くこ
2025-03-09 01:30:09
5057文字
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探偵と総統の攻防(王最)

探偵えっちえっち大会なるものが開催されるそうで
https://x.com/ASA_5325/status/1891096062967812253

ぽんしゅさんのXスペースにお邪魔させてもらって、あささんが面白すぎたので書きました
さすがにタグ付けて正式に参加する勇気はないので、辺境にて賑やかし
しかしワンライでも思うけど、テーマ決めて書くのって、めちゃくちゃ難しいよね お題に沿えているかは自信ない






探偵とは、解き明かす者のことである。

つまり、前提として、謎があることが必須である。謎とはつまり、はっきりとわからない不可思議なものであり、言葉のなかに他の意味を隠しているものである。その定義において、王馬小吉という存在ほど、「謎」という言葉が似合う男は居ない。
だが、それを解き明かすかどうかは、探偵の裁量にゆだねられている。探偵は職業であり、依頼がなければ、別に謎をそのままにしていても、誰からも咎められることはない。解くも解かないも、探偵の自由である。したがって最原は、クラスメイトという、およそ他の存在よりも近しいであろう彼のことを、そのまま放置することについて、特段、罪悪感めいたものは持ち合わせていなかった。それを、相手がどう思っていたかなど、最原の知るところではない。

しかし、自衛というのは、時に必要なことである。それを、最原は、身をもって知ることになる。




違和感を覚えたのは、ほんの少し前のことだった。
遭遇頻度が、高い。もちろん、彼は普段から目立つ存在であったので、毎日一度は見かけていた。それが、見かけるだけではなく、巻き込まれることが増えてきた。やれ、ロボの性能実験だの、やれ、虫の生態観察だの、およそ本人ですら望んでいないのではないかと思う催しを、やたらと開催している。それに必ず、何かと難癖をつけられ、参画させられていた。

……何が目的なの?」

たまらずに直接問えば、にぃ、と紫の瞳が弧を描く。キーボをからかうとき、獄原をおちょくるとき、入間を蔑むときと、同じ目の色だ。

「えー? 探偵なのに、それ聞いちゃうんだ? 最原ちゃんって、ほんっと、面白みのない男だよねー」
……

挑発に、乗ることはあるまいと、最原は目を伏せる。最原の沈痛な面持ちに、王馬はさらに笑みを深くした。

「ま、教えてあげてもいいんだけど……そんな簡単に答えをあげちゃうようじゃ、つまらないよね。最原ちゃんも、そう思うでしょ?」
「いや……この件に関しては、簡単に答えが手に入るのなら、それに越したことは無いんだけど……

どう考えても、嫌な予感しかしないから。
続けた最原に、王馬はどう受け止めたのか知らないが、笑みを崩さずに立ちはだかっていた。

王馬はしばしば、こうやって、他人を試すようなことをする。その意図は、最原には複雑すぎて、とてもではないが、推し量ることすらしたくない。必要があればやるし、興味があればやるが、今のところ、それをするデメリットの方が勝っている。深淵を覗くとき、また、深淵もこちらを覗いているのだ。行動することには、それなりの覚悟が必要だ。
予感は、ある。同時に、見込みもある。一歩踏み出してしまえば、指先を少しでも触れさせてしまえば、たちまちに引き込まれ引きずり込まれ引き下ろされてしまうであろうことを、本能が予感している。
だから、やらない。やれない。それをするには、リスクが大きすぎるから。

王馬はそれを、どこまで感じ取り、予測しているのか。紫の瞳を見つめても、その答えはもらえない。

「どこまで耐えられるか、見ものだね」
……キミがやめてくれれば、それで終わりなんだけど……
「それをオレがすると思う?」
……しないだろうね」

他人の希望のとおりになど、逆立ちしたってならないに違いない。それくらいは、知っている。最原は、大きくため息をついた。この状態を解消するに、一番良い方法は、すでに目の前に提示されている。わかっている。それを読み取ることを、したくないだけだということは。王馬ほどではないにしても、最原も、大概に負けず嫌いだ。
最原にも、いっぱしの探偵であるという自負はある。突き付けられた果たし状を、読まずに破り捨てるなどということは、さすがにすることが出来ない。

