山茶花
2025-03-15 23:22:00
8321文字
Public [シルデュ]その他のパロディ
 

ハッピーエンドにオレはいらない【144OP002】

[吸血鬼パロディ・2]幸福を祈る話。

・「99Nights」の続きです。
・メインスト7章(完結まで)のネタバレが含まれます
・吸血鬼パロディです。
・転生・生まれ変わりネタが含まれます。
・この他、いろいろと独自設定が含まれます。
・上記のため、矛盾点などがあるかもしれません。
・シルデュ以外に、エスデュ(エス→デュ)要素が含まれます。
・続き何も考えてないくせに続編がある風な終わり方します。
・なんでも許せる人向け。

以上大丈夫な方はスクロール↓







『お前に頼みがある。デュースを、泣かせてやってくれないか』

 古城にデュースを招き入れた最初の晩。自室で眠る俺の夢に、同じ顔をした金髪の男――アルが現れて、そう言った。

「アル、お前消えたんじゃなかったのか」
『俺の魂とお前の魂は、繋がっている。だから、いつも傍でお前たちを見守っている』
 それよりも、とアルは言う。俺は、アルが話し出すよりも先に尋ねた。
「デュースはもう、涙なら流せている。これ以上泣かせる必要があるのか?」
……ああ。デュースは、まだ、脆い。その脆さを、まだお前に隠している。どうか、その傷を暴いて……癒してやってほしい』
「わざわざ、隠した傷を暴く必要があるのか?」
『必要な痛みだ。デュースの持つ心の膿を、取り除いてやってくれ。……頼む』
 そう言ってアルは、俺の額に人差し指を向け、過去の記憶を見せた。

 俺は、それを見て――アルの頼みを聞くことに決めた。なるほど、これは確かに。早めに処置しておかなければならない膿だ……

 翌日。俺は、悩んでいた。デュースの心が持つ痛みを、どうにかしてやりたい。だが、どう切り出したものか、と。
 デュースは今、嬉しそうに笑って、俺と共に古城の家事を手伝っている。……何の痛みも、なさそうな顔で。
「シルバー、これはどうするんだ? どうやって使う?」
「あ、ああ、それは……
 俺は古城で家事をするための、道具やからくりの扱い方を教える。上下水道など最低限の設備は整っているとはいえ、電気はあまり多く通していないので、からくり仕掛けのものも多いからだ。
「なんか変だよ、シルバー。一体、どうしたんだ?」
「いや、その。ええと……
 ……何と言えばいいのか。デュースにも、心の準備は必要ではないか。改めて時間を取って、話した方がいいだろう。
「大事な話があるから、夜、時間をもらいたいのだが」
「ん、分かった」
 あっさりと、デュースは承諾してくれる。そんな折、玄関のドアベルが鳴る。どうやら客人のようだ。
 この古城を訪ねてくる人は少ないが、一体誰やらと玄関へ急ぐ。
「お待たせしました。どちらの方でいらっしゃいますか……
 玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは、赤毛の男だった。
「ここに、デュースがいるって聞いたんだけど?」
「いることは、いるが……
 デュースを城に招いたのは、昨日からだ。いくらなんでも情報が早すぎる、そう思っていると、後ろからデュースが顔を出した。
「あ、エース! お前どうしてここにいるんだ!」
「別に、なんでもいいだろ! お前から手紙貰って、ソッコー来ただけ!」
 ……どうやら、デュースの知り合いのようだ。デュースに目くばせをすると、デュースは俺へと申し訳なさげに言った。
「あ、ええと。……シルバー。コイツは、その……。なんて言ったら、いいか。なんていうか……
「何、言い淀んでんの? オレはエース・トラッポラ。デュースの眷属の、エースって言います、よろしく!」
「眷属?」
 俺は、その言葉に驚いた。デュースの眷属になったのは、俺が最初で、後にも先にも俺1人なのだろうと思っていたから。
 ……別に、浮気だなんだと責めるつもりもないが、何故言ってくれなかったのか、とは思った。まあ、こんなに早く出会うとも、デュースの方も思っていなかったのだろうが……
「本当なのか? デュース」
……本当だ」
「責めるつもりはない。そう沈まないでくれ」
 そうして、できれば彼とのことも聞かせてほしい。俺がデュースにそう告げると、デュースは、ひとまずあとで話すよ、と言った。

