいだぞ」
「うーん、これは実のせいだね」
「そうだね。実ちゃん、せめて恥ずかしいからとかそんな理由なら言ってくれたら良いのに」
 幼なじみと妹に言われてえ?と驚く実。
「いや、別にそう言うんじゃなくて……う、あれだ。皆、人の短冊を気にし過ぎだって……!」
 だんだん申し訳なってくる実はばっと駆け出しその場を離れる。大きな笹の方へと向かって。
「あ! あいつ、逃げたな……
「うーん、なんであそこまで答えないんだろう?」
 つぶやく妹の様子に碧が声をかける。
「生が分からないじゃ、実の考えてることなんて誰もわからないよ。まあ実だし」
「そうかな。まあ、恥ずかしかったのがもしかしたら一番近い答えかもね……
 くすと笑う彼女に、そうかもなと答えながら呆れたように微笑む碧は懸命にかけていく小さな影を見守る。
 
 
 
 タッタッタッと砂浜を踏みしめ力強くかける実。手には短冊を持ちながら。笹のある方に近づくと周りの人々が色とりどりの短冊や紙飾りの提灯、ねじり網、吹流し等飾っている。薄暗くなってきた為、笹をライトアップしており、キラキラと照らされている様子に実は思わず足を止めて見上げる。
「あら、実ちゃん! 短冊かけたの? 飾りましょうか?」
 笹に短冊を飾っていたひとりが実に声をかけた。
「健さん! あ、大丈夫! 自分で飾りたいから、それにしても凄いね。笹……
 くるっと後ろを振り向く背の高い彼は目を細め、そうねと呟く。片目の眼帯にそっと触れながら。
「こんなに豪華な笹はなかなかないわよね。彼に誘ってもらわなきゃこんな所まで来れなかったし……
「確かに! わざわざ海の近くの建物借りて七夕過ごすとか、規模が違うよね」
「そうなのよ。ふふ、ここまで色んな人を誘ってやるとは思わなかったけど、もう楽しまないとね!」
 にこりと微笑む健にうん!と思いっきり頷く実。
「そうだ、飾るなら彼に声掛けたら良いと思うわ。全体の様子見ながら指示出してたみたいだし」
「そうなんだ! ありがとう! 健さん! じゃあ、海の所に行ってくるね!!」
「ええ、いってらっしゃい」
 手をひらひらと揺らしながら実を見送る健。教えてもらった先へと実はまた駆け出した。
 彼は私も皆のところへ行こうと実が来た方へと一歩足を踏み出す。
「そっちで良いぞ。おっと、支える根元の所はしっかり積んでおけよ。コレだけデカいと倒れた時シャレにならんからな!!」
 聞きなれた声が更に大きく響く。実が笹の裏側に回るとはっぴを着た数人が笹の根元を何やら組み直しているようだ。
「山田さん! お疲れ様です! 笹凄いですね!!」
「おー! 実、これは凄いよな。俺も久しぶりに良い笹を見たよ」
 日に焼けた割腹の良い彼がわははと笑っている。
「それで、あの、海を見てないですか?」
「ああ、海さんか! えっと、全体見るって下がってたから……ほら、あそこだ! ほぼ頼まれた仕事は終わったから後は皆の短冊を飾るだけなはずだぞ」
「ありがとう! 山田さん! ちょっと海に声掛けてきます!」
「おう、またな」
 お互い手をあげて挨拶すると、実は山田が指していた人影の方へとまた向かう。
 
 
 
