haru_haru0704
2025-03-13 19:36:42
6516文字
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次元の超越者

CPなし 全年齢

メタい漂泊者に振り回される哥舒臨さんの話

それは、哥舒臨が数年の年月を経てようやく今州へと帰還を果たした数日後のことだった。
「哥舒臨、あなたの突破素材を集めに行こう」
「・・・は?」
唐突に破陣基地に現れた漂泊者の言葉に、哥舒臨は盛大に顔を顰めた。
突破素材?何の話だ。
隣で話を聞いていた忌炎が、沈痛な面持ちで首を振る。
「哥舒臨さん・・・諦めましょう。漂泊者には何か・・・その、俺たちには見えないものが見えているようなんです」
「結晶波長板が溢れてしまっているんだ。早く行かないと」
「結晶・・・?」
何言ってるんだこいつ・・・という哥舒臨の視線を気にした様子もなく、漂泊者は忌炎の腕を掴んだ。
「ええと、編成は・・・まず忌炎」
『戦況は常に変化している、油断は禁物だ』
「は??」
腕を掴まれた忌炎は、妙な言葉を口にした。いや、言っている内容自体はいかにも忌炎らしい冷静沈着な言葉ではあるのだが。
なんでこの流れで今の言葉を喋ったんだ?漂泊者といい忌炎といい、様子がおかしすぎるぞ。
忌炎は哥舒臨の視線に耐えかねたのか、気まずそうに目を逸らしながら言った。
「いえ、あの・・・漂泊者に編成?されると、つい口が勝手に喋ってしまうんですよ」
「はァ・・・?」
意味が分からなさすぎてだんだん腹が立ってきた。
口が勝手に喋る?あまりの激務に、とうとう気でもふれたのか?
「忌炎の編入ボイス、俺は好きだよ。哥舒臨のボイスも聞かせて?」
「編にゅ・・・『この世のあまねく全てを焼き払ってやろうか。・・・ははっ、冗談だ』・・・は、あ?なんだ今の」
編入ボイスってなんだ、と言おうとした口が、勝手に動いて言葉を発した。
今、何が起こったんだ?気色が悪い。
自らの不可解な行動にゾッとしている哥舒臨をよそに、漂泊者は嬉しそうに笑う。
「哥舒臨らしくていいね。他のボイスも後で聞かせてほしい」
「・・・・・・」
漂泊者のまっすぐな目に見つめられ、哥舒臨は本能的な恐怖を覚えた。
まるで、物理法則やその他の理がいっさい異なる別の惑星に住んでいる宇宙人に遭遇したような感覚に襲われる。
つい先日、哥舒臨と今州にまつわる問題を解決した時の漂泊者は、もっとまともな様子であったのに。どうしてこうなった。
「さて、編成3人目は・・・カカロかな。皆でカカロのところに行こう」
「おい、勝手に話を進めるな。俺はまだ行くとは言っていないぞ」
哥舒臨がそう言うと、漂泊者はやや申し訳なさそうな表情を浮かべた。
忌炎は相変わらず沈痛な面持ちで事のなりゆきを見守っている。
「俺は星声と引き換えに、あなたを自由に連れまわす権利を得ているんだ。だから、あなたに拒否権はない」
「は???」
「ちなみに、完凸の分の周波帯は用意してある。後でひとつずつ共鳴チェーンを解放していこう」
口を半開きにし、目を見開いたまま固まってしまった哥舒臨を慰めるように、忌炎は彼の肩をポンと叩いた。
「哥舒臨さん。残念ながら、彼が言っていることは本当です。諦めましょう」
哥舒臨は少しの間呆けていたが、すぐにまともな思考を取り戻した。
流石は歴戦の猛将である。
「・・・、・・・いや、おい、駄目だろ。俺ら2人揃ってここを留守にしたら、有事の時にどうするんだ」
彼が言う有事とは、つまり残像潮の発生のことである。
漂泊者のおかげで発生の可能性はかなり低くなったとはいえ、完全にゼロになったわけではない。そんな状況下で、夜帰軍を指揮できる人間が揃って不在にするなど、許されようはずもない。
それを重々承知しているはずの忌炎はしかし、乾いた笑みを浮かべながら否定した。
「いえ、大丈夫ですよ。だって・・・」
「俺は自由に瞬間移動できるからね」
忌炎の言葉を漂泊者が引き継ぐ。
哥舒臨が瞬きをした次の瞬間、彼ら3人は破陣基地ではない場所に立っていた。
「は?どこだここ」
「瑝瓏内の・・・どこか、ですね」
「カカロはあっちにいるみたい。ここからそう遠くない」
困惑している将軍たちをよそに、漂泊者は歩き始めた。忌炎もその後に続いて歩き出す。
哥舒臨も渋々その後を追った。
なんだか脚が勝手に漂泊者を追いかけているような気もするのだが・・・いや、もう考えるのはやめよう。疲れた。

