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丹羽
2025-03-10 18:28:21
9734文字
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眠る貴方に目覚めの口づけ/マレ監
普通に出遅れたので支部ではなく一旦ここに
・性別不明隠キャ監督生
・登場する全てのキャラ同士で恋愛感情がありませんがタイトルから察せるようなキスがあるのでタグはこうなってます
・唇同士以外のキス描写が複数あります
・捏造多数
・ダメそうな人の閲覧はオススメできません
・読んだ後の苦情は受けられません
・無断転載とAI学習は厳禁です。
タイトル詐欺のギャグ寄りです。
7章Chapter11までの状況を反映して書いてますので本編と多少齟齬があります。
眠る貴方に目覚めの口づけ
丹羽
「なぜじゃ
…
なぜ目覚めぬ
…
マレウス!」
リリアの悲痛な声がディアソムニアの談話室に虚しく響き渡った。
世界に名だたる魔法士であるマレウス・ドラコニアのオーバーブロットは、存在するオーバーブロットの記録の中でもずば抜けた保持時間を誇る世界規模のオーバーブロットとなった。
非政府組織ステュークス、マレウスの故郷茨の谷の王室、そして現場となった賢者の島のナイトレイブンカレッジの生徒達のおかげで、なんとか犠牲者を出すことなくオーバーブロットを収束させることができた。
現場となったナイトレイブンカレッジの亜空間の一つのディアソムニア寮は今、真に現場を収めるべく、関係者が慌ただしく歩き回っていた。
教職員達が生徒の無事を確認する動きの中で、マレウスの同級生であり、彼のお目付役でもあるリリア・ヴァンルージュの声は震えながらもよく通った。
「ああ、マレウスの魔力がこんなに弱っとるのに、今のわしにはマレウスを助ける魔力がない
…
」
「リリア様!!お気をしっかり持ってください!!!」
「そうです親父殿、俺たちの魔力をマレウス様に譲渡します、微々たるものですが、きっとお役に立てるはずです!」
弱々しく呟くリリアの両隣を後輩にしてマレウスの護衛であるセベク・ジグボルトとシルバーが支え、激励する。
激しい戦闘でボロボロの2人が、我が身を厭わず魔力をマレウスに注ごうとするのを、不意に小さな声が止める。
「
…
む、むむ、無理せんでも
…
同じ微々たるものなら、こ、これを、使って
…
くだ、さい」
三人が振り返った先には、マレウスと同じナイトレイブンカレッジの寮長の立場であるイデア・シュラウドが、見慣れぬ白色の魔法石を持って立っていた。
その足が震えているのは、同じく彼も巻き込まれた戦闘の余波だろうか。
「イデアよ、それは?」
「え、と
…
」
ナイトレイブンカレッジの生徒には馴染みあるイデアのタブレットが浮かび上がると、宙の盤面を叩くイデアの文字を流暢に読み上げた。
『これはオーバーブロットした対象の精神、身体状態を改善する為にステュークスが開発した擬似魔法石。
マレウス氏のMP回復チート能力でなら通常より早く効果が出るはずなので、彼の手に握らせてもらっても?』
「なるほど。イデア先輩、感謝する」
「
…
あ、
…
ス
…
」
受け取りに来たシルバーに魔法石を渡すと、イデアは近くの談話室のソファに腰かけた。
「マレウス様、失礼します」
セベクとシルバーは二人がかりでリリアのもとからマレウスを運び、これまた手近な談話室のソファに横たわらせると、擬似魔法石を手に握らせてハラハラと経過を見守る。
その二人とマレウスの様子をイデアもまた、少し離れたところから静観していた。
一度マレウスをセベク達に任せて、寮生の安否を副寮長として確認したリリアの戻る頃には、心なしか顔色こそ良くなっていたが、依然として目覚める様子はなかった。
「ふーむ
…
」
リリアは遠慮なくマレウスに触れ、何かを確認する仕草をすると、おもむろに声をあげた。
「こりゃもう、真実の愛しかないのぅ!!」
📖
(はあぁ〜〜〜〜〜〜!!????????)
イデアは全力で叫んだ、脳内でだが。
(リリア氏が急にバグっておられるのですが〜〜〜〜〜〜?????????????
オーバーブロットして目が覚めないことと『真実の愛』になんの関係が??????????
まっったく意味がわからんのですが!!??