 大きな笹を見ながら隣の彼らに声をかける。
「ポポティ、帝之くん。今日は来てくれてありがとう。とても賑わった会になったよ」
 にっと右頬をあげ嬉しそうに笑う海は薄暗い中でも鮮やかな赤髪が揺れているのがわかる。
「問題ない」
「おうよ! 外に出てくるようになった海が出かけようと声掛けたんだ。これくらいどうって事ないさ」
 左目にかかる傷よりも印象に残る程の元気な笑顔で答える帝之。その言葉に同意する様に、鼓はこくっと頷き白い髪が揺れる。
「カイ、元気……良かった」
「ありがとう。その時は心配かけて申し訳ない。前程じゃないがこうやって元気になってはきたよ」
 眉を下げ申し訳なさそうに話す海に、帝之は良いんだと笑う。よいしょと近くにあった椅子に腰を下ろし、笹が飾られている方へと目を向ける。
「それにしても盛大に人呼んだなぁ。夏葉は同じ職場だから誘いやすかったけど……まさか、兄ちゃんたちまで呼んでもらえるとは、な?」
 二人の子供と妻の結里恵と家族で楽しそうに話す兄、国頼の姿が目に留まる。周りでは甥っ子たちとわーわーはしゃぐ夏葉と上井、深山、それと少し戸惑いながらも賽目がいた。
「おーおー、元気だな~怪我しないと良いが。
 それに智にぃと真琴ちゃんも居るし。謙にぃは相変わらず楽しそうに皆と話してて安心したよ」
「ふふふ、どうせ呼ぶなら全力でやろうと思ってさ。時間と資金があるなら最大限、有効活用するべきじゃないか」
 ニヤと笑う彼に帝之は堪えきれず腹を抱えて笑い出す。ふむと手を組みながら鼓も反応する。
「アハハ、流石はお金持ち……! 相変わらずやることが規格外だな!」
「すごいな、カイ。さすがだ」
 そんな二人にいいやと首を振る海。
「凄いのは私じゃない。この企画に参加してくれた人たちのおかげだよ。ただ呼べばよいってものじゃない。
 それにこんな無茶振りも帝之くんとポポティが協力してくれたからできたんだ。君たちが繋げたこの関係がここまで、形になるとは思ってなかったよ」
 また別の方では鮮やかな髪色の人たちがわいわいともうひとつの人たちの集まりに合わさっていく。遠目からもわかる金に赤、白、黒、茶色と様々だ。そして言葉も違い、見た目も音も色んなものが合わさっていく。ここが日本だと忘れそうなくらい沢山のひとが集まっていた。
「ティモもピーターも楽しそうだ……
「そうだな。こんな団体傍から見たらどうやって来たのか検討もつかないな!」
 海は目の前の風景を瞳に焼き付けるように眺める。
……ああ、これだけ色んな奇跡が重なるのは二人がいたからだよ」
 そう呟くと彼はゆっくりと二人に体を向ける。
「時間は有限だ。改めて実感したが……限られた時ならば引きこもるより先に進もうと、今を楽しもうと思うことにしたよ。それならひとりじゃ出来ないことをしたくなったんだ」
 静かに語るその様子に鼓と帝之はじっと耳を傾ける。海の静かな波の音と少し離れた人たちの楽しそうな声を聴きながら。
……海、それは前と変わらないじゃないか?」
「そうだな。カイはいつものカイだな」
「え?」
 海は思ってもいなかった二人の言葉に驚き、きょとんとする。
「なんか体調が悪くなったとか知らないが、海は前から人を巻き込んでなにかしてただろう? 今回はまた一段と大きな集まりになったけどやってることは変わってないよ」
「いつも声をかけてくれる。それがカイだ」
……でも、前ほど動いてないよ?」
「ああ、そうなのか? 誘ってもらう側からしたらそんな気づかないぞ」
「むしろ、年々大きなイベントになってる」
 鼓の言葉に確かになとうんと頷く帝之。
「こんな企画なら時間がかかっても仕方ない。むしろ社会人になって個人で集まる方が難しいんだ。集まるまでに準備できる奴らがすごいんだ」
「それはそうだけど……
「教会のみんな、すごく喜んでる。これは嬉しいことだ。みんなが笑える、望んだ景色だ」
 首を傾け、そうだろ?と目線を向ける鼓に海はなるほどとこぼす。
「はは、二人には敵わないな。確かに私は変わってないのかもな。はぁ、しかも年々大事になってるのか……
「ああ、コレだけ人と関わればな。呼びたいやつら呼んでこいって、どれだけ人を集めさせれば気が済むんだって感じだよ」
 やれやれと首を振る帝之。
「もともと、集まる場所が教会だが……ここまでできるのは教会だけでも限界が、ある。……実際、私が知らないひとたちがたくさんだ」
 顎をクイッと鼓が示す方へ振り返る海。二人に聞いたことはある人たちだが、まだ挨拶しかしていない人たちも楽しそうに皆と笑いあっている。
「とりあえず、皆凄いってことにしておくか」
「そうだな。テイノ、凄い。カイももちろん」
 その言葉に深緑の目を揺らしながら、海はにっと満面の笑みを二人に向ける。
「ありがとう! Danke……!」
 気にすんなってと帝之が答えていると、ふっと海の後ろを見ている鼓が話し出す。
「カイ、来たぞ」
「どうしたんだ?」
 海が鼓が示す方へ振り返るとこちらに一人近づいてくる人影がある。
「海~~~!」
「実!」
 何かあったのかと心配する海に、はぁはぁと息を整えながら実は話しかける。
「短冊書けたんだ! ただ高いところに飾りたいけど難しいから相談したくて!」
「なるほど。それならポポティか帝之くんにお願いするかい? 二人とも背は高いからどこでも飾れると思うよ」
「お! なんか手伝うか? 実ちゃん?」
「任せろ」
「あ! いや、その! できれば自分で飾りたいんだけど!!」
 あたふたとする実に帝之が不思議そうに聞く。
「でも高いところに飾りたいんだろ?」
「だって、内緒の短冊だから見られないように自分で飾りたいんだ……!」
「内緒?」
