恋はなべて(洛信未満)

1回目を見に行った直後の感想が「え……カプ決まったわ……」でした。笑
そんなわけで行ってすぐ書いた短い洛信。



恋はなべて




「好きになったのか?」
 そう、思ったままに口にして、しまったと思った。四仔は。
「え?」
 一拍遅れて洛軍が顔を上げる。きょとんという顔がかわいくないのにかわいくなるのがこの男のよくわからないところだ。
 着すぎてくたくたになっているポロシャツ。よく働く者の精悍な肌。
 必死さが。強情さが。素直さが。
 洛軍の朴訥とした佇まいと瞳に力強さを与えている。
 ひどく優しい視線が向かっていたのはテレビの向こう側にではなかった。下着姿でゆっくりと腰をくねらせるAV女優の艶めかしい上半身……ではなかった。
(マジか……
 四仔は内心に生まれた焦りを押し潰して、ボロボロのカウチに身を沈めているもう一人の男を見た。アームレストからこぼれ出ている長い四肢。目を閉じたままでも頗るつきの美男子とわかる黒髪の男。
「なんだ? とうとうお気に入りのビデオを見つけたか?」
 口元に笑みを浮かべて立ち上がろうとした男に、洛軍は「いや、寝に来たんだろう」と呆れたように口にした。ここは昼寝の場所じゃないんだぞと四仔は言いたい。言いたいが、この九龍城塞のあらたなリーダーが、この頃あまり寝られていないのもわかっていた。
 青白い顔の信一を連れてきた洛軍が、一時間だけここで寝かせてやってくれないかと頼み込んできたので特別に場所を貸している。
「もう十分寝たって」
「あと三十分は寝ろ」
「それよりお前が気に入ったって女優が気になるな」
「別に見てない……
「はぁ? じゃあ何を見ていたんだよ。おい、四仔!」
 洛軍を問いただすことを諦めてそう呼んできた信一に、なんで俺に聞くんだと顔を顰めながら四仔は蒸しタオルを放った。ぱしっと受け取った洛軍が、立ち上がりかけていた信一の胸を抑えカウチに押しつける。
 見守る四仔の視界の中で、洛軍は小さく微笑んでいた。ほんのりと甘い笑み。慈しみたいという欲のある笑み。
 信一は開きかけていた目に湯気を放つタオルをかけられて、たぶんそれが思うよりも心地よかったのかおとなしくカウチの上で脱力した。
(お前だ)
 洛軍がこの十分間飽きもせず見ていた相手。それは信一だった。
 きれいなものを見るように。傷の痕に触れたいように。慕うように。誓うように。願うようにそこにいた。静かに、好いているように。
 それは龍捲風という自分よりも大切な人を失ったことを憐れんでかもしれないし、そうなる一因を作ってしまった自分を責めてのことかもしれないし、でも四仔にはもはやそれは止められない想いのように見えた。龍捲風の信一を見る眼差しにも似てまったく違い、穏やかなのに、もう決めているような強かさのある想いだった。
(げぇー)
 と思わなくもない。よりによって信一か。でも仕方がないのか。そうかも知れない。
 苦労するぞと思う。
 でもそれが何だ。自分たちには今日があって、そして明日がある。
 二十二日周期で生まれ死ぬ細胞を身に飼いながら、苦も楽も、仲間と謳歌していくのだ。
 洛軍がそっと信一の頬の傷に触れてみているのを見て、四仔は顔を覆いながら微笑した。


(終)





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