小さなカップに入ったコーヒーにココアにミルク。揃いの皿にはバターを贅沢に使ったクッキーやパンケーキ、果てにはプリンやゼリーまで。ドクターの面影があるコータスに似た子は情報共有を行う執務室でウルピアヌスに会うたびに、温かい飲み物と甘い物を差し出していく。
「みゅう」
今日も今日とて来客用のソファーに座るウルピアヌスにマドレーヌと紅茶を差し出してくるものだから、礼を言って受け取った。海と陸を行き来することを思えば単純に食料は補給としてありがたいものであり助かるものではあるのだが、はたして食事を他者に与え続けるという意味を理解しているのかは疑問が残る。
「ふふ、受け取ってもらえてよかったね。ああ、私からも君に」
隣に座るドクターの膝の上に戻り報告をするように鳴く子を穏やかに撫でると、皿に乗ったドライフルーツを差し出された。イベリアの名産なのだという柑橘のドライフルーツは確かにマドレーヌとも相性がいいだろう。コータスに似た子が出したお菓子に合わせたものをドクターも差し出すのは繰り返されたやり取りだった。
「しょっぱいものも良いかなと思ったのだけれど、この子が甘いものが良いというから」
「みゅみゅう」
その通りだと頷く様子はいとけなく、おそらく疲れには甘いものだという善意しかコータスに似た子にはないだろう。だが、ドクターに至ってはどういった認識であるのか。
「食事自体はありがたいがな。お前、特定の相手に食事を分け与え続ける意味については考えたことがあるか」
「ええと……一般的には親交を深めたいといったところではないのかな」
私の立場では君にとっては不快だっただろうかと眉を下げるドクターを見て、コータスに似た子がしおしおと耳を下げた。仲良くしてあげて欲しいとでも言うように見つめてくる瞳に問題ないと一つ頭を撫でてやる。
「勝手に憶測をする必要はない。そも不快であれば、このような時間に付き合う性分ではないことは理解しているだろう」
元より残された時間の少なさを思えば、情報共有の後に行われるこの会食じみた時間も断っても良かった。補給とて自身でできないわけではないのだから、早々に海に戻るのが正解なのだろう。―――それでもここにいるのは。
戸惑ったようにこちらを見つめるドクターにウルピアヌスは貰ったマドレーヌを半分に割って差し出した。なにも分かっていないのだから仕方ないと口を開く。
「食事というのは個の命を繋ぐ事に他ならない。それを与えるということは相手に命を分け与える事に等しい。自らを差し置き、糧を差し出す行為は相手の存続を願うからだ」
「確かに継続的に特定の相手に食事を分け与える事は相手と親交を深めたいという意図もあるだろう。だがエーギルの文化圏では少し意図が異なる」
「どう思うかは知らないが。お前がしているそれは自らの命の糧を分け与えてでも相手の存続を願う、つまりはそうする程に相手を思っている事を伝える行為と見なされるものだ」
要はお前がしているのはエーギルの文化圏からすれば求愛行動なのだと伝えれば、コータスの子ともども奇妙な声をあげて真っ赤になって固まってしまう。
「さて。それを踏まえた上で俺がお前に対して食事を分け与える意味は分かるな?」
単純な思慕や恋だけではないのだろう。目的を果たすために途中で死んでくれるなという私欲がないかと言われれば嘘になる。ただ、それを差し引いても残りの時間を分け与えてもいいと思う程度には、やり取りを重ねるうちに情がわいてしまった。ただの情報源と見なすには難しいほどに。
赤く染まった顔のままに差し出された菓子をおずおずと食べるのをウルピアヌスは見つめる。どうか簡単に損なわれてくれるなと。愛しい者と過ごす時間は少しでも長い方がよいのだから。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.