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bon_to4ga2
2025-03-07 22:00:27
9059文字
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パチョフィン
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増殖と恋心(旧)
「ランスくん! 大変です!」
「はっレモンちゃん!?」
そう言いながらノックもなしに入ってきたのはレモン・アーヴィンという名の女子生徒。ランスの友人である。窓の拭き掃除をしていたランスは気だるげにドアを見遣り、雑誌をめくっていたドットは慌てて立ち上がった。
レモンがこの部屋を訪れるのは非常に珍しい。そもそもここは男子部屋の集まる階で女子生徒がいること自体、第二次性徴思春期真っ只中のハイエナ共にとってはドキドキのイベントである。ランスがそれに胸を高鳴らせたことは一度もないが。
面倒なことに巻き込まれそうな予感に辟易しつつ続きの言葉を待った。
「アンナちゃんが!」
「アンナが!?」
アンナ──アンナ・クラウン。今年からイーストン魔法学校中等部に編入したランスの愛する妹の名だ。その存在はあまりに清らかで美しく、見る者が思わず笑みを浮かべてしまう程愛らしい。もしそこに邪な感情を抱く者がいるとすれば、ランスはその者の目を潰し脳天をカチ割り四肢を切断し広大な海へと流したいと思っている。神覚者とかいう最高権力者である前に、お兄ちゃんなので。当然のことと言えよう。
そのアンナが一体どうしたと言うのか。面倒なこと、なんかではない。万事を差し置いてでも駆け付けなければならない一大事だ。三角巾を頭から外し、雑巾と共にテーブルへ叩きつけるとランスは部屋を飛び出した。
「あっ今はマッシュくんのお部屋にいますから!」
「何っ」
何故。何故マッシュの部屋に。彼もランスの友人だが、場合に寄ってはこの手に掛けなければならない。マッシュ・バーンデッド、お前がライバルで良かった。今からお兄ちゃんの名に恥じぬ手段を以てお前を殺す。
一年の時と変わらぬ向かいの部屋へと飛び込む。
「アンナ!!」
「あ、ランスくん」
「お兄ちゃん!」
「
……
ッ」
ぱぁっと視界が明るくなった。目が覚めるような青の髪に本物と見紛う天使の輪。くりくりの丸い目は穏やかさと利発さを兼ね添えており、白のブラウスと赤のネクタイを正しく着こなしたその姿は我が校を代表するに相応しい。漆黒のローブが重たく映るが、それが今にも羽が生えて飛んでいってしまいそうなアンナを地上に繋ぎ止める役割を果たしてくれている。
「こ、これは
……
!」
いち、にい、さん、よん。そういった愛らしい存在が四人、いる。同じ顔、同じ背格好で誰かが扮しているようには見えない。頭にお団子を二つ作ったアンナに、高い位置で二つ結びのアンナ、また耳の下からゆるい三つ編みを下げたアンナ。先程「お兄ちゃん」と呼んだアンナはいつも通りサラサラの髪の毛をなびかせていた。
「はうっ」
「ランスくん!」
ピョイーンと身体が後ろへと弾き飛ばされる。ドアを開け放していたため激突したのはランス達の自室がある方の壁で、フィンがこっそり安堵したことをランスは知らない。
「マジかよ」
後からやって来たドットに引き摺られながらランスは部屋に戻る。
仰向けになり大の字になっている所を身長140センチメートルの小人さん達に囲まれて、すぐには立ち上がれそうになかった。
四方どこを見たってそこにいるのは天使や妖精のようなおとぎ話な存在か、もしくは小グマさんやウサギさんを擬人化したようなかわいい森のどうぶつさん達だ。
オレはどのアンナを見ればいい? ちょうど囲うように等間隔に並ばれているため、視界に収まりきらない。この時──奇しくも七魔牙の第三魔牙、ワース・マドルとの戦いにおいてランスが使用したセコンズ『トゥーチャーポール』と同じ構図になっていたが、それに気付く者はいない。
