雪成はす子
2025-03-13 21:04:35
4818文字
Public 💛関連
 

ダゴネットと共に踊れ

とある海上にて、売られた喧嘩を買う💛ちゃんたちの話
⚠原作程度の暴力描写
💛ちゃんの海戦が書きたくてリハビリがてら書いたものです。CP要素はありませんが当然のように相棒自慢する🐧がいます
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 ひゅるるるる……とこちらに飛んでくる砲弾は、けれどローの能力によって阻まれる。『ROOM』内に入った鉄塊は全て撃ち落され、ポーラータング号に届く遥か前に海に落ちていった。
……敵艦隊の数はおよそ十。それぞれ砲台が左右四門。そのどれもがこっちに向けられていますけど、一旦潜水します?」
……いや」
 双眼鏡を覗くウニの言葉にかぶりを振り、ローは『ROOM』の範囲を広げる。敵艦隊の中央にいる一際目立つ船を鬼哭で示し、
「ペンギン」
 かつ、とブーツの底が鳴る。
「シャチ」
 二人の名を呼ぶと、待ち構えていたかのようにローの後ろに並び、それぞれ武器を構えた。
「まず、お前ら二人であの船荒らして来い」
『アイアイ、キャプテン』
 ローが命じるのと同時に、二人の姿は一瞬でその場から消えた。代わりに現れた海鳥は戸惑ったかのようにばたばたと激しく羽をばたつかせながら飛び立っていく。
「あの二人だけで大丈夫ですか?」
「心配か? ウニ」
「いやまあ、心配って程でもないですけどね。ただ、向こうの船長はカリスマだけであれだけの艦隊を揃えた男だって聞いてますけど、それでも頭数だけはいる以上もうちょっと援軍は送っておいた方がいいのかなって思って」
「それは問題ねえ。見ろ」
 そう言ってローが示した方角の、右翼側の船から爆発音が響く。もうもうと煙が噴き出す船はぐらりと傾き、今にも沈んでしまいそうだった。次いでその隣の船からも爆音が轟く。
『キャプテン、魚雷命中しました』
「ああ。それじゃ、十一時方向に旋回。左翼にももう一発お見舞いしてやれ」
『アイアイ、キャプテン』
 仮面を被った電伝虫からの通信が途絶える。成程、とウニは唸った。
「まあ、援軍が必要なんじゃねえかってお前の進言も尤もだ、ウニ。……それに、どうせお前らも思いっきり暴れたいってのが本音だろうが」
「当たり前でしょうよ、久々に真正面から堂々と喧嘩売られたんだし。それに、あいつら二人だけに美味しい所持っていかれるのもなんか癪なんでね」
……分かった。それじゃ、クリオネ、イッカク、ジャンバール、ベポ。お前らも話は聞いてただろう?」
 ローが後ろを振り返ると、今名前を呼ばれた者たちが武器を構えてこくりと頷く。いつでも来いと言わんばかりの眼光に、ローはくっと口角を上げた。
「さて、それじゃお前ら「キャプテン!」……っ!」
 ベポが叫んだのとほぼ同時に、チュイン! と何か金属が激しくぶつかり合う音が頭上から聞こえた。ふう、と硝煙たなびく銃口を構えたまま、油断大敵ですよ、と冷静な声がかかる。
「向こうの狙撃手も中々腕がいいようですね。砲撃手の標準は大分ガバガバでしたが。……まあ、大体の位置は分かったので次は仕留めます」
 どうやら先程の音は向こうの狙撃を撃ち落とした音だったようだ。ガシャン、と薬莢を弾くおさげに一同はよくやったとばかりに親指を立てる。おさげもそれに親指を立てて返し、スコープをじっと見つめた。
「ベポ。お前はやっぱりここにいろ。お前の耳は頼りにしている」
「アイアイ! おれ、絶対キャプテンを守るからね!」
「ああ。……それじゃ、改めてお前ら準備はいいな?」
 ローの言葉に答える代わりに、彼らは各々武器を構えてローに応えた。
 彼らを見回し、ローはくっと口角を上げて能力を展開する。
「よし、お前ら思う存分暴れて来い!」
『アイアイ、キャプテン!!』
 声高に叫ぶのと同時に、彼らは海鳥たちと入れ替わりに敵船へと降り立っていった。


