ヒナツキ
2025-03-15 12:53:26
4881文字
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宗さにファンタジーパロ4

・遺伝子学なんてシラネーですしこの世界はファンタジーなので細かいことは考えない気にしない
・この国における『神』は王族でも接触できない上位の精霊を指します
・今回でこのお話は終わりです。今後の展開はダイジェストでお届けして、番外編を少し書く予定です



 この国の四人の王子たちは全員母親が違い、全員髪と目の色が違った。
 第一王子の江雪左文字は、髪の色は祖父譲り。目の色は父親譲り。
第三王子の小夜左文字は、髪の色は父親譲り。目の色は母親譲り。
第四王子の太閤左文字は、髪の色は母親譲り。目の色は祖母譲り。
 では、第二王子の宗三左文字は?
 髪の色と右目の翠玉は母親譲り。────しかし左目の蒼玉は、誰の色でもなかった。
 父方も母方も、何代遡っても蒼玉の持ち主はいない。宗三が生まれ、目が開き、左右の色が違うと気付かれ、左目が蒼玉だと判明したとき。王宮には王妃の不義を疑う空気が流れた。
 それを豪快に笑い飛ばしたのは国王だった。
「この蒼玉の目は神が授けてくださったのだ! この子は神に祝福されている!」
 外部の人間から見れば戯言だと失笑されるかもしれない。だが、当時の王宮では王のこの言葉が真実だと受け入れられた。
 というのも王妃は誠実で一途な性格をしており、二人は家臣たちの目から見ても仲睦まじい夫婦であったからだった。


 というわけで宗三は幼少の頃から「お前は神から祝福されたのだ、神の加護があるのだ」と言い聞かされながら育ったのだが、それをそのまま信じるような素直な性格はしていなかった。
 だが母が父を裏切るような人ではないことも理解していたので、『神』以外で蒼玉の理由を探そうとした。
 親子の遺伝について。髪や目の色の現れ方について。
 左右で色の違う目を持つ子が生まれる事例について。
 そうしているうちにたどり着いたのは、とある国についての記述だった。
 その国では王家から約半世紀に一度、左右異なる色の目を持つ女児が生まれる。それは神秘の力を持つ『聖女』の証である。
 聖女は精霊の姿を見、その声を聞き、心を通じ合わせることができる。
 聖女を戴くその国は数多の精霊の加護と恩恵を受け、小国ながらも平和な治世を築いてきたという。



「あった…………
 宗三は書庫の一角で十数年ぶりにその本を開いていた。それは様々な国について書かれた歴史書で、記憶通りにその国についての記述もあった。

 “小国ながらも平和な治世を築いてきた”
 “しかし××××年頃からその平和に翳りが見え始める”
 “途切れることなく継がれてきた聖女が生まれなくなったのである”

(それまでは約半世紀ごとに聖女が生まれていた。だから世代交代をすることができていた……
 その代の聖女は次代を待ちながら齢八十まで務め上げたらしい。それでも次代は現れず、国は精霊の加護を少しずつ失っていった。
 待望の聖女が誕生したのは、それから約十年後のことだったという。
 空白の十年は民にとっては明けない冬のようなものであっただろう。聖女の誕生は国の希望であり、光そのものであったはずだ。
 まさにそのことを書き表した一節を宗三は見つけ出した。

“その聖女は民に太陽を与える子、『日与子』と名付けられた”

(日与子……!!)

 宗三は唇を噛み締めた。宗三の記憶通りであったなら、この後、この国は……

 聖女誕生の知らせは周辺諸国に広がった。そしてそれは、北西に鎮座していた帝国にまで届いてしまった。
 帝国は強欲な皇帝が戦による領地拡大を繰り返している国である。噂に聞く聖女のことも“欲しい”と思ったのだろう。
 なんと齢0歳の姫巫女を己の妃に寄越せと要求してきたらしい。
 聖女の国の王族は当然これを拒絶したのだが、その反応ですら予測の範疇だったのだろう。帝国は水面下で周辺の国に不可侵条約を持ちかけ聖女の国を孤立させていた。そして大軍を率いて攻め入り……
 国王や王子は殺害され、残りの王族たちも自決を選んだ。
 聖女の国は、こうして滅ぼされてしまったのだった────

