岬ロカ
2025-03-09 15:43:30
3469文字
Public 解説・語り
 

キャラクター名の由来について

『群青のミンネザング』の登場人物たちの名前には、主にドイツロマン主義文学にまつわる由来があります(そうでもないのもあります)。
「元ネタ」への感謝をこめてそれらをご紹介。

【はじめに】
 『群青のミンネザング』はドイツロマン主義の詩人・ノヴァーリスの未完の長編小説『青い花』(原題:*Heinrich von Ofterdingen*, 1802)から多くのインスピレーションを頂いて作られた物語です。したがって大半が『青い花』とノヴァーリスに関わる固有名詞であることを最初にお伝えしておきます。


【主要キャラの姓・家名】
☆クリンガー(Klinger)
ゾフィーとクラウスの双子の姓は、ドイツロマン主義の前段階と言える文学潮流「シュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)」運動の名前の由来となった同名の小説の著者フリードリヒ・マクシミリアン・クリンガーより頂きました。そしてそのクリンガーのもうひとつの代表作のタイトルこそが『双生児』です。
さらに、『青い花』の作中には「クリングゾール(Klingsor)」という名前の伝説の詩人が登場します。それにも少し引っかけてあります。

☆フロレスタン(Florestan)
『青い花』と並ぶもう一つのロマン主義の芸術家小説『フランツ・シュテルンバルトの遍歴』(ヴァッケンローダー&ティーク)で、主人公フランツの相棒となる陽気な詩人の青年ルドルフ・フロレスタンから。私の中では『群青のミンネザング』のフロレスタン家は彼の子孫の家系であるという裏設定があります。

☆マンデヴィル(Mandeville)
14世紀のイングランドに存在したと言われる旅行家ジョン・マンデヴィルより。彼の書き残した『東方旅行記(マンデヴィル旅行記)』は実は他者からの伝聞にでたらめな空想を交えて書いたものだったことが後に判明、17世紀を過ぎる頃には「虚言家」と呼ばれ、それどころかマンデヴィル自身も誰かのつくりだした架空の人物だったのではないかと言われるようになりました。そういった経緯も含めて、愛すべきうさんくさい「旅行家」としての魅力に満ちたイメージが好きだったので。もしかしたらヘンリー・マンデヴィル氏もまた、ジョン・マンデヴィルの末裔かもしれません。

☆オフターディンゲン(Ofterdingen)
最初に書いた通り、『青い花』の原題にもなっている主人公ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンの姓。物語の主要舞台である島およびその領主の家名としてそのまま使わせて頂きました。


【人名】
☆ゾフィー(Sophie)
ノヴァーリスの婚約者だった少女(ゾフィー・フォン・キューン)から。ゾフィーは15歳の若さにして病でこの世を去り、それゆえノヴァーリスにとっての「永遠の少女(女性)」となって彼の精神や創作に大きな影響を及ぼし続けました。『青い花』の作中で先述の詩人クリングゾールが語るメルヘンにも、〝英智〟の寓意としてこの名前の女性が登場します。
語源的には「古代ギリシア語で智慧・叡智を意味するソピアー(Σοφια)より派生した」(Wikipedia)女性名で、知識や学問への希求が強い彼女にはぴったりではないかと。

☆クラウス(Klaus)
クラウスという名は私が生まれて初めて接した〝ドイツ人〟にして、偉大な教授であり神父でもあった方から頂きました。

☆プラテナ=リーゼル(Platena-Liesel)
「プラテナ」は私が10代の頃から自創作でヒロインの名前として使っていた名前です。その時はイタリア人の女の子で、姓が「プラテノ」でした。
その起源は……まさかの読み間違い。小学生の頃の私は「プテラノドン」という恐竜の名前を「プラテノドン」だと思っていたのです。ある時点で間違いだと気付いたのものの、「プラテノ」という響きが可愛くてお気に入りだったのでそのまま女の子の苗字として使いました。なんと、可憐な〝姫様〟の名前は元をたどれば翼竜だったのです。
そして洗礼名である「リーゼル」は、グリム童話の『ガチョウ娘リーゼル』より。ドイツの都市ゲッティンゲンに立つリーゼル王女の像には、ゲッティンゲン大学で博士号を取得した学生たちが口づける習慣があるとのこと。そういう「皆に愛される王女様」のイメージと重ねて、彼女のもうひとつの名としてこの名前を拝借しました。

