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宮腰
2025-03-10 22:05:58
8116文字
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ぐるぐるメガネの地味男くん(1凸)
■ヌヴィリオ現パロ。
■瓶底メガネの地味男ヌヴィレットくんが、ストリートファイト界のヒーロー・リオセスリくんに一目惚れ。
■告白→玉砕→友達を経て、果たしてメガネくんの恋は実るのか。
これは、ぐるぐるメガネの地味男くんと、ストリートファイト界の若きヒーローくんの恋の物語である。
「ごきげんよう。リオセスリ殿、と呼んで構わないだろうか?」
「
…………
誰だ、あんた?」
午後の授業を控えた、良く晴れた日の長閑な中庭のランチタイム。中庭にあるいつものベンチでサンドイッチを腹へ詰め込みゴロリと寝転んでいると、暖かい午後の日差しを遮るようにニュッと何かが生えてきた。
丸いギラギラと輝くお月様が二つ、ではない。顔の半分ほどを占めているその丸い物は、メガネの分厚いレンズだ。分厚いレンズに自分の間抜けな顔が映り込んでいるのを眺めていると、今度は視界の中へヌッと白い封筒が現れた。
「貴重な休み時間を邪魔してしまい、すまない。君にこれを渡したかった」
「これ
……
? って
……
」
レンズへ映り込む自分の顔が間抜け面から怪訝な表情へと変わり、リオセスリは体を起こしメガネくんから封筒を受け取った。メガネくんはぬっぬっと距離を詰め、リオセスリの隣へちゃっかり腰を下ろす。
「
…………
」
封筒には綺麗な文字で『リオセスリ殿へ』と記されているが、差出人は書かれていない。一体誰からなのだろう。そう首を傾げメガネくんへ視線をむけると、開けてみてくれ、とレンズの奥から無言で促されてしまった。かさ、と音を立てつつ封筒を開くと、中からは予想外すぎる物が現れた。
「
……
おいおい
……
」
それは、ラブレターだった。しかも相当熱烈で詩的な、随分と熱の籠もった文面だ。成る程、これを誰かへ渡してくれと頼みにきた訳か。
「私の名はヌヴィレット。アカデミックコースの二期生だ」
「ヌヴィレットさん? アカデミックコース
……
ああ、だから俺とは面識がないのか」
「うむ、君にとってはそうかもしれない」
アカデミックコースと言えば、高等教育機関を目指す特進クラスだ。リオセスリが籍を置くワーキングコースとは空気が違う、良家の子女や秀才が多いのがアカデミックコースの特徴だ。このメガネくん、もといヌヴィレットも、そうなのだろう。瓶底メガネに対する先入観からすると、末は博士か研究者辺りだろうか。
「そうか。だいたい察したぞ」
「
……
! そうか。突然で驚いただろう、すまない」
「アカデミックコースのお坊ちゃまが声を掛けるには、ワーキングコースのレディ達は少々元気が良すぎるからな」
開いてしまった便箋を丁寧にたたみ直し、封筒へしまう。そのままヌヴィレットへ返してやると、リオセスリは小さく肩を竦めた。
「だが、お断りだ」
「
……
、ッ
……
そう、か
……
」
「当たり前だ。愛の告白ならば本人に直接手渡すべきだろう」
「
……
ああ。そうだな、すまなかった」
「分かってくれたのならばいいさ。じゃあ、がんば
……
」
頑張れよ、とヌヴィレットの背中を叩こうとした。だが逆にガシッとその手を取られてしまい、目の前にあるメガネには目を丸くした自分が映り込んでいた。
「リオセスリ殿」
「
……
うん?」
「初めて君の姿を見た時から、心に決めていた」
「おう
……
?」
