茶ツキ
2025-03-15 11:57:27
5357文字
Public レド右
 

女の武器で無双しようと企む話2

ブルレドは常にある。今回は3bクラスメイト相手に総受け編?

 騒々しい朝を迎えたが、いつになくルンルンと機嫌よく登校していくミスターレッド。否、今はミスレッドとでも呼ぶべきか。
 服は弟と色違いのいつものものだが、サイズとしてはややゆとりがあるものの問題ないようで、少しボーイッシュな見た目の女の子と言ったところだ。その美しさは当然周りの注目を集め、すれ違った男に関しては漏れなく振り向かせていた。本人もそれに気付いているだろうが、精々作戦に欠かせない容姿レベルが上々なことを確認出来た程度に思っている。
 その隣をやはり重苦しそうな表情で歩くミスターブルーは、時折レッドへ声を掛けようと近寄ってきた男を文字通り威嚇して追い払っていた。
 すると、遠くの方から学校のチャイムらしき音が聞こえてきた。

「ん? やべっ、予鈴か」
「兄貴が男に声掛けられ過ぎなんだよ……。とにかく急ごうぜ」

 このままでは遅刻になると、二人はトップクラスのスピードを持って駆け出した。



オトしたいのはお前らじゃない




 違和感がある。いつもなら自分の前にあるはずの姿が今日は無い。
 全力疾走していたブルーはふとそんなことを思いながらチラッと後方に目を向けた。だが兄を確認するために見たすぐそこに赤髪の美少女が走っているので、脳がバグる。
 女の子としては恐ろしい速さではあるが、どうやら今のレッドの走力は男の時よりもうんと落ちているようだ。ブルーの方でややスピードを落とさなければ、差がどんどん開いていく。
 レッドもそれには気付いていたようで、教室の前まで辿り着き遅刻を免れたことが確定した後、少し眉をひそめていた。息切れもいつもより酷い。やはり体力面も同じようだ。

……俺に、勝ったなんて思うなよ、弟。これはあれだ……胸が、重かったんだ」
「わ、分かってるって」

 弟相手と思って軽々しくそんな発言しないでほしい。こっそりと思うブルーだったが、それよりも問題なのが今目の前に迫っている。この扉を開いた先に居る自分のクラスメイト達だ。
 サバイバル術やバトルに特化させたクラス故か、人数は自分達を入れて七名と少なく性別も男の生徒ばかり。そんな中に突如現れた女子生徒―――否、ミスターレッドなのだが、こんなにも可愛い女の子が入ってきたらどうなることか。
 そんな弟の心配をよそに、レッドはガラリと躊躇なく扉を開く。「ああちょっと」と急いで後を追ったが、そんなに時間差はなかったはずなのに、彼女はもう誰かに話しかけられていた。

「そこの可愛いお嬢さん! ここは3年B組の教室だぜ、教室を間違えちまったのか? もしそうならこの俺と……、デートしませんか」

 女の子大好き、ミスター赤ちゃんだ。眉をいつになく太くキリリとさせて、突然現れた女の子をデートに誘っている。
 本来ならゴリゴリのパワータイプで、スピードはレッドやブルーに比べると鈍い。だがこのナンパの"はやさ"については、右に出る者はいない。
 膝程の高さから掛けられる声に、レッドはニタニタとどうやら笑いを堪えている。クラスメイトからの新鮮な反応が面白いようだ。

「い、いや、赤ちゃん……。その子って、どう見ても……

 しかしその奥で、ミスター銀さんが赤ちゃんに何か真実を伝えようとしている。しかし自分もあまり確証が持てなかったようで、それ以上は発言出来ずに声を詰まらせてしまった。
 どうやら単純過ぎる赤ちゃんは可愛い女の子としか認識出来なかったようだが、他はそうでもないらしい。服装や特徴がレッドのものでしかないので当然といえば当然だが、ただ一目では彼と思っても、明らかな女の子の姿を前にしては頭の混乱を避けられない。

「ミスターレッド。あの薬に触れていたんですね」

 そんな中、冷静な声がレッドへ掛けられた。ミスターブラックのものだ。
 彼は昨日、レッドとブルーが盗んできた薬の解析を請け負っていた。どうやらその効果に調べが付いていたようで、彼が彼女になっていることにも大して驚いていないらしい。性別転換の薬を彼が浴びていたこと自体は知らなかったものの、受け取った試験管にヒビがあり適当なタライに入れられた状態で渡されたことから、おおよそ察していた。

