◼️◼️が目覚めた時、外はまだ真っ暗だった。◼️◼️は寝付きは良い方で、夜中に目覚めてしまうことなんて滅多にない。やけに冴えている頭に導かれるように枕元のスマホを手に取り、時間を確認した。
目が痛むくらいの光に、顔をしかめる。目が慣れてきて、やっと時間が視認できた。
まだ三時だ。五時や六時くらいなら起きてしまおうと思うのだが、三時は◼️◼️にとって起きるには早すぎる時間だ。◼️◼️は大学生だが、今日は昼からの登校のため早起きする必要はない。
今年、実家から少し離れたアパートで一人暮らしを始めてから、疲れからか予定より早い起床ができたことなんてなかった。◼️◼️は普段と違う出来事に違和感を覚えたが、すぐに「そういうこともあるか」と振り払った。
どうしようかな、とカーテンを開いて窓の外を見てみる。街灯がぽつぽつと住宅街を照らしている。周りの家々は暗く、住民はまだ眠っているようだった。誰もいない静かな外がやけに灰色に見えた。
◼️◼️が二度寝しようと再度横になった時、インターホンの軽快な音が静かだった部屋に響いた。◼️◼️の体がびくりと固まる。こんな時間に来客なんて来るはずがない。横になったまま息を殺していると、またインターホンの音が響いた。◼️◼️の心臓が痛いくらいにはねる。
何なんだろう……。定期的に鳴るインターホンに二度寝という選択肢を奪われた◼️◼️は、そっとベッドから下りた。暗い部屋を確かめるように進み、玄関の近くに取り付けられているテレビドアホンの電源を入れた。出てこないからと諦めず、何度もインターホンを押すなんて、何か大切な用事なのかもしれない。◼️◼️はテレビドアホンの画面に顔を近付けた。
立っていたのは、黒い薄手の上着を着た知らない男性だった。インターホンと◼️◼️の家を見比べる度に、少しはねた黒髪が揺れる。男性は◼️◼️と同じくらいか、少し年上に見える。表情に緊迫した様子はなく、急用ではなさそうだ。◼️◼️が男性を観察している間も、インターホンを鳴らしていた。
ここで立っていても仕方がない。このまま無視していても、男性はインターホンを鳴らし続けるだろう。◼️◼️はそう判断し、おそるおそるテレビドアホンのマイクを繋いだ。
「……あの、何ですか」
『やぁ、やっと出てくれた!』
警戒心丸出しの◼️◼️の声を聞いて、今まで無視されていた男性は機嫌を損ねるどころか喜びの声を上げた。テレビドアホンに映った表情も明るくなっている。
『君に頼みたいことがあるんだ。出てきてくれないかな』
「こんな夜中にですか?」
『こんな夜中にさ。夜が明けるまでにやらなきゃいけないことなんだ』
◼️◼️は男性の言葉を聞く度に感情を曇らせた。夜中に訪ねて来てまで頼みたいこと、しかも夜が明けるまでにやらなくてはいけないことに、全く心当たりがなかった。◼️◼️は今まで、可もなく不可もない平凡な人間として生きてきた。知らない男性が夜中に訪ねて来るほどに優秀な頭脳も体力も持ち合わせていない。
『君じゃなきゃ駄目なんだよ』
男性の明るい表情は、訴えかけるような表情に変わっていった。先ほどは急用ではなさそうだと判断したが、◼️◼️の間違いだったらしい。男性には本当に、夜が明けるまでにやらないといけない大事なことがあるようだ。
◼️◼️に力になりたいという気持ちが芽生えつつあった。だが、まだ家を出て男性の前に姿を現そうと思えるほど、男性を信頼してはいない。
『わかった。じゃあ、これを見てくれるかな』
男性は手の平サイズのメモ帳にささっと何かを書くと、インターホンの前にかざした。メモ帳には「はる」「かい」「そう」と三つの単語が書かれていた。◼️◼️はそれを見て首を傾げる。
『君、どれが自分の名前かわかるかい』
男性の言葉に、◼️◼️の心臓が大きく脈打った。
