こゆ
2025-03-15 22:25:12
2023文字
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誘惑スイッチ

ペンシャチの日常。
相棒だったり恋人だったりなペンシャチがベッドの上で軽口叩きながら淡々と攻防する話



※AI学習無断転載禁止




誘惑スイッチ


揃っての非番の前日、滞在した島でそれなりに盛り上がった後。シャワーから上がったペンギンは、先に上げたシャチがベッドの上で胡座をかき、シーツからのそりと起き上がり水を飲む姿を目に留めた。気怠げに動いた裸の上半身をしげしげと見やる。
「シャチさァ、もしかしてちょっと太った?」
「ぁ……、やっぱわかる?」シャチがばっと振り向く。掠れ気味な声を労るように、もう一口ぐびっと水を飲み込んだ。
「何か前よりむちむちしてる気がする」
「薄々気付いてたんだけど、人に気付かれるレベルってかなりヤバくね?」
最悪だ、と言いながらむにむにと腹や太ももをつまんでいる。多分ペンギン以外が気づかない程度。筋肉は厚く引き締まった身体だ。ほんの少し柔らかみを帯びた程度。
「おれはシャチの体重は増えれば増えるほど嬉しいけど」
「でもペンギンのツナギ入んなくなったら貸し借りできなくなって困るだろ」
「シャチのサイズ直しすんのはやだなァ」
ツナギの特性上細かい部位の厚み太みはある程度融通がきくためペンギンとシャチはあえての揃いのサイズで作っている。その方が何かと便利なのだ。言いながらペンギンは手を伸ばして、シャチが飲みかけの水を受け取って呷る。
「健康に差し障りがなければいいだろ」
「でも、動きが重くなるのは嫌だし……ペンギンに萎えられても……こ、困るし」
「萎えてたらさっきみたいなことになってねーだろバカシャチ」
顔を見合わせ、探るように見つめ合う。困ったとか、恥ずかしいとか、全部混ぜたようなシャチの顔を見て「そっか、」そう言うとペンギンは少し考えて、口を開いた。
……セ」
「セックスでダイエットとかおっさんみてーなこと言うなよ!」
かなりの食い気味の、真っ赤な顔のシャチの勢いにぶはっと吹き出して、一つ咳払いをしてからペンギンは頷いた。ハンズアップして、「もうシません」と。
「シャチのOKライン、未だによくわかんねーな。なんか今いけそうだったんだけど」
「ペンギンのスイッチの方がわかんねーよ」
ふいっと横を向いたシャチが自嘲気味に「いやー、でも少し鍛え直さねーと。チョコとか甘いモノに食べすぎたのは確かだし」と独り言ちる。
「島にいる間は走り込みでもするか?」
「海賊としてそれ大丈夫?っていうか鍛錬はこれ以上増やすと過保護の主治医キャプテンが止めに入るじゃん」
「あー、あの人自分のことは棚に上げてだからなァ。……あ、わかった!」
シャチはピッと人差し指を立てて、ペンギンを見上げた。かろうじてパンツだけ履いたその姿には情事の跡がありありと浮かび上がり、ペンギンはあーあと天井を見上げた。
「出来るだけイキった格好で、他の停泊してる海賊船のまわりウロウロして、」
シャチは気にせずやや興奮気味に言葉を繋ぐ。
「はあ? いたずらにやっかいごと起こすなよ」
「こっちから手は出さねーよ?ハートの海賊団だってバレねー格好してひたすら全部よける!」
ベッドに膝立ちのまま、シュッシュ、とシャドーボクシングを行うシャチに、ペンギンが胡乱な目を向けた。
「相手が疲れて諦めるまでよけ続けたらめちゃくちゃ痩せそうじゃね?むしろペンギンも一緒にやったら鍛錬にもなるし」
「夜な夜な敵戦の周りでシャドーボクシングしてたらどう考えても過保護の船長キャプテンにバラされる案件」
「そりゃ違いねー」シャチも頷く。
ふたりでくすくすと笑った。
「潜水艦生活の中で出来る運動って、やっぱ普通に鍛錬するしかねーか」
「んー」
シャチがちら、と上目遣いでペンギンを見る。
「でもこういうなんでもない時間に何か、ふたりで出来ることしたい」
「はっ」ペンギンが真顔で呟いた。
「ずいぶんかわいいこと言うじゃんシャチ」
「うるせー」
恥ずかしくなったのか、ごろりとシャチがベッドに寝転んだ。そのまま枕に顔を埋めてしまう。髪を掻き上げて真っ赤な耳を覗かせるのが何ともあざといな、とペンギンは思った。背中にも赤い鬱血痕が散らばり、なぞりたくなる気持ちを冷静に抑えた。
「ふたりで出来ることか」ふむ、と考え込む。
「じゃあポーラーの甲板掃除でもするか、戻っていまから」
「は?」シャチが顔を上げる。
「ないわあ、こんな夜中に寒空の下で甲板掃除とか………っ、セックスしよって、誘ってんの……!!」
潤んだままの二つの瞳がこちらを向いて。
その瞳の中に、僅かな揺らぎを見た。
「だからわかりづれーんだよなァ、シャチのOKラインのスイッチが」
ペンギンは形だけの不満を口にして、「お言葉に甘えて」と第二ラウンドの誘いに乗ることにした。シャチの喉が何か言いたげにひくりと震えて、この後の想像したのかさあっと赤らんでいく全身にペンギンはやっぱり最初のセックスの提案からOKだったよな、とキスを落としながら口角を上げた。










【了】