 宗三は侍女から渡された石を取り出した。石に刻まれている紋。
 それは、聖女の国の王族の紋章と完全に一致していた。



 栞を挟んだ本を片手に、つかつかと靴音を響かせて宗三は足早に廊下を進む。その進行方向に、小柄な人影が立ち塞がった。
「宗三様、どこへ行くの?」
 それは乱だった。侍女と同じ孤児院出身で、侍女とも仲の良い使用人の一人。
 乱は明るい人柄なのだが今は様子が違っていた。いつもの可愛らしさなど微塵も感じさせない、鋭い眼光と気配で宗三を威圧してくる。
 なるほど、“関係者”かと宗三は直感で悟った。
「ヒナツキを迎えに行きます」
「宗三様は理解しているの? あの子が『誰』なのか」
「ええ」
……あの子がただの侍女のままならばよかった」
 乱は少し悲しげに眉尻を下げた。
「あの子があの力を隠し通したまま、ただの一人の女の子として貴方のお嫁さんになってくれたならよかったのに」
……彼女の性格で、おそらくそれは無理ですよ」
 宗三はふっと苦笑を洩らした。
 虫一匹の命も慈しむ人なのだ。多くの民たちの危機を見過ごすことはできなかった。己を顧みずに力を使い、宗三に秘密を曝け出した。
「彼女の力を、正体を、僕は知ってしまった。ならば僕は彼女を支え、彼女を守ります」
「どうやって?」
 乱の声が鋭く尖る。
「あの子は、自分が捨てられたのだと思っている。……この世界のどこかに、親や家族がいるのだと思っている。
 あの子は知らないんだよ、何も。みんな亡くなってしまっていること、失われてしまったことを」
「ええ」
「それに、かつて帝国が欲しがった存在がこの国にいるなんて知られたらどうなるか。わからない宗三様じゃないでしょう?」
「ええ、もちろん」
 宗三は落ち着き払っていた。微笑みすら浮かべていた。
「だから、これから『魔王』に会いに行くんです」
「国王様に?」
 『魔王』とは国王の敬称だ。火龍の力でどんな外敵からも国を守ってきた無敗の王。
「貴方もついてきていいですよ」
 宗三は乱の隣をすり抜けると軽く振り向いてそう促した。



 側近すら退室させた執務室で宗三と国王は向き合った。
「ほう」
 侍女は亡国の聖女であるという説明を一通り聞いた国王は悠然と足を組み片側の口端だけをニッと釣り上げた。
「あの国の聖女が生き延びていたとは……しかも我が国に亡命していたとはな。なかなか面白いことになっているなァ」
 それで? と国王は宗三を促した。それでお前はどうするつもりなのだ、と。
「聖女の存在を隠し通すことは現実的ではありません」
 宗三は迷いのない口調で告げた。
「彼女の存在は広く公言すべきです。この僕、宗三左文字の婚約者として」
「くっ……あーっはっはっはっは!」
 国王は愉快で仕方ないという風に大口を開けて笑いだした。
「つまり、お前はヒナツキに惚れていると」
「はい」
「聖女ヒナツキの存在を詳らかにし、この国が後ろ盾になるべきだと」
「はい」
「帝国と戦になる可能性もあるが?」
「戦います。貴方がそうしてきたように、『魔王の刀』の一人として」
「聖女の力は、この国を覆すことも可能だぞ」
 国王はニヤニヤと容赦ない指摘をしてきた。宗三と契約をしている白狐は宗三の制止を聞かずに侍女の命に従った。つまり精霊たちにとっては王族よりも聖女の方が上であり、国王の火龍、江雪の蒼象も彼女に制されてしまう可能性が高いのだ。
「彼女の善性は俺も知っている。だがもし人質を取られたら? 彼女自身が拷問にかけられたら? この国を狙うものに聖女の力は悪用されかねないぞ」
「守ります」
 宗三はきっぱりと宣言した。
「あらゆる悪意から彼女を守ります。彼女の運命を共に受け入れ、彼女を支えます。
 彼女のことも、この国や民も守り抜いてみせる。この国の第二王子として!」
……いいだろう」
 国王は満足げに頷いた。
「俺も帝国のやり方は前々から気に入らなかったんだ。叩き潰すにはいい機会かもしれん」
 それに、と国王は大きな手で顎を撫でた。
「惚れた女の一人も守れねェようじゃあ俺の息子の資格はねェからなあ」
「四人の女性を守り続けている魔王の言葉には説得力がありますねぇ」
 宗三は肩の力を抜いてふっと苦笑を浮かべた。
 これで侍女を迎えに行く準備は整った。彼女の行き先にも見当はついている。この国の中で彼女が頼れるところなど、一箇所しかない。