今にも物理的に身が裂かれそうな思いになっていたランスだったが、本来の目的を思い出した。そうだ、我が妹の身に一体何が起きたと言うのだ。
何事もなかったかのように起き上がったランスは説明を求めた。
「増殖する魔法薬です」
「増殖
……
?」
「はい、マッシュくんのBBBBダンスに憧れた中等部の子が作ったそうで」
「BBBBダンス? でもあのダンスの時、マッシュは魔法薬は飲んでねぇよな?」
「うん。めちゃくちゃ速く動いただけだよ」
サビのメロディに合わせて腕や脚を左右にブリンバンバンする、あのことを指しているのだろう。一人で踊っていたマッシュが次のカットでは複数人いるのだ。目の前で見ていたので加工でないことはランスにも分かっている。ああいうのに憧れる年頃なのだろう。
「その試薬の蓋をちゃんと閉めずに持ち歩いていたみたいなんです。曲がり角でぶつかって、その拍子に被っちゃったみたいで、こんな感じに」
「
……
」
「ちゃんと先生に指導されたみたいなので、殴り込みとかは止めてくださいね」
なるほど。アンナを見遣ると少しだけ小首を傾げ「なあに?」と微笑んだ。ヴッかわいい。
「どこも悪いところはないか?」
「うん大丈夫だよ。でもね、私以外の子は声が出ないの」
「声が
……
」
「調合ミスやら何やらがあったみたいで、姿形は同じようにできても声帯までは再現できなかったようです。同じ理由で魔法も使えません」
でも元気だよ、とでも言うように二つ結びのアンナがその場でくるりと舞った。ぴゅんと振り回された髪の毛の束がぺちんとランスの身体を叩く。その姿のかわいらしさといったらなかった。思わず頭を撫でると「私も、私も」とお団子頭のアンナとおさげのアンナもランスの元へ寄ってくる。
「あばばばば犯罪現場だ」
「魔法局に通報してやろうぜ」
「フン、兄が妹を愛することの何が悪い」
両脇を四人の少女で固めた絵面はシンプルにヤバいがランスは「兄だから当然」と思っている。ここでもフィンに内心で「ランスくんって本当にちょっと
……
」と思われているのだがそれを本人が知る由もない。
「それぞれ見分けがつくようにヘアアレンジさせてもらいました。実家の妹を思い出して楽しかったですよ」
「よくやった。今度購買で何か奢ろう」
「わっ本当ですか」
お団子を潰さないようにふわふわ撫でるランスと、きゃっきゃと盛り上がるレモン。
事件に巻き込まれたわけじゃなくて本当に良かった。この状況は面倒事どころかご褒美に思える。そんなランスのローブをちょんと引く存在が一人。そうだ、まだおさげのアンナの番が残って──
「おにいちゃん、わたしも
……
」
「ヒュッ」
「ア゛ッッッランスくん!!!!!!」
愛────。
■□
──ということが昨日あった。フィンはふう、と息を吐く。
あの後「アンナを一人にするわけにはいかないから夜はオレが一緒に寝る」と言い出したランスに対し「オイ馬鹿女子寮に泊まる気か!」「犯罪者!」と非難が殺到して大変だった。わあわあ騒いでいる間にぽん! と音がして魔法薬の効果が切れたためそれも心配無用となったわけだが。
フィンはとぼとぼ歩きながら、しかし帰り道を急いでいる。同じ歩調の、同じ顔をした人間を引き連れて。
(どうしてこんなことに
……
!)
ああ、周りの視線が痛い。このまま頭を抱えてしまいたい。
昨日のアンナ同様に増殖の魔法薬に触れてしまった。
意気揚々と歩く男子生徒がいるなと思って見ていたら、目の前で足を絡ませてすっ転んだ。慌てて駆け出したが間に合わず、べしゃりと顔から行った。同時に嫌な音もして見てみると、男子生徒の腰の辺りからじわじわと液体が漏れ出ていた。色は薄い緑で赤色混じり。身体を起こさせてみると小瓶が割れており、その破片で切り傷を作ったらしい。状況を理解するなり目に涙を浮かべた幼い顔を見て、咄嗟に杖を振った。