というかそもそも、父さんにオーバーブロット対象者、つまりマレウス氏の経過観察を頼まれて、オルトに寮生の安否を頼んだらそのあとは父さんの所に行くって言うし、拙者一人でこのディアソ時代劇見守るのハード過ぎん?
って思ってたら予想外に難易度跳ね上がりの気配〜〜〜〜〜!!!!?)
イデアが脳内だけで騒がしくしている間にも、リリアの独壇場は粛々と進行する。
「り、リリア様?それはどういう
…
?」
「お主ら、ドラゴンの妖精、つまりマレウスの誕生に何が必要かは、もう知っておろう?」
「
…
親の魔力と愛情」
「そして真実の愛
…
ですが」
怪訝そうな顔をしつつも、二人はハッキリと答えた。
「そうじゃ!そして
…
目覚めぬマレウスにも同じ方法が有効な可能性は?」
「!なるほど!さすがはリリア様!!もちろんあり得ますとも!!」
「
…
何もしないよりは、絶対によいですね、親父殿」
「じゃろ?」
(ひ、非科学的〜〜〜!!!)
イデアは今度はひっくり返った、もちろん脳内でだが。
(やはりディアソムニア、尽く脳筋がすぎる
…
!!マレウス氏がまだ目覚めないのは、そもそもの魔力量と今回の件での消費量が普通の魔法士とは段違いだから、いくらMP回復持ちチートにバフかけても回復に時間がかかるのは当然であって
…
)
それくらいわかるだろ、と言葉の替わりに睨めつけても、希望を見出した三人は止まらない。
「よーしわしの出番じゃな!?真実の愛がないと孵らないマレウスの卵を孵したのが誰じゃと思っとる?ま、正しくはわしとマレフィシア様じゃが
…
」
「リリア様がマレウス様への愛を示して、上手くいかないはずがありません!!」
「ちょっと待っとれお主ら!」
リリアは意気揚々とマレウスの側にしゃがみ込むと、前髪をかきあげ額の甲殻に唇を落とすと、すぐに顔をあげてマレウスの目の開くのを待ったが、時間が経つ程にその顔は再び曇っていく。
「
…
絶対いけると思ってたんじゃが
…
ちょっと恥ずかしくなってもうた」
「な、なぜマレウス様は目覚めないのでしょうか!!?」
「
…
親父殿だけでは足りない、という事でしょうか?」
「はっ!!それじゃシルバー!!」
照れてマレウスの胸元に顔を伏せていたリリアが、背後のシルバーの呟きに飛び起きる。
「そもそも、わしの今回のアイデアにはちゃんと理由があるんじゃ」
「そう
…
なんですか」
(いやそういうソースは先に示すべきでは?というかシルバー氏、ちょいちょいリリア氏のこと『親父殿』と呼んでいますがどゆこと?誰もツッコまないからめっちゃ気になる
…
)
聞き耳をたてるイデアの心のツッコミをよそにリリアは話を続ける。
「昔、マレウスが全然起きてこない日があっての?わしもマレフィシア様に呼ばれて、どうもマレウスが成長期に差し掛かっていて心身のバランスが悪くなり、目を覚ます事ができないのだと説明された。それでマレフィシア様に続いてわしもキスしてやると、マレウスは目覚めた、それで今回もそうだとばかり
…
」
「そんな事が
…
」
「まあ、お主らの生まれるずっと前の話じゃ」
イデア的にディアソムニアメンバーの会話には疑問とツッコミ所しかない勢いであったが、ここで遂にその心のツッコミが決壊し、イデアの青い唇の隙間から遂に心の声が漏れ出した。
「いやリリア氏お幾つでいらっしゃるん?」
「リリアならもうすぐ700歳らしいわよ」
「ひょわっ!」
そしてそれを偶然聞き取ったヴィルが返事をするものだから、コミュ障とビビリのフル発動となったイデアは今度ばかりは物理的に飛び上がってしまった。
「ヴィ、ヴィヴィヴィル氏、急に話しかけんでくだされ
…
!
…
って、え?
