雪洞
2025-03-14 12:52:10
2222文字
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【マレ監♀】Berry Berry Chocolat mellow:Return

バレンタイン話のその後のホワイトデー。案の定人間が摂取すると酔ってしまうお返しをあげちゃったマレと監の話。

 ベリージュースを、あげたはずだったんだ。
「ねえ、つのたろぉ。いいでしょ?」
 頬を苺のように染めて僕の腹の上に乗るのは間違いなく、オンボロ寮の監督生もとい僕の可愛いヒトの子・エミリだった。よくない。いいのだがよくない。ああエミリ、お前はいつからそんなはしたない女になってしまったんだ。先ほどまで穏やかに甘味を楽しんでいたはずなのに。
 先日、彼女曰くの「恋人の日」にチョコレートを贈られた。それから一月経った今日は、その返礼を行うための日だ。王家にも献上されたことのあるホワイトチョコレートトリュフと最高級のベリージュースは、彼女に喜んでもらえるに足りる代物だと断言できる。その予想のとおり、彼女は小さな口で実に美味しそうにトリュフを食み、ベリージュースの甘酸っぱさに頬を緩めていた。
 些か様子が変わったのはその後だ。谷の味を気に入ってくれたことに僕が満足しながら彼女を眺めている間、真紅が繰り返しグラスに注がれては飲み干され、気付けばボトルの三分の二が彼女の喉を通っていた。「美味しいからグリムにもあげる」と残す意を示していたにもかかわらずにだ。
 どうもおかしい。そう思いボトルに伸びかけた手を止めたとき、僕はやっと気が付いた。彼女の手がほのかに熱を帯びていることに。
「つのたろ……
 そう愛すべき渾名で僕を呼んだエミリは、既に円かな頬を赤く染めていた。ヘーゼルの瞳がぽやぽやと蕩けて、微かに揺らぎながら僕を見つめている。
 待て。これではまるで酒をあげたようなものではないか。
 咄嗟にラベルを確かめたが、ジュースと記されアルコール成分は入っていない。ヒトの子はベリーで酔うのか? そう思ったとき、いつものソファーで彼女と肩を並べていたはずの僕は、しなだれかかってきた彼女の重力ごとに倒されていた。まるで先月の再演のように。
「ねえ、つのたろぉ」
 抗わなかったとはいえ、非力な娘にこの僕が押し倒されている。この状況下ですら、その舌足らずな声が愛らしいと思ってしまう。
「いいでしょ?」
 何が、と問う前にエミリは胸元に倒れかかってきた。そのまま小動物かのようにしがみつき、こちらの制服に頬を擦りつける。
「甘えたかっただけか……
 先ほどの言葉には一瞬心の臓が跳ねた心地がしたが、彼女は酔ってもまだまだ幼いらしい。
「ふふ、いいぞ。好きなだけ……
 言いかけた瞬間、ふと片手を取られた。と思えばエミリはそのまま啄むように指先に口づけ、それを何度か繰り返す。小鳥のようなその仕草がまた胸をくすぐり、好きにさせていると今度は桜色の唇がそうっと指を口内に含んだ。第一関節の辺りまでをちゅっと吸い、指の腹に舌を這わせてくる。柔らかな肉から伝わる熱がやけに熱かった。
……そんなの、どこで覚えた?」
 まあ、僕しかいないが。
 その気になればこの柔らかな口内を掻き回すことなど容易いが、今の彼女の様を崩してしまうのも惜しい。酔っていると知れたときは面食らったが、そこに愛らしさが覗くと全て許してそのまま受け止めてしまいたくなる。
 微かな音を立てて、まるで飴か何かを求めるように僕の指に吸い付いて。口寂しいのだろうか。
 テーブルに置かれた箱の中からトリュフを一粒、魔法で空いた手に運ぶ。
「ほら」
 エミリが指から唇を離すのを見計らって口元に添わせると、先ほどまであんなに味わっていたチョコレートだというのに彼女は嫌々と首を振る。
 そうか。ならばとそれを自身の口へ放り込む。噛み砕いた途端、ホワイトチョコレートのまろやかさとフリーズドライベリーの酸味が絶妙に混ざり合い、やはりこれを選んで正解だったと改めて思う。そのまま僕をとろんと見つめる彼女を引き寄せて、唇を覆うように口づけた。重ねた温度に触れるなり甘ったるさに化けるそれを移してやると、驚いたのか少しくぐもった呻きが漏れたが、それも束の間に甘美を享受する声音に変わった。この正直で愛い反応が、僕は好きでたまらない。
 そのまま伸ばされた舌を捕まえて思う存分貪り返し、溢れていた甘さが後味になるまで互いの唇を吸い合った。呼吸を欲して離れた一瞬、蕩けきった瞳が僕を、僕だけを映す。
「もっと、ちょうだい……
「ああ。いくらでも」
 なんたって今日は、「お返し」の日なのだから。

 後でリリアに尋ねたところ、「あ〜お前そりゃ人間は酔ってしまうわ。成分を確かめい」と小言を食らった。「それにしても似た者カップルじゃのう」というからかいも共に。
 一般流通しているものなら何ら問題ないが、材料からこだわり抜いてドラゴンのために作られたベリージュースはどうやら人間が摂取するには色々と「濃い」らしく、魔力酔いと呼べるような症状を引き起こすらしい。彼女がやたらと僕を吸いたがったのもそのせいだったようだ。
 エミリはというと「何もそんなことまでお返しする必要ないでしょ!」と、酔態を晒したことをひどく恥ずかしがっていた。いつもしていることと大差ないのになぜだと問うたらどこに力を込めているのか全く分からない拳が脇に飛んできた。僕は痛くも痒くもないと分かっているだろうに、照れ隠しでこんなことをしてくる様も実に可愛らしいと思う。そう伝えたら、またむくれて照れてしまうだろうか?
 嗚呼、僕の可愛いお前。これからチョコレートを食むたびに僕との口づけを思い出してしまえばいいのに。