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ガラシャ
2025-03-15 19:44:54
6110文字
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オメガバース
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ゆりかごのうた ②
②ではございますが、①とは繋がっていません!
高志と和也が事故で番になってしまったというイフです。
ご注意を!
――
和也は深い眠りから徐々に目覚めていくのを感じた。肌が何かやわらかなもので拭われていく。首を、肩を、背を
…
投げ出された足にさえも
…
壊れ物を扱うような丁寧さだ。
和也はゆっくりと瞼を開いた。
「たか、し
…
?」
ぼんやりとした影しか映らないが、和也はすぐに誰だかわかった。和也の体をこんなにも労わってくれる男はこの世に一人しかいない。
「起こしたか?」
「
…
もう、朝?」
「ああ。今、11時だ。
――
悪かったな、ひとりにして。きつかっただろ?」
和也は首を振る。体は重く、喉も乾いていたが、そんなことよりも、ちゃんと高志に伝えねば。
「大規模な事故が起こったんだろ?そんなのほっておけるわけない。命の方が大事だ」
――
和也はこの1週間、発情期だった。番であるΩのヒートには、αが付き添うことが義務となっている。和也の発情期に合わせ、高志も有休をとり、ふたりで怠惰な1週間を過ごした。
昨晩は、ヒート期間も終盤を迎え、和也も意識がはっきりとしている時だった。高志が作ってくれたクリームパスタを食べ、ゆっくりとソファでくつろいでいるところに、高志に緊急の連絡が入ったのだ。
それは大規模な事故だった。高志が勤務し、また実家が経営している久住病院の近くで事故が起こり、負傷者が多数出ているとのことだった。
『大丈夫。ひとりで何とかする』
高志は医師だ。助けを必要としている人がいれば、駆け付けるのが医師の仕事だ。
和也は躊躇いながらも出かける準備をする高志を笑顔で見送った。偶発的な事故により番になって8年も経つのだ。番登録をしているため、世間一般的には配偶者と同じ扱いとなる。そうでなくとも、14歳の頃から側にいる高志の気持ちを和也は知り尽くしていた。快く仕事に送り出すのも、番の役目だ。
――
しかし和也の決意はもろくも崩れ去る。抑制剤を飲んでいても、自慰行為で自分を慰めようとしても、番である高志を求める体が収まらなかった。
ヒートの最後の夜だからと高をくくっていた。欲しくて、たまらなくて、どうしようもなかった。自分で肌をかきむしってしまったのも覚えている。
医師である高志には、和也の傷の状態を見ただけで、ひとりでどんな夜を過ごしていたか分かってしまったのだろう。
全裸でベッドに横たわる和也を優しく抱き起こそうとしてくれる。高志に抱き起こされ、和也はぼんやりと寝室の現状をみて、はっと気づいた。
「ごめん。まだ、片づけできていなくて
…
」
横たわっているベッドの上にも、床にも、服が散乱している。すべて高志のものだ。
ひとりの夜に耐え切れなくなった和也が、クローゼットから高志の服を引っ張り出し、巣を作ってしまった。高志の匂いが残る巣に籠り、和也はただひたすら耐えたのだ。
こんなことは初めてだった。逆に言えば、いつもは巣をつくらなくても良い環境だったのだ。高志が忙しい仕事の中で、必死に調整し時間を作って、発情期の前からずっとサポートしてくれていた。
「
――
嬉しいよ。俺にとっては、お前が初めて作る巣だからな」
事故で番になった和也の巣作りでも、高志は喜んでくれる。若い頃と変わらぬ、軽快な笑みとどこか揶揄う声色は、この7年間、和也をいつも安心させてくれた。
