わらびもち
2025-03-11 22:01:00
689文字
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幕間の春

四季送り げんみ×
自探索者の話
現在通過中の現状


──だれ?
そう問いかけた時の父の顔を、今でも覚えている

薬品を混ぜ合わせていた手が止まる。
背もたれに体重をかければ、ギ、と軋んだ音をたてる。
いまいち集中が続かない。今日はこれ以上の研究は止めておいたほうがいいだろう。判断すれば行動は早く、机の上に散らばった実験器具やらを片付ける。先日の仕事で手に入れた血液を新鮮なうちに肥料にしてしまいたかったが、致し方ないだろう。

“ワンチャン私十年スパンだな。”

“二週間内のことしか覚えられない”
そう言った雪の発言に覚えがあったからつい口をついただけの、ほんの軽口のつもりだった。
しかしそれが、未だぼんやりした不安となって腹の奥に渦巻いている。

服を捲りあげ、目をやればはっきりとしたバーコードが刻まれている。脳裏に思い浮かべる雪のそれはとても薄かった。……記憶の欠落が、アガチ特有のものならば。なんらかの理由で能力が、タトゥーが薄くなったとしたら。──記憶の欠落が激しい理由とタトゥーの濃さの関連など現時点ではわからないが。

自分だってまた失う可能性があるのではないか。そうなった時、私はまた父にあの問いを投げかけるのだろうか。
あの時はまだ幼かった妹だって悲しむかもしれない。

ガラリと机の引き出しを開けて、まとめて買ってある大学ノートの一冊を開いて力を加える。
書き残しておこう。
もしも失ったとしても、少しでも取り戻せるように。自分のことを、家族のことを。友と呼べるかどうかもまだわからない、愛すべき同僚達のことを。

この不安が杞憂で終わったとしても、改めて自他を振り返るのも良い機会となるだろう。