「行きます、孤児院カナリヤへ」




**********




 かつて、この地には小さいながらも国があったのだという。
 聖なる力を授かった存在により精霊たちの祝福を受けていたこの国は、それを奪わんとする者によって蹂躙され、滅ぼされてしまったのだそうだ。
 だが今はその名残を語るのは転々と存在している白い瓦礫のみで、それらを包み込むように緑が生い茂り、一帯は晴れやかな草原となっていた。
 気持ちの良い風が吹く。空高く、白い龍がゆったりと旋回していた。この辺りの風や雨を司るものだ。
 その地を、とある国の侍女────であった女がゆっくりと歩いていた。ゆったりとした白い衣が風にふわふわと揺れる。
 惨劇があったこの地が今は穏やかであることに彼女は安堵していた。精霊たちや動植物が傷つけられた魂を慰め、眠らせてくれたのだ。
 蝶や蜂が彼女の近くを飛んでは去り、足元では飛蝗が跳ね、ときおり鼠が駆け抜けた。みな彼女を歓迎し、挨拶をしてくれている。
 それらに案内されて、彼女は大きな瓦礫の残る場所にたどり着いた。ここはこの国の城があった場所────この国の王族たちが殺された場所だった。
 彼女は籠を手にしていた。被せていた布を取ると色とりどりの花弁が現れる。それらをそっと手に取ると、風に乗せて一斉に撒いた。
(お父様、お母様…………
 一粒の涙が頬を滑り落ちる。抱かれた記憶はおろか、顔も、声さえも知らない両親だった。
 ずっと捨てられたのだと思っていた。でも違った。父も母も命懸けで守ろうとしてくれた。────愛してくれていた。


 ヒナツキ。菜の花色の月に秘匿されていた子。
 しかしその真性は、太陽の娘。


『日与子』

 上空を舞っていた白龍が降りてきて、彼女の前に浮かんだ。
『帰ってきたのだね』
「はい……
 彼女は敬意と感謝を込めて礼をすると、眉尻を下げて微笑んだ。
「『ただいま』と、『ありがとう』と……『さようなら』を言いにきました」
 この赤子だけはと父たちが逃してくれた。逃げ延びた先の国で保護され、育てられた。
 だから今の自分がいる。
「私は、あの方の国で、あの方と共に生きていきます」
 そっと振り返る。少し離れた場所に、彼女を見守るように桜色の髪をした王子が立っていた。
 今の自分を受け入れ、守るとまで言ってくれた人。その恩に報いたい。
「起きてしまったことは変えられない。亡くなってしまったものは、戻りません。……これからもこの地が、穏やかに眠り続けることを願います」
『承知した』
 白龍が優しく目を細めた。
『元気な姿が見られて嬉しかったよ、日与子。末長く幸せにおなり』
「ありがとう。貴方もどうか、お元気で」
 白龍が天へと帰っていく。その姿をしばらく見送ると、彼女は踵を返して待っていた王子のもとへ歩み寄った。
「もうよろしいのですか?」
「はい。連れてきてくださって、ありがとうございました」
「美しい場所ですね、とても」
 広々とした草原に目をやり、優しく言う。その心遣いにじんと胸が熱くなって彼女は目を潤ませた。
「はい、本当に……。来ることができて、よかったです」
 肩に大きな手が置かれ、そっと抱き寄せられる。今度は頬を赤く染めていると、たおやかに微笑まれた。
「それでは、帰りましょう。僕たちの国へ」
……はい」
 彼女はしっかりと頷いた。
 今までも、これからも、彼女が帰るのは彼の国。彼の隣で生きていく。
 

 その道が、光に満ちたものであることを願って。