「私と結婚を前提に交際してもらえないだろうか」
まさかの、俺宛てのラブレターだったとは。
「
…………
ええ、と?」
「うむ」
「
……
俺
……
?」
「ああ、私は君が好きだ」
「あー
……
人違い、じゃないよな?」
「間違いない。君は私の運命だ」
驚きすぎると言葉が出ないと言うのは、本当らしい。ギリギリと骨が軋む音を立てるほど強く手を握られつつ、メガネに映り込んだ自分の顔を呆然と見つめていた。すると、メガネくん一世一代の大告白を傍観していたギャラリーからクスクスと冷やかすような笑い声が聞こえてきた。その気配で、ようやくリオセスリもハッと我に返る。
「わ、分かった
……
分かったから
……
! 少し力を緩めてもらえないか? 手が痛い」
「
……
ッ!? すまない、つい
……
」
「見た目の割に力が強いんだな、あんた
……
」
リオセスリも握力にはもちろん自信があるが、それと同じくらいか、下手をすればヌヴィレットの方が強そうだ。ようやく解放してもらえた手を擦りつつ、リオセスリは深い溜め息を零す。
「すまないが、俺はそっちの趣味はない」
「私もだ。寧ろ、こんな感情を抱いたのは君が初めてだ」
「
……
そりゃどーも。だが、申し訳ないが諦めてくれ」
「
……
やはり、駄目だろうか?」
「当たり前だ。第一、俺はあんたの事を何も知らない」
どうやらヌヴィレットは何処かで自分を見かけたらしいが、彼の存在を認知したのは今が初めてだ。唐突に好きだの結婚を前提に交際してくれだのと言われても、頷きようがない。
だが、残念なことにヌヴィレットは見た目ほど繊細な男ではなかったらしい。
「そうか。すまない
……
私は人付き合いがあまり得意ではない」
「はは、気持ちは嬉しいがな。こちらこそすまない」
「では、友人から初めてもらえないだろうか?」
「
……
んっ?」
「結婚を前提に、まずは私と友人になってほしい。リオセスリ殿」
ぐるぐるメガネの地味男くんは、一度フラれたくらいではめげない不撓不屈の戦士だった。
人を見た目で判断してはいけない。そう学びを得た一日だ。
◆
人の口に戸は立てられぬ。
アカデミックコースのメガネくんから、ストリートファイト界ヒーローへの盛大な告白劇が繰り広げられていたのは、翌日にはカレッジ中へと広まっていた。
「え、じゃあ付き合っている訳じゃないんだ?」
「当たり前だ。初対面の相手だぞ?」
ランチタイムを迎えたワーキングコース教室内では、学生達が談笑する和やかな空気に包まれていた。今日も適当に昼食を済まそうとしていたリオセスリは同じ授業を受けていたナヴィア嬢に捕まり、昨日の告白劇について詰問されている真っ最中だ。
「メガネくんは一目惚れだったんでしょ? 素敵じゃない」
「
…………
何処から聞いたんだ?」
「本人から。メガネの彼ね、クロリンデと知り合いなんだって」
「はぁ
……
なるほどね」
クロリンデとは、同じワーキングコースに籍を置くナヴィア嬢の親友である。どうやらクロリンデを通じてメガネくんから話を聞き出したらしい。
「
……
ん? 待てよ。クロリンデさんと知り合いってことは、彼も軍関係者なのかい?」
クロリンデの実家は代々軍人の家系で、彼女も将来は入隊する予定だと聞いている。ならば、あのメガネくんもそうなのだろうか。
するとリオセスリの言葉を聞いたナヴィアは、何を言っているのだといわんばかりに目を丸くした。
「え、知らないの?」
「何をだ」
「あのメガネくん。ヌヴィレットさんね。王子様だよ、ガチなやつ」
「
…………
は?」
王子? ガチな王子、と言うことは、あだ名とかではなく。
「メリュシー公国って知ってる?」
「メリュシー公国?
