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片桐
2025-03-08 22:09:56
5008文字
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【あんスタ・紅敬】似ていて違う君の色
ES2年目。鬼龍くんだと思って声を掛けた相手は…。お題箱より
今日の仕事は鬼龍と一緒だ。午前中から移動して、昼前から夕方頃までの予定のロケ。
朝の八時半になり、今から共有ルームへ向かうと鬼龍に連絡を入れて、まだ部屋にいた氷鷹に見送られながら蓮巳は部屋を出た。
階段を降りると、共有ルームのソファに誰かが座っているのが見えた。赤い髪の後ろ姿に、蓮巳は声をかける。
「鬼龍? 早かったな」
連絡を入れてから出てきたのならば二階に部屋がある蓮巳よりも、三階に部屋がある鬼龍の方が遅くなりそうなものなのに。
首を傾げながらも声をかけると、予想と違う声が耳に飛び込んで来る。
「あれ、敬人ちゃんじゃん」
「
……
天城先輩」
自分の迂闊さを悔いたけれどもう遅い。振り返った燐音はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「なんだよ俺っちはドラちゃんじゃないぜ~?」
「俺の眼鏡が曇っていたようだな。貴様と鬼龍を見間違えるなど」
「えー、敬人ちゃんてばドラちゃんのこと好きすぎじゃねェ?」
「小学生か貴様は!」
ああもう、仕事前に無駄に疲れる。間違えたのは悪かったが、これ以上相手にしていられない。と、会話を切り上げようとしたところで、燐音が蓮巳の方へと近づいてきた。
間違えたこと自体に腹を立てている様子はないけれど、急に寄ってこられると意味がわからなくて困惑する。
「まあいいや、ここで会ったのも何かの縁ってことでェ、敬人ちゃん俺っちを助けてくれよォ!」
「はぁ?!」
「寺の息子ならなんかほら、御利益とかあるっしょ? 今月負け続きでマジでやべェんだって」
そう言って、突然蓮巳の手を握ってぶんぶんと振り回してきた。握手のつもりなのかもしれないが、勢いが良すぎて振り回されているようにしか思えない。
「おい離せ。俺にそんなものを期待するな。大体、ギャンブルなどやらなければいいだろうが!」
「それは無理」
燐音が声を立てて笑ったところで、背後から今度こそ耳慣れた声が聞こえた。
「おいおい、あんまり旦那をいじめてやるなよ」
「お、ドラちゃん登場だ」
「鬼龍
……
!」
蓮巳が助けを求める前に、燐音は蓮巳の手を離した。そして、今度は鬼龍の方へと近づいて行く。
「ドラちゃんも勝負強そうだよな。俺っちを助けてくれよ~」
「うわ、なんだ!」
今度は鬼龍の手を握ってぶんぶんと振り回している。一応、歳上の相手を振り払うのも躊躇われたのか、それとも困惑が勝っているだけなのか、蓮巳と同じようにされるがままになっている。
「今日はイベント日だからワンチャン大勝負するしかないんだって! ドカンと一発勝ちてェんだよ、もう神でも仏でも龍でもなんでもいいから頼むよ~」
「むちゃくちゃ言ってやがる」
鬼龍がため息をついたところで、燐音は手を離した。
「っと、そろそろ行かねェと整理券貰えなくなっちまう。じゃあな!」
そして嵐のように去って行った。
「なんだったんだ
……
」
残された蓮巳が呆然と呟くと、鬼龍は肩をすくめた。
「旦那が俺と間違えるからだろ」
いつ来たのかと思ったら、ずっと見ていたようだ。まったく、度し難い。と蓮巳は眼鏡を直しつつ、鬼龍を見据える。
「貴様らの背格好が似てるからだろうが」
「まあ、身長は同じみてぇだし髪も似た色してるけどよ、体型とか全然違わねぇ?」
「ソファに座ってたからよく見えてなかったんだ」
それは嘘ではないのだが。間違えた理由はおそらくそこではない。
「へぇー。俺も間違われたことはあるし向こうも初めてじゃねぇんだろうけど。まさか旦那にまで間違えられるとはな。ずーっと仲良くやってきた相棒だと思ってたんだけどよー」
「貴様がいるものだと思い込んでたんだ」
鬼龍が来るのと同じタイミングで燐音がここにいるだなんて考えもしなかった。そもそも燐音をこの時間に、こんな場所で見かけること自体が珍しいから。
