カージナルレッド

半日クオリティのロド未満
どこかで見たことある内容だけど許されたい

ある日、ドラルクがキッチンの床に蹲り、痛みに耐えていた。

いつもならあっさり死んで、サクッと再生する奴が珍しいもんだと放っておいたが、脂汗を浮かべて丸まり、声も出せずにいたから目線を合わせるように俺もしゃがんでみた。
「どうしたんだよ」
こいつが台所に立つのが日課になってから、銀製のものは全部確認して捨てるなりしたし、作業台の上を見ても玉ねぎが一つ置いてあるだけで、おかしなところはない。
包丁も玉ねぎの横にあったしな。
揚げ物も、炒め物も、何もしていない。
なのに、何で苦しんでんだ?
死ねばいいのに。
「殺すか?」
親切心いっぱいで聞けば、苦しそうなうめき声の後。
……ころして、くれ」
って言うから──右ストレートで殺した。

そうしたら、砂山からころりと石ころが転がり出てきて、キッチンの奥の壁に当たって砕けて消えた。
今のは?と思っていたら足元の砂が動き出して、エプロン姿のドラルクがゆっくりと再生を始めていた。
っはぁたすかったよ。ありがとロナルド君」
丸く浮かんでいた汗の跡ひとつなく、からりと笑って立ち上がったドラルクに、さっきのは何だと聞いたら。
「さぁね」
は?」
どういうことだ?という俺の疑問には答えず。
「さて、もう少し夜食待っててくれ」
何事もなかったような顔をして、玉ねぎを剥き始めた。


それからしばらく後。
そんなことがあったのをすっかり忘れた頃に、再びドラルクが腹を庇うようにしてへたり込んだ。
畳み終わった洗濯物を足元に落とし、クローゼットに縋り付く背中。
慌てて駆け寄った俺に、ドラルクは汗の浮かぶ顔をあげて言った。

「殺してくれ」

今度は優しく、左の頬を抓って殺した。
たったそれだけの痛みで死ぬのに、なぜ汗を浮かべるほどの痛みで死なないのか。
ちょっと前もそうだったろ。何で一人で死なねぇの?いつもならそんな痛み感じる前に死んでるだろ」
通り過ぎるトラックの風圧ですら死ぬ吸血鬼は、曖昧に口角を上げて「さぁね」とだけ答えた。




不定期に続いた同じことに、ドラルクからの答えは毎回同じだった。

『さぁね』

それだけを言い続けていれば、俺がいつ諦めて聞くこともしなくなるだろうと──。



▽▽▽



蛍光灯が照らすキッチンの床。
「なぁ、あの石、俺にくれよ」
苦しみ、死ねず。
倒れ込んで耐えるドラルクを前に、ひとつ交換条件を出してみた。
いやだ……ことわ、るっ」
食い縛る歯の隙間から聞こえたのは、痛みで輪郭がはっきりしない、唸るような震えた声。
関節が白くなるほど握りしめたシャツは、きっと再生しても皺くちゃのままだろうな。
「どうせすぐに砕けるじゃん」
早く死んで、石を生んで、楽になればいいのに。
汗が滴になって伝っても耐え、ドラルクは額を青空色のキッチンマットに擦り付けた。
「き、君には、渡したくないっ!」
そうかよ」
痛みに目を閉じることもできず、震えて蹲る体を掬い上げ、強く抱きしめて殺した。


「じゃ、貰うわ」
砂山から転がり出てきた真っ赤な石を摘み、光に透かした瞬間。
石がか細い悲鳴を上げ──砕けた。
内側から破裂するように粉々になった、小さくて硬い石。
さらさらと舞い散り、跡形もなく消滅した。

「なんで!!渡したくないって言っただろ!!」

怒りに任せて再生したのだろう。
くしゃけたエプロンと、乱れて落ちた前髪。
痛みで青ざめていた肌は紅潮して滲み、薄らと膜の張る瞳は憤怒で燃え、血よりも濃い色を俺に見せている。

「俺は“分かった”なんて言ってないぜ」
「私は“いやだ”って言った!!」
振り上げた拳は俺に向かってくることはなく
痛みに耐える時間が長かったのだろう。
小さく舌打ちすると、壁を背もたれにして膝を抱えた。

“話しかけるな”
“離れろ”

言葉にされなくても、それくらいのことは理解している。
それくらい長く、一緒に暮らしているのだから。
縮こまるドラルクに構わず近付き、同じようにしゃがんで口が開くのを待った。
本気の言い争いをしている最中でも、真っ直ぐにこちらを見るはずの大きな目は伏せられたまま。
よく回る唇は、きっと噛み締められて色を失っていることだろう。
自分の気持ちは奥底に閉じ込めて、誰かの幸せを願うことのできる強い吸血鬼。

次からは自分で死ぬから。もう頼まないから、だから、忘れてくれ」

そんなやつの、消え入りそうな願い。
それを叶えてやればお前は一人で限界まで苦しんで死に、あの赤い石をひっそりと生むのだろう。
あの悲鳴を何度も何度も繰り返し聞いて、一人で耐え続けるつもりか。
何事も忘れたふりをして、何事もない日々に戻って。
お前が一人で苦しんでも、俺は知らないふりをして。
砕けた石のことなんて一言も聞かず、いつものように笑って喧嘩してりゃ満足なんだろうな。


──でもな。
殺され方が変わったのに気付いてない、鈍い吸血鬼の願いなんて聞いてやるつもりは、俺にはこれっぽちもないんだよ。

「断る」
……なんで
「俺はお前と話したい」

愛してと叫んだ赤い感情について。