……
いや
……
」
「小さな島だもんね。ほら、ここ」
ほら、とナヴィアがスマホへ映し出し見せてくれたのは、世界地図。そこには北極海にほど近い北大西洋が映し出されており、海のど真ん中へポツンと小さな点があった。拡大してみると、そこには『メリュシー公国』と記載されている。
「海のど真ん中
……
」
「そうそう。地上に残された最後の楽園、なんて言われている小さな独立国家なんだって」
メリュシー公国。北大西洋へ浮かぶ小さな海の国。
住民達のほとんどは漁や鉱石の採掘で生計を立てており、近年では観光業にも力を入れているとか。だがまだまだ知名度の低い、海の楽園でもある。
「小さな公国の王子様が入学したって、当時は女子達が騒いでいたんだけどね。ほら、メガネくん良い人だけど、地味だし」
「ああ
……
なるほどね」
──すまない
……
私は人付き合いがあまり得意ではない。
それは本人も自覚があるらしい。誠実そうではあるが、学生時代にモテるタイプではないだろう。
「でもまさか、あんたみたいなタイプが好きだとはね。真面目な子ほど悪い男を好きになっちゃうってヤツ?」
「知るか。ほら、白状してやったから俺は行くぞ」
レディの噂話へ付き合っていたらきりが無い。リオセスリは適当に話を切り上げ、いつものランチ場所へ向かうべく席を立った。
途中で売店へ立ち寄り適当なパンと紅茶を買って、中庭へ。中庭では既に昼食を終えバスケやレスリングへ興じる生徒の姿もあり、リオセスリはそれを遠目で眺めていた。すると、リオセスリの姿へ気が付いた後輩がペコペコとお辞儀をしてきたので、片手を挙げてそれに応えてやる。
小さな公国の王子様、ではないが。リオセスリは別の意味で有名だ。
ストリートファイト、この辺りでは路上で行う格闘技が盛んであり、リオセスリは『メロピデ』と呼ばれるアマチュアチームへ所属していた。元々ボクシングが得意であったリオセスリはそこで日銭を稼いでおり、今のところ負け無しだ。将来はぜひプロの道へなんて嘱望されているが、リオセスリ本人としては、機械工の資格を取って小さな工場にでも就職できたら人生上々だと考えている。見た目に寄らず堅実、とはナヴィア嬢談だ。
「
……
王子様、ねぇ
……
」
生徒達の喧噪を遠くに聞きつつ、リオセスリは先ほど聞いたばかりの話をぽつりと呟いた。
昨日渡されたヌヴィレットからの手紙は、けっきょく受け取ってしまった。目を通さないのも失礼かと昨夜読んでみたのだが、途中で目を逸らしたくなってしまいそうなほど情熱的な内容だった。
ヌヴィレットがリオセスリを初めて見たのは、そのストリートファイトの最中であったらしい。軽やかに身を躱し重い拳を繰り出す姿が勇ましく、たとえ相手の拳を喰らっても不敵に微笑む姿へ一目で魅了されたのだと。思い出しても体がむず痒くなりそうだ。
だが、ヌヴィレットが愛を告げようと決心したのは、その次の出逢い。
「
…………
」
カサ、とリオセスリの足下へ風に吹かれた一枚の紙がぶつかった。それを拾い上げ風上へ目を向けると、慌てて紙を拾う生徒の姿があった。その光景を見て、リオセスリはようやく思い出した。
ああ、そうか。手紙に書かれていたあの話は、たしかこんなタイミングだった。
「──おい。落ちていたぞ」
慌てて紙を拾っている生徒、瓶底メガネが印象的なその男へ、拾った書類を手渡してやる。すると、書類を落としてしまったメガネくんはパッと顔を輝かせた。
「リオセスリ殿。すまない
……
二度目だな」
「
……
どうやらそうらしいな」
思い出した。
その時は何も意識していなかったが、言われてみればそうだ。以前もこうして、ヌヴィレットが落とした書類を拾ってやった。その時にヌヴィレットの掛けたメガネを見て『随分と目が悪いんだな』と、リオセスリは微笑んでいたそうだ。その笑顔に心臓を貫かれ、この人しかいないと告白を決心したのだとか。
この世にこんなに美しい人が存在しているのかと驚いた。とも書かれていたので、そうとう視力に問題があるか、レンズが曇っていたのかもしれない。そろそろメガネを新調した方が良いと、機会があったら勧めておこう。
するとふと、ヌヴィレットが一人で抱えるのには多すぎる量の書類を運ぼうとしているのに気が付いた。台車へ乗せてはいるものの、一人で運ぶには量が多すぎる。
「なあ
……
あんた、以前も一人でそれを運んでいたよな?」
「ああ、次の授業で使う資料だそうだ」
「次の
……
ってことは、この先にあるのは七番教室か。分かった、手伝おう」
リオセスリはそう申し出ると、山になった書類を押さえ付けながらヌヴィレットが押すペースに合わせて歩き始めた。そうしてスムーズに書類を運び終え、リオセスリはテキパキと教卓の横へ書類を積み上げる。
「よっし
……
終わったな。台車は置いたままで良いのかい?」
「う、うむ。感謝する、リオセスリ殿」
「ハハ、いいって。いつもあんたが当番なのか? 他の奴等は?」
「力仕事には慣れていない者が多い。私はよく島民の漁を手伝っていたからな」
そうだった。アカデミックコースへ通うのはお坊ちゃま、お嬢様ばかりだ。台車を押すなんてとんでもない。残念ながらそんな箱入り揃いのようだ。
メガネくんが案外力持ちであるのは知っていたが、そうか。王子の立場でありながら漁に出る姿が想像できないなと笑いを噛み殺しつつ、ヌヴィレットの肩をポンと叩いた。
「労働した後だ。昼飯はたっぷり食べておけ」
「昼飯
……
ああ、そうか。リオセスリ殿、また例の場所で昼食を摂るのだろうか?」
「ん? ああ、そのつもりだ」
「私も共にして良いだろうか? 今日は弁当を持参している」
「あんたも?
