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ヒナツキ
2025-03-10 15:16:12
6527文字
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宗さにファンタジーパロ3
・自我夢注意
・侍女本人はこれで力を隠しているつもりでした
・侍女の描写には宗三さんによる分厚いフィルターがかかっています
・国王が出てきませんが、火龍とかと契約しているんだと思われ。本当に必要なときにしか動かないタイプのパパ
・この国における『神』は王族でも接触できない上位の精霊を指します
・一番書きたかったところを書けて満足
・次回で一旦の締めとして、その後の展開はダイジェストでお届け。番外編や初夜編は書きたいなと思っております!
空が真っ赤に染め上げられていた。まるで夕焼けのように。
「西へ逃げろ! 風上へ!」
兵士たちの声が熱風に巻かれている。
「こっちだ! 大丈夫だ、落ち着いて移動しろ!」
人々は恐怖に顔をこわばらせながらも、部隊の迅速な働きにより順調に避難を続けていた。ある者は荷物を大切そうに抱え、ある者は子供の手を引き、ある者は老人を背負って。
「こっちです!」
人々の進む先、両手を大きく振る細身の少年が塀の上に立っていた。高く結い上げた蒼髪が動きに合わせてぴょこぴょこと揺れている。
「皆さんの命は必ず僕たちが守ります! だから安心して、落ち着いて避難してください!」
小夜様だ、と誰かが声を上げた。第三王子の小夜左文字。王子が自ら街に降り立ち、兵士たちと共に民を助けに来たのだ。
その事実に励まされ、人々は懸命に避難場所を目指していった。
────時刻は二時間ほど前に遡る。
「
……
ふう」
公務の書類に一通り目を通した宗三は息をつきながら背筋を伸ばした。ふと窓を見やればそよ風と共に一匹の蝶が入ってくるところで、宗三の周りをゆるく旋回してから指先へととまる。
「お前たちも少しは落ち着きましたか?」
宗三の問いに蝶は翅を震わせた。蝶たちが彼女に付き纏って離れようとしないという報告を侍女頭から受けて、まさかと軽く両眉を上げて気配を探ってみれば確かに蝶たちははしゃいでいて、慌ててやめるように命じたのだ。
「少し
……
いえ、だいぶ浮かれていたようですね」
宗三は眉尻を下げて苦笑を零した。
昨日、強い力を持つ精霊と念願の契約を結んだ。それで開かれた祝賀会で彼女は給仕をしていて、宗三は自ら赴いて「アドバイスをありがとうございました」と声をかけた。
「今回の成功は貴女のおかげです」
「いえ、宗三様のお役に立てたなら何よりです」
頬を染めて嬉しそうに侍女は微笑んだ。その笑顔に胸が温かくなって、仕事に戻ろうとする彼女をつい引き留めてしまった。
彼女の声、態度、纏う空気。それらが心地よく、好ましい。
日頃からそう感じていて、何かと彼女に用事を頼むことが多かった。もちろん、周囲に贔屓と取られて彼女に不利益が及ばないように細心の注意を払ってだ。だが、このときは大きな勤めを果たした高揚感が優っていたのだろう。
「ヒナツキ。どうか僕と、結婚を前提に付き合っていただけませんか」
気がつけば、彼女に膝をつきこう告げていたのだった。
「ひどく驚かせてしまいましたねぇ」
侍女は、数秒の硬直の後に逃げ出した。『脱兎の如く』ってこういうのを言うのですねと感心してしまったほどの逃げっぷりであった。
「彼女の方も憎からず思ってくれているだろうと思っていたのですが
……
。まぁ立場もありますし、唐突すぎたのは僕の落ち度ですよね」
指先の蝶が言葉を介さないのをいいことに独り言を続ける。彼女の気持ちが落ち着くまでそっとしておこうと思っていたのだが、眷属を制御しきれずに迷惑をかけたとなっては一言だけでも謝るべきだなと考え直した。ついでに、返事は待つつもりだからゆっくり考えてほしいと伝えることができれば
……
彼女は休みを言い渡されてしまったそうなので、使用人宿舎の方を尋ねてみようと席を立つ。立場を考えるなら侍女を呼びつけるべきなのだろうが、国王である父からして豪快、自由奔放で「対外的にはちゃんとせえよ」と言うくらいなので、王子から侍女を訪ねることに苦言を呈する者はいてもそこまで問題にはならない。自分が言うのもなんだが、王宮内は大変大らかなのだ。
部屋を出ても蝶は付かず離れずの距離でひらひらとついてきた。────そういえば、とふと思う。