「なんで実は内緒にしたいのに短冊に書いたんだい? 皆が見られる形になるじゃないか?」
 海が思わず声をかける。形にするのにと。
……だって、七夕ってお願いというか、自分の目標を書くものが本来の形だろう?」
 彼は、様子を伺いながら気まずそうに話す実に興味を持つ。そして実の言葉に海が言っていたなと頷く。
「ああ、七夕やろうと話した時に教えてくれたね」
「うん。中国の乞巧奠(きこうでん)、女性が裁縫の上達を祈願する儀式が由来で奈良時代に伝わったのが今の形になったって言われてる。有名なのだと江戸時代の浮世絵とかに描かれた寺子屋の様子や水の張った桶に月を映して月明かりの下で針に糸を通すとか。元の儀式の絵とかも針に糸通すそれと同じようなことしてるから伝わってたと思う」
「実ちゃんはよく知ってるなぁ。色々あるよな。俺の所はお願い書いて笹に飾ってわいわいするぐらいだけど」
「そうなのか。たくさんあるんだな」
 鼓がわかったようなわからないような顔で返事をする。
「日本文化、アジアはまた複雑だから難しいよな。ポポティ。でもそれがまた興味深いんだ」
「実際、今の笹に願い事を書くのは日本で出来た風習で今も変化はしてるよ。だから歴史は面白いんだけど……えっと、まあ風習とか行事はその人たちが楽しむとか生き甲斐とかのために続けることが大事だから別に神様に願い事をするでも全然良いんだ。豊穣のお願いとかもある意味、神にしかお願いできないし……
 言葉に詰まる実はどうやらなんて言おうか迷っているようだ。
……実は本来の意味として、自分の目標を書いたってことかな?」
「うん……そう。大したこと書いてないけど目標だから内緒なんだ」
「目標は宣言した方が良いとかも聞くけど? それは反対のことをするんだね」
……上手く言えないけど、そうなるのかな。なんか願掛けに近いかもしれない」
 頭をかきながら実は答える。
「あー、難しいのはわかんない! とにかく皆、私の短冊に興味持ち過ぎだ! 別に良いじゃんか!」
 ワーワーと話す実に、海が思わずははと笑ってしまう。つられて帝之も口を開けて笑う。鼓はなるほどと先程と変わらない表情で皆を見ていた。
「いやぁ、あそこまで話せてたら話せるだろうよ。実ちゃん。逆に言いきらないのは気になっちまうよ」
「だって、特に意味ないけど見せない方が叶うかもなって、内緒の理由にはならないですよね?」
「いや、理由にはなってると思うよ、実。気になる人はいるかもだけど、ふふ」
……!! そうなのか!」
 ハッとする実に海と帝之は更に笑い出す。
「と、とりあえず! そんな感じで内緒なんです!! 自分で飾らせてください!」
「はぁ、悪い悪い。さっきの七夕を語ってる時との差があり過ぎて、さ」
「申し訳ない……っ、ふう。まあ、そういう事なら協力させてもらうよ」
 にっこりと微笑む海は、彼女に向き直り、腰を曲げ目線を合わせる。そっと右手を差し出し優しい声で語りかける。
「お嬢さん、先程は大変失礼いたしました。女性の秘密を暴くなんて、紳士として恥ずべき行為……申し訳ありません。どうかこの私に名誉挽回の機会をいただけないでしょうか?」
「うわぁ、海! 別にそこまで怒ってないから!」
 手をブンブンと振りながら、近過ぎる距離に思わず一歩引く実。瞳が泳ぐ彼女に映るように更に目を細め笑みを深める。
「ああ、なんとお優しい。では、もしお嬢さんの短冊を飾るお手伝いをさせていただけるのであればこの手を取っていただけますか?」
……あ、ああ。それなら、是非……
 恐る恐る実は彼の手にそっと右手を重ねる。手をとったのを見届けると片目をウィンクしながら、よしと話し出す。
「ありがとう。お嬢さん。では、皆に読まれないよう高いところに飾りに行きましょうか」
「ああ、分かったから……! いつもの海で頼む……!」
 二人の様子に帝之が声をかける。
「実ちゃん、海はそんな感じの時も多いぞ~からかう時が多い気もするが礼儀正しいからな。海は」
「そうだけど……慣れないですよ。こんなの……!」
 うわぁと呻いている実にじっとしていた鼓が口を出す。
「カイ、困ってるぞ。ミノル」
「ははは、そうだね」
 そっと背を伸ばし、実の手をエスコートするように左手へと握り直す。
「実、こっちも申し訳ないね。つい出てしまうもので。紳士たるもの女性には優しく丁寧に接しなさいと教わってるからさ」
「それは、良い事だと思うよ? ただ自分はしなくても良いから……
「ううん、それは違うよ。実も素敵な女性だ。自分をそんな風に卑下するようなことを言ってはいけないよ」
 それでもと言いかける実に、海は人差し指を自分の口元に当て、駄目だとつぶやく。
「大丈夫。私の前だけでも気にせず過ごしてくれたら良いんだ。皆素敵なのだから。実もいつも笑っている君は素敵だ。今の君だから良いんだよ」
 そう微笑む海に実はびっくりしたのか目を開けたまま固まる。
「カイ? ミノルが動かないけど、大丈夫か?」
「あれ?」
「おーい、海~ それは口説いてるのと変わらないぞ~ 実ちゃんには早すぎるんじゃないか?」
「なるほど。それは気をつけないとな。ごめんね、実。そのままの意味なんだけど深い意味はないから気にしないでおくれ」
……あ、うん?」
 何とか返事をする実は褒められただけだよなと言い聞かせていた。
 よっと立ち上がる彼は手を腰に当てた格好で、海は仕方ないなと笑いながら三人に声をかける。
「さて、海、鼓、実ちゃん。いっちょ飾りに行きますか?」
「ああ、そうしよう。実、良いかい?」
「う、うん! 大丈夫!」
「ポポティも少しお願いしたいんだ。大丈夫かな?」
「ああ、出来ることなら」
 うんと頷く彼に、じゃあ行こうと四人は大きな笹に向かっていく。
 