……
まあ、かまわないが
……
」
告白を断ったばかりでやや気まずい空気はあるのだが、友人になりたい、と言うのは本当らしい。それならば断る理由も見当たらず、ランチタイムを共にするイベントが始まってしまった。
春を運ぶ風の匂い。暑くも寒くもない心地良い大気と、新緑の眩しさ。中庭中央にある大きな噴水の音を聞きつつ、リオセスリはヌヴィレットの弁当から目が離せなかった。
「
…………
すまない。それは、食べ物かい?」
「これか? ああ、大陸の人間には珍しいかもしれないな。メリュシー村の特産物だ」
ゴソゴソとリュックから弁当箱を取り出したヌヴィレットが蓋を開くと、ショートケーキとステーキの匂いが周囲へ広がった。ランチにステーキとは豪勢だ、流石は王子。そう思いながら弁当箱の中身を覗いてみると、そこには紫や青色をした半透明の物体が詰め込まれていたのだ。可愛らしいピックやバランが添えられているところを見るに、これは本当に弁当であるらしい。
「へ、へぇ
……
メリュシー村の特産物は随分と
……
そのー
……
毒物
……
個性的なんだな」
「そうだな。君もひとつどうだろうか?」
ヌッ、と。青い球体が三個刺さったピックをひとつ差し出され、リオセスリはつい身構えてしまった。どうしてこの球体からスペアリブの美味しそうな匂いがするのだろう。恐る恐るそれを受け取り、球体とヌヴィレットの顔を見比べてみる。
「
……
食べ物、なんだよな?」
「ああ、そうだ。源水の雫、滋養強壮の効果がある。私はそれを爆発で六個、スキルで三個生成できる」
「ば、爆発?
……
滋養強壮ね。体には良さそうだな」
「うむ、ぜひ食べてみてくれ。その舌で転がし、咀嚼し、君の体内へ
……
」
「
…………
」
どう見ても虫やクリーチャーにしか見えない貝や植物を、最初に食べてみようと思った人を心から尊敬する。だが、もしかしたらそれらと同じく、食べてみたら意外と美味しいとかも有り得るだろう。ここは勇気を出して食べておくべきかと、リオセスリは球体を一つ口に入れてみた。
「
…………
」
「
……
どうだろうか?」
「
…………
」
味がしない、虚無だ。匂いは間違いなくスペアリブなのに、もきゅもきゅと味がしないグミを噛んでいる感覚だ。食べられはするが、進んで食べたい物でもない。
「
……
斬新な味だな」
そう感想を述べるのが精一杯だった。だが、ヌヴィレットにとってはとても嬉しかったのか、ぱあっとメガネを輝かせる。
「そうか、それは良かった。遠慮無く食べたまえ、さあ」
「お、俺はサンドイッチがあるから
……
肉体労働した後だから腹が減っているだろう? あんたが食べるといい」
「
……
私の健康を気遣ってくれているのか?」
「当然だろう。ほら、早く食べないとランチタイムが終わってしまうぞ」
「うむ
……
」
他人に労われる事に慣れていないのか。ヌヴィレットは少々照れた様子で虚無弁当を食べ始めた。王子と言う立場ならば他人にかしずかれる事には慣れているだろうに、面白い男だ。漁をしたり、弁当を持参したりと。
「あんがい庶民的な王子様なんだな
……
」
「む? ああ、私の話か。そうだな、王子と言っても肩書きだけにすぎないが」
「ぁ、おっと
……
すまん」
無意識に声に出でしまったか。偶然耳にしてしまったとは言えど、他人から踏み込んだ話をされるのは気分が良いものではないだろう。そう素直に謝罪を述べたが、どうやらヌヴィレットはあまり気にしていないらしい。
「謝罪は必要ない。先ほど述べたように王子と言うのはただの肩書きであり、私はただの一学生にすぎない」
「すまん
……