(あのときの応え方は
……
少し不思議でしたね)
アドバイスをありがとうと言ったときだ。侍女の受け答えが自然であったことと嬉しさで違和感を見逃していたが、彼女の立場からすれば「何のことでしょうか?」と聞き返されてもおかしくはなかった。
何故なら森の白狐との契約に難航していたとき、侍女はお茶の準備をしながら人伝に聞いたというどこかの貴族の婚約騒動の話を始めて、その話がどこか宗三の置かれていた状況と似ていたので勝手にヒントを得たからだ。
そう、勝手に。彼女にアドバイスの意図はなかったはずで、でも自分は彼女のおかげだと思ったから礼を告げた。それに対して「お役に立てたなら何よりです」と
……
(考えすぎでしょうか)
しかし彼女を不思議だと思ったのはそれが初めてではなかった。彼女は虫や小鳥などの小さな生き物たちと距離が近くて、まるで王族のようだと思ったことが何度もあったのだ。
生き物たちは王族の眷属となりうるため大切にされているのだが、一部の虫や蛇などに生理的な嫌悪感を覚えてしまう民も少なからずいる。王宮で働く者たちも例外ではなく、部屋に蜂が入ってしまっただの一階の窓に芋虫が貼り付いているだので悲鳴を上げる者がいた。
そんなとき、彼女が呼ばれる。
彼女は落ち着いた様子で生き物に声をかけ、外へと逃がすのが上手で────いや、逃し方が上手いのではなく、まるで生き物たちが彼女の言葉を理解しているかのように従うのだ。例えば彼女が窓を大きく開き、「ほら、こちらよ」と言うだけで蜂が出ていく、といった具合に。
実は王族の血筋なのでは、と秘密裏に調査をしてみたこともある。が、確証は得られず謎は謎のままだった。「たまたまですよ」と誤魔化そうとするので、踏み込まれたくないのだろうなと察してもいた。
(いつか話してくれるといいですね
……
)
生き物たちにかける声や差し伸べる手には温かな愛が満ちている。厚い前髪で隠されている瞳はきっと優しい色を湛えているのだろう。
その姿は、とても美しいのだから。
「
……
おや?」
宮殿の廊下を進み庭園に出て、もう少しで使用人宿舎へ辿り着くというところだった。
ずっと思考の中にいたその人が、誰かを連れてバタバタと駆けてくる。一緒にいるのは乱で、二人とも酷く慌てた様子だった。
二人の後を追うように飛んでいるのは一羽の鴉だ。まさか襲われているのか?! と身構えたが、違った。
「宗三様!」
必死な表情の彼女の肩にその鴉はふわりと着地した。
「火事です!!」
「
……
は?」
「城下で火事が起きてます!!」
「なんですって?」
情報量の多さに反応が遅れそうになったが、ただならぬ気配にスッと気が引き締まった。
「その話はどこから?」
「それは、その
……
ごめんなさい、言えません。でも本当なんです!」
「宗三様、どうかヒナツキの言葉を信じてください!」
「
…………
」
王宮内は、静かだった。長閑と言えるほど緊迫感が欠片もない。
つまり、そんな知らせは届いていないのだ。────それでも。
「わかりました、詳しく聞かせてください」
宗三はしっかりと頷いた。ここしばらく雨が降っていないのだ。もし侍女の話が本当ならば被害が拡大してしまうかもしれない。それに侍女の勘違いだったならば自分が責任を取ればいいだけだ。
侍女の話によれば火の手が上がったのは王宮の東側だという。よりにもよって古い寺院や木造建築が多数あるエリアだ。王宮に緊張感が漲った。
「第一部隊は消防団と連携して消火活動をしてください。第二部隊は民の避難誘導を、第三部隊は避難所の設置をお願いします」
宗三がてきぱきと指示を飛ばしていると城壁の見張り塔から火が目視されたと知らせが入る。
第三王子の小夜左文字、第四王子の大閤左文字も駆けつけ、それぞれ第二部隊と第三部隊に着くこととなった。
「充分に気をつけてくださいね」
「はい、宗三兄さまも」
「行ってきまぁーす!」
宗三は火災エリアから少し離れた寺院の塔へ移動した。ここからなら該当地域を見渡せる。
「第十二地区の避難が遅れています。人を回してください」
宗三は眷属を駆使しながら指揮を取り始めた。
「孔雀通りが混雑しています。鶲通りにも避難誘導を。風向きが変わりました。第十五地区も警戒、避難勧告を」
冷静に指示を出しながらも冷や汗が額を伝った。消防団と兵士たちによる消化活動が行われているが、強風が吹いているせいで火の勢いがなかなか収まらない。
(江雪兄さまがいてくださったら
……
!)
