望月 鏡翠
2025-03-16 10:21:48
884文字
Public 日課
 

#1661 「不動産」「社会問題」「豆腐に鎹」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺


 初めから猪突猛進タイプの活きのいい若者だと思っていたが、最近は特に熱心だ。昼休憩も注ぎ込んで、他の業務をやっていない時間はずっと勉強をしている。
 就職活動の試験以来、勉強なんて全くやっていないし、なる気もない人間からすると、自分から望んでそんなことをするなんて、信じられなくて恐怖の的ですらある。
 どうやら法律関係の勉強をしているらしい。お前は法学部ではなくて不動産屋じゃないかと言ってみたのだが、不動産屋だからこそだ。と熱く語られて、若さの輝きに胸焼けを起こしてそそくさと退散した。
 不動産詐欺が社会問題になっている云々、当事者として我々も注意しなければ云々。
 まあ、頑張れよと労いの言葉をかけて、喫煙所に退散する。
 別に俺も根っからの悪人というわけではないから、熱心な後輩を見ているとさすがに胸が痛む。いつ伝えてやるべきだろうか。
 その努力は豆腐に鎹だ。全くの無駄。意味がない行為。
 伝えてやらなくても、あんなに熱心に勉強しているのだから、そのうちに自力で気がついてしまうかもしれない。
 彼は鎹で、俺やこの会社は豆腐なのだ。
 なぜなら、社会問題となっている不動産詐欺を起こしている側の人間が、この会社に集っているのだ。最終的には内容を明かして、彼にもこちら側になってもらう予定だった。
 看板に不動産詐欺グループですなんて書いてあるわけではないし、表向き普通の不動産教務を行っている。仕事を共にして信用できる人間かどうか判断し、逃げられないように少しずつ手を汚す手伝いをさせて、いよいよというときになって明かす。
 だから入社のときも入社してからも、気づかなかったのは仕方がない。
 愚直なところがあるから、洗脳も簡単だと高を括っていた。しかし本人が自ら明るい方に走り出してしまうとは想定外だった。
 しかもどうやら、正義感とやらも持ち合わせているらしい。こいつは腹に爆弾を抱えてしまったかもしれない。
 その熱心さを、どうにか今と反対方向に発揮してくれないだろうか。
 問題解決の手段はまだ見つかっておらず、胃が痛い日々が続いている。