望月 鏡翠
2025-03-10 23:52:19
969文字
Public 日課
 

#1652 「風が吹き抜ける竹林」「手紙」「眠る」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺

 長閑な自然の中にいるようにみえるが、これだけの竹林を維持するには大変な労力がかかっているのだろう。放っておいたらその勢いは凄まじく、あっという間に隙間を覆って、地面を暗くしてしまう。
 適度な広さが保たれているのは、定期的に余剰な竹を刈り取る人手が入っているからに他ならない。ここは大変な労力を払って手入れされている場所なのだ。
 竹の節の間に模様が刻んであるのは、生えてきた年数を記録するためのものなのだろう。
 風が吹き抜ける竹林は、どこをみても同じ景色だ。前を見ても振り向いても、同じ道である。少し休んだあと、反対方向に歩き始めていても気が付かないかもしれない。
 道を外れればどこにいるのか見失ってしまうだろう。間伐した竹を割って作った柵だけが道標だ。最初は気持ちがいい場所だと思った。しかし何度も足を運ぶうちに、いつきても変わらない景色に不安を覚えるようになった。
 ここは時が止まった世界。すなわち常世なのではないだろうか。常緑の竹と変わらない景色がそう思わせる。冬になったら、少しは見てくれが変わるのだろうか。
 雪が降り積もったら余計に道に迷いやすくなりそうで、今から不安だ。きっとこんな山奥には 除雪車もやってこないだろう。
 週に一度、手紙を届けるのが仕事だ。遠いから毎日の配達を免除されていて、届けるものがあったときだけ、週に一度纏めて送るだけでいいということになっている。毎週月曜日、一日の最後に待ち受けている仕事だ。
 山を登り、手紙を届け、ついでに世間話を二、三交わしたあとは、そのまま帰る。翌日出勤すると、あの人生きていたかと確認される。どうやら自分にしか認知できない妖の類ではないらしいと、その一言で安堵する。
 手紙はポストに投げ込んでもいいのだが、明日同僚や上司に確認されることを考えると、生きているかどうかくらいは確認していった方がいいだろう。
 しかし玄関チャイムを鳴らす前に、家主を見つけた。
 縁側で茶を飲みながらくつろいでいる。座布団には座らず、人が座るべき場所には猫が丸くなっている。気持ちよさそうに眠るものだ。首輪をつけているから、ここで飼われているのだろう。
 つまり人の生活だけでなく猫の餌も用意しているのだ。
 自分以外の面倒を見る余裕があったのかと、妙に感心してしまった。