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あさぎ七瀬
2025-03-09 23:52:14
3176文字
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願いは呪いとなり(0705)
0705、05ロストネタ。
おそらくロストしたんだろう、という情報が公開された時点で書いたものなので詳細が異なっていると思います。ご了承ください。
07さんは05さんの思い出と面影と託された願いという名の呪いに縋って生きるんだ……の気持ちでいる。
その日は何もする気が起きない1日だった。
食欲もなく、日課のように吸っていた煙草も吸いたい気分にならない。
だが俺にはやることがある。それをやらなきゃいけない。
気怠い体を無理矢理起こして、監獄内をくまなく見て回った。
いつもより念入りに見て回り、心なしか心身共に普段より疲労を感じる。
監獄内に異常はないだろうと見回りを切り上げ、早めにベッドへと入り個室の明かりを落とした。
確かに疲れている。なのに、目を閉じてどれだけ時間が経っても眠りに落ちることができない。
おかしいな。こんな事はそうそうないのに。
仕方ない、久しぶりに酒の力に頼ろう。眠れないまま明日に響くよりも、寝酒でも飲んで多少強引にでも寝てしまった方がいい。確か、前に誕生日に貰った酒がまだ残っていたはずだ。
そうして俺は、ベッドから抜け出た。
(
……
あれ、ここは)
部屋を出た俺は、酒を取りに食堂の調理場へと向かった
……
はずだった。
しかし、今いる場所は食堂でも調理場でもない。
居たのは、ほぼ毎日通っていた喫煙スペースだった。
煙草を吸おうなんて少しも考えてないのに、無意識に足がここへ向かっていたようで、クセになりすぎだろうと苦笑する。
ポケットに中身の入っているくしゃりと少し潰れた煙草のパッケージと安いライターが入っているのを確認して、せっかくだから吸っていくかと喫煙スペースの定位置へと足を進めた。
いつもの位置───仕切りになっているパーテーションから人ひとり分空けた位置で、いつものように立ったまま壁にもたれ掛かり、煙草の先に火を着ける。
煙を吸い込み、ふうっと吐いた。
『
……
椋原さんも休憩ですか?』
「
……
っ!?」
突如として、聞き慣れた声がした。
それは喫煙スペースでいつも一緒に、同じ銘柄の煙草を燻らせた十歳下の友人のもの。
なんとなく浮世離れした雰囲気で、ミステリアスな空気を纏っていて、最初は少し近寄りがたいなと感じたこともあった。しかしその実、普段の生活においてどこか抜けていて、なんとなく放っておけなくて。気が付けば最初の印象はどこへやら、共に煙草を吸うこと、年長と一括りにできる年齢だったこともあって一番話す頻度が高くなっていた。
彼と共にいるのはとても心地が良くて、ひた隠しにしていた弱音を吐いてしまったこともある。それすらも、嫌な顔ひとつせず全て受け止めてくれた。
そのうち彼の話も聞かせてくれるようになり、俺たちは似ているようで違う、違うようで似ている、歪に欠けた心の隙間を持っていることに気が付いた。
そしてその隙間を埋めるみたいに、どちらからともなく手を伸ばし、何度も体も重ねた。
一審と二審の間に起こった襲撃事件、それのせいでお互いの役割で手一杯だったこともあり最近はそういうのはすっかりご無沙汰になっていたが、仲の良い、信頼できる友人として行動を共にしていることも多かった。
俺たちが年長で、大人だから、二人で子供たちを守ろう。
そう二人で決めた時だって、あくまでもお互いは何かあれば助け合うが子供たちが最優先だと、言わずとも了承し合っていた。
年長として、守る側として、友人として、この監獄内で唯一対等で居られる彼の隣にいることが、俺にとっては本当に救いで、本当に好きだった。
聞こえた気がした彼の声は、静寂へ溶けた。
当たり前だ。だって彼は───桐崎獅童は死んだ。
つい昨日の事だった。
原因はわかっている。だけど俺にはそれを責めることはできなかった。
子供たちへのカバーに必死で、シドウくんへのサポートがほんの一瞬遅れた。その一瞬が、命取りになってしまった。
