The use of the Malphon!(HadesGame)

肩たたき券を作るZagの話。Thanzagは付き合ってます。日本語版が待ち遠しい…。

The use of the Malphon!



「まあ、こんなもんだろ? Than! できた!」
……できた? 何が?」
「肩たたき券。母さんにあげようと思って」
 Zagreusの得意げな声に起こされて……。いや、少し前から目覚めてはいた。目覚めながら念友のいる空気感を愛でていた。
 髑髏からはゆらゆらと煙が上がり、正しく香炉の役目を果たしている。けぶる薔薇の香り。紗の端が揺れて、布の分かれ目からにゅっとZagreusが顔を出した。
「どう思う?」
 どう思うって、肩たたき券。肩たたき券ね。また随分と面白いことを思いつくんだなって。そう思う。可愛らしくて、お前らしくて、そこまでは言わないけれど。
 得意げな言葉のわりに、少し恥ずかし気にその肩たたき券を見せにくるのだからたまらない。
 求心力のある赤い目。闇の詰まった眼窩の中に、埋もれることなく輝いている目。
 ThanatosはZagreusのどちらの目も愛していたが、どちらかを選ぶとすれば、より冥界じみた色合いの赤いほうが好きだ。でももし、本当にどちらかを選ばなくてはならなくなったとしたら(そして選ばなかった方が失われてしまうとしたら)、この仮定は簡単に覆るだろう。結局、どちらの目も愛していた。宝石の煌めきなどどうでもいいほどに。
 紙きれを手にやってきたZagreusの肩にはMortが乗っていた。寝そべるThanatosの横に寝そべり、「Nyxにもあげようかって。なっ」と相棒のひげをくすぐりながら言う。ああ、聞きたかったのはそっちか。Mortを燭台の脇に移動させてThanatosは得心した。「Thanも作れば?」と問いかけてくる頬をむにむにと撫でながら、いや、自分はやめておこうと小さく微笑む。
 肩たたき券とやらは横長で、点線に沿って千切って使う設計らしい。点線で区切られた一つ一つには、形の違うドライリーフが貼り付けられていた。それがいかにもお手製といったかんじでいい。
「きっと喜ぶ。でも同じだと芸がないから、俺は俺で何か考えよう」
 そう? とそう言ってZagreusは机のほうへ姿を消した。
 自由だな、と思う。自分とは違って、Zagreusのそういう凝り固まっていないところが好きで嫌だ。立場を気にしない。ひとところに居ようとしない。両手足をまとめて縛っておいて、ずっとここにいるのだと安心したい。ひとねむりする間も焦りがあるのだ。目覚めてZagreusがいなくなっていたらという不安。好きなものを増やして、自分など見向きもされなくなってしまうのではという不安。
 ただそれも随分減ってきてはきた。戯れれば戯れるほどに、一途な性格だとわかってきたから。奔放さと一途さ。それはZagreusの中で神血と混じりあい爛漫としている。
(俺は、お前に愛されてさえいればそれでいいな……
 死の化身が抱くには、やや傲慢で分不相応な願いだ。でも口にすればZagreusはあきれた調子で笑うだろう。何を今さら言っているのかと。許すまでもないことだと。
「よっし、フー!」
 筒状にして、紐で縛って、あとは渡すだけという状態にしてZagreusは再びThanatosのいるベッドに戻ってきた。懐に香油を忍ばせている。隠しているのか見せているのか難しいところだった。Thanatosは念友を抱き寄せて「Zag……」と耳元で囁いた。
 熱度を持った素足に素足を絡めれば驚くほど暖かい。
 その心地よさに思わず口笑みを深くしていたら、それに気づいた相手が不思議そうに笑った。何か、自分は変だったろうかとどきまぎする。すると足の裏に足の甲が触れて……、擦り付け合っているうちに冷たい部分はなくなっていった。Zagreusの足は離れていったが、王子の顔はどこか満足げに見えた。つまり遊んだのだ。Thanatosの足で。そういう可愛いことをする幼馴染だった。
 武装を纏っていない姿はどこか幼い。肩などはまるで果皮のめくれた林檎にのように見えて、Thanatosは誘われている心地だった。
 肩に齧りつきながら懐に手を差し入れ香油の小瓶を奪う。「ぁっ」と僅かに恥ずかしそうな声が上がる。だからThanatosはさらに果肉を味わうべくゆっくりと上背を折り曲げた。胸のときめきを隠そうともしないZagreusにくらくらして黒檀の寝台の上で重なり合う。背の隆起をとろりと撫でられながら、Thanatosは夢見心地でZagreusの肉体を貪った。

