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伊坂
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Hades Game
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どうか俺にもカワイコぶれよ(Hades Game)
タナトスが酔ってる話(Thanzag)
「頼む。カワイコぶってくれ」
「えっ
…
、カワイコぶったことがないから
……
、ちょっとできない
…
」
「そう言って他の神にはカワイコぶっているんだろう?!」
「いや、カワイコぶったこととか一度も無いから急に言われても困るって!」
これは
……
、珍しく酔ってるよ
……
。
西の間でたそがれるタナトスに声をかけたのが数分前。ザグレウスはタナトスに誘われるまま酒場にきて、向かい合ってネクタルを傾けていたらこの会話だ。
「なあ、ちょっと俺の部屋に移動しよう」
ザグレウスはタナトスの黒衣をくいと引いて囁いた。酔っ払っているタナトスをあまり使用人たちの目に触れさせたくなかったからだ。
「
……
カワイコぶってくれるのか?」
「カワイコぶれるかはわかんないけど
……
」
うん。ていうか何。カワイコぶれって一体何?
カワイコぶるってどうすれば?
俺カワイコぶってたこと今までにあった? 無いよ。
「ヘルメスから聞いたぞ。功徳を受け取るお前は
……
、いつも嬉し気で可愛いと」
「そりゃ嬉しいは嬉しいよ」
でも誓ってカワイコぶったりはしていない。そのあたり我が父上に誓ってもいい。ていうかそもそもどうすることがカワイコぶることになる? 脱出中にカワイさを意識して行動してることとか普通に無い。死ぬだろ。死がしのびよる
……
。
「俺という伴侶がいながら
…
、オリュンポスの奴らに媚びを売って
…
? 科を作って
……
?」
「タン! いいか?! オリュンポスの奴らには俺の姿はおろか声すらまともに届いてないんだよ! それで媚びとか科とか馬鹿らしいだろ?」
「だが
…
、どの神もお前を愛おしく思っていると、ヘルメスが
……
」
「
…
ああ、もう、ヘルメス
……
」
抱き寄せたタナトスの身体はいつもより少しだけ熱い。体表温度の高い自分がそう感じるのだから、やはり酔いが回っているのだ。
ザグレウスはタナトスの背中を支えるようにして自室のベッドに座らせた。すぐ戻ると耳打ちしてタナトスが何か言う前に酒場へと戻る。
水差しの在り処なら知っていた。いくつかある水差しのうち、大きめのものを手にして厨房に入る。何用かと料理長が視線を向けてくるのがわかったが、大丈夫と表情だけで言ってザグレウスは徘徊した。飲み水用の水甕の水を掬って、水差しを満杯にして酒場をあとにした。
(ヘルメスめ
……
)
完全に、何がどうなるか面白がって言ったな。自分とタナトスが付き合いだしたと知って、だから揶揄ってやろうとタナトスに吹き込んだのだ。
そりゃあ功徳を授かることは嬉しい。励ましの言葉をもらうことも。
霊峰の事情や地表のことを聞けるのも嬉しい。
功徳のおかげで、脱出が楽になるのがやっぱり一番嬉しい。
「タナトス
……
、ほら、水で飲み直そう」
「ザグ
…
、どこへ行ってたんだ? 誰にもカワイコぶっていないというなら、俺にだけカワイコぶってくれ
……
」
「ええ~~」
酔うと肌の下の血が透けて赤っぽくなる自分と違って、タナトスはそこまで外見に現れない。ネクタル一つで酔っ払っているところを今までに見たことが無かったので、これは自分が声をかける前にもう一本飲み干していたのかもしれない。珍しいこともあったものだ。
ザグレウスは遊戯盤の上に水差しを置いて、木製のカップを水で満たすとタナトスのそばに運んだ。
小暗い部屋の中で、タナトスの腕輪が燭台の火明かりを反射する。どこかぼんやりとしながらも、ずっと自分を目で追っている念友に心がゆるむ。
素直に水を飲み干したタナトスは、ザグレウスの肩に額を押し付けて「ザグ
……
」と拗ねる様に言った。吐息が首筋にあたってくすぐったい。前髪が跳ね上がって優しい表情をしている友を見つめつつ、ザグレウスもまたコップの水を数回に分けて飲んだ。
(
……
カワイコぶるってどうすればいいんだろう?)
カワイコぶる
…
。カワイコぶる、ね?
いやカワイイことってなんだ。
何をどうすればカワイイ行動になるんだ?
(これは、いざやろうとすると難しいぞ
……
!)
う~~んと首を捻る自分を、タナトスは血紅色の布団に腰掛け面白そうに見つめている。
「フフッ
……
」
「笑うなよ。カワイコぶってやらないぞ」
「お前ならなんだって可愛い
……
」
ふわふわと蝶が羽ばたくように笑うタナトスに、(お前のほうが綺麗でかわいいよ)とやや憤りに駆られてザグレウスは「うほん!」と咳払いした。くそう
…
、もう、かわいい伴侶の願いならば叶えてやるしかない。
恥を捨てろザグレウス。
どうにでも
…
、なれッ!
「あー、タン? 俺、どうしても欲しいものがあるんだけど
……
」
まずは立ち上がって、空になったカップを遊戯台の上へ。
この計画は顔を見られた瞬間に失敗する。
何なら既に恥ずかしすぎるので!
「ザグの欲しい物?」
興味をひかれたようにタナトスが顔を上げた。一度開いた距離を埋める様に傍へ歩み寄る。
「タナトスのくちびる」
「いくらでもやれる」
恥ずかしすぎて友の胸に頭突きするようにして言ったら、顔を上げた瞬間、要求通りの功徳が舞い降りてきてザグレウスは笑った。
(終)
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