「起きられるなら、飯食うか。子どもたちのリクエストでフレンチトースト作ろうと思ってるんだ」
「え、子どもたちも迎えていってくれたのか?疲れてるのに
…
」
「それぐらいどうってことないさ」
疲れを見せない高志は、和也のクローゼットから和也の服を取り出した。
和也は緩慢な動きで着込むと、高志に腕を引かれ、寝室をでた。
2年前に購入した家は、高志の実家である久住家の近くにある。何かあった時にすぐに駆け付けられるようにと、高志の両親が援助してくれたこともあり、中古ながらも若い番のふたりには十分すぎるほどの家に引っ越すことができた。
一階にリビングと水回り、そして二人の寝室があり、2階に高志と和也それぞれの書斎と子どもたちの部屋があった。
大きな窓が特徴の日当たりの良い家だ。閑静な住宅街にあり、近くに病院や学校など、生活のしやすい場所であった。
「おかあさん!」
「お母さん、ただいま!」
ダイニングキッチンの扉を開くと、子どもたちが自分たちのリュックを広げていた。
「みてみて、これおばあちゃんとおじいちゃんに買ってもらった!」
そういって、第一子で7歳である由衣が見せたのはひらひらがたくさんついたピンクのスカートだった。
「ぼくはこれ!」
第二子で5歳の瑛大【えいた】が今放映している戦隊もののフィギュアを見せる。
「ちゃんとお礼言ったか?」
「いったよお」
「お手伝いもたくさんしてきた!」
つい口うるさくなるのは、和也の性分だろう。子どもたちは慣れたように、応じている。
「ほら、お前たち、フレンチトースト焼くから、こっちこい」
高志はキッチンでスタンバイし、ホットプレートを取り出している。
キッチンカウンターと食卓が続きとなっており、基本的に4人で食事をするときはここだった。
高志はフレンチトーストを先に仕込んであったようだ。
「俺が焼くよ」
「わたしも」
「ぼくも」
「じゃあ、頼む」
和也と子どもたちで、ホットプレートで液に浸した食パンを焼き始める。
その間に高志は、冷蔵庫からオレンジジュースや牛乳、湯を沸かしてコーヒーの準備をしていた。
「お父さんできたよ」
由衣の呼びかけに、高志も自分の席に座る。
「「おいしい!」」
子どもたちは大喜びだった。父である高志が家にいて料理をするときは、こうしてホットプレート出して、みんなで食卓を囲む。
大雑把なことしかできないと高志は言うが、子どもたちには好評だった。
フレンチトーストを食べ終えたあとは、和也はリビングのソファに促される。
「子どもたちの相手頼むな。その間に、家事済ませるから」
「そんなの置いといてくれれば、俺が
…
」
和也が腰を上げた所で、瑛大が抱き着いてきた。
「おかあさん、だっこ」
5歳の瑛大はクラスでも身長が高い。ずっしりと腕に重みが伸し掛かるが、和也はこの重みにほっと息をつく。
「ほら、お前がいなくて寂しい想いしてたんだから、思いっきり甘やかしてやれ」
瑛大を抱き上げたままソファに座ると、由衣もぴたっとくっついてきた。
「お母さん、由衣、ピクニックに行きたい」
「ぼくも」
「じゃあ今度、お弁当持って、公園にいこうか」
「私、卵焼き食べたい」
「ぼくはからあげ」
「いいよ。好きなもの、何でも作るから」
「やったあ!ぼく、おにぎりもいっぱいたべたい」
「うん、鮭も昆布もいれような」
「お母さん、お父さんの好きなものも作ってあげて」
「もちろん。お父さんの好きな炊き込みご飯のおにぎりも作ろうな」
二つのあたたかな重みを和也も抱きしめる。
未だに自分が子どもを産んだのは信じられないのだが、形としてしっかりこの世に生まれ出でているのだ。
和也の産んだこのふたりは間違いなく和也の宝物だった。温かくて、愛おしい
…
。