「おやおや。次から次へと客人が……。賑やかなことだな」
「あ、おかまいなく! オレ、そんなに長い間いないんで」
 マレウス様に事情を説明し、ひとまずエースを古城へ招き入れる。とはいえエースの方は、古城に長居をする気はないようだ。
「いったい何しに来たんだ、エース?」
「別にぃ。なんか眷属が増えたっつーから、見に来ただけ! この人? 手紙で言ってたよね、銀髪だって」
 エースは俺の肩を叩く。俺がそうだと頷くと、デュースが補足をした。
「ああ。お前に出した手紙に書いた通りだ。シルバーは、アルの生まれ変わりでもある。眷属になって、僕とずっと一緒にいるって言ってくれたんだ」
 だから心配いらない、とデュースはエースに告げる。その瞬間、エースの目の色が変わった。
「アンタが、あの『アル』の生まれ変わり?」
 どうやら、彼もアルのことを知っているようだ。
「そう、だが……。それが、何か?」
 何か、睨まれている気がする。敵意でも向けられているのだろうか。品定めをするようなエースの目に、たじろがず見つめ返した。
「ずっと一緒にいるって、いつまで?」
「俺が守れる限りは、いつまでものつもりだが……
 するとエースは、不意にふっと敵意をなくし、俺から視線を逸らした。
……ふーん。ま、いいけど! 眷属になってまで一緒にいてやるつもりなんだ、デュースと。物好きだね」
「それは、君も同じではないのか?」
 エースは俺の言葉には答えず、デュースの方にくるりと向き直った。
「それよりさ。アルの生まれ変わりも無事見つけて、一緒にいるって約束までしてもらえたんなら、もう、お前にはいらないよね。アレ」
「アレ?」
 デュースの方を見ると、なぜか、少し青ざめた顔をしている。一体、どうしたんだ?
「エース、その話はここでは……
「いいじゃん。今持ってきて、返してよ。そしたら、オレはもうオレの街に帰るからさ」
……分かった」
 デュースは部屋の方へ戻り、小さな鞄を持ってくると、エースにそれを渡した。
「中に入ってる。好きに持ってけよ」
……ん、確かに」
 エースは鞄の中身を改め、そして、明るい笑顔を作る。
「んじゃ、用も済んだんで、オレはこれで! お邪魔しましたぁ!」
「あ、ああ」
「シルバーって言ったっけ? アンタとは長い付き合いになるかもね!」
 嵐のような男だな、と思いつつも、一応見送ろうと玄関先へ出る。すると、エースは通り過ぎざまに、俺へと耳打ちをした。
……こんなもん、使わせんなよな」
「それは、一体……
 言葉の真意を問おうとした頃には、もうエースは古城の門をくぐっていた。
「じゃーねー、また遊びにきまっす!」
「僕だけの家じゃないんだから、気軽に遊びに来るなよ! ったく……
 そうしてエースが去ったあと、改めて俺たちは彼の話を聞くことになった。