 肩たたき券を手渡すZagreusを見守ることなく、Thanatosは三日と三晩、冥界を留守にした。Zagreusのことだ。きっと問題なく肩たたき券を渡しただろう。そう思って宮居に戻れば柱廊の雰囲気が妙に騒がしい。
「やあやあ兄弟、いいところに戻ってきたねぇ」
「Hypnos、一体何がはじまるっていうんだ……
 冥土とは思えぬほどの華やぎぶりにThanatosは顔をしかめた。霊魂たちの列はなく、柱廊にはHypnos、Megaera、そしてNyxまでもが姿を見せている。
 Cerberusの前では女王が楽し気に声を上げており、王の後ろには、なんと、むすくれててやけくそ気味に脚立を組み立てるZagreusがいた。
「なっ? 何をやっているんだ、あいつは
「ああ、Than、女王が肩たたき券を使ったのよ。『お父さんの肩を叩いてあげて』って。フフ、おっかしいたらありゃしない」
 笑いを堪えきれずに言ったMegaeraに、Thanatosも思わず笑ってしまった。なんてこった。それで今からしたくもない相手に肩たたきを? なんて可哀想で可愛いZagreus!
「はは……、とんでもないことだぞ、これは」
 さすがに同情する。同情するのに、顔は勝手に笑ってしまうのだから駄目だった。
 偉大なる冥王の巨体の後ろに聳え立つ脚立。そのてっぺんに立ったZagreusは「Than! Meg! Hypnos! 見世物じゃねえんだぞ!」と喚いている。いやいや。親子の仲が良きことは美しきかな。それを見守らずに帰れるか。
…………
 Zagreusだけでなく、王までが憮然とした表情でいるのだからたまらない。急にMegに脇腹を突かれたものだから、Thanatosは右肘で突き返した。不敬だぞ。どっちがよ。大嫌いで、でも尊敬もしている父親の背を前に、Zagreusは何を思っているのだろう。
 ところがトン、トン、と肩を叩き始めてすぐ、王子は王にのみ何やらささやいて、頷きを得るとタッタッと自室のほうへと消え去った。
…………?」
 ThanatosはMegaeraとHypnosと顔を見合わせながら、そして戻ってきたZagreusの両手にMalphonの拳がはまっているのを見て「怒られるぞ」と誰にともなく呟いた。最早怒れる立場の者はいないのだが。まさか双子の拳も、肩たたきに使われる日が来るなんて思ってもみなかっただろう。
 フカフカの獣の拳の、爪だけを引っ込めてZagreusは脚立を登る。そしてまた何やら父王に声をかけて、トンッ、トンッ、と派手に肩を叩き始めた。はっははっはと冥王が笑い、そんな息子と夫の姿に女王が幸せそうに笑む。
「もっと強くていいぞ」
「うるせえなあ、もお!」
 父親の悪態口を聞き流しながら、Zagreusは目の前の肩を叩いていた。広くて、硬くて、偉大な肩を。はやく御役免除にならないかとひたすら無表情なのがいじらしい。耐え切れずMegaeraとHypnosの吹き出すので、釣られてThanatosも吹き出してしまった。親子仲が良きことは美しきだ。
………
 モフモフの獣手に肩打たれている王の表情を、肩を打つZagreusだけが知らない。それは惜しいことであるけれども、同時に素晴らしいことのようでもある気がしてThanatosは小さく笑い続けた。


(終)





波箱はここから
スタンプや反応もらえると嬉しいです