母もきっと同じ気持ちだったのだろう。だからこそ彼女は、和也を一人で産み育てた。
今と同じ立場になって、和也はようやく母の気持ちがわかった。
――
親子3人が仲睦まじくしているのをみて、一家の大黒柱である高志は家の中を立ち回る。
高志が守るべき3人の姿の笑い声が聞こえると、夜勤の疲れなどどこかに吹きとぶようだった。本当は自分もその中に混じって、あたたかな3つの存在を感じたいが、発情期が終わって憔悴しきっている和也に無理はさせたくなかった。
和也と偶発的に番になったのは23歳の頃だった。和也は義弟の高見玲二により、βからΩにピッチングされたが、1年ほどしても完全にはΩにはならなかった。Ωのフェロモン数値も中途半端で、発情期も中途半端だった。完全な発情期は訪れず、和也は安堵していた。ただ玲二はそれを許さなかった。連日、和也を抱きつぶして、αのフェロモンを浴びせていたのだ。
和也はヒート時には、ほぼ何もできなくなる。食事をとるのも水分をとるのも
…
ただひたすら、億劫になってしまうのだ。その上、毎晩玲二に抱かれてしまっては、体力は奪われていく一方だった。
和也は脱水症状を起こし、久住病院に運ばれた。Ω専門の科があるのは、近隣では久住病院だけだった。
久住病院に入院中、たまたま見舞いに来ていた高志の前で、和也は発情期を起こしてしまった。治療のため、ネックガードもしていなかった。
偶発的なヒートで高志に項を噛まれたが、和也はそのヒートにより完全体のΩに変質を遂げてしまったことにより、ふたりは番となった。
玲二の怒りは当然凄まじかった。
『いつか、絶対取り戻すからな』
和也に向けてではなく、高志に向けて発せられた言葉は重かった。その時には和也が妊娠していることがわかり、高志は責任をとるつもりでいたのだ。
だが、玲二の和也への執着が、和也が他の誰かと番になったくらいで、薄まるわけではない。
『自分の兄貴に会うのに、何で他人に指図されなきゃいけなんだ』
そう嘯いて、堂々と高志と和也の住む家に出入りしている。高志が夜勤などで家にいない日も夕食を食べに来ているのだという。
『あいつも、俺と離れて、冷静になったんじゃないかな?』
和也曰く、玲二は穏やかになったらしい。子どもたちにとっても叔父という立場になるため、土産を持ってくることもあるらしい。
高志からすれば和也は楽観視しすぎている。今だって、和也を見る目は熱く激しい執着を孕んでいるし、高志や子どもたちを見る目はどこまでも冷たい。
今も昔も、和也ただ一人が玲二の執着する人間だ。自分の番を奪ったαを、αは許さない。
――
だが、高志は番を解消する気など毛頭ない。
偶発的なヒートで番ってしまったとはいえ、自分たちは番として非常にうまくいっている。予想外の妊娠だってにもかかわらず和也は産まれた由衣にこれ以上ないほど愛情と手間をかけていたし、2年後に生まれた瑛大にも愛情を注いでいる。
高志がちょうど研修医になったばっかりでほぼワンオペでふたりの子育てをしていた和也だが、少しも高志を責めることなく、子どもたちの前でちゃんと父親をさせてくれている。
今更、こんな幸せを手放せるはずがない。
――
高志が家事を終え、寝室で仮眠をとっていると、ペタペタと頬に触れてくる手があった。
「おと~さん」
次いでかけられる愛らしい声は瑛大の声だ。
高志は目を閉じたまま腕を伸ばして瑛大の体を抱き上げると、ぽすんと体の上に乗せる。瑛大はぐりぐりと父の腹に頭を擦り付ける。
「おとうさん、ごはんできたよ」
「お母さんが作ったのか?」
「うん。ハンバーグだよお」
開いた扉から匂いが漂ってくる。
「よし、起きるかっ」
「きゃあ!」
瑛大を抱き上げて、ベッドを降りる。肩車をしてやりたいが、長身の高志では天井にぶつかってしまう。
今度ピクニックに行くときに、思いっきりしてやろう。