…
今の話マ?」
「リリアの年齢?ええ、本人に聞いたから間違いないわよ」
「な、700歳
…
?あの、え?」
「
…
まあ、そういうリアクションになるわよね。もともと同級生とは思えない発言はたまにしてたけど、まさか嘘でも冗談でもなかったとはね」
ヴィルはどこか遠い目をすると、イデアと同じソファの反対側に腰かける。
「な、なんでヴィル氏まで座るんで?」
「アタシ、マレウスのせいで仕事に穴開けちゃったの。
完っ全に事故でアタシに非はない。とはいえ文句は言わせてもらわないと」
「り、寮長の仕事は
…
?」
「寮生の顔なら全員確認したし、そっちはルークに一旦託してきたわ、アンタもそうでしょ?」
まだ何か?と言わんばかりの世界が認める美貌に物申すこともできず、顔がいい自覚のないオタクは再びソファの隅に縮こまった。
(圧つよ
…
)
心の中でこの3倍は文句を言いつつディアソ時代劇の様子を見ると、リリアがセベクをマレウスのもとへと引っ張っている。
両者疲労困憊とはいえリリアの細腕に抵抗しかできないセベクは、700歳の老獪と知らねば奇妙な光景に他ならない。
「よしセベク!いっちょ、ぶちゅっ!とやってやれい!」
「ぼ、僕がマレウス様にキキキキスなど、そんな、恐れ多い!!!!!!!!!!」
「ひっ!」
轟くセベクの叫び声に、再びイデアはソファにて跳ねた。
(セベク氏は雷の擬人化かなんかか!?あ、ユニ魔もそんな感じだったデスネ!?)
幸いディアソムニアの談話室の人影も今は少なく、隣でヴィルが呆れた顔をする以外に誰もイデアの奇行には目を向けていないようだ。
「いくらリリア様の頼みでも、それは、さすがに
…
!!」
「セベクよ、真実の愛とは御伽噺だと恋愛感情として描かれがちだが、わしはそれだけではないと考えておる。
親子や家族の愛、友愛、親愛、敬愛
…
愛の形は様々じゃ。
そしてお主のマレウスへの深い敬愛を、わしはよく知っておるぞ」
「
…
」
リリアの真剣なトーンを聞いたセベクは苦悩の表情を浮かべながらも膝をついて、目覚めないマレウスの右手をそっと取った。
「
…
僕は、いつの日か王に即位したマレウス様の、その御前に跪き、幼い頃に本で読んだ騎士の忠誠の誓いをさせていただくのだと
…
そう夢見て、日々鍛錬を欠かさずにいます。」
未だ叶ってはいない夢を、セベクは静かに口にする。
「今回、マレウス様がオーバーブロットするほどにお悩みでいた事に、僕は全く寄り添って差し上げる事ができなかった
…
そんな僕ですが、この夢を諦めないと、そう誓ったんです」
勝手な振る舞いをお許しください、と呟くと、セベクはマレウスの手の甲に口づけた。
「手袋越しかい」
「その、直接はさすがにご勘弁を
…
!!」
「
…
うーむダメじゃな、シルバー、次はお主もじゃ」
リリアがセベクを引っ張るのも常のようにぼんやり見ているように見えたシルバーだが、この事態の中、珍しく日頃のように眠ることなく何かを考えているようだった。
「目は覚めとるの」とリリアに運ばれるのも無抵抗に、シルバーはマレウスの前でまだ考え込んでいる。
「
…
俺は、今回己の出自を知って、正直今迷っています。俺が
…
このままマレウス様のお側にいて良いのかと
…
」
「
…
シルバー
…
」
聞き耳をたてるイデアはシルバーの出自と聞かれてもさっぱりわからず、というかここまでわからない情報ばかりなので『ナニソレだけど詳しく聞くのは躊躇われるリスト』が更新されるばかりであった。
(なぜリリア氏を『親父殿』と呼ぶのか、なぜ夢の騒動からご自身の出自の話になるのか、そもそもマレウス氏の卵生ってのも「さよか」では済まないし、ドラゴンの妖精の孵り方も謎しかないし
…
)
念の為隣のヴィルの様子も伺ったが、ヴィルもまた怪訝な表情なのを見て諦めの姿勢である。
(今回のディアソ時代劇、いつにもまして難易度高いですな
…
)
「
…
なので俺は、真実を重んじます。俺がマレウス様の母君の仇の息子なのも真実ですが、マレウス様が親父殿と共に俺をここまで育ててくださった事も真実です。
俺は、貴方に報いたい
…
!今はそう思う自分の気持ちを優先します」
失礼します、とシルバーは目覚めぬマレウスの左手をとってその手の甲に口づける。
(情報量〜〜〜気になる情報が多すぎる!!経過観察のために必要そうなその話kwsk!ってしたいところだがコミュ障には荷が重すぎる〜〜〜!!!お前には関係ないだろって言われそう!!!セベク氏とかに大声で!!!)
