Love, young gods and a beautifully(Hades Game)

ThanとZagがえっちしてる様子をクォータービューでHypnosが夢見てる話。(エロくはない)
美術館で絵を見てたら、絵画の副題がカッコよかったのでした(実際はgodsがbirdsでした)


Love, young gods and a beautifully



 性愛というものの行為が、こんなにも美しいだなんて知らなかった。
 Hypnosは寝息を立てながら、自分が今とても幸せな夢を見ていることを自覚した。
 眠り、とは生死の循環だ。眠りを老いに置き換えるのがHypnosの仕事であり、そうして吸い上げた人々の生気を養分にして冥界の木々は育つ。
 夢から夢へ、凶夢から吉夢へ。
 風のように夢々を揺らせば、その成分は大地に浸透して、ゆっくり、ゆっくり、タルタロスへ至る。
 夜が大気であるならば、眠りとは夜に成る実のようなものだ。星に成れなかった夜の実たちは、時間をかけて腐り、交じり、そしてまた誰かの夢となる

 楽観的に見えて、悲観的でもあって、真面目すぎず、からっとしている、そんなZagreusのことをHypnosは気に入っている。少しいたずらっ子気質で、父親譲りの一途さと、母親譲りの奔放さを持ったところ。見ていて飽きない。危なっかしくて無計画で(それを自分が言うのかという気持ちもあるが)、いつまでも見ていられる面白さ。
 だからこのところHypnosの夢は、どうしてもZagreusばかり追跡してしまう。希望と絶望が元気に体内を駆けめぐっているあの姿。挑戦と妥協が、甘くクリームのようにめぐっているあの肉体。
 眠りに身をゆだねることで魂を切り離し、HypnosはZagreusの夢を見る。鬱屈しないために。安らかであるために。
 そうとも、死と眠りは極力安らかであるべきだ。
 だからHypnosはこの日も罌粟の花咲く庭のハンモックで、ぐうぐうと惰眠を貪っていた。

「Than?」

 寝椅子二つを並べた部屋で、男二人が肉体同士の囁きを聞かせ合うような近さで話し込んでいる。
 美しく編んだ銀梅花。それを手にするのはZagreusだ。どこか渋々、その花冠を享けているのは兄であるThanatos。白く繊細な花輪は、兄の銀髪によく似合っていて、それは王子が決して適当に銀梅花を選んだのではないという証左に思えた。褐色の地肌とも相まって、花冠はそれ自体が光り輝くようにも見える。
 兄は一粒の石を取り出して、Zagreusの赤い眼と見比べて満足したようだった。鳩の血を水で薄めたかのような赤い石。
 兄弟はZagreusの耳たぶに触れ、ピアスにしたらどうだろうかと問いかける。一も二もなくZagreusは頷き、じゃあ、なら、お揃いがいいなと、同じようにThanatosの耳たぶに触れて言った。
 無邪気な笑い声が上がる。まるで臥所を共にするような親しさに、これはこのまま自分が見ていていい夢なのだろうかとHypnosはHypnosらしくもなく困惑した。(実際にはいつも通り鼻提灯を膨らまし、雛罌粟の花弁が頬ずりしてくるのを愛しく思ったのみだった)
 花籠の中から石鹸を取り出して、水差しを用いて手を洗う。かわるがわる、ふたりは何か囁きながらテーブルの準備を始めた。何か劇を見るような気分。ふたりの動きがよどみないのは、ふたりにとってそれが慣れた作業であるからだろう。
 ぴかぴかに拭いた青銅のテーブルには、大麦のパン。あとは木製の酒盃とワイン。
(わお、ワイン!)
 Hypnosは嬉しい気持ちになった。夢は夢であるけれど。
 ZagreusはThanatosを座らせたまま、酒あえ甕のワインをたやすく水で割った。その手つきには通常時の彼からは香ることのない色香があり、Hypnosはこのふたりの『想い合う』度合いが、揺ぎ無いものとなっていることに驚嘆した。驕るような目を初めて見たのだ、兄弟の。Zagreusこそが真に自分を慰め得うる唯一無二だと、信頼しきっている金色の瞳……
 Thanatosはランプに火をともし、それを受けてZagreusは籐のバスケットから食事を出していく。ハーブオイル漬けのオリーブ。オリーブの実の色は緑から黒までと色々で、それがフェンネルやミントの好い芳香を放っているだろうとHypnosは想像した。
 次に蜂蜜をまぶしたエビ、米を詰めて焼いたイカ。切り剖いたヤギの背肉を串にさして炙ったもの。どれもChefに頼んで作っておいてもらったものなのだろう。
「これは俺が釣ったもの!」
 誇らしげに言うZagreusは、二杯並ぶイカの身のうち、見栄えのいいほうを白銀の皿に取り分けてThanatosへ給仕した。立ちっぱなしであれこれするZagreusを傍に座らせ、Thanatosはオリーブの実をつまみ王子の唇へ近づける。
 Zagreusは素直にオリーブの実を受けて、それからワインの盃を取った。アイリスの香油を含ませたおしぼりで指先を拭き、ふたりは片時も離れたくないといったふうに食事をはじめる。甘い囁きと、穏やかな笑い声が空気中でもつれた。食器の触れ合う音と、吐息と衣擦れの音も。
 食事が粗方終わったところで、ふたりはまた水差しの水を用いて手を洗った。ぼそぼそと話し合う声が終わって、寝椅子の足がぎしと軋む。Thanatosの頭から銀冠は落ちて、いつのまにかZagreusの冠も燃えるのを止めている。
 心地よく秘密めいた部屋には、どちらのものともわからない甘い声がひびいた。弱いところを、足りないところをさらけ出し、あなたの持っているもので良いものがあれば埋めてくれないかと願う。笑いながら。恥ずかしがりながら。
 身の内からにじみ出る衝動に身をくねらせ、重なり合うふたりは美しかった。短く確認し合うような声。寝椅子がまたぎしぎしと鳴って、折れた花を癒すかのような手つきでZagreusはThanatosのみぞおちに触れる。花の女神が息吹を吹き込むかのように花茎を撫で、なんて優しい、なんてうつくしい触れ合い
 満たされる、ということは、一緒になるということだ。足りない部分を他の何かで補い、時に(もっと)と願うこと。その幸せに報いたいと感じること。自分よりも相手の幸せを思い、ともに歩む道が喜楽ばかりではないことを受容し、需要する。
 Zagreusの肩には着ていた衣が辛うじて引っかかっている。その姿ごと抱きしめて、兄は王子の両脚の間に頭をうずめた。Zagreusの腰が逃げる。悲鳴じみて、なのにうっとしとした声を出して王子が身もだえる。割り開かれた白い腿に、Thanatosの黒い爪先が踊るのが官能的で
 ふたりは体勢を入れ替え何度も交わり合った。花の求めに応じ、花蜜を啜るのが蝶の仕事であるし、その羽ばたきで花に受精させるのも蝶の仕事だ。そう言わんばかりの柔らかで激しい交わりだった。