 
 
「そう! そこなら見えないし良いんじゃないか?」
「うん、良いと思うよ。実どうだい?」
 鼓に肩車をされている実はわかった!と返事をしながら、自分の短冊を笹にかけていた。
「高いところだし、見えないなら良いと思う! ここにする!」
「ミノル、できたら声掛けてくれ。止まってるから」
「ありがとうございます! 鼓さん!」
「うん」
 手に持っていた黄色の短冊を手前の笹の枝にかける。落ちないようかける紐を枝の根元まで通す。
「出来ました!!」
「おろす。気をつけて」
「わかりました!」
 そっとしゃがむ鼓は実が降りやすいようにじっと動かなくなる。その間によいしょと降りる実は蹴らないよう気をつけていく。地面に両足が着いた実は鼓と海、帝之の三人に九〇度に腰を曲げ、お辞儀をする。
「ありがとうございました!!!」
 こんな小さな体からよく声が出ると思わず驚く三人だが、良かったと口々に話す。
「少しだけだ。気にするな」
「そうそう。何より実際手伝ってたの鼓だしな。お疲れ様、鼓」
「私では背が足りないからね。私からも言わせてくれ。ありがとう、ポポティ」
「うん」
 彼は皆の言葉になんでもないと小さく頷く。
「それでも周りから見えないようにと色々と気を使ってもらったから……! お礼はきちんとしないとだから!」
 元気にまたお礼を言ったあと、一番高くに飾られる黄色の短冊を彼女は満足気に見つめる。
 