オルトはよ
…
と願うイデアの念は届かず、そしてシルバーの口づけを受けてもなおマレウスは眠り続けるばかりである。
「ふぅむ、セベクやシルバーでも足りぬとなれば
…
!」
リリアは顎に手を当て少し悩むと、立ち上がって振り返り、近くのソファに座るイデア
…
の向こうから、この空間のここまでの様子を気にしていたある存在に声をかける。
「そこな監督生!力を貸してくれぬか!」
「は、はい?自分ですか?」
「ちょっとマレウスにキスしてやってくれんか」
「「「は!?」」」
⌘
「いやちょっと待ってくださいキスってそんな」
「ずっと様子を伺っておったのは知っとるぞ?話はわかっているはずじゃ、ほれ!」
イデアにも身に覚えのありすぎる長文早口で困惑の言葉を呟く監督生を、その腕の中でスヤスヤ眠るグリムごと片手に容易く抱えると、スタスタとリリアはマレウスの元へ戻ろうとする。
「そっちは知っててもこっちは聞いてないんですけど!?」
「ヴァンルージュ先輩!ちょっと説明してください!!」
監督生とグリムがディアソムニア寮に残っていることに気がつき、ハーツラビュルからわざわざこちらに戻ってきたばかりのエースとデュースもまたリリアに攫われる監督生を追いかけて、マレウスの眠る周囲は急に賑やかになってきた。
「しょうがないのう」
リリアがエースとデュースに一応説明する中、イデアの興味はこの場に急に飛び込んできた、というか飛び込まされた監督生に向く。
(監督生氏って、ここでリリア氏に選ばれるって事は、マレウス氏と仲良かったりする?意外な交友関係ですが、監督生氏って陰キャのわりに人当たりは良いですしな
…
。
そもそも今回の騒動でステュークスが夢の中で異なる動きをしているシルバー氏達を捕捉した時、既に監督生氏とグリム氏は同行していた。時間の余裕もなかったからあんまり詳しく聞かなかったけど、前にグリム氏のために嘆きの島に飛び込んできた事を思うと、マレウス氏のために夢を駆け巡ってたんか?
…
護衛?のシルバー氏やセベク氏はともかく、友達のためだなんて監督生氏、お人好しにも程があるのでは?)
イデアが彼にわかる情報を結びつけて一旦の推測を組み立てている間に説明は終わったようだが、エースと特にデュースは何が何やらという顔である。
(でしょうな、わかるわけがない)
「まあともかくちょこーっと監督生にキスしてもらいたいだけじゃ!痛いことさせるわけではないぞ?」
「本当勘弁してください自分はそんな気軽にキスする文化圏の出身じゃないし恋愛経験もないのでちょっと異文化のお役に立てそうにないと言いますか」
「でもお主しかあてがないんじゃ、頼む!人助け、いや妖精助けじゃと思ってくれ!」
監督生はリリアに顔を向けられるたびに早口長文を繰り返して抵抗を見せるが、グリムもその腕からシルバーの元へと移され、グイグイマレウスの元へと引きずられてしまう。
「あああ心の支えの親分がぁぁああ」
「頼む!唇じゃなくてええんじゃ!」
「でもコイツ嫌がってますよ?」
口を挟みつつ、物理的にも間に入ったのはハートの一年坊だった。
スペードの一年も続いて、監督生とリリアの間にトランプの壁を作る。
「ヴァンルージュ先輩!ユウがここまで嫌がってるのに無理強いしないでやってください!」
「でもわしマレウスが心配なんじゃよ〜早く目覚めるならそれに越したことないじゃろ?」
わざと泣きつくような仕草を繰り返すリリアに意外な方面から静止がかかる。
「リリア様、僕もマレウス様のことは心配でなりませんが、ユウの奴かなり嫌がってますので、その辺りで
…
」
「は?なんでセベクがユウの味方すんだよ?ていうかいつもの『人間!!』とかの勢いはどうしたわけ?名前呼びしてるし」
「貴様!!そこはどうでもいいだろう!!?」