「俺もギャンブルとかやったほうがいいか?」
「やめろ
……
」
当てつけのように言う鬼龍を肘で小突きながら、蓮巳はげんなりとため息をついた。
その日の仕事は無事に終わり、せっかく時間があるのだからと少しだけ買い物をして、夕飯まで済ませて寮へと戻って来た。
共有ルームの横を通ると、やたら賑やかな声が聞こえてきた。なんだ、と気になって二人で覗いてみると、顔をあげた椎名と目があった。
「あ、おかえりなさいっす~!」
椎名の声で気づいたのか、続いて白鳥と、弟の方の天城が声を掛けてくる。
「あ、蓮巳先輩と鬼龍先輩、お疲れ様です」
「おかえりなさい!」
それから、朝見かけたのと同じような感じでソファに座っていた兄の方の天城が振り返って手招きしてくる。
「敬人ちゃんとドラちゃんじゃねェか! こっちこっち!」
「はぁ」
「なんの騒ぎだ一体」
テーブルにはやたらと色んな種類のお菓子が広げられている。クッキー、ポテトチップス、チョコレート、それから柿の種やいかの燻製のつまみのようなものまで。
燐音以外は未成年だから、飲み物は酒ではなくお茶とジュースのようだったが。ペットボトルが置いてあるので、それはすぐに分かった。
椎名があれこれと手を伸ばしている横で、白鳥たちも各々好きなものを摘まんでいるようだった。パーティーでもしているのかというほど、騒がしい。燐音のソファの隣には、何か大きな荷物もある。
「いやー、敬人ちゃんかドラちゃんかどっちのおかげかわかんねェけど、助かったぜ!」
「はぁ
……
?」
「だから二人にも菓子やるよ!」
「要らん
……
」
別に何かをした覚えはないが、今日はギャンブルで勝ったのだろうということだけはなんとなく察した。
だとしても、自分たちが何かをしたわけではなくただの偶然でしかないので、礼をされる筋合いもないはずだが。
「燐音くん、勝った時だけこうして景品で引き換えたお菓子とかくれるんすよ」
大量の菓子は、買ってきたものではなくパチンコ店で引き換えてきたものらしい。薄々気づいてはいたが、呆れて言葉もない。
その燐音はというと、菓子が詰まっているらしい袋を漁っている。
「ドラちゃんはこれとかどうだ? 敬人ちゃんはこっちのがいいか」
鬼龍には大きいサイズのポテトチップスの袋、蓮巳の方には唐辛子の入ったせんべいの袋を押しつけてくる。
断るつもりでいたら、椎名があっさりと言い放った。
「遠慮なく貰っといた方がいいっすよ。どうせいっつも迷惑かけてるんだし」
「おいおい、ニキよォ、ひでェこと言うなよ」
言いながらも燐音は特に気にした様子もなく、満面の笑顔のまま二人に菓子を寄越してきた。
「まあ、くれるってんなら貰っておくけどよ」
「はぁわかった、受け取っておく」
断るのも面倒になって、結局は受け取った。なんだか腑に落ちない気もするが食べ物に罪はないし、燐音の気が済むのならそれでいいだろう、と。
「いやー、投資五万越えて天井でもう駄目かと思ったらそっから上位入って跳ねてくれてよ。万枚は届かなかったけど充分大勝ちしたし、今月の負けは返せたからなァ。これでもう一勝負できるぜ~、明日は据え置きでまたワンチャン狙えるしな、万枚リベンジするしかないっしょ」
「椎名、天城先輩は何を言っているんだ」
「燐音くんがわけわかんないこと言ってるのはいつものことっす! 気にするだけ無駄っすよ」
「それもこれも敬人ちゃんがドラちゃんと俺を間違え」
「その話はもういい!」
突然何を言い出すのかと思えば。反射的に遮ると、隣で鬼龍が噴きだしていた。
「何かあったのかい?」
悪気も無く聞いてくる一彩に、蓮巳は首を振る。
「敬人ちゃんはドラちゃんのことが大好きなんだろ。仲が良くて結構じゃねェか」
「? 確かに仲良しなのは良いことだね!」
話よりも菓子に夢中な椎名と、なんとなく察したらしく苦笑いしている白鳥、それからよくわかっていないらしい一彩と、声を立てて笑っているやたら上機嫌な燐音。
蓮巳は今度こそ深いため息をついた。
これ以上付き合っていられない、と逃げるようにその場を後にして、とりあえず人の居ない鬼龍の寮室に向かう。