 
 
 願い事を書かれた沢山の短冊は紫・赤・白・黄・青を基準としたカラフルな色合いがあり、笹を彩る。自分の短冊はアレだなと海が赤色の短冊を見つめていると隣にいた帝之がボソッとつぶやく。
「それにしてもなんて書いたんだろうな、実ちゃん」
……女性の秘密は魅力的なものだよ。無理やり確認するのはオススメしないね」
「そりゃあ、無理やりはしないさ! でもあそこまで言ってたら気にならないか? 海?」
 それはねと顎に手を添えながら海は微笑む。
「でも実は目標って言ってたからその内、分かるんじゃないかな? 目標を達成したらさ」
「そうかもだけどさ」
「それに何気にヒントはあるよ。実の短冊を見てたらね?」
「え? 何か分かるのか? 文字は読めなかったけど……
 ふふと笑う海は目を細める。その様子に帝之はヤキモキして思わず声をかける。
「ヒントくらい教えてくれても良いんじゃないか?」
「うーん、これはあくまで予想だけどね。答え合わせは実にはしないでくれよ。無粋な真似はしたくないからね」
 いたずらっ子の様な、でも楽しそうな顔で海は続ける。
「実に教えてもらったんだ。短冊の色には意味があるって。だから彼女の目標はとても優しい目標なんじゃないかなって」
「色?」
「そう。今はピンクやスカイブルー、金銀まである時代だ。その意味をのせて書く人の方が今は少ないかもしれないが彼女はわざわざ私に教えてくれた」
 横で聞いていた鼓がそうだなと答える。
「ホワイト、書いたやつは自分のルール書いた」
「え? 鼓は知ってるのか?」
「うん。カイがその色ならと教えてくれたから」
「俺は聞いてないぞ?」
「帝之くんなら知ってるかと思って。まあ、それより自由に色を選んでたからさ。夏葉さんと目立つのはどれだって言ってたかな?」
 うっと帝之が顔をしかめる。
「そりゃあ、好きな色を選んでたけど……
「ふふふ、まあそういう事だよ。ちなみに私は自分のカラーでもある赤色を選んだけど、感謝の願いを込めたよ。両親や先祖にってのが基本らしいけど身近な人への感謝でも良いらしい。今の私にピッタリだ」
 なるほどと帝之は感心する。
「ちなみに目標や感謝を書くのであればいくつでも飾れると思うよ。飾っている紙飾りもちゃんと意味があるからそれを作るでも良いし。神様やご先祖さまに宣言できる〝願い事〟があるならね?」
「そう言われるとなんか、一度は考えてから書いた方が良さそうだな」
「神様は見ている。恥じない行動をするのは基本だ」
「強いな鼓……!」
「流石、ポポティ。そう考えるとある意味、ポポティは書きやすいというか面白く感じるんじゃないかな。七夕は」
「へぇー、日本人だけど意外と知らないもんだな。なるほど。まあそれで見たらわかるって言ってたのか。実ちゃんの目標……黄色も教えてくれたりしないか?」
 チラッとこちらを見る帝之に、どうしようかなと悩む海だがよしと言葉を紡ぐ。
「知識としてだから大丈夫か。調べたらわかるものだしな。黄色は人間関係だそうだ。人を大切に思う誠実な心の願いが叶いやすいと言っていたよ」
「そうなのか。またいざ考えると難しい願いだな。それ」
「ああ。だから具体的にどう書いたかは分からないが、その願い自体が純粋な気がするから優しい目標だと何となく思うよ」
「良い願いだと思う」
「そこまで聞いたら確かに本人に聞くのは野暮だな。願掛けって言ってたしな」
 うんと頷く海は、また風に揺れる天高く掲げた願いを見つめる。サァーと笹の葉が鳴らす音に癒されながら二人に声をかける。
「さて、二人とも。七夕はまだ始まったばかりだ。昼の部は海で泳いだりスポーツしたりと遊んでもらったが夜の部があるよ。流しそうめんも山田さんたちにお願いしている。花火ももちろん用意した。最後まで楽しんでくれ」
「お、最後までやりきらないとな」
「楽しみだな」
 ああと微笑む海はふと思い出す。
「それと、前に話していた彼を紹介させてくれ。私が引きこもっていても乗り込んできた武勇伝を語ってくれると思うよ。あそこで喜んで音楽を奏ででいる彼だ」
 手を広げながらヴァイオリンを奏でる彼を示す。隣には彼の憧れの人もいるなと海はクスッと小さな笑いをもらしていた。
「凄いやつがいるんだな!」
「乗り込んでよければ行ったのに」
「ふふふ、君たちのその優しさにも救われたよ。まさかリアルで歌いながら扉を開ける日が来るとは思わなかった。英語とドイツ語と日本語で素晴らしいアンサンブルだったね」
 そんな日もあったなと笑い合う三人はあたたかい光と音で賑わうその場所へと歩みを進める。彼らが先程までいた浜辺にはそれぞれの足跡が重なりながら歩んでいた軌跡を描いていた。
 
