かにやけんせつ
2025-03-08 02:55:20
3532文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.006

#2023/7/13
#Ikaduchi_Tou
#Aoi_Cyan

 昼食を終えても時間に余裕があることを確かめて、灯は学園内のとある場所へ向かう。いくつかに分かれた校舎とはさらに別の、いかにも歴史ありげなレンガ造りの建物がそこにはあった。その建物の正面入口には、「彩坂学園図書館」という看板が掲げられている。内装の絢爛豪華さは貴族の屋敷のそれで、曰くここが彩坂学園になる前は実際に貴族が住まう屋敷だったらしい。ロビーの階段下に後付けで設けられたカウンターに、灯が持ってきた本を返却すると、顔見知りの司書はにこりと微笑んで手続きの後に一言添えてくれる。

「あの子なら今日も2階のSF本棚のあたりにいるはずよ」
「ありがとうございます!まずは顔見せてきますっ」

 そう言って灯は、本を持ち運ぶための布のバッグを畳んで制服のポケットにしまうと、カウンターを離れて階段を登る。そしてよく訪れてすっかり場所を覚えたSFの本棚へ向かうと、そこには小学部の制服を着た、灯より小柄な少年がひとり立っていた。

さとるくん、やっほー!」
「!……なんだ、灯先輩か」

 暁と呼ばれた少年は次に読む本を探していたようで、灯の声に驚いたように肩を跳ねさせた後小さくため息を付いた。そして灯の方をちらと見てから、目の前の本棚から一冊の本を差し出す。

「これ、今日読み終わったところなんだけど……技術考証が凄まじいんだ。もしかしたら本当に、未来がこうなっているかも、って思わされるくらい。だから灯先輩も読むといい」
「本当?じゃあ今日借りていこうっと。あ、あの本本棚にもう戻ってたんだ。この本面白くてね……

 そうおすすめの本をお互いに教えつつ、灯は今日借りる本を何冊か手に取っていく。このあたりにしておこう、と灯が本を手に取る手を止めると、暁はふとこんなことを灯に問いかけた。

「そういえば風の噂で聞いたんだけど、新しい仲間が増えたって」
「あー、詩杏さんのことかな?でも珍しいね、暁くんのママが機関でのこと暁くんに話すって」
「お父さんと同じだから、ちょっと心配らしい。ぽろっと漏らしてたのを聞いたんだ」

 そう言いつつ暁は、灯のおすすめの本を手に取る。と、授業5分前のチャイムが鳴った。それを聞いて暁は、近くにあったベンチに腰掛ける。

「さ、灯先輩は授業行かないとでしょ。行ってらっしゃい」
「もー、暁くんもたまには教室行きなよ……って言ってる暇があったら本の貸出手続きしないと!それじゃ行ってくるね、またね!」

 慌てて灯が1階へ降りていくのを見送り、暁は手に取った本の表紙を開く。窓の外は晴れ、明るい太陽の光が暁の開いた本のページを照らしていた。



 放課後、終わりのホームルームを終えてからみずほとまた明日の挨拶を交わして、それから詩杏は昇降口に向かって上靴とローファーを交換する。そのまま校門を出ようとしたところ、灯が声をかけてくれた。灯が手に持っている布のバッグには、何冊かの本が入っているようであった。

「さっきぶり!せっかくだから一緒に行こ?」
「いいよ。クレープとか買ってく?」

 校門を出ると、目の前には彩坂駅。特務機関の拠点であるビルは、この彩坂駅の自由通路をまっすぐ抜けた反対側にある。そして、この自由通路にはよく屋台が出ており、その中にいつもクレープ屋も出店しているのだ。自由通路を歩いて、その道中で今日はここ、と一緒に決めてクレープを買う。詩杏は抹茶あずき、灯はキャラメルチョコを選んだ。それを食べつつ、一緒に彩坂支部へと向かう。

「詩杏さん、もらったカードキー忘れてないよね?」
「大丈夫、ちゃんとパスケースに入れてあるから」

 食べ終えたクレープのゴミを各々握りながら、製薬会社のビルに偽装された彩坂支部のビル、その路地裏にある裏口に各々のカードキーをかざすと裏口のドアが開く。そこから灯についていく形でエレベーターに向かい、4階に向かうと、今朝朝食を食べた場所でもある休憩室に入った。

「翠さん、お疲れ様~!」
「お疲れ様。今日は何冊借りてきたの」
「6冊。でも今日は分厚いの借りてきちゃった!」

 そう言いつつ休憩室のロッカーに灯は荷物の一部をしまう。その横で、翠が「あなたはこのロッカー使って」と詩杏の名札がついたロッカーを指したので、詩杏もそこに荷物をしまうことにした。