宗三は唇を噛んだ。第一王子である江雪左文字は霊峰の精霊である蒼象を召喚でき、蒼象の真名解放にも成功しているため蒼象の能力である吹雪の魔法を使いこなせた。しかし今は隣国へ外交に出ており国を留守にしている。
では、宗三は? 宗三は森の白狐との契約に成功したばかりだ。真名はまだ解明されておらず、白狐の能力を引き出すどころか把握すらできていない。江雪のような力があったならば、すぐに民を救うことができるのに
……
‼︎
────そのときだった。
「宗三様!」
一体どうやって駆けつけてきたのか。焦る宗三の背に声をかけたのは、侍女だった。
「ヒナツキ、どうして
……
! ここも安全とは言い切れません。すぐに王宮へ戻って────」
「宗三様、今すぐに白狐様を召喚してください」
言葉を遮って強く訴える。それは確信がある口調だった。
「白狐様の真名は『夕霧』、水を操る能力をお持ちです」
「
……
貴女、何故そんなことを知って
……
⁈」
「宗三、早く! これ以上被害が広がってしまう前に!!」
「
……
っ!」
聞きたいことは山ほどあった。が、今すべきことは侍女を問い詰めることではない。
すう、と宗三は息を吸った。
「白き獣よ、森の主よ。宗三左文字の名のもとにその御技を示せ」
床に光の陣が浮かび上がる。宗三の紋だ。
魔法陣から魔力の風が渦を巻く。その中心を見据え、宗三は言霊を放った。
「いでよ、白狐!」
白い光が溢れる。それは大きな獣の形を取り、細長い鼻先や尖った耳、優美な前脚が現れた。
三馬身はありそうな体躯だ。長い睫毛に縁取られた眼がすっと開き、淡い水色が宗三の姿を捉える。
────ここから先は、未知の領域。
宗三は声に魔力を込めて力強く言い放った。
「真名解放、『夕霧』!!」
白狐が驚いたように眼を見張る。
次の瞬間、白狐は天へ高く咆哮を上げた。雪のような毛並みが発光し、虹色の輝きを纏っていく。
白狐は顎を下げると、宗三ではなく侍女を振り返った。
『アナタが教えたのね、日与子?』
「⁈」
宗三は愕然とした。今、確かに白狐が言葉を発した。精霊が人語を使うなど聞いたことがない。
「ごめんなさい」
侍女は深く頭を下げた。
「あなた方の流儀を無視してしまって。でも、どうしても力を貸していただきたくて」
『まぁ今回はアナタに免じて許しましょう。それにワタシとしても、水の寺院が炎に巻かれることは本意ではない』
「どういう
……
ことです?」
乾ききった唇でなんとか疑問を呈した。侍女が平然と精霊と会話をしている。ありえないことだった。
直接会話ができないからこそ、契約した精霊との信頼関係は時間をかけて育む必要があり、真に結ばれた証として開示されるのが真名なのに。
侍女は、この国の王族たちが脈々と続けてきたことを軽々と飛び越えてしまっている。
白狐はついと宗三に視線を寄越した。
『ああ、アナタにもワタシの声が聞こえるの。日与子の力ね』
「ひよこ
……
?」
「何故かそう呼ばれているんです。私の本当の名前、らしいんですけど」
それよりも、と侍女は振り返った。
「行きましょう、宗三様。火事を収めなければ」
真っ直ぐに手を差し出される。躊躇いながらもその手を取れば、白狐の背に乗せられて、侍女と共に塔を飛び立った。
「信じられないことばかりです」
侍女の背にしっかりと身を寄せて、宗三は溜息をついた。
「ヒナツキ。貴女は一体何者なんです?」
「わかりません」
前を向いたまま侍女は答えた。
「私は、幼少の頃から精霊の姿を見、声を聞くことができました。どうしてこんな力があるのか、私にもわからないんです」
「わからない
……
?」
本人にもわからない。そんなことがあるのだろうか。
侍女は孤児だ。ならば、出生に秘密がある
……
?
