伊坂
Public TGM
 

アイスマンがサメを抱かない(アイマヴェ)

#M右ワンドロワンライ様より お題「ぬいぐるみ」で書きました。これについてアイスはアイスで言いたいことがあるそうなので、後日アイス視点も書けたらと思ってます。笑

 

アイスマンがサメを抱かない



 アイスマンがサメを抱かない。

 数日前のことだ。突然、自宅に現れたサメのぬいぐるみに、マーヴェリックは目をぱちぱちさせた。自宅といってもそれはモハーヴェの格納庫のことではない。アイスの自宅だ。トム・アイスマン・カザンスキー大将は、長年連れ添った妻と別れて半年前から一人暮らしをしている。そこにマーヴェリックが呼ばれて、居候しているのだ。
 まあそんなことはいい。そんなとはなんだと思われるかもしれないが、マーヴェリックが住むということはサラも織り込み済みなのだ。なんなら、あの人をお願いねと言われたくらいだ。つい半年前まで死にかけていたわけだから、アイスの世話は大変だったろうなと思う。傍にいて、見守るのは。自分の喜怒哀楽が委縮していくのは。
 なので、アイスが一命を取り留めて、それは本当に喜ばしかったが、二人は別れた。そこでマーヴェリックが呼ばれた。困っているんだろう、寂しいんだろうと思って従ってやったのが間違いだった。アイスは困っていて、寂しくて、今度こそマーヴェリックを離そうとしない。そういう約束だったろうと言い放ち、マーヴェリックはすっかりアイスマン邸に留められている。もうあと一か月だぞ、と言うのに、一か月後には同じセリフを言わされているのだ。
 そして、寝室に現れたサメだ。
 その日マーヴェリックははやばやと仕事を終え、バイクで帰宅し、そこで朝にはなかったはずのサメの存在に気づいて(むむ)と思った。大きい。大きくてふわふわ。サイズ的に抱き枕とかいうものだろう。アイスが買ったのか? と思って、そういえば先週、家具屋に行った時に、もの欲しそうに見ていたなと思いだした。僕たち男だぞ。それもまあまあ壮年の。
 で、結局買ったのか。家具屋には家具を見に行った。さすがに、夫婦のベッドには寝れないと言って、マーヴェリックは客室として使われている子供部屋のベッドで半年間寝ていた。そしたらいつの間にか、アイスがクイーンサイズのベッドを新調していたのだ。もう古かったしなと言って。フルオーダーメイドで。四か月前に注文して、このほどようやく届いたらしい。それで、届いたその日は、そのベッドで一晩中抱かれた。
 寝具の色が変わったし、他の家具も見に行こうということになって、一緒に家具屋に行ったのが先週末。マーヴェリックは寝室の寸法をメモして、小さめの巻尺とともに尻ポケットに突っ込んで家具屋に乗り込んだ。「これなんかいいんじゃないか?」とアイスを見上げると、先回りしていたアイスの手が、ねっとりと尻ポケットを撫でてメジャーを取るので(コイツ……)とマーヴェリックは思った。機嫌がいいと、横顔がもう若い頃のままで、胸がギュウンとなってしまう。結局、マーヴェリックは家具の前で立ち止まるたびにアイスに尻を撫でられて、巻き尺を操るアイスの手のひらを何度かつねった。家具屋ではサイドチェストと間接照明を買って、それはまだ組み立て前だ。
 その日マーヴェリックは、そろそろサイドチェストを組み立てようと思って寝室に来た。仕事も早く終わったことだし、図面を見ながら何かを組み立てるというのは好きな部類の作業だ。そうしたら居たのだ。サメが。整えられたベッドの上に、ふかふかと腹ばいでのっかっていた。真っ赤な口と、ギザギザの歯で。やあと言ってそうな表情で。すごいかわいい。なんて存在感だ
 マーヴェリックは数秒間ほどサメを見つめて、ベッドの反対側に回り込んでからもサメを見た。アイスが自分用に買ったんだとしたら、勝手に抱き着いてしまうのも悪いか。そう思ったものの、ちょっとだけ……、と思ってマーヴェリックはサメのヒレに触れた。わぁー、ふかふか! 手のひらに触れた瞬間、ふぁっと嬉しい気持ちが広がって、心なしかサメも自分に向かって笑いかけているように見える。それでマーヴェリックは、サメのぬいぐるみを、ぎゅうっと抱いた。腕の中に抱きしめて、頬や、腕で、サメのやわらかな巨体を楽しんだ。う~ん、気持ちいい。反発性がないのがいい。でもアイスのものだし、今日のところはこのくらいにしておいてやるか。
 マーヴェリックはサメに見守られながらサイドチェストを組み立て、間接照明も使えるようにした。そしてその日はアイスと共に寝た。「サメを買ったんだな?」とマーヴェリックは問いかけ、しかしアイスから返ってきたのは甘えるようなキスだった。寝間着を脱がされながら、肩や、鎖骨に、吸い上げるようなキスを享ける。胸を吸われているうちに、マーヴェリックはサメのことなど忘れてしまった。腕毛をさすると、少し手加減してくれるのは若い頃と同じで、そんなことに快感が膨れ上がった。
 朝、いつもの時間に目覚めると、サメはベッド下に落下していた。マーヴェリックはごめんよという気分になって、ふかふかの頭と背中を撫でて、そっと羽毛布団の上に置いた。

 アイスマンがサメを抱かない。

 次の日も次の日も、トム・アイスマン・カザンスキー大将がサメの抱き枕を使う気配はなく、マーヴェリックはだんだん、買ったんなら抱けよ! という気分になってきた。だって絶対、アイスがサメを抱いたらかわいいのだ。ホクロのついた、セクシーな顎のライン。それにサメの頭が寄り添ったら、きっととんでもなくかわいい! 無精ひげごと食らわんとするサメのふかふかしたギザギザ歯。その取り合わせを考えると、マーヴェリックはたまらなくなってしまってサメにぐりぐりと額を押し付けた。
 アイスマンがサメを抱かないなら、僕がサメを抱いてしまうぞ。
 それもいいかもしれない。というか、それがいいかもしれない。アイスがサメを抱いて、サメばかり抱くようになってしまったらそれはそれで嫌だしな。
 マーヴェリックは濃い青色のサメ肌を撫でて、にっこりと微笑み、ヒレを掴んだ。シェービングクリームの匂いが移ったのか、サメの顎からはグリーン系のさわやかな匂いが漂っている。
 マーヴェリックはベッドを覗き込める位置に移動して、そうっと、ゆっくり、アイスの寝顔を眺めた。眉間に皺が寄っているが、これは若い頃からずっとそうだ。
 うすく開かれた唇。
 昨夜、マーヴェリックの身体のあちこちを滑った唇……
 マーヴェリックはサメの頭をゆっくりとアイスの顔に近づけていった。ふわふわのキス。凶暴なキス。
 頭突きするように「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」

 さあ、早く起きないと頭から噛みついてやるぞ。
 だってサメは、もうマーヴェリックの手下なのだから!


(終)


 年内に「マーヴェリックがサメを抱かない」を書きたいです。笑





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