◼️◼️の記憶の中から、自分の名前がなくなっていた。三つの単語の中に◼️◼️の名前があるらしいが、どれも当てはまるような気がするし、どれも当てはまらないような気もしていた。
◼️◼️は慌てて自分の部屋に戻り、財布の中から学生証を出した。学生証に名前が書いてあるはずだ。しかし、学生証の名前の欄に◼️◼️の名前は書かれていなかった。顔写真は貼ってあるのに。
◼️◼️はすぐに本棚から高校の卒業アルバムを取り出し、◼️◼️のクラスのページを開いた。◼️◼️の顔写真の下に名前はなく、空白が広がるだけだった。他の生徒の名前は、しっかりと印字されている。
名前がない。自分の名前が見つからない。自分自身も覚えていないという事実が、◼️◼️の脳内に浮かび上がり絶望を照らした。何が起こっているのだろう。
◼️◼️はテレビドアホンの前に戻り、まだインターホンの前に立っている男性のことを改めて観察した。知らない人だ。じっと見ていたら知っている気もしてきたが、名前が思い浮かばない。
「どれが僕の名前かわからないです。名前が書いてあるはずのものにも書かれていなくて、思い出せなくて」
矢継ぎ早に言った◼️◼️に、男性は『うん、そうだろうね』と頷いた。そして、メモ帳の一番上の単語を指差した。
『君の名前は「はる」だよ。思い出したかな』
はる……。◼️◼️は自分の名前らしい単語を頭の中で復唱した。ああ、確かに自分ははるだった。漢字でそのまま「春」と書く。春は名前を思い出した安心と同時に、男性がどうして自分の名前を知っているのか疑問に思った。
『こういう風に、この町は記憶から欠落してしまったもので溢れているんだ。いや、こういう風にって言ったけど、君は特別かな。本来なら、今存在するものに対する欠落は滅多に起こらないはずなんだよ』
男性は説明しながらも、言葉を選んでいるようだった。春にわかりやすいように、少しゆっくりと話している。
『空き地が空き地になる前、何があったか思い出せなくなったことはないかい? そういうものは、誰かが思い出さないと見つからなくなってしまう。そうなると、存在したはずの不確かなものは今俺達がいるこの空間に辿り着く』
「ちょっと待って下さい、俺達がいる空間って何ですか」
春が男性の説明を止める。それではまるで、現実ではない別の空間にいるみたいだ。
『ああ、気付いてなかったんだ。その画面からも見えるよね、外。灰色だろう。ここは現実ではないよ。忘れられたもの達が行き着く先だ』
男性が春から外の様子が見えるように、インターホンの画面から姿を消した。確かに灰色だ。春が起きたばかりの時、カーテンを開けて外を見た時も灰色だったがあまり気にしていなかった。
「忘れられたって……」
まさか、僕も? 春は嫌な予感がした。
『うーん、聞きづらいけど、君学校に友達いる? それか高校の時の友達と連絡は取ってるかな』
男性の質問に、春は答えなかった。男性は春の無言から察したようで、返答を待たずに説明を再開した。
『そういうことだね。しかも一人暮らしだから余計だな。親御さんは忘れるはずないが、寝てる時とかは思い出していないだろう。それが忘れられたという判定になって、この空間に来てしまったんだ』
「でも、四六時中誰かに考えられている人なんていないでしょう」
『いないさ。なのに君は来てしまった。かなり珍しいパターンだね』
春は肩を落とした。自分の名前を思い出せて安心していたのに、新たに変な空間に来たことを明かされてしまった。
『君はもう思い出したから朝になれば元の世界に帰れるんだけどさ、せっかくこの空間に来たんだから少し手伝って欲しいんだ』
落ち込み無言になった春を余所に、男性は話を続ける。手伝って欲しいこととは、先ほど男性が言っていた夜が明けるまでにやらなくてはいけないことだろう。初めて聞いた時は男性のことを信頼していなかったため、春に頼み事を聞く気なんてなかったが、今はとりあえず聞いてみようと思っていた。