「えっ?!! ミスターレッド!!?」

 ブラックの呼びかけで目の前の女の子がレッドだと知らされた赤ちゃんは大声で驚き、頭からつま先まで彼女を見渡す。すると数秒程何かを考えこむように腕を組み、目を閉じていたが、最終的には「妹さんも居たとは知らなかったぜ」と察しの悪すぎる納得をしていた。

「へっ、やっぱもう知ってたか。じゃあこれを治す薬だってお前なら作れるよな、ミスターブラック?」

 ミスター赤ちゃんに構っていては時間が消費されるだけのためスルーし、レッドはブラックへ問いかける。
 ブラックは「ええ」と頷いた。

「ただし、完全に元に戻る薬を作るには少々時間を要しますが」
「ん? お前たしか、前にそういう薬作ってたんじゃなかったか? 男体化の……
「はい。しかし、あの時作った男体化の薬は、あくまで女体化の薬の解毒薬みたいなものでした。つまり、私の作った女体化の薬を一度飲んでからでないと効果がないのです。あなたが浴びた薬は私が作ったものとは成分が違いますから、この効果を打ち消す新たな薬を作る必要があるという訳です。なるべく急ぎますが、目安は最低でも一ヵ月かと」
「そうか。まあ、構わねえ。寧ろすぐに戻る気はねーからな」
……?」

 彼のことだから早く作れと急かすだろうと思い、なるべく大きく見積もった期間で提示していたブラックだったが、予想外に寛大な返しを受けて首を捻る。彼女の本音には、流石に気付くことが出来なかった。

「ハアーッ!! ………
……いや、どうしたんだよミスターマネー」

 すると当然、いつものように喋り始めたミスターマネー。しかしその後無言になり、妙に不気味だった。
 近くにいた銀さんが代わりにその意図を確認したところ、「呼び名に迷った」と素直にその理由を話すマネー。どうやら「ミスターレッド」と呼ぼうとしたようだが、今の彼は彼女で、「ミスター」ではないからだろう。

「レッド! 貴様、任務で下手を打ったとは聞いていたが、まさかそんな姿になっていたとはなあ。まったくとんだ未熟者め! この最高級スーパーフワフワクッションを椅子に置いてやるから使うといい」
「は。何でちょっと優しいんだよ」

 またいつものように煽り散らしていると思われたマネーだったが、その途中で急に指を慣らして部下のピグリンを呼ぶと、レッドの席へふかふかのクッションを置かせた。彼の言う最高級なら、到底一般人が尻に引いて使えるような代物ではないだろう。
 当然だが、普段ここまでの気遣いをクラスメイトに配る彼ではない。反応に困ったレッドは、ちょっとだけツッコミを入れた。

「まあ紳士として当然のことだ」
「いや別に心まで女じゃねーから」

 ベシ、と自分の席からマネーのクッションを叩き落とすレッド。正直ひと触れしただけで分かったそのフワフワ加減には心が揺れたが、これを座布団代わりにしては流石に座高が高くなり過ぎる。
 マネーは「なるほど、これがツンデレ女子というものか」と訳の分からない戯言を呟いているが、相手にしても疲れるだけなので後は放置して席へと着いた。

「あ……! 前、見えるか? 俺で黒板が見えないとかあったら言ってくれ」

 レッドの前の席の銀さんがそう心配して話し掛けた。

「問題ない。背丈はそう変わってないからな」

 確かに女の子になったなら身長が縮んでいてもおかしくはなかったが、肩幅等の骨格が細くなった程度でそこは変わらなかった。故に、マネーのクッションを使わなくても問題はない。
 というか、男女の混ざるクラスも存在する学校でそんな気遣いは必要なのだろうか。これは恐らく、これまで女の子と同じ教室で過ごしたことがないための弊害だ。

「だが見たところ、筋量はかなり落ちているだろう。何か困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ」

 隣の席から、ミスターバナナの声がかかる。これは正直言ってやり過ぎない程度の紳士的気遣いだと思ったが、やはり心まで女になった訳ではないために同性のクラスメイトからの丁重な扱いが気味の悪いレッドだった。
 バナナには協力課題中にサボっていたことで何度か殴り殺されたこともあるが、今の自分にはしてこないかもしれない。