止まらない出血、力無く横たわる体。俺は服が血まみれになる事も厭わずその薄い体を抱き起こし名前を何度も呼ぶ。
薄らと目を開けた彼は、青白い顔をしながらアイスブルーの瞳で俺を見つめ、息も絶え絶えに小さく言葉を紡いだあとゆっくり微笑む。
そして彼の体が動くことは、もうなかった。
この場所───喫煙スペースはシドウくんとの思い出ばかりがある。
初めて煙草を吸ってくると告げた日に一緒に着いてきたこと、他愛もない話で盛り上がったこと、弱音を吐いたこと、お互いの事情を知ったこと、手を伸ばし体の関係が始まったこと。
俺の誕生日に「プレゼントだと思って」と息抜きに連れ出し、煙草一本分の時間を共に過ごしたこと。
全部が鮮明に思い出せる。どれも俺にとっては「俺の全てを受け入れてくれた友人」であるシドウくんと過ごした輝いてすら見える記憶で、思い出だ。
だけど、彼はもういない。どこにも。
ここに向かって歩いていたら「椋原さん、休憩ですか?付き合います」と着いてくる事も、俺が彼の姿を見つけ「あ、シドウくん、メシでもどう?」と声をかければ嬉しそうに了承してくれる事も、アイスブルーの空のような瞳が俺を見ることも、その声が俺の名前を呼ぶことも、もう、ない。
俺はシドウくんと二人だから、ここの悪ガキ達も守ってやらなきゃと思えた。君と一緒ならできるって、そう思ったから。
でも俺は今、一人になってしまった。隣に君はいない。その事実が深く胸に突き刺さる。
ずるずると壁につけた背中が下へと下がり、そのまま床に座り込む形になる。咥えた煙草は、歪み震えた口から落ちた。
「
……
くっ、うぅっ
……
」
目から大粒の涙がとめどなく溢れる。今の今まで泣けもしなかったのに、いい年した体のでかい大人の男が嗚咽を漏らしながら泣くなんて情けない。
こんな時シドウくんがいたなら、きっと顔が見えないように優しく抱きしめて涙が止まるまでそばに居てくれたんだろう。確信のようにそう思える。
君と二人なら俺は俺として立って生きていける気がした。君と二人なら、大丈夫だと思った。ありのままで生きることも、子供たちを守ることも。
君はいない。いなくなってしまった。これから先、どれだけ年を取っても、どれだけの時間が経っても、絶対にもう会えなくなった。
俺は君がいなくなってちゃんと生きていけるだろうか?
「
……
っ、シドウくん、おれは、きみがいないと
……
っ」
いっそ死んでしまえたらと、両手で自分の首を絞めようとした。
その瞬間、悲しさに埋もれていた彼との会話を思い出す。
つい先日、子供のことやその子たちがいかに未来の希望なのかを話した時の事だ。
『仮に自分の子供でなくても、未来に繋がっている存在があるというのは良いものだとは思いませんか? 生きる上で彼らに何かを遺していく事ができるなら、生まれてきた意味があるように思える』
『ここの悪ガキどもに何かやってあげられるってのも、シドウくんの言うような希望かね。なかなかできる気がしないけど』
『ふふ。
……
頼みますね、椋原さん。子供たちを守ってあげてください』
そうだ、シドウくんは俺にそう言った。そして絶命の直前にも、か細い声で「
……
椋原、さん、お願い
……
します
……
」と言われた。だから今日も朝から監獄内を見回りをしていたんだ。
それが俺の役割で、俺のやるべき事だから。
「
……
守らなきゃ、あの子たちを」
涙は止まった。ぐしゃぐしゃになった顔を適当に袖で拭い、両頬を手のひらで叩く。乾いた音が静まり返る監獄内に響いて消えていった。
これ以上ここの人数を減らす訳にはいかない。そのために俺は動かなきゃいけない。
何より君が、シドウくんが他の誰でもない俺に託してくれたんだから。
その為なら俺はなんだってする。この身が朽ちたって構わない。
「
……
君の願いは、俺が必ず果たすよ」
どこかで見ていると信じる、彼に言う。
シドウくんがくれた、俺の生きる意味。
それをやり遂げるために、俺はまた「平気な大人」の仮面を被った。
END
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