「手伝って欲しいって、何をですか?」
『何があったか思い出せなくなった場所に、何があったか思い出す作業さ』
男性に連れられて、誰もいない夜の町を歩く。町に灰色以外の色はなく、その灰色が明るいか暗いかのグラデーションしか存在しない。春は見慣れない灰色の町を、見回しながら歩いていた。
春は家を出る時、どうせ誰もいないから、とパジャマのまま外に出た。パジャマのまま町を出歩くのは不思議な感じがした。
「まずはここだよ。この建物」
男性が立ち止まる。春はつられて立ち止まり、男性の視線の先を見た。男性は建物と言っていたが、そこに建物など存在しなかった。そこにあるのは灰色の四角たち、所謂モザイクのようなものだった。見たことのない物体に、春は数歩後ずさる。
「忘れられると、いずれこの空間からも消えてしまうんだ。これは消えかけている証拠だね。危害を加えてきたりはしないよ」
男性はそう言ってモザイクが広がっている空間に手を突っ込んだ。春は見ていてひやりとしたが、男性は平気な顔をしている。
「お兄さんは覚えてないんですか?」
春の質問に男性は首を横に振った。
家から出た時に男性の名前を聞いてみたが、「今は俺に記憶の容量を割いている場合じゃないよ」と言われ、教えてもらえなかった。そのため、一旦お兄さんと呼ぶことにしている。
「何だったかな……」
春は記憶を探ってみた。
左右に伸びる住宅街。この道を誰かと歩いた覚えがある。記憶の中の町は夕方で、幼い春はお腹を空かせていた。おそらく、遊びに出かけた帰り道だろう。そして、ここを見つけて喜んでいた。
ここは確か、飲食店だった気がする。
それを思い出すと、朧気だった過去の記憶がはっきりとしてきた。
「あ、ラーメン屋」
「ラーメン屋?」
春は思わず口に出した。それを男性が復唱する。ここはラーメン屋だった。三年くらい前にいつの間にか閉店してしまっていたが、春も小学生の頃は時々食べに来ていた。
「ラーメン屋でした、ここ。何だっけな……、そうだ、らあめん月見だ!」
春が思い出した瞬間、建物にかかっていたモザイクが消えた。建物は三年前と同じ姿で、「らあめん月見」の看板が堂々と主張している。春の生きる現在では、看板は取り外されてしまった。
「お、そうだ。ラーメン屋だったね。やっぱり君に頼んで正解だった。さぁ、次に行こうか」
男性は嬉しそうに看板を見上げた。そして、切り替えるように再び歩き始めた。春はそれに付いて行った。
「次はこの公園だ」
男性は中央に大きくモザイクが広がる公園に入って行った。
この公園は猫が沢山いるから、春も小学生の頃までは遊びに来ていた。中学生になると学校が忙しくなったり、公園でしたいこともなくなってしまったため、ここに来るのは随分久しぶりになる。
「このモザイクの中のものを思い出せばいいんですね」
何があったっけ……。春は記憶を探る。しかし、見つかる記憶は猫に関するものばかりで、モザイクの中に何があったのかが一向に思い出せない。
「お兄さんはここも覚えてないんですか?」
「覚えてないね。俺の記憶はあてにしない方がいい」
ラーメン屋の時と同様、男性は首を横に振った。じゃあ僕が思い出すしかないか……と春は再びモザイクを見つめる。
モザイクに繋がる道。道の左右に草木が植えられ、季節ごとに綺麗な花や紅葉が見られる。記憶の中の春には、その植物達を見るお気に入りの場所があった。誰かから教えてもらった場所だ。
ベンチに座りながら、揺らぐ水面越しに植物と空を見られる場所。春はのんびりと泳ぐ鴨を見るのも好きだった。
「池です。ここには池がありました」
春が男性に言うと同時に、モザイクが晴れて池が現れた。中央には木の道がかかっている。道の真ん中が広くなっていて、ベンチが設置されている。春はあのベンチがお気に入りだった。