エースがセベクの態度が軟化してることに違和感を覚えて噛みついて怒鳴り返されるが、マブ達以上に事情を知る、端から見ているイデアにしてみれば、
(そりゃ、あれだけ夢を一緒に巡れば、友情が芽生えることは漫画でもよくありますしおすし)
気になることもないほどわかりやすい話だった。
「ねぇ、そこの小ジャガになんとかできる可能性があるならやらせてみなさいよ」
しかしここで更に意外な方面から援護が入った。
イデアの座るソファの反対側からサッと立ち上がると、高らかにヒールを鳴らしてその存在感で場を掌握したのはここまで静観を貫いてきたヴィル・シェーンハイトである。
「ヴィ、ヴィヴィ、ヴィル先輩までそんなご無体な」
「別に頬にキスするくらい大したことないでしょ?それともアンタ、このアタシにキスされた名誉を忘れたの?」
「な!?」
「「は!?」」
「「え!?」」
マレウスの眠るソファの手前で途方に暮れて座り込む監督生が、その隙なく美しい指に顎クイされて赤面する中、マブ達は怪訝な表情を、リリアとセベクは意外な表情を見せる。
「ふふ、あの時もそうやって真っ赤になっちゃって、さぞウブなんでしょうねとは思ってたのよ」
「ちょっとヴィル先輩、今のどういうことなんすか?」
「か、監督生、し、シェーンハイト先輩とそういう事に
…
!?」
つられて真っ赤になるデュースに慌てて監督生は早口長文で言い訳する。
「違う違う違う確かに賜ってはしまったけれどあれは感謝のキスでエペルやルーク先輩も貰ってたし別に自分ごときがどうこうなるとか本当に解釈違いでして」
「じゃあマレウスにもそうしてやってくれ!された事あるならいけるじゃろ!」
「ひええええ」
そしてこの援軍を逃さぬリリアは、マブ達がヴィルに詰め寄ったわずかな隙間から監督生の隣に詰め寄る。
悲しいかな、マブ達は急に放り込まれた『ヴィル先輩が監督生(とエペルとルーク)にキスした』という情報の処理のためにヴィルの方へと行ってしまい、監督生を守るのはリリアの横からなんとか穏便にと試みるセベクだけになってしまった。
マレウスの眠るソファの周囲で、唯一場を俯瞰できそうな立ち位置に残り続けたイデアは、この混沌の原因を正確に把握していた。
(ヴィル氏って寮長会議とかでも話が停滞すると、わりと強引にでも話を進めようとするタイプですし
…
マレウス氏の起きるのを待ってるのが焦れてきたんでしょうな
…
それに芸能人としてキャリアを積んでるヴィル氏にしたら、キス程度なんてことないでしょうし
…
なんか芸能人て挨拶のキスしてるイメージある)
イデアの中の芸能人のイメージに若干偏りはあるかもしれないが、ともかくそんなイデアの視線の先で逃げ場を失った監督生は
「
…
だ、ダメでも恨みっこなしですよ
…
」
と背後のリリアから逃げるに逃げられず、おそるおそるマレウスの右頬に唇を寄せた。
チュッとリップ音が小さく鳴るや
「ヒェッ!?なんか音響いた気がする!!?」
と飛び上がった監督生は、どさくさに紛れてリリアの手を逃れ、隠キャ特有の謎の逃走力でソファの背もたれに隠れてしまう。
しかし今やその場の誰もが、俊足で逃げる監督生よりもマレウスに注目していた。
周囲の視線を一身に集めるマレウスの目蓋が、音もなくスッと開く。
「マレウス!」
「「マレウス様!!」」
ディアソムニアの三人は歓喜に叫び、
「あら」
ヴィルはあっさりとした反応を見せ、
「「え?」」
「
…
マ?」
エースとデュースのイデアの困惑が同時に溢れる。
(は??うっっっそでしょ!!?え???こんな早く目覚められるわけがない!!賢者の島周辺を丸ごと覆う超巨大魔法領域を一週間ぐらい維持してたのに魔力も精神力も限界じゃなかったってこと!!?どんっっだけチートなのマレウス氏!!??)