 
 
 
 おまけ
 
「戻った!! 短冊は飾ってきました!」
 いぇい!と元気よく戻ってきた実。
「じゃあ後で笹の方見ればわかるな」
「残念でした! 碧! 鼓さんに手伝ってもらったから一番高いところに飾っているんだ!!」
「そこまでしてもらったのか?」
「ああ!」
「得意気に話すことでもないと思うけど、実ちゃん」
「え、生、だって碧が見ようとしてたから。出し抜いたと思って」
「実は元気だなぁ」
「いや、鈴丸くんと同い年だからな???」
「丸介くんと生の方が年下なのに……この差よ」
 呆れたように見つめる碧に実はいやぁと照れる。
「そんなに若く見られるのか」
「褒めてないから。とりあえず、あっちの方で集まってるから皆で行こうって話してたところだぞ」
「あそこね! 海の友人がなんかヴァイオリン弾いてたよ!! 生演奏聴けるなんて凄いなって思ってたところだった!」
「ヴァイオリンが聴けるんだ~ 確かに凄いね~!」
「ね! 生は好きそうだから誘おうとは思ってた! 後、その人は有歩さんとめっちゃ仲良かった!!」
「有歩さん顔広いなぁ」
「うん。気になってるみたいだし、実も来たから皆で行こうよ」
「そうだな。ただ蛍に一声かけてくわ。鈴丸くんたちは先に行っててくれ。他の人もその内追いつくと思うわ」
「はーい!!! 蛍さんによろしく!」
「あ、丸介にも一応声掛けお願いしていい?」
「了解! どっちも声掛けとく!」
 駆け出す碧を背に三人は行こうかと歩き出す。
「えへへへ」
「嬉しそうだね、実ちゃん」
「うん! こんな楽しいことが続くとさ、やっぱり嬉しいよな。写真もたくさん撮らなきゃな!」
「そうだね。実も写るんだよ。なんか背が大きい人が多い気がするからすぐ隠れそうで心配だよ」
「あ、うん! それは確かに気をつけないとな……好きでこの背じゃないんだけど……
「あれ、私といれば少しは写りやすいんじゃないかな?」
「生……! 優しい妹がいて姉は嬉しいよ……! 色んな人と話に行こうな……!」
「それなら安心だね」
 わいわいと話しながら進む三人。
 
