いを
2025-03-09 18:47:37
2596文字
Public タグ、掌編、その他
 

タグまとめ14

モイラと鼎と糸車
アカデメイア・プルート
ブツメツフツマ
刀神
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

Strawberry on the Shortcake is yours.(モイラ・夢見さんと大森)
「過ぎてしまいましたがお誕生日、おめでとうございます。夢見先生」
 差し出したのはずいぶん先まで鑑賞可能な美術館の入館券。それをていねいに、封筒に入れて差し出す。そのとなりにちいさな焼き菓子を添えて。
 目の前の彼女は驚いたように、目を瞬かせた。「お気に召したならよいのですが」と笑う。
……私に?」
「ええ、もちろん」
 あたたかい湯気がふわりと昇っていった。すきとおった、紅茶のよい匂い。
「いつも、頑張って頂いているので。私からのささやかなお礼と、お誕生日でしたでしょう。そのお祝いも兼ねて、ですが」
「ありがとうございます……。あ、この美術館。前に言っていた海外の画家の」
「運良く、ちょうど近くで展示されるようでしたので」
 彼女は日本画よりも、洋画のほうが好みのようだったので、今回は本当によいタイミングだった。夢見の体調や仕事の面も考慮したかった。だから本当によい運にも恵まれた。それは誰のたまものか分からないが、成るべくして成ったということだろう。
「二枚入っているので、仲の良い方とぜひ」
 たしか彼女つきの女性がいると以前聞いた気がする。その女性ひとと行ってもよいだろうと思う。
 琥珀色のちいさい湖面に、彼女の顔が映っている。ゆらりとほんのりゆれて、笑ったように見えた。
 

オリオン座はもう視えない場所にいる(プル学・ウルさんとルーシー)
 ルーシーの朝は慌ただしい。朝にはとくに弱いわけではないけれど、朝ごはんを食べなければ一日力が出ないので、食べないわけにはいかないのだ。ウルはぼんやりとしているルーシーを見て、「ちゃんと起きて」と世話を焼くような声がけをたまにしてくれる。そのとき、何となく懐かしい気持ちになってしっぽがゆらゆらと揺れるのだった。同い年なのにと思うと、余計に懐かしい。「ウル、今日の朝ごはんはなにかなぁ」そう言いながら廊下を歩いていると、よい匂いがしてきた。たまごと、パンが焼ける匂いと、バターのこっくりとした匂い。「いい匂い!」ウルを見ると「も、もう分かるの?」と目をぱちぱちとさせていた。「今日はねぇ、たまごと、パンとバターと、あとたぶん、牛乳のスープ!」得意げに笑うと、彼は「本当かなあ」というように笑った。窓の外は相変わらず白くて、放り出されたらきっと見つけてもらえるまでに数日かかるかもしれないと思うと、ずっとここにいたい、という思いになった。


真昼の満月(ブツメツ・倭と蓮実さん(と、無告))
 ここの非常勤講師であり、親戚でもある黛無告に文字通り手も足も出なかった倭は、道場のすみで分かりづらく落ち込んでいた。どうしてあちらは無手なのに刀――いや、今は木刀ではあるが――相手に無傷でいられるのかが分からない。あの男は「年の功です」と笑っていたが、それだけではないだろう。「倭お兄ちゃん、黛先生強かったね……!」そう蓮実は目を輝かせていた。「そうだな。……」はあ、と息をついてびりびりと痺れる手のひらを握って、開く。「大丈夫!」そう言うと彼女は〝お友だち〟を掲げて「お友だちも、強いから……!」と、笑ってみせた。無邪気なその姿を見て、ふっと笑った。つられるように。「そうだな、一緒にがんばろうな」倭はそう呟いて、ぐっと手のひらを握りしめた。痺れはほんの少し残っているし、震えも少々。黛無告からくらった掌底がまだ効いているようだ。「そろそろ帰るか。帰りにコンビニ寄ろう」蓮実は再度目をきらんと輝かせて「かいぐい!」と握りこぶしを作った。「雪見だいふくはどうだ」今空に浮いている満月のようにまん丸いあれだ。


宵も花ざかり(モイラ・ヨルさんと春木)
 春木了は女の立場が良い、悪いはどうでも良い。男であれ女であれ人間なのだから、ただかたちのつくりがちがうだけの性というものを、どう解釈しようが無駄である。それよりも、彼女のように頭の回転が速く口もよく回る、そんな人間になりたかったと了は考えている。誰にも言ったこともなく、この先言うこともないが。息を詰めて指先を見ると、煙草はとっくに短くなっていて指を少々焼いたようだった。「あら、大丈夫?」斜め側のソファに座っていたヨルが視線をこちらに向けた。ああともうんとも言えずにその指を丸めるように手のひらにおさめた。ただ頷いただけだったから、感じが悪い対応の仕方だっただろうかとぼんやり思う。煙草の灰が足もとに散った。まるで骨を焼いたときの灰のようだと思った。「お前は上手に煙草を吸うんだな」と零す。煙を吐き出しながら、彼女はくすりと笑った。着物の柄とおなじように、小花のようであり、大輪の花のようでもある笑みだと思った。「俺は煙草すらうまく吸えない」と誰にも聞こえぬように呟く。「好きで吸っているのにな」赤くなった指を見下ろした。


金剛石のまばゆさ(刀神・ポラリスさんと桂木)
 三つ編みが翻る。桂木の脇差の軌跡と似たような色、光。ぱっと鋭利にも見えるように散って、黒く霞かかったものが宙に消えていく。雪魄桂木刀・伍号は、どこかでそんな絵画を見たような気がした。ほんものではなく、写真――いや、画集に載っていたものだったかもしれない。鈍く、うっすらとした色と黒。「ああ!」と、思わず声をあげた。ポラリスはこちらを振り返り、「どうかされましたか?」と、尋ねる。思い出した。数十年前に見た、あの絵画を。「ポラリス殿の戦い方と似ている絵があってな」そう唐突に話を振っても、彼女は「絵?」と聞き返してきた。「ええと、すまーとふぉん、で調べてみるといいぞ。作家名はグスタフ・クリムト。人生は戦いなり――黄金の騎士、っていう名前だったはずだ」言いづらい単語の羅列だが、きちんと言葉になっていただろうか。「騎士、とは……。ずいぶん私のことを買ってくださっているんですね」ほのかに笑いながら彼女は言った。「おお。俺の相棒は強いぞ。なあ、ポラリス殿」そう応えると、風がどこからか吹いてきた。春の香りがする。じきあたたかくなるだろう。「騎士ナイトってのは精神性があるだろう。刀遣いにも似たような所があるはずだよ」彼女の横顔を見る。やわらかなおとがいが動いて、「そうだと良いですね」と呟いた。