だが、いつからか池の入り口には立ち入り禁止の看板が立ち、木の道は崩れていた。直されることはなく、池の周囲は柵で囲まれてしまった。今では池があることを知らない人もいるだろう。
「そうだね、池だった。時間がゆっくり流れている気がして、ぼーっとするにはうってつけなんだよ」
男性と春は木の道を渡り、中央の広い場所に立つ。春は久しぶりにベンチに座った。ここはもう直されないのだろう。この景色を見るのも最後かもしれない。目の前の景色は灰色で、あの頃見ていた景色とは少し違うが。
「そろそろ行こうか」
懐かしそうに池を眺めていた男性が春を振り向く。春は頷き、立ち上がった。静かな池には、二人の木の道を歩くギィギィという音が響いていた。
男性が春に紹介したのは、町外れの小さな水族館の女性だった。
「この人のことを思い出して欲しいんだ」
男性がそう言うと、ポニーテールの女性も手を合わせた。顔には塗り潰すようにモザイクがかかっていて、どんな顔をしているのかは見えない。顔以外にも、体のところどころに小さなモザイクが蠢いていた。
「お願い! この水族館で働いてたことは覚えてるんだよ。家とか学校とか、基本的な記憶はあるの。でもそれ以外が全然でさぁ。名前もなんだけど、水族館で何を担当していたかとかも覚えてないんだよね」
女性は両手を広げ、やれやれというポーズをした。顔が見えない分、全身を使って感情を表現しているようだ。先ほどの春と同じような状況だ。春は親近感からか、今までで一番丁寧に記憶を探った。
しかし、全く見つからない。春に水族館で働いている女性の知り合いなんていない。思い出せないというわけではなく、本当にいないのだ。
「お兄さんは……」
記憶を探るのに疲れ、駄目元で隣の男性に尋ねてみたが、やはり首を横に振るだけだった。今回も僕が思い出すしかない。
「生きている人が迷い込むことは本当に稀なんだ。迷い込んだ場合、その人が一番大切にしていることを忘れると」
「こうなっちゃう!」
男性の説明を遮り、女性が両手で自分の顔を指差した。春は自分もこうなっていたかもしれないと考え、身震いした。春とは対照的に、自分を指す女性はあまり深刻に思っていないようだった。
「水族館を見てみようか。何か思い出すかもしれない」
春が目をつむって考えていると、男性がそう提案した。その方が思い出せそうだ。春は賛成し、女性も春より乗り気だったため、三人で水族館を探索することになった。
水族館には灰色の魚が泳いでいた。灰色の内装、灰色の水槽、灰色の大小さまざまな魚。水族館は青いイメージがある。多分、海や川を再現するためだろう。春の想像していた水族館とは色味が全然違うことに驚いたが、これはこれで新鮮で楽しかった。
女性は自分の置かれた状況を忘れたように、明るく魚の解説をしていた。男性もそれを楽しそうに聞いていた。ただ、黄色の模様が特徴、という説明を聞いても灰色だからよくわからなかった。女性も頑張って「ここ! ここら辺に黄色の模様が、あ~待って行かないで」と魚を指差していたが、動き回る魚の一部分を正確に指差すのは難しく、次は色がついている世界で見てね、ということでまとまった。
しばらく歩くと、ペンギンが泳ぐ水槽にたどり着いた。ペンギンは白黒のため、あまり元の世界と変わらない。ペンギン達は水中で泳いだり浮かんだり、岩場になっている場所できょろきょろと辺りを見回したりしている。
「あ……」
春は無意識に声を出していた。忘れていた。この水族館には、一度だけ来たことがある。誰かにチケットをもらって、一緒に行ったのだ。その時、ペンギンの説明を聞いた記憶がある。
よみがえる記憶を逃がさないよう、集中する。
水槽の中の人は、ペンギンの生態の説明をしたり、水族館にいるペンギンの特徴を説明したりと、ペンギンについて生き生きと話していた。「この子はメイくん! お魚を沢山食べます!」と魚を食べさせたりもしていた。
