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ゆうな
2025-03-15 23:12:48
3191文字
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【眼鏡】
眼鏡姿の爆豪に轟がメロつく話。
ばくとどって寝る時は別だろうなという気持ちと一緒に寝ていてほしい気持ちがどっちもあるから部屋3つベッド2つお布団1つ持っててほしい。
#爆轟版深夜の真剣60分一本勝負
◆Pixiv:ログ2に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24418260
玄関を開錠する音に爆豪がピクリと肩を揺らす。久方ぶりに時計に目をやると時刻は二十二時を過ぎた頃だった。
「ただいま」
リビングの扉が開き「おかえり」と視線と声だけで出迎え再びパソコンの画面に向き直る。今日はせっかくのオフだったというのに先日の長期遠征報告書が溜まりまくっていたおかげでほとんどPC作業に追われていた。これ以外にこなしたことといえば洗濯と轟の夕飯作りくらいで、今日こそはレンジフードの掃除を徹底的にしてやりたかったのに、また次の休日に持ち越されてしまった。こうしている間にも汚れはどんどん蓄積されていると思うと早く綺麗にしたくてしょうがない。次の休みこそは絶対に。何があろうとも。そう心に決めていると、ドンッ。何かが落ちたような音が横から響いた。振り向くと轟がリュック型のヒーローコスチュームを置いた、いや落とした音のようだった。この男は物を粗雑に扱う人間では無い。珍しいな、と思い「どした」と尋ねる。
そもそも「おかえり」の後に会話が無いことが珍しいのだ。いつもならうまい飯屋を見つけただとか出会った野良猫に今日は挨拶を返してもらえただとかサイドキックの面白い話がどうとか。挙げればキリがないくらい聞いてもいないのにベラベラと喋ってくるくせに、今日に限っては全くの無風だった。メデューサに睨まれたかのごとく固まっていた男が爆豪の声にハッとしてぱちぱちと睫毛を上下させる。
「め、」
「め?」
「眼鏡、なんだそれ」
そうだった、眼鏡をかけていたのだった。言われてからようやく思い出すくらいには今日一日ですっかり馴染んでいた。洗濯にプラスして午前中に店へ出向いたことを思い出す。日常生活や戦闘においては何の支障もないが、業務上タブレットと睨めっこしている時間も長いためこの先のことも考え購入しようと前々から考えていたのだ。
「PC用のが欲しくてな。効果あんのか知らねーけどどうせならと思ってブルーライトカットが入ってるのにしてもらった」
「そうなのか。いや、なんか、すごい
……
」
腕を組み、口元に手をやってジロジロと舐め回すように眺めてくる視線が鬱陶しい。言いたいことあんなら言え、と睨み返せば指の隙間から見える唇がゆっくりと弧を描く。
「すげえいいな、うん、いい。めちゃくちゃ似合ってる」
なぜか頬を染める男に、マジで何言ってんだ? と顔を顰める。ファッション誌の仕事を受けた際につけたイヤリングだとか時計に対してだってそこまでの反応はしなかったくせに、この男のツボは本当に謎だ。とりあえずさっさと飯を食ってさっさとベッドに入りさっさと体を休めることを推奨したい。
「おまえ眼鏡フェチだったんか」
「いやそんなことは無いと思うけどな。飯田も眼鏡は似合ってるけど何か思ったことは無いし」
「もし思ってても言わんでいいわ。つーかもう飯作ってあるから食えば。生姜焼き」
「お、ありがとう」
それから轟は山盛りの白米を添えていつも通り美味い美味いと食うくせに、隙あらばチラチラと視線を寄越してくる。飯を食うことに集中しろ、バレないとでも思っているのか。確かに出会ってから十年以上一度もこの姿を見せたことは無いが、何の変哲もないシンプルな黒縁眼鏡の一体何が良いのか正直まったくわからない。まあでも、そんなに好きなら飽きるまで見つめていれば良い。結局恋人に自分の姿を気に入ってもらえるのは満更でもないのだから。
夕飯と洗い物を済ませた轟が爆豪の背中を軽く抱き締め白い頬に唇を落とす。じっと横顔を眺めてから、甘えるみたいにこめかみを擦り付けた。