 頭上から降ってきた二人組に、キャプテンハットの男はぎょっと飛び上がった。
「て、敵襲、敵襲だぁっ!!」
 誰かがそう叫んだ。キャプテンハットの男に突き立てようとした切っ先は他の船員に阻まれるが、それも想定内とばかりにペンギンは槍を引いた。トン、と背中越しに相棒が囁く。
「聞いてた通りのザコっぽいなぁ、ここの頭。カリスマだけでよくもここまで雁首揃えられたモンだ」
「だな。となるとここはどうする?」
「勿論、辺りの露払いからでしょ。それから頭の首獲っても遅くねえし、コイツに関してはキャプテンの手を煩わせるまでもねえ」
「だな。それじゃシャチ、まずは奴らの動きを止めろ」
「了解!」
 すう、とシャチが大きく息を吸う。ペンギンはぐっと身を屈め、手早く耳栓を装着した。同時にシャチが大きく口を開き、胸が大きく膨らむほど吸い込んだ空気を一気に押し出す。

 ――――――!!

 一気に押し出された咆哮は、辺りの空気をびりびりと震わせた。たまたまシャチの目の前にいた男共はあまりの声量に鼓膜が破れ、その場にばたばたと倒れていく。咄嗟に気付いて耳を塞いだ者もいたが、両手が塞がっている間にドス、と背後から刺され、ぐらりと前のめりに倒れた。動けなくなった奴らを次々と葬り、後から現れた連中もまた討たれていく。
「くそっ、相手はたった二人だろう! 何で誰も討ち取れねえんだ!」
 頭は焦り、じりじりと後ずさろうとした。けれど細い腕が不意に腕に絡み付く。何事かと見下ろすと、「お頭ぁ……」と涙声で縋る女がそこに居た。
「アタシ怖いです! お頭、アタシを助けてぇ!」
 涙目でこちらを見上げる女には見覚えが無かったが、それを踏まえてもいい女だった。気の強そうな釣り目とボリュームのある巻き髪、大方、船員の誰かがこっそり港から乗せてきた女なのだろう。
 戦いも知らぬ女が、こんな戦闘に巻き込まれて可哀想に。と頭は形ばかり憐れんで見ながらそっと女の手を取った。
「分かっている。お前は必ずおれが助けよう。その為にも、たかがあんな小さな艦ひとつさっさと沈めて「その小さな艦ひとつ沈められないのに何言ってんだか」……は?」
 頭の眉間に、ゴリ、と銃口が当てられる。先程まで涙目で縋ってきた女は、ニヤリと笑って引き金を引いた。
「なっ――!!」
 咄嗟に身を引いて避けると、チッ、と舌打ちが響く。
「ちょっとシナ作ったら鼻の下伸ばしたくせに、往生際悪いったら」
「いやむしろお前のシナの作り方凄えなって感心したんだが。普段のゴリラを隠してよくもまあ綺麗に擬態したよなぁ」
「誰がゴリラよ誰が!!」
 がん、と脳天を殴られたクリオネが頭を押さえながらそういう所だぞ! と叫ぶ。一方の頭は成り行きについていけず呆然としていたが、やがて事態を理解したのかわなわなと震えながらイッカクに剣を向けた。
「こンのアマァあっ! よくもおれ様にナメた真似をっ!」
……あんな分かりやすい色仕掛けに引っかかる方も引っかかる方だと思うが」
「あァ!? テメェも何ナメた口――
 頭の言葉が、不意に止まる。ぬう、と見上げる程大きな男が、大きな手を張り上げて頭の横っ面を叩いた。
 横っ面どころか全身を手のひらで叩きつけられ、頭はぐりんと白目を剥く。ぱんぱんと手のひらを叩き、大丈夫か、とイッカクに語りかけた。
「急にツナギを脱ぎ出したから何事かと思ったぞ。まあ、結果として危険はなかったようだが」
「ありがと、ジャンバール。というかジャンバールの一撃で伸びるとか弱すぎじゃんウケるー!」
 キャハハハ、とイッカクが指さして笑う様を見下ろし、ジャンバールはやれやれとかぶりを振った。さて、と戦場の様子を見やると、ウニやペンギンらがそれぞれ戦闘員たちを相手に戦っているのが見えた。そこにイッカクやクリオネが加わり、更に乱戦となる。

