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来羅
2025-03-13 21:18:00
1607文字
Public
トワウォ
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潮騒(信一+十二少)
水上小屋の心身共にボロボロになってる信一が美しい。あと十二少はカッコイイ。
「四仔、やっと眠ったよ」
「そうか」
埠頭の灯りが薄ぼんやりと見えた。
潮に濡れた髪を揺らす風は温い。
この水上小屋に逃げてきてもう何日になるのか。最初こそ怒りと悲しみで冴え冴えとしていた頭はその日数の分だけ思いを滾らせていたが、それもひと月を超えたあたりで掻き消えてしまった。
今はただこうして揺らめく水面を見るばかりだ。
今夜は月も映らない。
「お前は?」
「うん?」
「寝てるのか、ちゃんと」
少し怒ったような十二の声に、信一はようやくのろのろと顔を上げて横を見た。
「
…………
寝てる」
「嘘つけ」
間髪入れず返されても苦笑いすら出ない。
知ってるなら聞くなとばかりにまた海へと視線を向けた信一に、十二はため息で答えた。
眠くならないのだ。仕方がない。
四仔は過去のトラウマがフラッシュバックするのか、度々発作に襲われるようになった。十二がほぼ付きっきりで大丈夫だと声をかけ続けているのを、信一はただ眺めている。
大事な人を失うということは、こういうことなのだろう。
毎日のように突きつけられているが、まだ信一には我が事としての実感が湧かないでいる。
今はただ、失った指の痛みだけが唯一、信一を現実に留める縁となっていた。
完膚なきまでに叩きのめされて、失ったものは大きい。
そこには一片の希望もない。
もっと強ければ。もっと力があれば。
そうどれだけ振り返ったところで、三本の指と共にこの手からこぼれ落ちたものはもう二度と戻らないのだ。
「十二」
「なに」
振り向いて、ぼうっとその姿を眺める。
髪型にも服装にもこだわりを持っていた洒落者は、今や見る影もなかった。髪は乱れ、ノリの効いていたシャツは薄汚れてペラペラだ。Tiger哥に買ってもらったのだと満面の笑みを浮かべていた十二はそこにはいなかった。
それでも十二の瞳にはまだ光があった。この水上小屋で信一と四仔がなんとか生きていけるのも十二が、そしてその後ろにいるTiger哥がいてくれるからだ。
「
……
いたのか」
「いただろ! お前、誰と喋ってると思ってんだ」
「
……
お前は、」
「今度はなんだ」
「生きてるんだな」
「っ」
弱々しくも、その光は、それでも眩しい。
顔を顰めた十二が、口汚く舌打ちする。罵る言葉はいくつも思いついたが、結局そのどれも十二の口には上らなかった。その代わりに、焦点の定まらない信一の頭を掴んでぐっと力を入れ、膝の上に押し倒す。
「お前もな!」
生きている。
けれども、それだけでもいいとは、言えなかった。信一の失くしたものの大きさは計り知れない。それでも。
「もうお前、寝ろ」
生きていてくれて良かったと、十二は思う。
生きていれば、悲しむことも苦しむこともできる。
なんだって、できる。
「
………………
かたい」
されるがままに頭を十二の膝に預けた信一がポツリと呟いた。
「贅沢言うな」
「十二」
「なんだ」
眠いのか、夢現を彷徨うだけなのか、覇気のない声は信一を幼く思わせる。ここにいるのは途方に暮れた子供のようで、だから十二は突きはなせない。
「
……
むかし、」
言葉を切った信一は、それ以上何も言わなかった。
──昔。
偉大な風と共に生きた信一を、十二もよく知っている。
こうして膝枕された日もあったのだろう。
信一は確かに、甘やかされて愛されていた。
「
……
っ、ふ
……
」
押し殺した声は潮騒に紛れる。
空を見上げても、今夜は月も見えない。星もない。
「寝ろよ、信一」
今できることはそれだけだ。
今は。
「
………………
優しいじゃん」
「俺はいつでも優しいだろ」
鼻声に笑って返して、海を見る。
暗い波間に漣が散った。
常にそばにあったはずの煩いほどの営みはもうない。
風は去った。
「おやすみ、信一」
夜明けまではまだ遠い。
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