ふらっと指揮官の足元が揺れた。ここ最近は任務続きであったこと、書類作業に追われていたことなど様々な要因が重なり、指揮官はきちんと眠れていなかった。
それでも己の役目を全うしようと、カフェイン入りのドリンクや眠気覚ましの薬を飲み、体にムチを打って活動していた。しかし、そこは生身の人間。さすがに限界が来ている。
「指揮官」
ふと背後から名前を呼ばれた。そちらを振り向こうと体を動かすが、疲労からワンテンポ遅れる。振り向く前に肩をぽんと叩かれた。
「指揮官、ちょっと目を見せて」
ぐいっと体を声の聞こえる方へ向き直された。目の前には声の主であるノアンが怪訝な顔をしながら指揮官の目をじっと見ている。
「口も開けて」
ぼーっとする頭で言われた通りに口を開ける。食生活も不規則だったのだろう。指揮官の口の中は荒れているようだった。大きなため息が聞こえた。
「君ってばまた無理をして……」
その言葉にただ苦笑いを浮かべるしかなかった。確かに無理はしていたが、それでもやるべき事が沢山ある。おちおち休んではいられない。
そんな事を指揮官が思っているとノアンがおもむろに腕を掴んで歩き出した。限界が来ている体はなすがままにノアンの動きに合わせて動く。
着いた先は指揮官の自室だった。部屋に入るとベッドに座らせ、寝かしつけようと体を傾けていく。まさかこのまま寝かされると思い指揮官は慌てて口を開こうとする。まだやるべきことが……
「君はきちんと休むべきだ。僕たちと違ってその体は変えが効かないんだ」
指揮官は人間で、彼ら構造体よりも明らかに脆い。そんな指揮官を心から心配し、そして無理をしている様を怒っている、そんな表情でノアンは指揮官に伝えた。
「もっと言うなら、そんな状態で任務に出たら成功するものも成功できなくなる。グレイレイヴンの皆も君が気になって任務に集中できなくなる。分かるかい?」
最もな事も言われて胸が痛む。確かにそうだ、いくら自分の身を守れるとはいえ、みんなには助けられることが多い。指揮官はぐっと眉間に皺を寄せながらも自らの意思でベッドに入った。
「良い子だね、指揮官。みんなには僕から伝えておくから大丈夫だよ」
ノアンがそう言って指揮官の頭を撫でる。安心する心地良さがある。そのまま眠ってしまいたいが、睡眠不足が続きすぎて逆に眠れなくなってしまった体の指揮官はなかなか寝付けない。
そんな様子を見たノアンは指揮官の体の位置をベッドの中心から少し端にずらす。指揮官は何事だろうと思っていると、ノアンがおもむろに指揮官の隣に横になった。
「ノアン?!」
「ちょっと待って。はい、こうしていれば落ちないだろう?」
優しくぎゅっと指揮官が抱きしめられる。隙間なく抱きしめられてる状態のせいか、ノアンの体の温かいところやほんのり冷たいところが指揮官に伝わる。
「あたたかい方が眠りやすいかもと思って」
「いきなり驚いたよ……」
「ごめんね」
ノアンが指揮官の体をぽんぽんと一定のリズムで叩く。ノアンの体温も相まって少しずつ指揮官の眠気が戻ってくる。
「少しお話してあげるよ。何時でも寝ていいからね」
優しい声で彼は何気ない話を紡いでいく。まるで子守唄のような心地良さからか段々と指揮官の瞼が閉じていく。
ぽん、ぽん、ぽん……
──、────、─────。
ノアンの腕の中、まるで優しくて穏やかな場所に身を預けるように、指揮官はゆっくりと眠りについた。
その様子をあたたかく見守っていたノアンは眠る指揮官の額に軽くキスをする。
「おやすみ、指揮官。良い夢を」
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