魔法よりも手を使うことに慣れてしまったフィンは迂闊にもガラス片に素手で触れ、その際うっかり指を切ってしまった。傷口が魔法薬に触れたことから同じ顔をした人間が三人、目の前の生徒も三人増えた。
動揺する男子生徒を宥め、教師を呼び、報告を済ませたフィンはどっと疲れた身体を無理やり動かして帰路についた。
(疲れた、本当に、疲れた)
ドジっ子な後輩は昨日アンナに魔法薬をかけてしまった生徒だった。二日連続で教師から指導を受け流石に堪えているようだったが、ドジっ子ならきっとまた繰り返すだろう。
まさかこの程度で増殖してしまうとは思わなかった。消し方も分からず持続時間も分からない。詳細を聞くのは忘れてしまったし、面倒事を避けるためにも早く自室に戻ってしまおう。
幸いフィンの分身(?)達は大人しく、フィンの足が向くままに着いてくる。隣にいるのに会話がないというのはなんとも不思議な感覚だった。試しに杖を持たせてみたがやはり魔法は使えなかった。
やっとの思いで自室へと辿り着き、ドアを開けるとそこにはいつもの面々が既にお茶を始めている。
「ただいまー
……
」
「おかえりーって、増えてる」
「増えました
……
」
「昨日のアンナちゃんと同じやつか?」
フィンの後ろからわらわらと続いた同じ顔を見て、シュークリームを頬張るマッシュはぱちりと瞬きをする。ドットは近くに寄りまじまじと見た。
「やっぱり、同じ顔が四人いると見分けがつきませんね」
「ローブやネクタイを取ればいい」
「そうですね、あとはその横の髪の毛を耳に
……
あ! ヘアピンで留めちゃいましょう!」
続いて席を立ったレモンが小さなリボンが付いたヘアピンを、三人の内の一人に差した。他の二人もランスに言われるままローブを脱ぎネクタイを解いた。
「レインくんに報告する?」
「えっだめだめ! こんなことで兄さまの邪魔できないよ!」
「アンナちゃんの時はランスくんに報告したのに?」
「それとこれとは違うから!」
「そう?」
シュークリームを食べ終えたマッシュがことんと首を傾げそう言うのをとんでもない! と断る。多忙である兄のレインにこんなこと報告できやしない。フィンはもう小さな子供ではないのだからわざわざそんなことはしなくていい。
増殖したフィン達はマッシュに勧められてシュークリームを頬張っている。声は出なくとも胃には食べ物を納められるようだ。
「あっフィンお前クリームはみ出てるぞ」
「?」
「あーほらティッシュティッシュ」
「増殖すると不器用になるんでしょうか?」
「声が出ないこと以外にも不足している部分があるのかもしれないな」
手をクリームまみれにしているフィンを傍から見て前言撤回したくなった。同い年に世話を焼かれる同じ顔。見ていて恥ずかしい。
「相変わらず騒がしいなアドラ寮は」
「!」
不意にその場の空気にそぐわない声がした。ぴくりと肩と心臓が跳ねる。断りもなく開けられたドアの前に、男が一人立っている。深緑のローブを着用した痩身の男。オルカ寮のカルパッチョ・ローヤン。
「カルパッチョ
……
!」
「フィン、探してたんだけど」
「え、ああ、ごめん」
遠慮なく足を踏み入れ、マッシュ達に取り囲まれた同じ顔に気付いたカルパッチョは目を丸くした。
「これは?」
「増殖の魔法薬だよ」
「ふぅん」
指輪の嵌った指をとん、と顎に当て、頭の先からつま先までをじっと見ている。おもむろに右手の中指を折り曲げ親指で押さえると、腕を持ち上げてピンと己の額に放った。
「!」
「バウンズの対象になるのか」
「そう、みたいだね」
増殖した一人──ローブを脱いだフィンが痛そうに額を抑えていた。
カルパッチョは興味が湧いたのかすっと近付いて首筋に触れた。もしかして、このまま首を絞めるのでは。
首筋に触れ、手首に触れ、最後は左胸に手のひらを置く。
(──!? こ、この人何やってんの
……
!? っていうか僕も少しは抵抗したら!?)
