いつもと違う?
用事も終わり家に帰ろうと帰路へ一歩踏み出す結。彼女が顔を上げると誰もが振り返る鮮やかな赤のカラーコーンを被った後ろ姿が遠くからでも目に入ってきた。
「
……あれは、丸介くんだな。買い物帰りかな?
……それにしてもやっぱり目立っちゃうよね」
結はそんなことを零しながら、ふふっと笑う。顔にかかる髪を耳にかけ、よしと彼の元へ駆け出していた。
「丸介くん! お疲れ様! 今日はお使いですか?」
ぽんと彼の背中に手を置きながら、にっこりと微笑み声をかける結。カラーコーンを被っていると背の高い彼はより大きく見えるが、目線を確保するための穴へ目線を向ける。身長的には約一〇センチ差とそんなに変わらないはずだが、結の方が丸介より小さいので下から覗き込む形にはなっていた。
「うん、あ! 結さ
……ん!?」
「えっ?」
振り返った丸介が驚いているようで、その様子に結も何かしたのかと硬直する。じっと見つめてくる彼の目線に何もしてないのだがだんだんいたたまれなくなる結。すると彼がハッと我に返り目の前の結に声をかける。
「
……結さん
……! その髪、どうしたんすか?? そんな変わって
……一瞬わかんなかったっス
…!!」
「あっ
……この髪型のこと
……?」
「そうっス!! その、いつも縛るくらい長かった印象だったんで
……!」
右手でそっと肩ぐらいまでの長さに揃っている彼女の髪を手に取る。普段なら後ろで色々な結び方をしているはずの髪がされずにそのままになっている。その様子が丸介には不思議でならなかったようだ。
「えっと、ちょっと首元が暑かったからボブ風に見えるアレンジにしてみたんだけど
……変だったかな?」
結は驚かれる程似合わなかったのかと、少し寂しそうな顔をして尋ねる。彼に変に思われる位ならこの髪型はやめようと思っていたからだ。
「あっ、いや! 綺麗な髪がもったいないなって思ってただけで、似合ってるっスよ! 可愛いっス!!」
そうじゃないと慌てながらも褒めてくれる丸介にぼっと顔が赤くなる結。思っていた言葉ではなく、むしろ素直な褒め言葉に先程とは違う衝撃を受ける。
「あ、その、ありがとう
……」
「結さんは可愛いっス!!」
「そ、そんなことないって
……でも、ありがとう
…!」
彼の一言でここまで変わるとは自分でもわかりやすいよなとひとり恥ずかしがる結は手で少し顔を隠す。もう近い距離だから意味は無いとは思いつつ。ふとそう言えばと先程の丸介の言葉に彼女が反応する。
「あ、一応これ髪切ってないから
…もったいないって言ってくれてたけど」
「えっ!! そうなんスか??」
「うん、髪先をクルクルまとめて頭の根元でまとめてるの。ほら毛先が切った時と少し違うでしょう?」
触れている丸介の手をとり、下から触るようにする結。くるっと毛先が内側にしまい込むようになっていることを確認すると、彼がまた驚く。
「わっ!? 気づかなかったっス!!!」
「ふふ、凄いでしょ? 私は簪とか愛用してるからショートとかには出来ないけど、結び型でここまで出来るから気分転換にこうやってなんちゃってボブみたいなアレンジもするの」
驚く彼が可愛くて思わずくすくすと笑う結。
「凄いっスね!!!」
「丸介くんの前では初めてだったかな? 仕事ではあんまりしないやつだから」
「はじめてっス! 結さんは器用っスね!」
「ふふ、好きなものだけね?」
顔の火照りもひく頃、丸介を見つけたは良いが、今何をしているのか聞かずに話し込んでいたことに気づく。
「あ、今時間大丈夫だった? 私は用事終わって帰るところだったんだけど
……邪魔してない?」
「大丈夫っス!! 今日はちょっと散歩しようかなと歩いてたとこなんで!」
「なら、良かった
……えっと、もし良ければこの後公園まで一緒に行きませんか? 紫陽花が綺麗な所があるんだけど