休憩しようとお茶を用意したところで、鬼龍が受け取った袋を指差した。
「せっかく貰ったんだし食うか?」
「いや、今それをあけるには重いだろう」
「あけたら早めに食わねぇと湿気っちまうしな。もっと人のいる時にするか」
そうして結局、棚にあった小さめのせんべいの袋を取りだしてきた。
「ギャンブルなぁ、そんな楽しいもんかね?」
せんべいをかじりながら言う鬼龍に、蓮巳は思いっきり眉を顰めた。
「おい
……
まさか興味があるなどと言わないよな」
燐音の話を詳細に聞いているわけではないが、事務所でもそういうギャンブルをする者はいるらしく、たまに幾ら使っただのと聞こえてくることもある。社会人が自己責任でやる分には自由なのだろうが、蓮巳としてはどうにもそうしたものを好ましくは思えない。
ましてや自分たちはアイドルで、世間的なイメージというのもある。競馬などのレースの会場でアイドルがライブなどの仕事をすることも、ないとは言えないが
……
。
「んー、ゲーセンでそういうの触ったりしたことはあるけどよ。あとダチと飲み物とか飯の奢り賭けてカードゲームしたり? 勝負事は嫌いじゃねぇが、なんつぅか、ギャンブルに金をつぎ込むのに抵抗があるんだよな」
鬼龍は学院時代から家族の為に、自分の食費などを自分で稼ぐようにしていたのだ。今はあの頃よりもっと稼げるようにはなっただろうが、それでも収入の大半を実家に入れているのを知っている。夢ノ咲への入学でかかった分を少しでも返すため、妹さんの将来のために、と。だからそうしたことで無駄にすることに、罪悪感のようなものがあるのかもしれない。
「一時は勝てるかもしれないが、最終的には客が損をするようになってるものだろう。そうでなければ店が成り立たないからな」
「ま、そういうもんだよな」
元々、さして興味はなかったのだろう。特に掘り下げることなく話は終わってしまった。
「真面目にコツコツ働く方が性に合っているだろう、貴様は」
「いやー、紅月に入ってからは、てめぇや神崎と一緒におりこうさんの優等生みたいなツラしてるけどよ。俺ぁ元々不真面目な不良だぜ?」
「昔は昔、今は今だろう。貴様は与えられた仕事に真剣に取り組んで、努力して結果を出している。事務所内でも評判がいいぞ」
「こんな俺を拾ってくれた旦那にも、仕事くれる人たちにも、迷惑かけるわけにはいかねぇだろ。それだけだよ」
淡々と告げる鬼龍に、蓮巳は肩を竦める。
「まったく、妙な意地を張る必要はないというのに」
「こういう生き方しかできねぇんだ」
蓮巳は鬼龍の背後にまわり、頭に手を伸ばした。
「うおっ、なんだ」
朝は何故見間違えたのかというほどには、見慣れた色。今は整髪料でセットされているけれど、もともとは触れると柔らかな髪。
「見慣れた後頭部だと思ってな」
「それでも間違えるんだからなぁ」
「うるさい」
そう言って蓮巳は鬼龍の髪をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「あってめぇなにしやがる」
「どうせもう風呂に入って寝るだけなんだからいいだろうが」
「そういう問題じゃねぇだろ」
手櫛で軽く直してやりながら、蓮巳は笑う。
「おまえは、そのままでいてくれ」
「
……
旦那ももう間違えんなよ」
「それは難しいな」
「って、おい!」
「どれほど見慣れていようが、眼鏡を外したら見分けがつかなくなるからな」
鬼龍は、えぇ、と不満そうな声をあげている。
「わかれよ、そこは」
「わかるわけないだろう。そもそも、貴様と天城先輩どころか誰なのか全然わからなくなるんだぞ。珍しい特徴があれば別だが」
寮内のアイドルたちに限れば、身長と髪の色や長さである程度判別できるかもしれないが。
「じゃあ間違えなくなるまでよぉく見とけや」
「なんだ、もっと撫でて欲しいならそう言え」
「撫でるっつぅか、ぐちゃぐちゃにしただけだろ」
そう言って笑う鬼龍の髪を軽く整えてやる。されるがまま、大人しくしている鬼龍のことを蓮巳はじっと見つめる
今度は優しく撫でてやれば、くすぐったそうに笑っていた。
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