要は、依頼者を王馬自身だと捉えればいいのである。最原はそう定義した。わずらわしいことを排除するのは、人間として、ごく自然な行動である。目の前をうろちょろとするクラスメイトの溜飲を下げ、最原にとって穏やかな学生生活を取り戻すことは、まったくおかしいことではない。だから、受けて立つ。それだけのことだ。




最原の額に青筋が浮かぶ。いいかげんに、我慢の限界だ。
とにかく、面倒くさい。そんなことは、とうの昔に知ってはいたが、こと自分が渦中の人間になると、その忌々しさは倍増する。ああ言えば、こう言う。言論で彼を押し留めることは、超高校級の弁論家でも持ってこない限り、なかなか難しいであろう。
そも、最原は、挑戦の内容をきちんと把握できていない。なぜ彼がこのような暴挙に及んでいるのか、その意図は何なのか、目的は何なのか。何一つとして、わかっていない。
それを解き明かすことも含めての挑戦であると、気づいてはいる。でもそれは、紐に手をかけたが最後の、リスキーな行為であると、ずっと前から知っている。
だからこれは、それをさせようとする王馬と、それをさせまいとする最原の、ただ一点でのみ争われている、直接対決。気を緩めることすら許されない、脳がひりつく決闘だ。

春川あたりがこれを知れば、「まだるっこしい、くだらない」と、一笑に付すであろう。だが、当人同士にとっては、まぎれもなく頂上決戦なのである。
だから最原も、途中で降りるわけには、いかない。




本日の悪の総統のアトラクションは、入間の発明器具を使った、夢野のイリュージョンショー(強制・改)である。小規模に身内向けに披露されていた通常のショーのクライマックスを終えたすぐ後に、よくわからない原理によって造られた「寝ながらシャボン玉が作れる機械」によって、夢野はもちろん観客の何人かまで、大きなシャボン玉に包まれ、宙に浮いていった。入間は本当に、もっと別のことに才能を使うべきであると、つくづく思う。
茶柱が、元凶を怒鳴りつけた後、真っ青な顔でシャボン玉を追いかけていく。あれは、どうやって降ろすのだろうか……遠巻きに眺めていると、自らの足元の地面からも、虹色が生えてきた。トレーニングを怠っている己の瞬発力では、その液体から逃れることは出来なかった。

(また巻き込まれた……

目の前に張られた薄い膜に、手を近づける。ぺたり、と、少し湿った感触がした。不用意にべたべたと触ると、たちまち弾け飛んでしまうかもしれないと思い、それ以上は指を動かすことが出来ない。ふよふよ、何を原動力としているのか、皆目見当もつかないが、人々のちょうど頭の上くらいで浮遊したシャボン玉は、どこかに移動しているようだ。

きっとまた、意図があって、どこかに連れていこうとしているのだろう。
彼はいつまでも、諦めない。否、待っている。獲物が罠にかかることを。罪を犯した者が、堕ちてくることを。
それをそのまま実現してやるのは、非常に腹立たしい。しかし、ここまで来てしまうと、回答はもう一つしかない。さすがの最原も、そこは、否定できない。だから問題は、どのようにして、探偵の推理ショーを挙行するか、だ。

徐々にシャボン玉が高度を落としていく。うっそうとした木々が多い、学園の端にある庭のようなところだ。夢野が手品……もとい、魔法を披露していた会場とは、ちょうど対角線上にあたる。
ゆっくりと、足が地面に着く。その瞬間に、ぱちん、と、シャボン玉が壊れて消えた。速度と強度、そして移動中の派手ささえ考えなければ、足のつかない移動手段として優秀なのかもしれない。入間本人は、本気で寝ながらシャボン玉を楽しみたかっただけであろうが。

待ち構えているだろう男の姿を、探す。見える範囲には居ない。上を見上げる。

……危ないよ」
「にししー。悪の総統はフィジカルも強いからねー、心配無用だよ」

王馬の体格であればそうそう折れそうにない、木の枝の上に座っていた。とはいえ、子どもが度が過ぎた悪戯をして怪我をしそうになるときのような、そわそわとした不安を感じる。その心配を知ってか知らずか、彼はそこから降りてこようとはしない。そのまま会話を続けるつもりか。首が痛くなるので、顔をそちらに向けることはやめる。