偶然聞いてしまったんだ」
「構わない。君には隠し事をしたくない。君と私は友人なのだろう?」
そうどこか嬉しそうに友人と口にしてくれた優しさにホッとし、リオセスリも「そうだな」と苦笑を零す。ぐるぐるメガネくんは誠実なだけでなく、優しい男でもあるらしい。その優しさに甘え、リオセスリは上手く話を切り替えてやった。
「メリュシー公国だったか? 随分と遠い所から留学してきたんだな」
「うむ。絶海の孤島ゆえ、船で十日、ここまでは更に列車と飛行機を乗り継ぐ必要がある」
「十日!? そりゃ遠いな
……
」
王族の嫡子が市井の生活を学ぶ為に一般の学校へ通うのは珍しい話ではない。それにしても随分と遠方から来たものだ。ヌヴィレットは珊瑚みたいな物体を口へ運び咀嚼しつつ、小さく頷いた。
「だが、海の美しい島だ。近年は観光業にも力を入れている」
「へぇ
……
綺麗な海か。シュノーケリングとかも楽しめそうだ」
「いつか君も来てくれ。私が案内しよう。私は泳ぎが得意だ」
「はは! 海の子だな、さすが」
「ああ。美しい海を君にも見せたい」
随分と視線に熱が籠もっている気がするが、ポポポポ
……
とメガネの奥から飛んでくるハートは得意のディフェンスでそっと避けておこう。
「
……
──君が初めてだ」
「んっ?」
「こうして誰かとランチを食したり、下心なく故郷の話を聞いてくれたり。それに君は、見返りを求めず二度も私へ親切にしてくれた」
生まれる場所を選ぶことは出来ない。確かにそれは正論なのだが、良い家柄に生まれたから幸福かと言えば、残念ながらイコールではない。王子には王子様なりの気苦労があり、その立場から遠巻きにされ叶わなかった事も多いのだろう。
人付き合いが苦手。それ故に、ヌヴィレットはひとり遠く故郷を離れ人が嫌がる力仕事をし、一人でランチを食べてきたのかもしれない。
「
……
そりゃ、誰かが困っていたら手を差し伸べるだろ。俺にできる範囲だけだがな」
「それを実行できる者は数少ない。君の美点だ、誇ると良い」
「ハハッ! 持ち上げてくれるねぇ。えーと、ヌヴィレット、さん?」
「ああ」
「ここは静かで俺のお気に入りの場所なんだが、たまに話し相手が欲しくなる時があるんだ」
「うむ
……
」
「明日もここでランチをしてみてはどうか? って、提案さ」
すると、意味を理解したらしいヌヴィレットがパッと顔を輝かせた。このヌヴィレットの素直な反応は嫌いではない。ご飯の時間を察した猫みたいでとても可愛らしい。
「分かった。明日はおかずを多めに持ってこよう」
「
……
えーと
……
それは遠慮しておくよ。弁当はいつも自分で用意しているのかい?」
「いや、定期的にシグウィンが
……
同じ故郷出身の者なのだが、彼女が届けてくれている」
「ああ、知り合いがこっちにいるのか」
「ああ。シグウィンは医療従事者で、私の健康管理を担当してくれている」
「医療従事者か。そういや、俺がたまに世話になるクリニックにも面倒見の良い看護師長がいて
……
」
そんなこんなで、地上最後の楽園、絶海の孤島。小さな国の王子様は、メガネが分厚くて人が良くて、ちょっと変わった弁当を持参してくる面白い奴だと知った。付き合うとか恋愛とかは別の話だが、これは良い友人になれそうだ。
ぐるぐるメガネの地味男くんと、ストリートファイト界の若きエースくん。正反対の世界で育った二人が、あの日あの時同じ場所で巡り会い、小さな友情が芽生え始めた。
メガネくん曰く、結婚を前提に、だ。
【2凸へ続く】
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