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カッパ巻き大車輪
2025-03-15 00:45:58
2122文字
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小説
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スネ6♀の小説
世界に溢れる小さな魔法を見つける、スネ6♀楽しい温泉旅行のお話。
「わあっ」
トンネルを抜けた先、開けた視界に飛び込んできたのは光り輝く大海原だった。
聞こえてきた感嘆の声に視線を向けると、助手席に座ったレイヴンが窓に張り付いている。
「スネイル、窓開けてもいい?」
「どうぞ」
開いた窓から吹き込む風が、少女の白い髪を揺らしている。
「顔を出しすぎないように」
「うんっ」
まだ遠い海を食い入るように見つめているレイヴンに、知らず口元が綻んだ。
ここ暫く、仕事が立て込んで忙しい日が続いており、久しぶりのまとまった休暇だった。
その間、あまり連れ出してやれなかった恋人のリクエストを叶えようと、どこか行きたい所はないかと尋ねたところ、少女は海が見たいと言った。
聞けば生まれてこの方、海を見たことがないらしい。
「入るには時期外れですが
……
海に近い、どこか展望の良い宿でも取って、温泉旅行にしますか」
「温泉⁉︎」
温泉も初めてだと言うので、プランはすぐに可決した。
急遽決まった旅ではあったが、仕事柄、伝手には事欠かない。
無事に宿を押さえると、楽しみだとはしゃぐレイヴンと共に、一つの大きなスーツケースに荷物を詰めていく。
興奮でなかなか寝付けないでいるレイヴンを、なんとか寝かしつけたのが昨夜のこと。
ナビに従って車を走らせ、目的の宿に到着した。
駐車場に停車し、トランクからスーツケースを取り出している間も、レイヴンは落ち着かない様子で辺りを見回している。
「部屋から海が見えるそうですよ」
「本当⁉︎」
待ちきれないと急かす小さな手に引かれ、エントランスを目指す。
歓迎の挨拶と共に柔和な笑みで出迎えた係の者が、滞りなく荷物を引き取っていく。
手続きの後、窓からの景色が映り込む程に磨き上げられた廊下を渡ると、今日から数日を過ごす客室へと辿り着いた。
予約した部屋は謳い文句に恥じない、窓からの景色が美しい部屋だった。
海までを遮る物が無く、天候にも恵まれた今日などは正に絶景と言えるだろう。
レイヴンは生まれて初めての光景に、言葉もなく窓際に立ち尽くしている。
「まだ食事までは時間があります。どこか見て回りますか?部屋に露天風呂がついてますし、早速温泉というのも良いでしょうが
…
」
「ろてんぶろ?」
不思議そうに繰り返す少女を伴い、ベランダに通じるドアを開ける。
「お外にお風呂がある
…
!」
予想通りのリアクションに笑いつつ、この部屋を取った一番の理由である露天風呂を見下ろす。
ゆっくりとするなら人目が無い方が良いし、何より温泉自体が初めてのレイヴンに、一人で大浴場の類を利用するのは難しいだろうと思ってのことだった。
隣でうずうずとしている少女を見れば答えは明白だが、一応聞いてみる。
「どうしますか?」
「ろてんぶろ!」
ちょっとだけ怖いから、くっついてて。
湯に浸かる前、そう告げてきたレイヴンに特に考えず了承したまでは良かったのだが。
隣に寄り添うのかと思えば膝の上に乗り上げてきた少女は、ぴとりと胸元に頬を寄せている。
余程、善良な男だと思われているのだなと苦笑する。
何も入浴を共にしたことが無い訳ではない。
しかし、大抵は事が済んですっきりとした後なので、心穏やかでいられただけなのだ。
乳白色の湯は裸体を柔らかく隠してはいるが、覗く肌は薄桃に染まり、濡れて輝いている。
目に毒だと視線を外すと、レイヴンは薄い湯気越しに見える揺らめく海を見つめているようだった。
「
……
明日は、海岸沿いまで行ってみましょうか」
「近くで海見れる?」
「入れはしませんけどね」
そんなに気に入ったなら、海水浴のシーズンにもう一度連れて来てやっても良いだろう。
そんな事を考えていると、少女は不思議そうに見上げてきた。
「水は透明なのに、どうして海は青いの?」
「空を映しているからですね」
「じゃあ、空が青いのはなんで?」
「極めて簡単に言えば、空を作っている物質が太陽の光を受けて、青い光を放っているから
……
でしょうか」
「魔法みたい」
流石に専門外ゆえ、聞き齧った程度の知識を披露しただけだっただが、レイヴンは感動したように呟いた。
「
…
実際、仕組みが分かっているというだけで、魔法と大差ないのかもしれませんね」
言ってから、随分とらしくない物言いだと面映くなる。
レイヴンは気にした様子もなく、視線を海に戻した。
「
……
私が知らないだけで、こんな魔法みたいなことが、たくさんあるんだね」
少女は再び海に見入っているようで、湿度を帯びて普段以上に艶々とした睫毛の下、緋色の瞳が輝いていた。
それは、海原の煌めきなどよりも、ずっと、
「きれい」
思うだけに留めた筈の言葉が、口をついて出てしまったのかと思った。
思わず見下ろすと、丁度こちらを見上げたレイヴンと目が合う。
「スネイル、連れてきてくれて、ありがとう」
そう言って笑うレイヴンは本当に嬉しそうで、上気した頬を撫でてやると戯れるように指先に擦り寄っている。
その幸せそうな表情を見つめながら、滑らかな肌を伝う雫に目を細める。
もう少しだけ、我慢せねばなるまい。
一時でも、彼女の思い描く善良な男である為に。
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