少し歩くと、カカロはあっさりと見つかった。
「カカロ、突破素材を集めるのを手伝ってほしい」
「またか。まあ、構わないが」
どうやら、漂泊者に付き合わされるのには慣れているらしい。
漂泊者がカカロの腕を掴むと、例のアレが始まった。
『リスクに合ったリターンを得られるだろうな?』
「よし。じゃあ皆で新しいボスを狩りに行こう」
漂泊者がそう言うやいなや、再び景色が切り替わる。今度は大型の残像の目の前だ。
大きさと周波数の強さからして、怒涛級の残像。いかにも手強そうだ。
「じゃあいつも通り、頑張って」
漂泊者がひらひらと手を振る。カカロは長刃を構え、一直線に残像へと向かっていった。
忌炎と哥舒臨もその後を追う。いや、追わされている。何に?・・・漂泊者に、だろうか。
「おい、あいつは戦わないのか!?」
「3人編成すると、戦えないらしいです」
「どういうことだ!」
「どういうことだと言われても・・・」
漂泊者は少し離れたところから、カカロに向かって指示を飛ばしている。
カカロは残像に斬りかかり、反撃を避け、また斬りかかった。
「今だ!共鳴解放!」
『痛みよ、我が身を纏え!』
鋭い雷鳴が響き渡る。カカロの装備が変化したかと思うと、彼は俊敏に残像を斬り刻んだ。
「忌炎!」
『待ってたぞ!』
漂泊者の呼びかけに応え、忌炎が空中から攻撃を仕掛けた。
重たい一撃を見舞われた残像がふらつき、カカロがその隙をついてさらに攻撃を重ねる。
「哥舒臨!」
今度は哥舒臨が名を呼ばれた。
彼は背負った大剣を抜き放ち、
『恐怖に沈め!』
それを残像めがけて振り下ろす──・・・?
なんだ?やけに剣が軽い。
哥舒臨は斬撃というよりも殴打に近い一撃を繰り出した。ごつん、と鈍い音が響く。
「・・・はァ!?なんだこのなまくらは!」
哥舒臨がその手に持っていたのは、あの黒炎が沸き立つ大剣ではなかった。
見るからに質素で切れ味の悪そうなその剣に、哥舒臨は見覚えがある。それは、夜帰兵が訓練の時に使う剣──つまり、稽古用迅刀だ。
「あっごめん!武器を持たせるの忘れてた!後で変更するから!」
なんだかよく分からないが、とにかく漂泊者の手落ちであるらしい。
このなまくらでお前の頭もぶん殴ってやろうか。
・・・と、そんなことを考えている内に、カカロと忌炎は残像の討伐を終えていた。
忌炎は音骸を吸収し、カカロは何やら妙な光に手を伸ばしている。
「お疲れ様」
「ドロップ品だ」
近づいてきた漂泊者に、カカロがいくつかのものを手渡す。
漂泊者は「ありがとう」と受け取ると、自身のカバンをごそごそと漁った。
「ええと・・・まずこれ、共鳴強化剤。カカロ、忌炎。哥舒臨に投与して」
「は?投与?」
カカロはサッと哥舒臨の背後に回った。手際よく羽交い締めにされ、動きを封じられる。
「おい!やめろ、離せ!」
「大人しくしてください。大丈夫です、強くなるだけですから」
忌炎は手慣れた手つきで共鳴強化剤の蓋を開けると、露出した針を哥舒臨の首に突き立てた。
中の液体をぢゅううぅっと注入され、一瞬くらりと視界が歪む。その直後、体の奥から力が漲ってきた。
「次はこの素材で突破」
『俺の力が増したら、どうなるか分からんぞ。やめておけ』
漂泊者はうんうんと頷いている。その間に、忌炎は再びナントカ剤を注入し始めた。
どんどん力が溢れてくる。正直、いい気分だ。
もしかしてこのナントカ剤、危ない薬物なんじゃないか?