「エースは、ほんと最近……ここ10年以内ってか、ここへ来る少し前に僕の眷属になったやつで、まあ、見てもらっての通り、ああいう奴です」
「そうか。賑やかな客人が訪ねてくるのは、僕は嬉しい。気軽に招いてもいいのだぞ?」
「それはさすがに、お世話になってる身で……、ちょっと申し訳ないですよ」
「何、遠慮することはないのじゃぞ? 友人とは気軽に遊ぶといい。マレウスにも、多くの友人が増えた方が良いからな」
「下位吸血鬼の眷属などに出入りされては、城の格も落ちてしまう。僕は反対です!」
「俺もその下位吸血鬼の眷属には入るのだが、セベク……
「ふん、デュースは今や、マレウス様の傘下のようなものだろう! その眷属であるお前もマレウス様のご威光の下にあるのだ!! そうでもなければ誰が下位吸血鬼なんぞの滞在を許すものか……
 セベクは高位吸血鬼を特別視しているため、下位吸血鬼であるデュースが古城に転がりこんできたことが気に入らないようだ。……まあ、とはいえ。恐らく、ああした態度の実態は、マレウス様がデュースを気に入っている風であることへのヤキモチに過ぎないのだろうが。とは言っても、度が過ぎたら嗜める必要があるな。
「いったい、どんなきっかけでトラッポラがお前の眷属になったのか、聞かせてもらっても?」
「あ、ええと……旅の途中、少し離れた街の宿屋で会ったんです。アイツは宿屋の看板息子で、僕はそこに、けっこう長く滞在してて。10年くらい」
「ふむ。人の子ならば、それなりの体格になる年月だな」
「はい。出会ったときは、8歳だったんですけど。今は18になってるはず」
「なんだ、僕と同い年ではないか」
「セベク、そんなに若かったのか!?」
 デュースが驚くことに、俺は驚く。……デュースは確実に俺よりも長く生きているはずなのだが、その。童顔なのもあって、同じ年か、年下くらいに思えてしまうのだ。過去の記憶の中では、アルの方がデュースより年上だったようだし。その感覚もあって、時々長年を生きている吸血鬼らしいことを言うデュースに戸惑いを覚えてしまう。だが、それは向こうからしても同じ感覚のようだ。
「気持ちは分かるぞ、スペード。シルバーもセベクも、ずいぶん身体は大きくなったが、まだまだ生まれたての赤子である」
「して、何故その赤子のエースがお前の眷属になったのじゃ?」
「あ……はは。別れ際に、泣きつかれちゃって。『オレを眷属にしてよ』って駄々こねるから、仕方なくそうしたんです」
「そうか、そうか。なんとも赤子らしい、可愛らしい話であるな」
「はは、そうですかね……
 セベクが声を潜めて俺に話しかける。
……なあ、シルバー。デュースの奴、僕たちとそう変わらないように見えるが。アイツからしても、僕らは赤子に見えているのか?」
「分からない……。何年ほどデュースが生きているのか、実は、まだ聞いていないんだ。……お2人、マレウス様や親父殿は2000年よりも前から存在するそうだが、それと同じくらいか、ひょっとするとそれ以上に古い吸血鬼だったりするのだろうか……?」
「あ、ありえん。下位吸血鬼は高位吸血鬼よりも後に生まれた存在のはずだ。せいぜい半分、いや4分の1にして、ここ500年くらいの話ではないのか?」
……それでも、俺たちよりは相当に長生きしていることになるな」
「ううむ……
 そうして、その日の晩餐はお開きになった。

 夜。改めて、俺の私室においてデュースと話をする。
「改めて、話をしたい。とは言っても、何から話せばいいか……
「何が聞きたいんだ?」
 そう尋ねられて、俺はなんとも言えなくなる。だから、先に気になることを聞くことにした。
「エースとのことを、詳しく聞いても?」
「それは、えっと……話した通りのことしか、ないぞ?」
「彼が何を思って眷属になることを申し出たのか、詳しく……知りたくて」
「それは、本当のところ、アイツにしか分かんないと思うけど……
 デュースはそれでも、話すことを渋る。俺はこちらの話題は諦めて、本題へ切り込むことにした。
「ええと。ならば、本題へ入ろう。……アルに言われたんだ。君の心には、まだ膿のような傷が残っている、と」
 だから、もし何か心に引っかかりがあるというのなら、それを聞かせてほしい。俺はそう告げた。
「やだな。僕の心に、膿なんて……
 もうないよ、とデュースは言おうとして。そして、言い淀んで、口を結んだ。俺はそこに、斬り込むべきだと思った。だから、告げた。
「もう、隠さなくていい。……デュース。ずっと、死にたかったんだろう」
「そんな、まさかっ、死にたい、なんて、なあ……っ」
 動揺している。明らかに。……可哀想な程に。
……デュース。嘘は、つかなくていいんだ。もう」
 俺の言葉に、言い逃れできないと思ったのか、デュースの目からは大きな粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。
……シルバー」
「ああ」
「シルバー……っ」
 俺は、デュースを抱きしめた。抱きしめて、その激情を受け止めた。
 言葉にできないのも、仕方ない。涙があふれてくるのも、仕様がない。慟哭をあげるのも、当然だ。俺はただ、細い肩を抱き留めることしかできない。
 何せ、デュースは。ずっと、ずっと長い間。ずっと、この世から去りたかったんだ。
「シルバー、僕……っ、僕、ずっと、アルを失ったあの日から……、シルバーに会えるまで……っ」

