望月 鏡翠
2025-03-15 00:44:16
875文字
Public 日課
 

#1660 「女心」「逃避行」「ブルーハワイ」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺


 女心なんてわかりはしない。それが私の敗因だった。
 祭りの会場にたどり着いた途端に、ワクワクして足が前に出た。その前から、夏祭りを楽しむためのイベントが始まっているなんて考えもしなかった。頭の中にあったのは、小学生の遊びの延長である。ブルーハワイのかき氷で舌を真っ青にしたり、真緑にしたりして、それを見せ合えれば十分だった。
 私の願いは叶わなかった。
 そもそも、都会のお祭りは人が多すぎて食べ歩きには向いていない。
 浴衣を着てきた彼女に、とても似合ってるかわいいねの一言が抜けていたし、気がつけば繋いでいた手を離していた。
 子供っぽいデートと、慣れない花緒でできた靴擦れに気づけなかった私は、彼女に見放された。振り向けばもうそこにはいなかった。
 どこかで逸れてしまったのかと思って慌ててスマホを取り出せば、「もういい」と「帰る」と二言並んでいた。
 それは絶望的な言葉だった。私が彼女の方を振り向かなかったから、彼女は私を見捨てた。
 祭りの会場を一通り見て回ったが、人が多すぎて見つけられはしなかった。
「道に迷ったんですか?」
 へらへらと笑いながら声をかけてきた男は、ワンチャン狙っているというのが前面に出ていて、私を不愉快にさせた。
 だが、夏祭り当日に恋人に振られたという現実からの逃避行を図るには、ちょうどいい相手なのかもしれなかった。少なくとも後腐れがなく、インスタントで自暴自棄だ。
 今一人?というお決まりの質問に、一人ですと答えようとしたところで、腕を引かれた。
「一緒にいるので!」
 怒鳴るような声だった。
「どうして」
 戻ってきてくれたの。
 私の疑問は声にならない。
 男は、女が二人に増えたと嬉しそうな顔をした。
 彼女の顔は怒っている。腕を引っ張り、あっという間に男が追いつけないところまで、人混みに紛れて私を引きずっていく。
「どうしたの」
「許してあげるから、ちゃんと謝って」
「ごめんなさい」
 振り向かなかったこと。手を繋がなかったこと。帰ってしまったと思った瞬間に諦めたこと、全て。