「とりあえずレベル60になったな。あとは・・・はいこれ、武器」
漂泊者に迅刀を手渡される。それは、哥舒臨が長年使用していた愛刀だ。見間違えようはずもない。
それを、なぜこいつが持っているのだろうか。
・・・もういいか。気にするだけ無駄な気がしてきた。
「スキル素材も足りないな。後で集めに行こう」
「漂泊者、そろそろ残像が復活する頃合いだぞ」
忌炎が警告する。数秒後、その言葉通り残像が現れた。
怒涛級がこうもホイホイ出現するというのも、おかしな話だ。怒涛級にしてはなんだか弱すぎるということを差し引いても。
「哥舒臨、今度はあなたの共鳴解放を見せて」
「なんだか知らんが、好きにしろ。・・・『死体の山を踏み越えてでも!貴様を殺す!』」
哥舒臨の身に黒炎が滾る。
以前は、能力の出力を上げると身体が軋むような感覚に襲われたものだが、今は一切なにも感じない。これも漂泊者の妙な力ゆえなのだろうか。
とにかく、これなら思う存分暴れられそうだ。

*
「ありがとう、皆のおかげで本人も武器もレベル90になった。音骸もわりといい感じだ。あとはスキルだけど・・・週ボス素材が足りないから、また来週だな」
相変わらず何を言っているのかわからないが、ひとまず一段落ついたようだ。
終始話が意味不明だった上に、あちこち連れまわされたことは腹立たしいが、まあ許してやろう。なんせ、力が溢れて絶好調だからな。
漂泊者に「すごい!さすが完凸、強い!」とベタ褒めされたのも普通に気分が良かった。完凸とやらがどういう意味なのかは知らないが。
「今日付き合ってくれたお礼として、お茶とケーキでも奢るよ。リナシータにいいカフェがあるんだ」
またもや、パッと景色が切り替わる。
青く美しい海に、強く照りつける陽光。遠方には虹が出ていて、なかなか美しい景色だ。
「リナシータには初めて来たが、いい場所だな」
そう呟くと、漂泊者はにこりと笑った。
「俺に言ってくれれば、いつでもワープするよ」
「いつでも?」
「いつでも、どこでも。あなたが俺を呼んでくれたら、すぐに駆けつけるから」 
「ふーん・・・」
さっきから薄々思ってはいたが、こいつけっこう俺のこと好きだな。
まだ、初めて会った日から1週間程度しか経っていないはずだが・・・まあ、そういうこともあるか。昔から、やたらと熱狂的に俺を支持する奴とかいたし。
「じゃあ、カフェに案内するね」と歩き始めた漂泊者の後を追いながら、哥舒臨は有用なワープの使い方について考え始めた。
使えるものなら何でも使う。いっさい遠慮はしない。哥舒臨はそういう男である。

カフェに入り、4人はそれぞれ紅茶と好みの甘味を注文した。
少し雑談しながら待てば、次々に頼んだものが運ばれてくる。
漂泊者は生クリームたっぷりのショートケーキ、カカロは濃厚なチョコレートソース入りのフォンダンショコラ、忌炎は爽やかな柑橘の香りがするフルーツゼリー、哥舒臨は重量1kgのビッグなパフェ。
「俺、哥舒臨のそういうところ好きだよ」
「どういうところだ」
「図々しいところだろう」
「我が道を行くところかもしれないぞ」
「うん。どっちも」
「ふん、図々しくて悪かったな」
哥舒臨は鼻で笑うと、ビッグパフェにスプーンを突き刺した。大量に盛られたフルーツを掬い、次々に口の中へ放り込んでいく。
瑝瓏では中々お目にかからないようなフルーツがふんだんに使われていて、新鮮な味わいだ。どのフルーツも美味い。
哥舒臨を除く3人は、少しずつ甘味を味わいながら紅茶をゆったりと飲んでいる。女子か?
「・・・ん?」
不意に漂泊者が宙を見上げた。視線の先には何もない。
また何か、おかしなものでも見えているのだろうか。
「どうした、漂泊者」
「ああ、うん・・・今、何か実績を解除したみたいなんだ。何だろう?」
「実績?」
忌炎が首をかしげる。
漂泊者は「ちょっと確認してみる」と言い残すと、ぴたりと動きを止めた。
人間という生物は、動きを止めようとしても微弱に揺れ動いてしまうものだが・・・漂泊者にはその揺れがない。目を開いて一点を見つめたまま、完全に動作を停止している。
「気持ち悪いなこいつ・・・」
「漂泊者はたまにこうなる。メニューとやらを開いていると、動けないとか何とか」
「ふーん。まあどうでもいいが」
哥舒臨はビッグパフェのフルーツゾーンを突破し、ジェラートゾーンへと取り掛かった。
コクのあるミルクの風味と、フルーツの果汁が絶妙にマッチしているジェラートだ。これも美味い。