(精霊の姿を見、声を聞くことができる
……
)
その力は、まるで────
白狐がぐるりと旋回した。最も強く燃え上がっている建物の上空へ着いたのだ。
「白狐。
……
いえ、夕霧」
宗三は淡く光る毛並みを撫でて語りかけた。
「僕たちは出会ってから日が浅い。貴方はまだ僕のことを信用してはいないでしょう。
ですが、どうか今は僕に力を貸してください。その恩は倍にして返すと誓います」
『いいでしょう』
白狐はゆったりと答えた。
『アナタの誠意を信じます。アナタのことは日与子からよく聞いていたしね』
「え?」
『さあ、ワタシの気にアナタの魔力を同調させて!』
宗三は呼吸を整えて自身の魔力に集中した。白狐の気を感じ取り、魔力と融合させていくイメージ。
気の昂まりとともに宗三の思考に呪言が浮かび上がる。
宗三は燃え続ける建物を見据え、凛とした声で命じた。
「夕霧よ、すべての炎を薙ぎ払え! 『巨滝の咆哮〈アクアブレス〉』!!」
ドウッ!! 高圧で大量の水が白狐の口から放たれる。それは最も大きな炎塊を撃ち、ついでに屋根やら壁やらもぶっ飛ばしながらみるみるうちに鎮火させていった。
地表からワアッと歓声が上がる。
『上出来ね』
ふふん、と得意げに白狐が笑った。
『さあ、残りの火も消してしまいましょう』
「ええ」
白狐はゆるりと方向を変え、まだ燃え続けている建物へ飛んでいった。
全ての鎮火まで時間はそうかからなかった。全焼してしまった家屋、怪我人や死者
……
被害の規模や出火原因の調査、補償、修復などやらなければならないことは山積みだが、文化財の寺院が無事だったことは不幸中の幸いだろう。
白狐は召喚された塔に戻るとふわりと着地し、背から二人を下ろした。
「まずは、貴女に礼を申し上げます。今回の火災を収めることができたのは貴女のおかげです、ヒナツキ」
「
…………
」
侍女は、きゅっと唇を噛み締めていた。事情はわからないが、彼女が今までこの不思議な力のことを隠していたことは明らかで、それについて責めるつもりはないと宗三は語りかけた。
「貴女の力は素晴らしいものです。貴女のおかげで多くの民の命が救われた。どうかこれからも、その力を貸してくれませんか」
「
…………
ごめんなさい」
侍女は深く俯いて肩をこわばらせた。
「この力は、人に知られてはいけないものなんです。だから
……
もう、お側にいることは叶いません」
「どういう、ことですか」
「これを」
侍女はポケットを探ると何かを宗三に握らせた。
「お守り、です。これからはきっと、宗三様を守ってくれる」
「ヒナツキ、待ってください。ちゃんと説明を」
「夕霧様!」
宗三の制止を振り切って侍女は白狐の背に飛び乗った。
「宗三様っ
……
! 貴方の幸せを心より祈っています、ずっと!」
「ヒナツキ!!」
そのとき、強い風が吹いた。宗三が見つめる先で侍女の厚い前髪が風に煽られる。
そこにあったのは、宗三と同じ翠玉と蒼玉の目だった。
「!! ヒナツキっ
……
!!」
「夕霧様、お願い!」
白狐は一瞬だけ『悪いわね』という視線を寄越すと床を蹴り上げ、上空へと舞い上がった。
「ヒナツキ!!」
宗三の叫びは虚空へと消える。侍女を乗せた白狐は上昇を続け、鳥と同じ高さになると西へと飛び去ってしまった。
残された宗三は、握りしめていた手をそっと開いた。侍女が残したもの。それは丸くて白い石で、模様のようなものが刻まれている。
その紋に見覚えがあった。
(やはり、ヒナツキは
……
!)
宗三は石を握り直すとサッと踵を返した。
絶対に彼女を迎えに行く。その胸には強い決意が宿っていた。
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