 休憩を挟まず為し終えて、Zagreusはぐったりとして動かなくなった。手足を横に投げ出し、ごろんとしてThanatosが身づくろいするのを見ている。
「Zag」
 Thanatosは充足した声でZagreusに囁くと、彼を彼の懸衣で包み、横抱きにして部屋を出ていった。すっかり覗き見してしまったとHypnosは少し反省したが、心はとても満ち足りていてあのふたりを愛しく思う気持ちが増した気がした。
 ふたりはどうやら水浴びを終えて、また寝椅子の並ぶ部屋に戻ってきた。Zagreusを寝椅子に座らせると、Thanatosはアンブロシアの瓶を取り、片付けたテーブルの上にそっと置いた。さらに果梨と柘榴をひとつずつ。小刀で食べやすい大きさに切り分け、Zagreusの傍へと運ぶ。
「Than、」
 そう言ってZagreusは寝ころびたまま、寝椅子の足元のバスケットから大きな巾着袋を取り出した。巾着袋の中身は、ポピーシードやアーモンドやごまをはちみつで固めた菓子、パステリだった。薄く板状にのばしておいて、冷えたものを包丁で刻み、それぞれがくっつかないよう皮羊紙で包んでおく。
 このはちみつ板はちょっとした遠出に欠かせないもので、たしかZagreusは家出のつど補充している。Hypnosの好物でもあった。
 ふたりはアンブロシアのとろりとした蜜を口移しで呑みくだし、濡れた前髪を指で弄り合い、それからパステリをすこしずつ噛んで果物を分け合った。
「残りはHypnosに」
「ああ、きっとハンモックで寝てる」
 Hypnosは自分の名前が出てきたことに少しだけ驚いて、慌ててハンモックで目を覚ました。まさかふたりの情事を夢に見ていたなんて、寝言でばれてもかなわない。がばっと起きた眠りの化身を、揶揄うように雛罌粟の花弁が揺れる。
 ほどなくして冥夜の館の中庭から姿を現したThanatosとZagreusは、Hypnosが起きていると知って元気に剣の手合わせを始めた。元気だねえ。いやいや。
 Zagreusが負けて、またZagreusの負け。
 Zagreusは「マルフォン取ってきていい?」などと口にして、Thanatosに首を振られている。
 Zagreusが負けて、やっぱりまたZagreusの負けだ。
「アハハ!」
 見ればステュギウスの剣の髑髏が不満そうな顔つきになっているので、Hypnosは思わず笑ってしまった。
 いつしか傍にNyxが来ている。
 いつしかZagreusの葉冠も煌々と燃えている。
 Hypnosはハンモックの上から母にパステリを渡すと、伸びやかに剣を振るうふたりの姿を見つめ続けた。


(終)





波箱はここから
スタンプや反応もらえると嬉しいです