……」
もう少し一緒に居れたらと声をかける結は緊張のあまり敬語になっていた。
「良いっスよ! 紫陽花見たいっス!」
ぱぁと元気よく返事をする彼に良かったと安堵する。付き合ってるとはいえ、自分から声をかけるのはまだ慣れない結は勇気を出して良かったと胸を撫で下ろす。
「良かった
…! えっとこっちの方なんだけど」
早速案内しようと一歩踏み出す彼女にちょっと待ってっスと声をかける丸介。どうしたのかと振り返ると結の左手を彼が握っていた。
「折角だから手を握りたいなと思って。コレで大丈夫っス! 行きましょう!!」
えへへへと嬉しそうな声で笑う丸介のその様子に結は胸の高鳴りが煩くて仕方ない。
「ま、丸介くん
……」
「どうしたんスか? 結さんと離れなくたくて
……嫌だったっスか?」
「あっ、そうじゃなくて
…!」
思わず声が上ずる結だが、伝えなきゃと言葉を紡ぐ。
「嬉しい
……嬉しいよ。私も離れたくない、から」
「俺もっス! 嬉しいっス
……!」
その言葉が胸をじんわりとあたたかくしてくれる。顔が見えない彼だけどいつも真っ直ぐ見てくれる。だから少しでも伝わるように傍にいられるように言葉を手を重ねるふたり。
「大好きだから
……」
「どうしたんスか?」
「ううん、何でもないよ。そこね、移動販売してる美味しいジェラート屋さんがたまに来るの。来てたら一緒に食べよう?」
「そうなんスか! 食べたいっス!!」
「うん!」
彼の右手にそっと指を絡ませ繋ぎ直す。私だけが知っている彼は自慢の彼氏です。
おまけ
「すごい味濃くて美味しいっス!」
「でしょう~良かったお店来てて。タイミングよく分かってないから本当に運任せなんだけど」
人気のないベンチに二人で座っている。丸介はカップ型の結はコーンタイプのジェラートをそれぞれ口に運んでいる。周りには色とりどりの紫陽花が咲き乱れていた。
「二人で見れて良かった」
「はい! 誘ってくれてありがとうございます!」
「どういたしまして」
にっこりと目を細めながら笑う結。
「
……本当はコーンも美味しいからオススメなんだけど
……食べづらいもんね?」
「大丈夫っスよ! これもめちゃくちゃ美味しいっスから!」
「うん、なら良かった。あげられるならこっちのもどうぞって出来るなって思っただけだから」
その言葉に丸介が周りをキョロキョロと見渡す。どうしたんだろうと思っていると、少し結の前に回りながらグイッとカラーコーンをあげる。パクッと彼女の手にあるジェラートをコーン毎一口齧る。
「
……ん、うまいっスね
……!」
「あ
……」
「これなら結さんにしか見えないから大丈夫っスよ。えへへへ、ちょっと食べてみたかったんスよ」
照れ笑いする彼は食べ終わるとカラーコーンをまた元に戻す。ベンチに座り直し、お返しに俺のあげるっスと言う彼の言葉より、先程の顔が目に焼きつき耳まで赤くなるばかりの結。
「それは
……心の準備、が
……」
彼はきょとんとする隣で、この時ばかりはカラーコーンがあって良かったと思う彼女がいた。
あとがき
この前のボブ風の結さんから初めて丸介くんが見たらどんな反応するかなと思って書きました。付き合ってからの介結っす。ただ結さんの方が重い恋心抱えてたので照れるんじゃないかなぁと思ってこんな感じになりましたね。一段?超えると耐性あるんですけど(にっこり)
中の人の丸介くんはそのまま言葉にするけど何で結さんが赤くなるのとか分からず、でも可愛いから良いか!ってなってる感じですね。他意もないそのまま言葉通りに話してるね、うん。
カラーコーン毎好きになった故にか、格好いい丸介くんに遭遇すると結さんはやられっぱなしかな。
▼呟き元
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