不躾に触れられているというのにされるがままのフィン。そのままあちこち──腹や肩、髪の毛や耳なんかに触れたり見たりを繰り返す。口を開けさせて口内を見たり、頬を包み込むようにして手を添えて親指で下瞼を引っ張って裏側を見ている。その手つきや視線は研究者のそれで、最後の方になると医師の診察を見ているような気分だった。
「これってレンタル可?」
「!? 不可だよ!!!!」
「どうして」
「どうしても何も、君絶対実験台にするだろ!? なんか薬打ったりとか四肢を切断したりとか!!」
「否定はできないな」
「だめに決まってるでしょ! そんな痛いこと! 声出なくて魔法も使えないんだから!」
「本人であるフィンに痛みは来ないのに?」とでも言いたげなある意味純真な瞳が不思議そうに見てくる。危機感を覚えたフィンは分身を守るため二人の間に入ろうとして──。
「ちょ、ちょっと」
ローブを脱いだフィン(ここでは一号と呼ばせてもらう)が、カルパッチョの手首を掴んで、頬に添えられたままだった手のひらに擦り寄った。その光景にフィンの心臓は加速する。
「な、なななっ何やってんのっ」
「きゃっ♡」
静観していたレモンが弾んだ声を上げる。擦り寄る一号の様子をカルパッチョはぽけ、とした表情で見ていた。
慌てて引き剥がしえいやっとマッシュ達の方へと背中を押す。そうしている間にカルパッチョはちょいちょいと、ネクタイを外したフィン(二号)に手招きをした。
ぱっと表情を明るくした二号はとことこ近付いて少し身をかがめるとそのまま頭を差し出した。
「待って! 違うから! ねぇ!」
キツすぎる。今、撫でてと言わんばかりの仕草をしているのはフィンと同じ顔を持つ奴だ。身長は一応、170センチメートルある鶏ガラの男。アンナ程幼ければかわいげもあっただろうが同い年に対してこれはキツイ。
絵面だけではない。精神的ダメージの方も大きくキツイ。
何を隠そうフィンは目の前の男のことが好きなのだ。同性な上、神覚者候補選抜試験で散々痛めつけられたというのに恋心を抱いてしまっている。自分でもちょっとどうなのかとは思う。けれど人の心臓は都合よくはできていない。好きを認めてしまったらもう止められない。
カルパッチョとは友人関係になれた。どうしてそうなったのかはもう覚えていないけれど、気が付けばこんな風にふらっと会いに来てくれる程度には親しくなれた。もちろんこれ以上どうこうしようとは思わない。フィンは彼と友人でいられたらそれでいい。願わくは卒業してからもこの関係でいられたらと、そう思う。
そう思うのに、今目の前ではフィンの秘められた恋心が、魔法薬により増殖したフィンによりバラされている。
(待って待って待ってなんでこんなことに
……
! これってもしかして僕の願望!? なんで手に擦り寄ったりなんかしてんの、ってああっそんな期待したような顔しないでよ恥ずかしい!)
これが魔法薬の不足した部分なのだろうか。本人も気付かぬような願望を取り出して、そのまま行動に移してしまうような、そういう厄介なやつ。秘めた想いを留める器官が壊れでもしているのか。
ああ、これでは嫌われてしまう。もう友人としてカウントしてくれなくなるのだ。今すぐにでも止めに入りたいのに気が動転していて身体が動かない。
カルパッチョは意を汲んだのか、右手を頭の上へ乗せた。ぎこちなく、髪を撫で付けるように動かす。
「!」
カルパッチョが、フィンの頭を、撫でている。
二号の横顔が嬉しそうだ。
「か、カ、ル、パッチョ
……
」
「愛玩動物みたいだな。一人飼わせてくれない?」
「
……
へ、いやいやいや、良いわけなくない!? さっきのレンタルと同じ意味でしょ絶対!」
ペット、て。
カルパッチョの研究室にお邪魔したことがあったがそこにいたのはマウスにモルモット、ヘビなどの爬虫類で、実験台として扱われるあろう動物達だった。彼に動物を愛でる心があるとも思えないし、"一人飼う"と言っている時点で人間扱いする気がまるでない。
恋心がバレなくて安堵すると同時にカルパッチョの人間性に恐怖を感じる。
撫でててもらってご満悦の二号を保護してマッシュ達の元へ連れていく。マッシュと、シュークリームを食べている一号の間にねじ込んでため息。このままではカルパッチョが人間飼育趣味の変態になってしまう。それは避けたかった。最後の一人をカルパッチョの元へ行かすまいと追加のシュークリームを与えようとして、して
……
?