 実はふと見上げる空に夏の大三角を見つける。
……このままずっと皆で笑いながら一緒にいれますように。その為に自分が笑いながら傍にいられるくらい強くなるので」
 立ち止まる姉に生が声をかける。
「どうしたの?」
「えっ? あ、なんでもないよ! 夏の大三角見つけただけ!」
 蛍は生にもわかるようにと、ほらあそこと指をさし微笑んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あとがき
 
 はい。CoC探索者たちのうちよそ大集合で書いてみました。過去呟きの七夕ネタでこんなんかなぁをきっかけにちょっと書き出したらこんなんなりましたね。止まらなくてびっくりしました。
 ちなみに最初に考えたタイトル「夏真っ盛りだ詰め込むぞ!」でした。できる所まで詰め込みましたが、よその子含め、本当はもっと探索者たち出したかった……気持ち的には後、有歩くん周りの人とか鳥鼠兄弟とかも居ましたよ。もう人が沢山だとどこまで描写して良いのか分からないので現在書けれる限界まで挑戦した結果こうなりました。
 そこで今回の主人公二人はうちの子の実と海さんです。過去呟きでは、似ていると話していた二人にしたのはたまたまです。
 まあ、実は一番中の人の想いが近く表現しやすい子だったことと、きっかけの呟きが実で考えてたからですね。
 海さんは、うーん、大規模企画するならうちの子だと海さんしか居ないな……よし、ディレッタント本領発揮してこい!って「海辺で七夕するぞ」の企画主に任命され、何だかんだ語らせていただきました。シナリオ生還祝いも兼ねてるかもしれない。あ、この前の王子殿と一緒に回ったシナリオ生還しました!! 海さんは新しい友人が出来て、携帯のホーム画面もその時の友人たちとの記念写真に変わっております。
 そんな二人は絡ませようとは思って進めてて、そしたら海さんそう言えば大親友のポポティと帝之くんと話していませんね、話していいよってしたらこうなりました。はい。
 実も海さんとの関係は手探りだったので、なるほど、こんな感じか二人はと中の人的にも新しい発見でした。
 ちなみによその子たちをたくさんお借りしてます。初めて絡ませてますね、実と。でもポポティの教会がご近所なのと共通の友人がいるということで知ってる設定にさせていただきました。実と帝之くんに至っては、謙おじさん繋がりで知ってるかなと。海さんもいるし。
 そんなこんなで元気に走りまわっていた実ですが、回ったCoCシナリオは、中の人的に一番辛いエンドを迎えている探索者です(ロスト以外で)。鈴丸くんと生還しましたが、他二名はロストしています。目の前で。また弥之助くんと回ったシナリオはズタボロになるしね。そういう背景から、彼女は今を大事にする気持ちは強いのかなぁと漠然と思っていました。歴史好きだった設定を活かし、彼女的に想いをのせた短冊を書いてもらいます。内緒にしたのは目標って宣言したらなんか満足して出来なくなることあるよね?って思ったので、言い切るのはあんまりしない子になりました。自分で決めた目標だから誰にも言わずに、でも神様やご先祖さまに誓ったものだから絶対守るぞって感じです。それが言葉に出来なかっただけで、内緒の理由になってます。本当に目標を達成したいから願掛けしてました。
 そして、答え合わせをしたくなる中の人なのでおまけに願いを入れました。短冊に一字一句そのまま書いたかは分かりませんが、想いはあんな感じなんだなぁと思っていただいて構いません。たくさんの目の前の当たり前を守れるよう彼女は笑いながら頑張るでしょう。
 こんな感じです。笑いながら頑張る、目の前を全力で楽しむのが実と海さんの共通点だと、中の人は思っています。そんな二人も含め、今まで出会った探索者たちに幸せな時間を少しでも過ごしてもらえたら良いなと思います。最後の方にある花火まで、皆楽しんでください。
 
 こう最初の予定とは違う展開によくなる中の人の短編?ですが、素人故、色々と目をつぶっていただけると大変嬉しく存じます……
 改めましてこの長文を最後までお読みいただき誠にありがとうございます。