哥舒臨がジェラートゾーンを突破し、ムースとホイップクリームのゾーンへと辿り着いた頃。
漂泊者は不意に動作を再開した。いつの間にか、彼の手には数個の星声が握られている。
「皆でケーキを食べると取得できる実績だった。よく分からないけど、星声が貰えてラッキーだ」
「そうか。良かったな」
どうも、忌炎も漂泊者に対してわりと適当に返事をしているような気がする。気のせいだろうか。
漂泊者は手に持った星声をカバンにしまうと、紅茶を一口飲んだ。
ふう、と一息ついてから、彼は話し出す。
「それともうひとつ、簡単に取得できそうな実績を見つけた。後で少し付き合ってほしい。たぶん1分くらいで終わるはず」
「何をすればいい?」
カカロが漂泊者に尋ねる。
漂泊者は少し考えるそぶりを見せた後、首を横に振った。
「今言うと、少し問題がある。後で言うよ」

*
カフェを出た一行は、漂泊者に連れられ人気のない場所にワープした。
今度は、今州南部のやや薄暗い森の中だ。こんなところに連れてきて、いったい何をさせるつもりなのだろうか。
哥舒臨がじとりとした目で見ると、漂泊者はやや気まずそうに頬を掻いた。
「ええと・・・まずはカカロにシェルコインを渡す」
「契約か?」
「そう。契約。俺が言ったことを実行してほしい」
「わかった。何でもやってやろう」
カカロは漂泊者からシェルコイン入りの袋を受け取ると、迷いなく頷いた。
こいつはもう少し、漂泊者に対して疑いを持った方がいいんじゃないだろうか。
「じゃあ、カカロにお願いしたいことだけど・・・その、哥舒臨の胸を揉んでほしいんだ」
「は???」
胸。俺の胸を。
揉む?
いや、なんでだよ。
「承知した」
「承知するな!馬鹿か!」
カカロが真顔で近づいてくる。哥舒臨は華麗なバックステップを踏み、後ろへと飛び退いた。
冗談じゃない。何が悲しくて、男に胸を揉まれなきゃならんのだ。
「いいだろう、少し揉まれるくらい。優しくしてやるから」
「気色の悪い言い方をするな!おい忌炎、お前も何とか言え!」
ずんずんと迫ってくるカカロから逃げながら、哥舒臨は忌炎に助けを求めた。
忌炎なら、この妙な状況に対して何か言うはずだ。言うよな?言ってくれ、頼む。
しかし、そんな哥舒臨の期待は虚しく裏切られる。
「大人しく揉まれたらいいんじゃないですかね。減るものでもないでしょう」
忌炎はどこか遠くを見るような目をしながら、乾いた笑みを浮かべていた。
あ。駄目だこいつ。何もかも面倒になってる。
「ごめん、哥舒臨。星声のために少し我慢してほしい」
「絶ッッッ対に嫌だ!!」

その10分後。
漂泊者は星声5個を手にして喜び、カカロは「思ったより柔らかかったな」と感想を口にし、忌炎は遠くを見つめながら「俺は何も見ていない・・・」と現実逃避し、哥舒臨は地に倒れ伏して屈辱に震えていた。
「漂泊者ァ・・・!貴様、覚えてろよ!このツケは必ず払わせるからな・・・!」
「わかった。俺に払えるものなら何でも払うよ。じゃあまた来週会おう」
漂泊者はカカロと哥舒臨と忌炎をそれぞれ元いた場所に送り届けると、そのままどこかへと消えた。
今日一日中振り回されたにしては、なんだか呆気ない幕切れだ。
「ハァ・・・疲れた・・・」
哥舒臨は大きな大きな溜息を吐くと、シャワールームへと向かって歩き始めた。
疲れた時は、熱いシャワーを浴びるに限る。
そして、今日の不可解な記憶はすべて、湯とともに洗い流してしまおう。覚えてなくても良さそうな事ばかりだったしな。