イデアが困惑しながらも分析する中、号泣するセベクの泣き声が轟く。
「ま、マレウスさま、よくぞごぶじでぇぇぇ」リリアの隣でおいおい泣き始めるセベクを、反対側からシルバーがグリムを抱えるのと反対の手で慰める。
賑やかなセベクの隣からマレウスの前に座ったリリアは、安心した様子で話しかけた。
「マレウス、調子はどうじゃ?」
「
…
リリア?僕は一体
…
お前の送別会に、僕は間に合ったのか
…
?」
「間に合ったぞ、まぁすぐにお主がオーバーブロットなんぞしよって、今までずーーっと大騒ぎじゃったがな」
オーバーブロット直後にはよくある記憶の混濁を見せながら身を起こすマレウスに、リリアがひどく淡々と語りかけているのが印象的だったと、イデアは後になって思う。
「
…
オーバーブロット?僕が?
…
そうか、お前がいうなら、そうなのだな
…
」
意外にもマレウスは淡々としたリリアの言葉を素直に受け入れる。
(記憶は混濁してるみたいなのに、あんなに素直に受け入れられるもんなのか?
…
いや、あれはそれだけリリア氏を信頼してるるということ
…
?)
「
…
それで、僕はこれからどういう処分を受けることになる?」
「え?」
「
…
うーむ、そこは気になるんじゃが、今回の戦闘の中でミスティウム製の新たなる武器を使う機会があった。
おそらく茨の谷は既に今回の件を知っておる」
「
…
つまり、お祖母様のお怒りは確定か
…
それは、相応の覚悟をせねばならないな
…
」
『処分』という穏やかでない発言に唯一の聞き手状態のイデアが声を漏らすも、それに反応する者はいない。
「まあ案ずるな、とにかくお主が生きておればなんとでもなるわっ!」
「っ!?
…
痛いぞリリア」
バシッ!と大きな音を立てながらリリアに右肩を叩かれたマレウスが顔を顰めるのと、リリアがマレウスに抱きつくのは同時だった。
「
…
無事でよかった
…
本当に
…
」
「
…
リリア
…
っ
…
」
少し困惑しながらリリアを抱き返したマレウスがその肩口に擦り寄って涙を流すのを、イデアは確かに見た。
(
…
レアスチル回収っと
…
やれやれ、そろそろヴィル氏が文句を言い出しそうだし、拙者もそこに便乗しますか)
ステュークスへの報告をタブレットに書き込みながら先を思考したイデアが、一旦役目を完了したタブレットから顔をあげると、マレウスを抱きしめたリリアがその耳に何かを囁いている。
(
…
?)
そのリリアの横顔が愉快げな事に違和感を感じたイデアが再び静観の姿勢に入ると、リリアとの抱擁をといたマレウスがまだ泣いているセベクとそれを慰めるシルバーに声をかける。
「セベク、シルバー。僕の為に頑張ってくれたそうだな。礼を言うぞ。」
「お、お礼など、若様がご無事なら、僕はそれで、それだけで
…
!」
「勿体ないお言葉です、マレウス様
…
!
よかったです、本当に
…
」
セベクの涙が止まるどころか、シルバーまで膝をついて一緒に泣き出すものだから、リリアはシルバーの涙に濡れないようにグリムを近くに寝転がすと、二人をしっかりと抱きしめた。
「よう頑張ってくれたの、二人とも、立派じゃったぞ」
「リリアさま
…
!」
「親父殿
…
!」
涙の乾く間もない部下達を見つめるマレウスが、ふと自身の座るソファの背後の物音に気がつき、覗き込むと、この感動的な流れに気づかず身を縮こめる監督生がいるではないか。
「おやおや、僕を目覚めさせた人の子がこんなところに」
「つ、ツノ太郎!目が覚めたの!?」
頭上から降る声に驚く監督生がソファの背もたれから顔を出した。
「ああ。聞いたぞ、お前の真実の愛が僕を遂に目覚めさせたと」
「めっちゃ語弊ある説明!その前にリリア先輩もセベクもシルバー先輩もキミにキスしてる!」
「ああ、勿論それも聞いたとも」
珍しく目線の近い監督生の顎をマレウスが抑えた。本日2度目の顎クイである。
「しかし困っていたそうじゃないか。僕の為にすまなかった。責任をとってやろうな」
またも真っ赤になる監督生だったが、今回は負けじと言い返す。
「いやツノ太郎元気じゃん!からかわないでよ!!」
⌘
「
…
結婚式でもないのに人前でキスできるリア充も怖いんだが、いまこの場で一番怖いのはマレウス氏をツノ太郎とかいうダサくて不敬の極みみたいな呼び方して平然と会話を続ける監督生氏では
…
?」
全ての流れを傍観していたイデアのもっともなツッコミだけが、虚しく響いた。
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