望月 鏡翠
2025-03-12 16:31:26
963文字
Public 日課
 

#1657 「パスタ」「煮込みハンバーグ」「墓地」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題話


 口数が多い方ではない私でも絶賛する店がある。レストランという横文字よりは、洋食屋という感じが似合う佇まいだ。店主も店も、同じくらいの年月を重ねている。
 店は古いが味は古くない。大当たりの店だ。
 だから最近はずっとその店で昼食をしていた。職場から近いこともありがたい。それになにより助かるのが、空いているからいつ来たって入ることができるのだ。同時にこの店はいつか潰れてしまうんじゃないかと心配になる。
 だからたまに同僚を連れてくるのだが、なかなかリピーターになってくれない。
 その日のメニューはアサリのクリームパスタ。菜の花が入っている。茹で具合も完璧だ。生パスタというやつなのだろうか。もちもちとして歯応えがある。
 菜の花も春の匂いが芳醇で素晴らしい。
 感激した。
 同僚も感激していた。こんなに美味しいものは久しぶりに食べたと言っていた。
 しかし次の日は、ついてきてくれなかった。うまかった少し……と口籠る物だから、別の人間を連れて行った。
 次の日は煮込みハンバーグ。これも絶品だった。キノコに味がしっかりと染みている。肉もジューシーさを失っていない。ライスを思わず大盛りでつけてしまった。ソースの濃厚さには、並盛りの白米では足りなかった。日本人の性で洋食にも白い米をつけてしまいがちだ。
 あまりにもうまい。感激した。その日の同僚も感激していた。しかし、次の日一緒に来てはくれなかった。
 不思議だ。こんなに上手くて価格も手頃なのに。
 私は次の日に一人で言って、いかにこの店がうまいのかを熱く語り、末長く店を続けてほしいことを伝えた。
 店主は本気にしているのかしていないのかわからない態度で、はいはいと応じた。
「どうしてこんなに人が少ないんでしょうね」
 店主に聞くべきではなかったかもしれないが、他に話すべき人がこの店にはいなかった。
「墓場を見て食欲が増す人はいませんからね」
 店主はもっとなことをいう。なるほど、店の硝子窓から全面に見えている墓地、これがいけないのか。
「たまにお花とか飾ってあるし、いいと思ったんだけどね。色合いも灰色と黒で統一されているし、わびさびって感じだ」
「あなた、変な人ですね」
 店主に言われたくはない。こんなところに店を構えているのは、彼なのだから。