らぎ
2025-03-11 10:35:22
407文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ第二回「鏡」「机」

天秤ちゃんボディを工芸品に喩えてみたかった。

かたかたと小さな音を立てて、翡翠色の絡繰が文机の上を飛び跳ねる。持ち主によく似た軽快な挙動だ。現世においては規則正しく背負子のひと棚に整列している彼らは、薬売りと呼ばれる主の大事な仕事道具である。
不意に、天秤が机から飛び降りる。翡翠色の体が机の脚に隠れると、障子が細く開いた先、隣の部屋から響く衣擦れの音がよく聞こえた。合間に何やら問答する声も。
「離の方、ちょいとちょいとお待ちを……
「待てぬと言った。」
「しかし、音が」
「おおかた、天秤が脱走したのだろう聞かせてやれば良い」
「そんな無茶なあ、」
離の方、離の薬売りによってだろうか。細く開いていた障子が完全に閉じられ、声もよく聞こえなくなった。心なしか先程よりも素早く体ごと回れ右をした天秤は、ふらふらと大きな木の背負子へ戻っていく。鏡のような赤い瞳には、脱走兵に仕置きをするべく待ち構える白磁の先輩が二体、待ち構えているのが映っていた。