 ……と、不意に、そこにシャチがいない事にジャンバールは気が付いた。

 隣の船に移ったのかとも思ったが、どうやらそうでもないようだ。見れば、船尾で複数の敵に押されて今にも手すりから身を乗り出しそうになっているのが見える。危ない、と叫ぼうとして、けれど不意に目が合ったシャチがそっと口元に人差し指を当てる。サングラスに隠れて目元は見えないが、人差し指を当てた口元がニィッと笑っているのが見えた。
 きっと、サングラスの奥の瞳もまた悪戯っ子そのものの悪童の笑みを浮かべているのだろう。ジャンバールはそう確信し、伸ばそうとした手を引いた。
 ――そして。

 そのまま敵に押し出されるようにして、シャチは海へと投げ出されていく。

 ザン、とシャチが海へと落ちた音を、ペンギンはしかと聞いていた。
「お仲間がひとり海に落ちたぜ? 心配じゃねえのか?」
「だから何だ? 俺の動揺を誘おうったって無駄だぜ? アイツは――
 ドン、と衝撃と共に船がぐらりと傾く。多くの船員がたたらを踏んでよろける中、ペンギンはだから言ったろ? とばかりにニヤリと口角を上げた。
「動揺すんのはお前らの方だ。第一、シャチが海に落ちた所で心配なんかしねえよ。むしろアイツは陸より海で大暴れするのが大好きでさ。まさに『海のギャング』の名前に相応しいよなぁ、アイツ」
「お前、こんな時でも相棒自慢するんだな」
「当たり前だろ。俺の相棒は最高なんだからな」
「ハイハイ」
 ドン、とまた衝撃と共に船がぐらりと傾く。船首がゆらりと持ち上げられ、今まさに転覆せんと傾いた。次いで隣の船もドンッという衝撃音と共にぐらりと傾く。
「あのバカ、美味しい所全部掻っ攫っていく気かよ!?」
 クリオネが叫んだ直後に、またドンッと衝撃音が轟いた。ふざけんな、とクリオネはギリッと歯を食い縛る。
「アイツにばっか美味しい思いさせてたまるか! これでも喰らえ!!」
 懐から取り出したピンポン玉大の大きさの爆薬を取り出し、導火線に火を点けて逆側の船に投げつける。ドンッ! と船の上で大きな爆発が響き、次いでわあっと悲鳴のような声が次々と上がった。
「へへっ、ざまあみろオレ達に喧嘩売ったのが運の尽き……ってうわああっ!」
「クリオネ、そろそろおれらも脱出するぞ」
「ああ、悪いなウニ」
 ぐらりとよろけたクリオネをウニが支える。四十度近く傾いた船にさしものハートの面々もひと塊になり、ペンギンが子電伝虫を取り出した。直後に青いドームが広がり、ペンギンたちの姿は一ベリーコインが現れる。餞別代わりとばかりにチャリンと転がり落ちていく一ベリーコインに、最早誰も気付くものはいなかった。
 十もの艦隊からなるアルマダ海賊団――通称無敵艦隊はこの日、何者かによって全て沈められていったのだった。


 ペンギンたちが甲板に降り立つと、お疲れ、とシャチが皆を出迎えた。
「お疲れ、じゃねえよしれっと艦に戻ってやがって」
「いいじゃん船底にデケエ風穴開けてやったんだし、綺麗に沈んだだろ?」
「沈んだだろ、じゃねえよ。ったく」
 クリオネの悪態を軽くいなしながら、シャチはペンギンへと近付く。
「ペンギンもお疲れ」
「ああ。やっぱりお前は最高だな」
 パン、と高々とハイタッチする二人に、ローが近付いた。
「お前ら、よくやってくれた」
「キャプテンこそ、俺らを信じてくれた」
「当たり前だろ」
 差し出された手のひらに、ローもまたハイタッチを交わす。
「ああそうだ、クリオネ」
「何スか?」
「今回のアルマダ海賊団の宝はひとまず食堂に運んでおいた。これから手分けして鑑定しようと思うが、いいか?」
「お宝!? ……ってキャプテン、あのどさくさに紛れてちゃっかりお宝ゲットしてたんですか⁉」
「当たり前だろう。それと酒と備蓄食料も運んでおいたから仕分けも必要だな。お前らも皆手伝え」
『アイアイ、キャプテン!』
 お決まりの言葉と共に、彼らはローの後ろをついて歩く。
 やがて扉は閉まり、ポーラータング号はゆっくりと潜水した。
 先程まで騒がしかった海は、また静けさを取り戻していく。


 海底を泳ぐ黄色い深海魚を、かつてアルマダ海賊団だった一行は海流に揺蕩いながら見送っていた。