あの人も女性で、ポニーテールで、身振り手振り全身を使って話す人だった。
「ペンギンのお姉さん?」
春が女性の方を向くと、女性からモザイクが消えていた。
「あ、そうだ! 私ペンギンの担当だ!」
ペンギン担当は目を丸くして驚いた後、慌てて水槽に駆け寄った。
「うわー、何で忘れてたんだろう。ペンギン達のこと大好きだったのに」
駆け寄られたペンギンは、水槽の中で不思議そうな顔をしていた。ペンギン担当は気を引き締めるようにポニーテールをきゅっと縛り直し、春と男性の方を向いた。
「思い出してくれてありがとう、私はまたペンギン達の世話をするよ。思い出したから、多分帰れるよね」
ペンギン担当はそう言って照れくさそうに笑った。
「ああでも、この世界に来てからずいぶん経つからなぁ。働かせてくれるかな……」
心配そうに顎に手を置くペンギン担当だったが、すぐに「ま、どうなってもここから出られないよりマシだよね」と明るく言った。
春と男性はペンギン担当に応援の言葉と別れを告げ、灰色の小さな水族館を後にした。
灰色の町を歩く。出発した時より、灰色が明るくなっていた。朝が近いのだろう。春は今まで色々な場所を歩いたためか、灰色の町を見慣れつつあった。
春は歩きながら、回った三か所のことを思い出していた。正確には、三か所で思い出した記憶を。
先導していた男性は春のアパートの前で立ち止まると、春の方を振り返った。
「今日はありがとう。これで頼み事はおしまい」
男性はにこりと笑った。
「さ、帰った帰った。朝が来るから一応家にいた方がいいよ。ないとは思うけど、外にいてこの空間に取り残されたら大変だからね」
男性が帰ることを勧めても、春は動かない。帰ろうとしない春に、男性は戸惑ったような表情を浮かべた。
「何か忘れ物?」
男性は首を傾げた。そうだ、忘れている。春はまた記憶を探った。
誰かと行ったラーメン屋。
誰かに教えてもらったベンチ。
誰かにもらった水族館のチケット。
その「誰か」は家族ではなかった。友達というのも少し違う。幼い春と遊んでくれた人。幼い春より沢山のものを見ていた人。春が小学校高学年になった頃にはクラスメイトと遊ぶことが増えたため、その人とは遊ばなくなってしまった。すれ違った時に挨拶をしたりはしていたが、いつからか見かけなくなった。
「お兄さんは帰らないの?」
春は男性の名前を知らない。昔から「お兄さん」と呼んでいたため、名前は忘れてしまった。だが、ペンギン担当の仕事を思い出した時は、名前を思い出さなくてもモザイクが晴れていた。それと同じように、目の前の男性が、春が幼い頃に遊んでくれたお兄さんだと思い出すだけで十分だと思った。
男性は一瞬、僅かに驚いた表情をした。モザイクを晴らすために町を歩いたが、自分のことを思い出してもらおうとは思っていなかったのだろう。
「そうだね、君が思い出してくれたから帰れるかな」
男性は先ほどの笑顔より穏やかで、清々しい笑顔を浮かべた。あの頃と同じ、優しくて柔らかい雰囲気をまとっている。
朝日が二人と灰色の町を照らしていた。
次の日、春が起きたのは十四時だった。歩き回ったせいか、アラームで目を覚ますことができなかった。止めた記憶すらない。
春は外から差し込む太陽に目を慣らしながら、部屋の中に色があることに気づいた。無事に戻って来られたようだ。学校には間に合わないが、それでもいいと思える達成感があった。
今日は暇になってしまったし、久しぶりに町を散歩してみてもいいかもしれない。変わってしまった町に、過去の面影を見出だすために。
春が散歩に行く準備をしていると、部屋にインターホンの軽快な音が響いた。
春は鞄を放り出し、テレビドアホンも確認せずにドアを開いた。
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