瑛大とリビングにいくと、食卓には4人分の食事がそろっていた。
「ほら、食べようか」
「「いただきます」」
昼間と同様、わいわいとした夕食が始まった。和也の作ったハンバーグは絶品だった。子どもたちもパクパクと食べ、お代わりをしている。
和也は嬉しそうに子どもたちの世話をしていた。1週間もの間、離れ離れで過ごしたので、構ってやりたい気持ちが強いのだろう。
――
子どもたちを寝かしつけて、寝室に和也が戻ってきたのは21時過ぎの事だった。
「なかなか寝かかっただろう、あいつら」
「いつも以上に絵本読むのせがまれた」
和也は疲れたようにいうが、寝室のソファに座り込む。
「明日も休みだからな。あいつら連れて、遊園地でも行ってくるから、お前は家でゆっくり体休めてろよ」
「いやいいよ。それなら俺が連れていく。お前こそゆっくりしてろよ」
「何言ってんだよ。発情期の後なんだから、休まなきゃダメだろ」
「だって、お前ばっかり、いつも大変じゃないか」
高志にはいつも迷惑をかけている。和也と子どもたちを養うために仕事にも邁進して、3か月に一度の和也の発情期にも付き添って、その上、子どもたちの世話まで
…
。
和也の言わんとしていることが分かったのだろう、高志はふうとため息を吐くと、ベッドを降りて和也の隣に座った。
「番になってもうまくいっていると思ってたのに、そう思ってるのは俺だけだったんだな」
「そ、そんなことない!俺だって、お前とじゃなきゃ、子どもたちを育てられなかった」
「じゃあなんで、お前、お袋に『責任を取らせてしまって、悪かったと思っている』っていったんだ?」
和也は息を飲む。確かに、子どもたちを預けに行ったとき、久住の伯母に言った。高志と番になったのだから、義母という立場になるのだろうが、和也はどうしても遠慮してしまっている。
「お袋、随分と心配してたぞ。俺にも『和也くんとうまくいっているのか』ってな」
「
…
だって
…
お前だったら、誰とでも番になれただろ?」
高志ならば、もっと美しいΩと番うことだって可能だった。世にも珍しいというだけのΩ男性である和也ではなく、美しく淑やかな相手と
…
。
「和也、俺は、お前と番ったこと、後悔なんか一度もしてないらしいからな」
思わない言葉に、和也ははっと顔を上げる。高志の顔は見たことがないほど真摯だった。
「俺は、俺の意志でお前の項を噛んだんだ。お前のせいでも、Ωのフェロモンに惑わされたわけでもない」
ヒートに身悶える和也をどうにも、自分のものにしたかったのだ。気が付いた時には、和也を犯して、その項を噛んでいた。
「馬鹿にすんなよ。αの執着を」
その時、高志からフェロモンが発せられ、和也の体がぞくりと震えた。中途半端に発情期を終えてしまったことで、敏感になってしまっている。
「高志っ、はなれ
…
!」
寝室は共にしているが、ベッドは別々だ。発情期しかベッドは共にしていない。
思いもしないヒートのぶり返しに和也の体が蕩けていく。その和也を抱き寄せたのは高志だった。
「逃がさない」
高志に抱き上げられ、和也はベッドにおろされる。途端に和也を包み込む匂いに、和也は自分の肩を抱きしめる。
意識のあるうちで、高志に抱かれるのは初めてだ。体はこれ以上ないほど高志を求めているのがわかる。
「改めて始めようぜ、和也。俺たちは番だろ?」
ゆっくりと抱きしめられ、和也はうっとりとするほどの快感が沸き上がってくる。和也はゆうるりと腕を伸ばし、高志の背を掻き抱く。
この男こそが、自分の番なのだという確信をもって。
∞∞∞
玲二はかわいそうですが、このふたりなら普通に幸せな家庭が作れるかも
…
なんて思いながら書いてしまいました。
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