「詩杏さんはこの後研修なんだよね?」
「うん。灯くん達は?」
「ぼく達は待機時間!特にやることもないし、この時間のうちに宿題片付けておこうと思うんだ」

 灯はそう言いながら、テーブルの上に出された宿題を並べ始める。真面目だなぁ、と詩杏が見ていると、休憩室の扉が開く音がした。そちらを見れば、すずらんを連れた博士が立っている。すずらんが灯のところへ駆け寄っていくのと入れ替えるように、博士が詩杏に声をかけてくれる。

「それじゃ、研修ということで詩杏ちゃんを借りていくね。詩杏ちゃん、ついてきて」
「はーい!またね~」

 それぞれ手を振って別れると、休憩室の扉が閉まる。そして詩杏は、博士に連れられて研修へ向かうのであった。



 詩杏が連れられて来た先はビルの8階、エレベーターを降りてひとつだけあったドアの向こうには何階分もぶち抜いて作られたと思しき広い空間があった。そして、そこに待っていたのはひとりの和装姿の少年。白い髪に青い瞳、青い着物が印象的な彼は、見かけこそ灯よりもさらに幼く見えるが……詩杏の直感は、彼が子どもではないと告げていた。

「紹介するね。この子は晴井はれいそらっていうんだ。所属はよそなんだけど、いかんせん今の彩坂支部は人手不足だからさ。よく来てくれるのもあって、こういう形で手伝ってもらっているのさ」
「詩杏ちゃん、はじめまして。僕は晴井空、こんな見てくれだけどちゃんと大人だよ。どうぞよろしくね」

 空はそう言ってにこりと微笑みかけてくる。晴井といえば詩杏も聞き覚えがある、確か隣県の県庁所在地、晴坂はれさかの街の貴族の家名だ。当代の当主が何をしているのかさっぱりわからない、という話は詩杏も耳に挟んだことがあるが……もしかしてこれが、その答えなのだろうか?

「さ、博士、あとは僕に任せておいてください。博士もいろいろ忙しいでしょ?」
「そうだね、そのつもりだったから……後はよろしく、空君」

 そう言って博士が去っていくのを見送ると、空は片隅に置いてあったクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して差し出し、「喉が乾いたらいつでも飲んで」と言った。詩杏がそれを受け取ると、空は詩杏と少し距離を取って立つ。

「まずなんだけど、魔力の感覚って分かるかな?こう……魔法少女になる前はなかった何かの感覚、っていうか。やろうと思えばそれを掴んで動かす感じで操れると思うんだけど……できそう?」
「えっと……こう、かな?」

 言われた通りに身体の中にある何かを掴んで、そして引きずり出すようにしてみる。するとその手からキラキラとした何かが出てきた。ぼんやりとした霞のような見た目をしているが、しかしそのキラキラとしたものは眩しいくらいに鮮やかな水色に輝いていた。

「うん、とりあえず感覚は掴めているみたいだね。じゃあ、その魔力に形を持たせてみようか。詩杏ちゃんの色ならナイフとかがいいかな?」
「ナイフ……こうですかね」
「そうそう!感覚掴むの早いね〜」

 手の中にあるキラキラに軽く念を込めてみると、ぱっとそれがナイフの形に変わった。一見飾り気のないようで、しかしそのナイフに目を近づけて見てみれば、その柄には繊細な幾何学模様が刻み込まれていた。それを見ると、よし、と空は満足げに頷く。

「そこまでできるなら、魔力そのものの扱いは習うより慣れた方が早いから、自分でいろいろ試してみて。あとは身のこなしについてだね」

 そのためのこの部屋、と空が部屋の上の方を指す。促されるままに詩杏が上を見上げてみると、何階分もぶち抜いた吹き抜けの空間には、現実のビルとビルの間でも模したような壁やベランダ、看板などの構造物が配置されていた。全て白一色だからあまり目につかなかったが、それらの構造物はしっかり今踏んでいる足元の床まで続いている。

「高いですねー」
「最低でもこれくらいは登れないと、戦闘なんて夢のまた夢だからね。今日はこれを登れるところまで!」

 一番上を指差しながら笑ったあと、まずはお手本、と空は床を蹴って手近にあったエアコンの室外機を模したオブジェに飛び乗る。窓の外は今日も快晴、放課後の時間はゆっくりと過ぎていくのであった。