『1000年の間、ずっと死にたかったんだ』

 想像していたよりも、ずっと長い時を告げられ、俺は、わずかに動揺した。それでも、デュースを抱き留める腕を緩めることは、俺のプライドが許さなかった。
 
 ――俺が夢の中でアルに告げられた頼みは、こうだ。
『デュースは、俺が最初に生まれ変わったのは蝶だと思っている。だが、その前に俺は一度、泡沫の生を受けた。……文字通り、泡だ。一瞬で弾けて消える、水の泡として生まれ変わった』
『アイツの傍にいられたのさえ、一瞬の記憶だ。それでも、刻み付けられた』
『デュースは水鏡に己の牙を映し、こう言ったんだ』

――"アルと一緒に死ねたら良かったのに"

……その言葉を聞いたから、俺は、何度夢の通い路を渡ってでも、デュースへ会いに行ったんだ』
『この世界のどこかに、俺の魂がまだ生きていると伝えれば、生きていてくれるのでは、と……。生きてさえいれば、と』
『俺の魂であっても、そうでなくとも。デュースの傍に、いつか誰かが現れ、その永劫の生に寄り添ってくれるのではないか、と』
『今となっては、酷な願いだったと思っている。……が、そこにお前は現れてくれた』
『シルバー、今一度頼む。どうか、デュースの心に巣食う傷を、消し去ってはくれないか』
 
 ……勝手な男だ。だが、その勝手な男も、俺の一部だ。アルの存在は間違いなく、デュースを愛した、俺を構成する一部だ。俺はただ、泣きわめくデュースの言葉を聞き、ただ受け止めるほかなかった。
「あの日っ、アルと……アルと死にたかった!! 同じ炎の中で、一緒に灰になってしまいたかった……!! どうして、どうして僕だけが……っ、僕の方が遺されるんだって、何度も、何度も思った……っ!!」
 これが、デュースの持つ膿。心の深い傷だ。最愛の恋人を失い、自分だけが蘇った日の絶望。
「『すまなかった……君を1人、置いて行ってしまい。これからはずっと、傍にいる』」
 まるで自分だけの言葉ではないように、デュースに言葉をかける。デュースは涙を拭い、俺の胸に顔を埋めた。
……エース、とはっ」
「あ、ああ」
 不意にエースの名前が出てきたものだから、少し驚いた。何かこのことに、関わりがあったのだろうか。
「約束、してたんだ。もし、次に、人間に生まれ変わったアルが、僕のこと、恋人にしてくれなかったら、って」
「約束? 一体、何を……
「終わりにするって、決めてたんだ……っ。エースが持ってったのは、ナイフなんだ、銀製の……っ」
 俺はそれを聞いて、すべてを察した。ああ、デュースは。死ぬつもりだったのだ。この恋が、叶っていなかったら。誰にも言わず、1人で……いや、2人で。
 ……俺が選択を間違えていたら、あるいは、別の選択肢をとっていたら。そんなもしやの道を考え、背筋に寒気が走る心地になって、改めてデュースの身体を抱きしめそのぬくもりに安堵した。
「なぜ、そんな約束をした?」
 すん、とデュースは鼻を鳴らす。
「僕は、もともと、エースを眷属にするつもりなんてなかった。でも、僕が宿屋を旅立つとき。あと一晩だけ泊まって行ってよ、とエースが引き留めたんだ」
 その夜に、エースは勝手に僕の血を飲んで、眷属になった。それを、次の日、僕が旅立つときに明かしてきた、とデュースは言った。
「エースは言ったんだ。『もしお前が勝手に死んだら、これで分かるから』って。馬鹿なんだ、アイツは」
 それで、約束したんだ、と言った。アイツが一方的に、と。
「『もしこの先死にたくなったなら、オレを巻き込んで死ぬ覚悟してからにしてよね。お前にはどうせできないと思うけど! でも、それでも、どうしても辛くて仕方なくて、まだ死にたいなら――』」
 そのときは一緒に死んでやるよ。だから、淋しくない。そうエースが言ったのだと言う。

