yossy
2025-03-14 23:21:53
1318文字
Public 自創作
 

満月に咲く三日月

大海太陽ホワイトデー当日編

3月14日 ホワイトデー当日

何とか前日までに準備する事が出来た。
相変わらず忙しない日々の中、今日は特に忙しく、休憩もままならないまま日が暮れて行く。

「今日はこれで終わりね。お疲れ様」
「お疲れ様です」
月城先輩との現場での仕事もひと段落し、気づけば時刻は20時過ぎ。満月で照らされ暗くは無いものの、少し肌寒く感じる。
「あ、先輩送っていきますよ。今日は事件多かったですし、パトロールもかねて」
不審そうな顔をされるも、それもそうねと返事を貰い、停めていた車まで案内する。

エンジンをかけ、シートベルトを締め、車を発進させる。適当なラジオをかけるとやたらと恋愛ソングがかかっていた。曲が終わると落ち着いた雰囲気のBGMが流れラジオパーソナリティの声が聞こえてくる。

『今日はホワイトデー。バレンタインデーのお返しは渡せたのか、はたまた貰えたのか?ここでリスナーからのホワイトデーに関するお便りを紹介する』

「そういえば、お返し、まだ貰ってないけど」
冷たい声色と視線を横から感じる。
「仕事終わってから渡そう思ったんですが、中々タイミングがなくて。月城さんのお宅に着いたら渡しますよ」
そう」
未だに不服そうな様子に、いくつかラジオ局を変えていく。

都内の眩しい夜のライトを潜り抜け、目的地に到着する。一度運転席を降り、後部座席に置いていた紙袋を取り出して再び運転席に戻る。
「こちらお返しになります」
大人っぽいデザインの紙袋に手を添え、丁寧にお渡しする。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
月城さんが中身を取り出す様子を見守る。
花柄のデザインの箱を開けると、テリーヌショコラが規則正しく箱の中に収められていた。
「いちごのテリーヌショコラで、冷やしても温めても美味しいらしくて。ど、どうですかね」
期待に沿えたものかどうかが分からず、月城さんの挙動を目で追ってしまう。
月城さんは俺の反応も気にせず、切り分けられたショコラを一つ取って、そのまま一口。三日月のように切り取られたショコラと、もぐもぐと静かに咀嚼する月城さんを見守る。
「美味しい」
「よ、良かったぁ……
美味しいの一言で、ここまでの苦労が全て報われた気がして深い安堵を覚える。
ハンドルにもたれ掛かっていると、
「大海くん」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げる。
「口開けて」
「は、はい」
言われるがままに口を開けると、食べかけの三日月が口の中に入ってくる。
月城さんの指が唇の端に触れるが、直ぐに離れてしまう。
それと同時に口の中で濃厚なチョコの味わいといちごの酸味が広がって、疲れた身体に染み渡る。
「!、美味しいですね」
先輩と目が合って、いつもの真面目な顔がふわりと柔らかくなって、綺麗だった。
「そうね、残りは大事にいただくわ」
荷物を持って、月城さんが車のドアを開ける。
「それじゃ、おやすみなさい」
「お疲れ様でした。おやすみなさい、月城さん」

ドアが閉まって、歩いて行くのを眺め、部屋に入るのを見送ってから椅子にもたれ掛かる。
「はぁ緊張した」
甘酸っぱい後味が口の中に残って、ドキドキしながら家へと車を走らせるのだった。