☆アジューダ(Ajuda)
ポルトガル語で「救済」を意味する単語。そのまんま。しかも女性名詞。この単語を名前にしようと思ったのは、大好きなポルトガルのバンドMadredeusの”Ajuda”という歌 があって、その歌詞がすごく、私の中にあるイデアルな「旅人」とか「物語の主人公」みたいなものの像にどうしようもなく合致してしまい、たとえ女性的であっても普通名詞そのまんまであっても、これ以外の名前にしたくなかったのです。

☆カルル(Karl)
作中に出てくる通りシャルルマーニュにちなんだ名前。現代だと英語と同じ「カール」表記なんだけど、ちょっと古い教科書なんかだと「カルル」と古風なドイツ語らしく表記してあるので、それがなんかかわいくて好きだったから。それだけです。なお彼の父親のランベルトはフランス語圏の「ランベール」で、まあそこそこよくある名前ですね。

ファーベル(Fabel)
ドイツ語で「寓話」「作り話」「伝説」といったものをあらわす言葉。これも「クリングゾールのメルヘン」に「詩」の寓意的な擬人化として出てくる人名です。Fabelもやはり女性名詞なので、メルヘンの中では女の子(かつほぼヒロインと言える存在)です。

カミーユ・シャルパンティエ(Camille Charpentier)
私の中の彼の名前のイメージは、日本語の「ヒロミ」(笑)。そういう、男女どっちでも使えて、中性的でありながらカチッとした凛々しさもある名前のイメージなんです。で、フランス人の名前でそれに相当するものがあるとすれば「カミーユ」かなあと。
「大工」の意味であるシャルパンティエという姓は、上記のゾフィー・フォン・キューンが亡くなった後にノヴァーリスの新たな婚約者になったユーリエ・シャルパンティエからとりました。これは特に深い意味はなくて、ただノヴァーリスの最も身近なところにあるフランス風の姓だったから。

☆イエナ=ロスヴィータ(Jena-Roswitha)
「イエナ」は、ノヴァーリスらを中心とするドイツロマン主義(前期)の本拠地となったイエナ(イェーナ)大学のある都市名。「ロスヴィータ」は10世紀ドイツの修道女にしてラテン語での劇作や詩作をおこなった女性の名前です。

☆エンリケ・アルメイダ(Henrique Almeida)
ポルトガルの偉人である航海王子エンリケから……と同時に、『青い花』の主人公ハインリヒの名をポルトガル語読みにしたのが「エンリケ」です。
そして私の故郷大分県は、16世紀にポルトガル人医師ルイス・デ・アルメイダが日本で最初に西洋式の病院を開いた場所であり、それにちなんだ名前の病院が今でもあります。そんなわけで、私にとってもっとも身近な「ポルトガル人」の名前ということで、この姓になりました。

☆ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン(Heinrich von Ofterdingen)
これはもう言うまでもなく、『青い花』の主人公の名前とそのまんま同じです。まるっと頂いてしまいました。
彼の夫人であるマティルデも、『青い花』に登場するハインリヒの恋人(後の妻、第二部では死別している)の名前です。

☆ジニスタン(Ginnistan von Ofterdingen)
こちらも「クリングゾールのメルヘン」に出てくる女性の名前。「想像」の寓意。彼女は「月」の娘であり、そしてなんと「ファーベル」の母親です。

☆ミヒャエル・ユスト(Michael Just)
Justという姓はサン=ジュストとかで有名だけど、それとは関係なく、これも私が個人的にお世話になったドイツ人の素敵な紳士の姓をそのまま使わせていただきました。ユストさんはその紳士がモデルです。ミヒャエルという名前には特に深い理由はなくて、一般的な保守的な男性名で他のキャラとかぶらないものという感じでサクっとつけてしまいました。

☆モニカ・ハルデンベルク(Monika Hardenberg)
モニカという名もあまり深く考えず、彼女の雰囲気に合いそうな一般的なドイツ人女性名を付けた感じ。姓のハルデンベルクは、ノヴァーリスの本名が「ゲオルク・フィリップ・フリードリヒ・フォン・ハルデンベルク」なので。