「わーっ!? 馬鹿馬鹿馬鹿!!」
ふら〜っと近付いていく三号がいた。
「コラ! チェンジズ!」
招かれるまでもなく寄っていくだなんて、全く油断も隙もない。あのままいけば抱き着くところだったのでは、と肝が冷えた。フィンにその願望があるとかではなく順当に行けばの話で。いや本当に。
三号との入れ替えに成功したフィンは、カルパッチョの身体を反転させドアの方へと押しやる。
「ちょっと僕カルパッチョと外出るから! その三人が変なことしちゃわないか見てて!」
「いいよ」
「また後で教えてくださいね〜♡」
「夕飯までには帰ってくるんだぞ」
「お母さんかよ」
四人の声を背中に受けながら、フィンはカルパッチョの背中を押し続けた。
今カルパッチョはどんな顔をしているだろうか。気付かれてはいないだろうか。嫌悪していたらどうしよう。フィンにはカルパッチョの表情を伺う勇気がなかった。
──以前、先輩であるマックスに、フィンの恋心を打ち明けたことがある。楽しく雑談をしていて話の流れで聞かれたのだ。「フィンは今、好きな人とか、恋人はいるのか?」と。
フィンは思わず俯き、口ごもってしまった。ちょうど恋心を自覚した頃のことで気持ちの整理もできておらず、上手く答えられなかった。それ見たマックスの「変なこと聞いてごめん。無理に答えなくていいぞ」と言う声が、あまりに優しいものだから、まるで本物の兄のように思えて、レインには言えない話をした。
大袈裟な反応を見せたり、茶化したりすることなく最後まで話を聞いたマックスは静かに頷いた。
『あの、カルパッチョの好きなタイプって、分かりますか』
『好きなタイプ?』
こんなことを聞く気はなかった。そもそもフィンは進展を望んでいない。知ったところでどうする気もない。質問したのはマックスがどう返答をすべきか、悩んでいるのが伺えたからだ。
マックスは話し始めた。
『
……
アイツが告白されているところを目撃したことがあって、女子が去っていった後に声をかけたんだ。今の子綺麗だったなって。そうしたらなんて言ったと思う? よくわからない、と来た。それで色々聞いてみたんだ。オルカにかわいいなって思う人はいるか、とか、好きな芸能人はいるか、とか。全部わからないって答えたよ。人の醜美がよく分からないらしい』
『へぇ
……
』
『この話題自体はだめじゃないらしいから続けたんだ。じゃあどんな人がタイプかって。これにもわからないって言うものだから面白くてな。強いて言うならどんな人がいいか、どんな人なら傍で見ていたいかって聞いたんだ。見ていて飽きない人だってさ。アイツらしいよな』
『飽きない人
……
』
『多分、性別は度外視なんじゃないかな』
見ていて飽きない人。こういった話題でよく挙げられるのは面白い人、だ。それの仲間みたいなものだろうか。これも絶対というわけではなく、自分の好みとは違うタイプを好きになることだってある。しかもカルパッチョが強いて言えば、で答えたものだ。はっきり言ってアテにならない。
……
それでも。
『
……
僕がカルパッチョにとって面白い人だったら、ずっと友達でいられますか』
『無欲だなあ。
……
フィンはフィンらしくいればいいよ。それがずっと友達でいられる一番の方法だと思うから』
──曖昧に、少し寂しそうな顔をして笑うマックスの顔は今でも覚えている。
「
……
ペット」
「ん?」
されるがままだったカルパッチョがブレーキをかけた。足が絡まりそうになり傾ぐ上体を、振り向いたカルパッチョが支えた。
「わっごめん」
「
……
」
「えっ何そのちょっと残念そうな顔。
……
もしかして本当に飼おうとしてた? 無理だからね? あれ多分一日も持たないし」
「だろうね」
カルパッチョの手のひらがフィンの頬を滑っていった。まるで一号に触れた時と同じように右手で柔く包まれている。
「
……
だから代わりにフィン自身がペットになってくれる?」
「ぜっったいに嫌だ! 僕のセコンズを利用して好き勝手する気だろ!」
「
……
」
「図星
……
ッちょっとくらい言い訳とかしてよ!?」
すいっと逸らされた視線は肯定を意味した。研究者の気質は友人相手でも発揮される上に容赦がない。
「
……
っていうか僕に何の用だったの?」
「
……
研究に付き合ってもらおうと思って」
「今考えたなそれ!」
カルパッチョがこうやってとぼけるのは珍しい。フィンが順番に突っ込んでいくと愉快そうに目が細められ、唇が歪んだ。
フィンから顔を寄せない代わりに、カルパッチョの手が頬を撫でた。こうすれば従順な犬のように「よろこんで!」とでも言うと思ったのだろうか。
フィンはカルパッチョと同じ人間だということを忘れないでいただきたい。
ふ、と小さく笑った後、ぽつりと落とされたのは甘美な言葉だった。
「面白いね、フィン」
「
……
!」
──あの、マックス先輩。僕が彼のペットにでもなればこの先も友達でいられるのでしょうか?
☆マックス先輩からのおへんじ☆
「後々拗れるから絶対にやめた方がいいし、このことは絶対にレインに言わないようにな!」
■□
「このフィンくん達、すごく甘えんぼうに見えるね」
「あー」
「甘えたというより、幼いな。見た目は今と変わらないが精神年齢が追いついていないように見える。模倣できたのは見た目だけか。中等部が作ったんならこんなものだろう」
「アンナちゃんの時はそうは思わなかったけど、フィンくらいの年齢になると魔法薬の欠陥が目立つな」
「なんだ、てっきりフィンくんはカルパッチョくんのことが好きなのかと」
「うーん
……
それは、どうでしょうね?」
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