爆豪の眼鏡姿が、とんでもなく、良かった。疲れた体に染み渡るそのかっこよさに、うっかり新たなフェティシズムを拓きかけるくらいにはきゅんとしてしまった。いわゆるオシャレというものにはあまり興味のない轟にもわかるくらい洒落ていて、雑誌のモデルだと言われてもきっとすぐに信じてしまうだろう。悪いが盲目だとは思っていない。いつものつやりとした紅い瞳が、薄いレンズ一枚挟んだだけでトーンがかかり、雰囲気が変わった感じがするし、骨格のせいかこの歳になってもどこか幼さを残していた顔が急に大人っぽく見えて、それにまた見惚れてしまう。時折ブリッジを持ち上げる姿も様になっている。とにかく、見たことのない恋人の姿というだけでとてつもない魅力があるのだ。
次の機会があったらどうか飽きるまで観察させてもらいたい。好きにしろ、とか最初のうちは許してくれるかもしれないが一体どのくらいでしびれを切らしてキレ始めるのだろう。それでもずっと見続ける自信はあるけれど。
「俺もう風呂入って寝るな」
「もうちょいで終わるから一緒寝る。明日休みだよな?」
「うん。俺はそうだけど爆豪は仕事だろ、あんまり遅くなるなよ」
「わーっとる。はよ寝とけ」
返事の代わりに口の端に唇をつけるとそれまで無反応だった爆豪ががぶりと下唇に噛みついてくる。それからちゅ、と音を立てて何度か口付けを交わし、宥めるみたいに「おやすみ」と髪を梳いて腕を解いた。レンズ越しにされる流し目の破壊力たるや。今日はすぐに眠りにつけそうだ。スキップでもしそうなくらい上機嫌の轟が風呂場へ向かう。上がってからも水を飲むついでとばかりに横顔を見つめてから、満足気に寝室の扉を開けた。
「悪ぃ、起こしたな」
「
……
ん、」
ベッドに潜り込んでくる柔らかな振動に轟の意識がゆるりと浮上する。目蓋を閉じたまま手探りで探すと、こっち、と恋人が抱き付いてきて、つい頬が緩む。背中に腕を回すとそっと手を取られ爆豪の頭に導かれた。さっき触れたのと同じ感触だ。轟が爆豪の髪の毛の質感を知ってからもう何年経つだろうか。チクチクと頑丈そうな見た目をしているのに触ってみると存外に柔らかくて気持ちが良い。これが自分にだけ許されている行為なのだと思うと、轟の胸の内側が春の温もりみたいな多幸感でいっぱいになる。無意識に頭を撫でていると爆豪がぐりぐりとそれを肩口に押し付けてきた。
「ばくごう?」
もっと撫でろと犬のように甘えてくる仕草が愛おしくも珍しく、つい掠れ声で呼ぶとピタリと動きが止まる。その隙にこっそりと爆豪の匂いで肺を満たした。
「ずっと眼鏡かけてたし疲れた」
「だいじょぶか?」
「ん。おまえがあんな目で見てくっから、外すタイミング失ったわ」
再び落ちていきそうな微睡の中聞こえた言葉に轟は思わず吹き出した。あんな目、だなんて。さすがにじろじろと見すぎていたか。でもそれはつまり、轟が好きそうだからとわざわざ眼鏡をかけ続けてくれていたということで。それは悪かった、とか言ってやりたいのに、理不尽すぎる理由にツボってしまう。
「なに笑ってんだ、てめえのせいだっつってんの」
「責任転嫁するなよ、おまえが似合いすぎてて、かっこいいのが悪い」
「俺に押し付けンじゃねえよ。しかも俺の眼鏡姿で飯まで食ってたろ、てめえ」
「
……
」
「否定しろや」
ふは、とベッドの中でふたりが笑う。胸元に吐息があたって暖かくてくすぐったい。もぞもぞと足を絡めて抱き合って、キスを落としてまたハグをする。布の擦れる音だけが深海のような部屋に吸い込まれて、そうしているうちに体が心地よい温もりに包まれていく。目蓋が重くなり意識がぼんやりと溶けていくと緩やかにちからが抜けていった。眠気が波のように押し寄せてくる。でもこれだけは伝えなくてはいけないと、轟は舌ったらずな音をたゆたう小舟のようにシーツの海にうかべた。
「ばくご、おれ、いつものおまえもすきだからな」
「
……
しってる」
とろとろとした声で、おやすみ、と呟いたのはどちらだったか。体温がじんわりと混ざってやがてふたりは穏やかな夢の世界へと足を踏み入れた。
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