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kaede
2025-03-12 13:42:14
2426文字
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一彩くんに、兄さんを見るとドキドキする(要約)、って言われた燐音くんのはなし
燐一
だいたいこんな感じになるかな…って想定しつつ燐音くんに任せたら、そっち行くんだ…ってはなしになった(好きです)
悩みがあるから相談に乗ってほしい。
そう一彩に言われて、天真爛漫が服を着て歩いているような弟の悩みなんて、昼食はオムライスとハンバーグどちらにするべきか、くらいの、他人からすれば悩みのうちにも入らない瑣末なものだろう。という思考が脳をよぎったのは事実だ。
だか、それにしてはやけに深刻な声と表情をしていたのですぐに考えを改めて、いいよ、と。弟にしか見せない兄の顔をして返事をすると、一彩の顔色が少しだけ明るくなって、事態は俺が思っているよりも本当に深刻なのだ、と身構えると同時に、正直、嬉しくもなった。相反する、しかもまるで悩んでいる弟を面白がっているとも受け取られかねない、そぐわない感情ではあったが。
幼い頃から俺の人生の一部として育てられてしまった弟が、おそらく初めて共有していいと思ってくれた、この子自身の悩みなのだ。気遣う気持ちとは別に、充足感のようなものが生まれてしまうのは仕方のないことだろう。
だから、二人きりになれる場所で(たまたま同居人が二人とも出払っていたので俺の部屋にした)、弟が少しでもリラックスできるようにホットミルクを用意する、なんて慣れないことまでして、俺は本気で、家族として兄として全力で、弟の相談に乗るつもりだったのだ。
「最近、兄さんの顔を見るだけで鼓動が速くなって、顔が異常に熱くなるんだ。僕は何かしらの病気かもしれない」
俺の隣に座って、ホットミルクを三分の一ほど飲んで、ほうっと安堵の、いや、覚悟だったのかもしれない。ため息をついて、縋るように俺の腕に触れる一彩の潤んだ瞳を見るまでは。
話が違ェだろ。
俺の真面目なお兄ちゃん面を返せよ。
あー、いや、なんつーか、拍子抜けはしたがそれで苛つくとかそんなことはねェけどよ。
あー
……
。
怪訝な顔にならないよう、いたって普通の顔をして一彩の様子を窺うと、一彩は俺と視線がぶつかったところで甘い火花を散らして、慌てた様子で俯いてしまった。
……
いやいや、俺の鼓動までおかしくしてどうすんだ、愛しの弟よ。
墓場まで持っていくつもりだったお兄ちゃんのインモラルを暴くんじゃねェよ。
こんな
……
こんな、誰にも寿がれない不毛な想い、お前まで背負う必要ないんだ。
いや、この子はまだ自覚していないようだから、今なら取り返しがつく。芽吹きはじめた小さな感情が心に固く根を張る前に、摘んでしまおう。うん、それがいい。こんなのはガキの頃にはよくある、憧れと恋を勘違いしてるやつ、そう、若気の至り、ってやつなんだから。昔、市民図書館に入り浸っていた時に、そんな感じのことが描写してある小説を読んだことがあるから、多分それだろう。
あの本の登場人物は、どうしてたっけな
……
。
「
……
にいさん」
俺が黙りこくっていた(頭の中は熱暴走直前までフル回転していたが)からだろう。事態は自分が思っているよりも深刻なようだ、とでも思ったらしい一彩が、不安げに俺を見る。
……
いやいや。無理だろ。
こんなにうまそうに実ろうとしている弟のかわいい双葉を、引っこ抜いて捨てろ、って言うのか? 俺に? 人の心がなさすぎるだろ。
いや、わかってる。今このタイミングを逃したら、本当に取り返しのつかないことになりかねない。それがわかってるから俺は俺のこれを、地中深くに埋めたんだ。
ここは心を鬼にして
……
。
「
……
僕は、死んでしまうのかな」
「ンなわけねェだろ!!」
反射的に声を上げてしまって、一彩の目がこぼれ落ちそうなくらいにまん丸になる。
「いや、悪ィ。急にでかい声出して」
「ううん
……
」
ぱちぱちと瞳を瞬かせる弟がかわいくて
……
いや、かわいいのはそうだけど、そうじゃねェだろ。
不用意に驚かせてしまったことを詫びようと頭を撫でようとして、果たしてこれが一彩を安心させるだけならいいが、今はあまり適切とは言えない距離感になりはしないか、と少し躊躇って、だがこの逡巡すら一彩を不安にさせる可能性があるのではないか。そう思い至って、いつでも離れられるよう、反応を窺いつつ、ゆっくり触れる。
一彩は震えるように、どこかくすぐったそうにうっとりと微笑んで、およそ実の兄に向けるものではない表情で俺を見つめて、俺は、やっぱり間違えたかもしれない、なんてことを思いながらも、手を離せないでいる。
一彩が、欲しくなってしまっている。
「
……
病気みたいなもんかもしんねェけど死にはしないし、いつか治るかもしんねェし、治らなかったとしても俺が責任取るから」
兄の顔をして一彩の頬を撫でるこの手は誰の手だ?
表情通りの俺か、それとも。
「兄さんにはなんの責任もないよ
……
?」
「あー
……
治っても治らなくても俺はずっとお前のそばにいるから安心しろ、って意味」
「
……
ありがとう、兄さん」
一彩の身体がゆっくり、傾く。
もうわからない振りでやり過ごせないほどに、俺は。
弟が何を望んでいるのかも、俺がそれに逆らえないのも、俺にはもう全部、わかってしまっていた。
ぽすん、と俺の腕の中に収まって近く強くなった一彩の匂いに、目眩がする。
きっと。
もしこれが一彩の勘違いだったなら、俺は、それを受け入れる。だからそうであってくれ、と願う気持ちに嘘はない。
けれど、もし、覆せない事実だったなら、俺は、きっと、もう、なにもかも、ああ、もう、さいしょから、なにもかも、ておくれだ。
『治らなかったとしても俺が責任取るから』
それは、つまり、そういうことだろ。
ごめんな、一彩。
もしお前がお前の意志でこちら側に来るのなら、俺はきっと。
「
……
にいさん」
「ん?」
「ずっとそばにいてね」
「
……
うん、約束するよ」
きっと。
「何があっても、ずっと、お前のそばにいるよ」
お前を、逃してやれない。
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