 オレは、複雑な気持ちになった。それほどまでにデュースのことを想ってくれていた存在がいるのは、喜ばしい。デュースの生きる助けになれる存在が、他にもいてくれたことは、本当に嬉しいことだ。だが、その一方で、俺だけではなかったのか、という気持ちにもなる。デュースのことは、孤独な存在だとばかり思っていたから。
 そんなことを考えた己を、心の内に叱咤した。
 デュース自身の幸福を、何よりも考えられる男でいなければいけない。そうでなければ、俺は……アルに、負けっぱなしだ。
 ……それでも、俺は。弱い俺は、一言だけ聞いてしまった。
「エース、は、君の……なんなんだ?」
 デュースはほほ笑んで答えた。
……決まってるだろ。自慢のマブダチ……親友だ!」
……そうか」
 俺は安堵して、それから、デュースが寝付くまで宥めると、ぽんぽんと頭を撫でて、それから、筆を執った。
 ……親友、か。そうか。そう、なのだな。
 デュースからすれば、そうなのだろうな。
 俺からすれば、その想いの熱量は、あの、デュースに向ける眼差しは。友情を超えているように思えるのだが……
 ……それでも。エースは、デュースの望むハッピーエンドを信じて、親友であり続けることを、決めたのだな。
 自らの、命を懸けて。
 ……敵わないな、と笑みがこぼれてしまう。アルと言いエースと言い、デュースの選ぶ男の趣味は随分いい様だ。
 さて……デュースからすればわずかな間であろうと、その脆い心を守ってくれた親友がいるというのなら、……そして、彼が、俺にとって敬意を払うべき恋敵であると言うのなら。俺にもやることがある。

 ――数日後。ある街角の宿屋のポストには、こんな手紙が入っていた。

『拝啓 親愛なるエース・トラッポラ様
 今まで、デュースの心を守ってくれてありがとう。
 君の想いは本当に、デュースの支えになってくれていたと思う。
 これからは、俺も共に彼を守ろう。
 そして、誰よりも幸せにすると誓う。
 彼を想うほかのすべての男に、負けないように。
 君は、その生き証人になってくれると嬉しい。
 本当に、今までありがとう。そして、これからもよろしく。
 本当に短い文章だが、これで結ぶことにする。
 アルジェント 並びに シルバー』

 手紙を読んだ男――エースは、格好つけてんの、と笑って、そして宿屋に入るなり、扉に背を預けてくずおれた。
……良かったじゃん。ハッピーエンドでさ」
 敵わないって、思ったんだ。実際、どんな男だろって会ってみて。
 なんか、普通に思った以上のイケメンだったし? 付け入る隙とかないし? デュースだって、ずっと傍にいる、なんて恥ずかしげもなく言えちゃう男の隣でさ、幸せそうに笑っちゃってさ。
 で、この手紙だよ。鈍感なデュースとは違って、正々堂々とオレに向かって宣戦布告してくる始末。
 品行方正で、ライバルにも優しいとか、完璧な王子様かよっての。
「あーもう、完敗!」
 ここまでくるといっそ清々しくて笑えてくる、とエースは床に転がって笑う。
 そして、己の腕で目を隠す。
……オレと死ぬ道なんか、選ばれない方が良かったに決まってんじゃん」
 それでも、もしかしたら。デュースがギリギリのとこで思いとどまってくれて、2人で喧嘩しながら生きてく未来もあったかも、なんて未練がエースの目に一筋の涙を流させた。
 悔し紛れに目を擦る。すると、ギィと宿屋の扉が開く音がした。
「吸血鬼の眷属になどなるから、苦しむことになるんだよ」
 エースは床から起き上がり、忌々しそうに彼を睨みつけた。
……何しに来たの、リドル神父」
「そうだね……哀れなキミを救いに、かな」

*おしまい
(続編およびこの後のエースとリドルの話書くかは未定です)