「そろそろ決着をつけてもいいんじゃないの?」

頭上から、少しだけ掠れた声が、落ちてくる。
口元に手を当て、考える。たしかに、いいかげん、こうも頻繁に時間を取られることは、避けたい。いったい、いつまで続けるつもりなのかは知らないが、学生生活中はともかく、プライベートにまで干渉し始めたら、さすがに、わずらわしいでは済まされない。

ぷら、と、白い服に包まれた足が、木の上で揺らされているのを、感じる。

どうだろう、危ないかなあ。と、思いはしたが、彼の「フィジカルも強い」ということばを信じて、手の届く範囲にあったその足を、ぐいと引っ張った。両肩に衝撃。彼の手が乗ったのだと知る。体も落ちてきたので、とっさに両手を腰へ回した。途端に感じる重力に、膝が折れる。正座をした最原の上に、王馬が乗っかった。

…………

王馬の顔から笑みが消えている。見開かれた瞳からは、はっきりとした感情を読み取れない。好機とばかりに、そのまま、顔を近づけた。唇が、重なった。なお、最原にとっては、人生で初めての行為である。なので、唇を押し付けたあと、具体的にどうすればいいのかは、わかっていない。王馬にとってどうなのかは、知らない。
たっぷり三秒、考える時間を取った悪の総統は、最原の肩に乗せていた手を、最原の頬に移動させた。

「っ……

ぬるりとした感触に、とっさに顔を背けようとしたが、先んじて両手で顔を固定していた王馬に阻まれる。唇を舐められたのだ、と、脳が認識するのと同時に、歯列を割って口内に入り込まれた。他人の臓器が体内に侵食してくる、なんとも言いがたい、身の毛がよだつ。ただ、ゆっくりと舌を絡めさせられ、時折、ちゅうと吸われると、脳の奥でびりりと刺激が走った。
正座の最原の上に座っているから、いつもと違って、王馬を見上げることになる。かすむ視界で、彼の顔を見ようとする。近すぎてよくわからないが、紫の瞳が、いつもと違って弧を描いていないことだけは、わかる。

そうして舌を絡ませ合っていると、だんだんと、頭がぼうっとしてくる。いつのまにか、最原も舌を動かしていて、初めてでも何とかなるものなのだな、と、思った。相手の力量なのかもしれないが。
下半身がうずく。きっと、膝に乗っている王馬には、ばれてしまっている。けれども、唇を重ねて、唾液がこぼれるほどにキスを繰り返していると、じわじわと熱が集まっていくのを止められない。
軽く、舌を噛まれる。大きく最原の肩が揺れた。と、その瞬間に、完全に勃起してしまった。
唇が触れる距離で、王馬が笑う。

「もしかして最原ちゃんって、ドМ?」
……ちがう」

痛みによって快感を得たのではない、断じて。荒い息の中で否定を返すと、また、王馬がくくっと笑った。その気配に、背筋をぞくりとしたものが走ったのは、墓までの秘密だ。

「ところで、オレはめちゃくちゃ雑に謎解きパートを終わらせられた、ってことで、いいの?」
「そもそも、謎解きパートをするとも、言ってないんだけど……

会話の合間にも、ちゅっちゅとキスを挟まれる。子どもが親に親愛を示すようなそれに、少し、毒気が抜かれる。腹に当たる、おそらく王馬のモノであろう硬さは、まったく可愛くはないのだが。
謎解きパートをするとは言っていないが、まあ、おおむね王馬の言うとおりである。根負けだ。だからこその、せめてもの意趣返しである。あの瞬間、笑っていなかったから、きっと成功はしたのだろう。

「最原ちゃんが、こんなに覚悟キマった男前だとは、さすがのオレも予想しきれなかったよー」
「そ、……んな、覚悟をしたつもりも、ない、んだけど……

浴びせられる口づけの隙間に、なんとか反論する。
早まったのだろうか。王馬の背中に置いていた手を、引こうとして、押し留められる。王馬の両足が、最原の腰をがっちりと押さえ、離れられない。ただ、いっそう、自身の腹に当たる王馬のものと、王馬の体にこすりつけられた己のものの硬さに、顔が赤くなる。

「えっち」
「えっちは、キミだろ……

にぃぃ、と、チェシャ猫が笑った。