「ま、何かあったら頼むぜ」

 女になっただけでちやほやされるなんて、楽なものだな。
 レッドはそう思って後頭部へ両腕を回し、椅子の背もたれに寄りかかって反り返るような体勢をとる。すると何故か、教室中から向けられていた視線の位置がやや下がった気がした

……? あっ」

 不思議に思ったレッドは一番近かった銀さんの視線を辿ってみると、その先が自分の胸だということに気が付いた。
 レッドは咄嗟に体勢を前のめりに変える。胸を張るような姿勢になると、女性用の下着も着けていない無防備な乳房が服にしっかり形取られてしまうのだ。赤ちゃんだけでなく銀さんまでもが無意識に見てしまう辺り、今自分が女の体で、男と対面するならある程度気を付けなければならないことを自覚する。

「マジかよ。このクラス、スケベ野郎ばっかりじゃねーか」
「兄貴だって同じ立場なら絶対見てるだろーが!!」

 女になるのも面倒だなと気を落としたレッドのぼやきに、ブルーは反発して怒りの声を上げた。
 だがそんなことはどうでもいい。レッドの標的はクラスメイト達ではなく、この後HRに現れるはずのすまない先生だ。
 一体どんな反応をするだろう。彼は赤ちゃん程女性にデレデレしやすい訳ではないが、強い方とも思えないので、場合によっては今日一日で弱みを握ることが出来るかもしれない。
大好きなスリルを感じ、自然と笑みが零れてしまう。

 やがて、本鈴が鳴る。合図のように廊下を歩く足音が聞こえ、扉の擦りガラスの先へ人影が見えた。
 しかし。

(あ? ………誰だ?)

 残念ながらそれはすまない先生ではなく、良く居る村人のような顔立ちをした知らない男性教師だった。

「えー、すまない先生から話は聞いていると思いますが、彼の出張中は私が代わりにこのクラスを請け負います。では約二週間、よろしくお願いしますね」
(は!? 出張!? それも二週間!?)

 いきなりの計画外な出来事。
 なんとすまない先生は今日から二週間の出張に出ていたのだ。「どういうことだ」と小声で後ろの席のブルーへ問いかけるレッド。彼からは「昨日先生がそう言ってた時に兄貴が寝てたんだよ」と自業自得の事実を突きつけられる。
 あっと言う間にブラックの薬が完成するまでの期間を半分も無駄にしてしまう。だが、物理的にここにいないものは、どうしようもない。
 怠過ぎる思いから、レッドは机に突っ伏した。「こらそこ、いきなり寝ない」と代理教師から叱られるも、やはり態度を改めようとはしなかった。

「せ、先生。えっと……この子、昨日危険な任務があって、それで疲れてると思うんです」

 すると、いつもならそうない養護の声が上がる。銀さんのものだ。やはり彼は曲者ぞろいのこのクラス唯一の良心だなとぼんやり思っていたが、予想外の展開はまたもや起こった。

「ああ、そうだな。体に強い変化もあったんだ。正直よく登校出来たものだと思う」
「そうだぜ先生。ちょっとくらい休ませてやってくださいよ」
「ハアーッ! 横になりながらでも授業が受けられるよう、俺が最高級ベッドをここに用意してやろうではないか! そういう訳で先生、許可をお願いします」
……?)

 バナナ、赤ちゃん、マネーからも銀さん同様レッドを庇う声が上がったのだ。
 流石にブラックとブルーは何も言わなかったが、ブラックはともかくブルーがただ黙っているのも珍しい。普段なら「兄貴は怠けてるだけだぞ」と周りに真実を告げるだろう。

「うう~ん……では仕方ないですねぇ。一般授業の間だけですよ」
(いや、甘いなっ)

 そしてそれを教師が許すのも、しかもその時間が授業中いっぱいであることも、おかしな話だ。そりゃあ寝ていていいと言われるのは普段ならありがたいが、全てが自分に都合のいい展開は逆に不安になるというもの。思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
 だが目が合った教師の視線に若干のいやらしさを感じたことで、レッドは全てを察する。
そうか、自分があまりにも可愛い女子生徒だから、クラスメイトも教師も皆甘くなっているのか。

(だが……俺がオトしたいのはお前らじゃないんだよな)

 こんな調子ではすまない先生を惚れさせる前に、クラスメイト全員を虜にしてしまいそうだ。
 そう思ったレッドは、やはり机の上でひと眠りするのだった。ちなみにマネーの用意した無駄にキンキラキンのベッドは、バナナにバズーカを放っておいてもらった。



つづく