塚口
2021-02-14 00:38:53
7449文字
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親の心子知らず

千葉志津雄、八乙女宗助、逢坂壮志が二階堂大和の誕生日プレゼントについて悩むとんでもな話。
キャラ崩壊捏造過多。何でも許せる方向け。


座敷からひのきの芳しい匂いが漂う。
襖の閉められたその部屋には重々しい雰囲気を纏う男が三人座卓を囲んでいた。
千葉志津雄、八乙女宗助、逢坂壮志。それぞれ有名な元俳優だったり大手芸能事務所の社長だったり大企業FSCグループの社長だったりと普通に過ごしていれば決して関わることがなかった三人が今ここに居る。
彼らを巡り合わせたのは他でもない大事な一人息子の存在だ。
暑い日差しの中で行われた某ライブ会場で彼らは何の因果か顔を合わせてしまったことをきっかけに細々と連絡を取り合うようになり、現在に至る。
父親似な息子がいて尚且つ親子関係がお世辞にも上手くいっていないという共通点を持つ彼らは打ち解けるのに時間を必要としなかった。
そして今日はラビチャグループ『パパ友の会』(志津雄発足)で志津雄から召集をかけられていた。

この三人、揃いも揃って目つきが悪く何なら機嫌も悪そうだが、これが彼らにとっての素の表情であることはあまり知られていない。時間ばかりが過ぎていく空気に耐えかねたのか宗助が口を開いた。
「それで千葉さん、本日はどのような要件で?」
「あまり言いたくはありませんがご隠居なされた貴方と違い私共も忙しい身でして」
宗助の質問に壮志が続く。そんな二人の視線を集めているこの場を開いた張本人、志津雄は大きく息を吐きながらゆっくり頭を下げて見せた。
「な、何をなさっているのですか!?」
「頭を上げてください!!」
「実は御二方に折り入って相談が.......」
その様子にただならない事情を察したのか場が緊張に包まれる。ゴクリと唾を飲み込む宗助と壮志。次に志津雄から発せられる言葉を身構えた。


「息子の誕生日プレゼントを一緒に考えて下さらないか」






先にも言ったが彼らは皆息子との関係が良好とは言い難い。いずれも一悶着あって少し落ち着いたかな? 程度のものだ。その事情をお互い把握しているので呼び出された二人はまず思った。
「.......人選ミスでは?」
「私達がお力になれるとは思いませんが」
「そう言わずに是非貴方方の知恵をお借りしたい!! 大和の誕生日がもうすぐそこまできているんですが何せ今までまともに受け取って貰えなかったので」
耳の痛い話だ。息子にプレゼントを受け取って貰えない経験は他二人にも身に覚えがあるらしく苦い顔をしている。
「色々あってようやく口をきけるまでになりました。だから今年こそはと思い立ちまして」
先日実家に足を運んでくれた愛息子を思い出す。用意したメロンは食べて貰えなかったが、過去に大和から感じた敵意はもうなかった。誕生日を昔のように仲良く過ごすまでとはいかなくとも祝うくらいはしてやりたい。
「あの子が生まれてきてくれたことを祝ってやりたい、その感謝を伝えたいだけなんです」
ただそれだけがひどく難しいことをこの場にいる全員理解している。
「千葉さん.......」
志津雄のささやかな本音を聞き、宗助は考えていた。
(やはり人選ミスだな)
そんな大事な話なら尚更自分達に相談してはいけない。何故なら彼は息子の楽に誕生日プレゼントを喜ばれた思い出がないからだ。
不安が過ぎる宗助とは対照的にどことなく自信に溢れている壮志が話し始める。
「喜ばれるだけなら簡単です」
「嫌な予感しかしない」
「金をやればいいんです! 好きな額、いやそれ以上を渡してやれば喜ばない人間はいない。金さえあればどうとでもなる」
「お前と言う奴は.......」
頭を抱え内心ドン引きする宗助。だからこいつにだけはプライベートで敬語使わないんだよと本音を言ってしまいそうになっていた。FSCという取引先の社長でさえなければ鼻で笑っている所だ。
「逢坂くんすまないがそれは──」
「聞かなくていいですよ千葉さん」
「以前大和に嫌らしいって言われたんだ」
既に手遅れだった。
世界の千葉志津雄と名高い彼のことだ、きっととんでもな額を包んで渡したのだろう。宗助にはその光景が目に浮かんでしまいほんの少しだけ大和に同情した。
正確には「人のことを金で買えると思ってんだなあんたは.......嫌らしい」という好感度最底辺の対応だったことを志津雄だけが知っている。
「そ、そうでしたか.......」
一人意外さを隠せない壮志の脳裏に過ぎるのは過去の息子の姿だ。
(.......壮五もあの時本当は喜んでいなかったのか?)
壮志から貰ったそれを大切そうに掴んでいた小さな手。今にして思えばプレゼントではなくその手を握ってやることこそ父親として自分がすべき行動だったのかもしれない。
もう取り返しなんてつかないけれど。
感傷に浸る壮志の耳に冷静な声が届いた。
「大体成人してそれなりに稼いでいる人間が父親から現金貰って喜ぶわけないでしょう」
下手をすればまだ子供扱いされていると怒られても仕方ない。
宗助の言葉にハッとする二人。これでは先が思いやられそうだと溜息をつきながら宗助は続ける。
「定番ですが自身が貰って嬉しい物をあげる、というのは?」
「大和からのプレゼントならその辺の石ころでさえ家宝になる」
実際志津雄の自室には大和が二歳の頃父親にあげた何の変哲もない石が飾られている。迷いなく言い切った志津雄に他二人は呆れと僅かばかりの同意を込めてそれ以上その話題に触れなかった。
「では逆に最近息子さんが欲しいと言っていた物やそういう話を他から聞いたことは?」
「.......そういえば先日、大和が僕の昔使っていた衣装を貸してほしいと頼みに来たな」
いや何があった。

壮志と宗助の気持ちが珍しく一致したが状況が特殊すぎて口には出せなかった。
一体何がどうなれば仲違いしていた父親の衣装が欲しくなるのか。頭を捻り考えても彼らは真相にたどり着くことが出来ない。ゆえに大和のことを「実は千葉志津雄の隠れファンなのでは?」というとんでもな誤解が生じてくる。
「僕から借りた衣装を着る息子の姿はそれはそれは立派で」
満更でもなさそうな志津雄に若干の苛立ちを覚える壮志。彼は成人式の晴れ着姿すら見たことがないのだ、何故なら存在を怖がられているから。
「で、では千葉さんの昔の写真はいかがでしょう」
宗助は考えた。本来息子が父親の写真を貰って嬉しいかどうか、答えは明白だ。確実に気持ち悪がられる。
しかし相手は世界の千葉志津雄と恐らくそのファンである実子。
もし楽なら.......楽が千葉志津雄の写真を貰ったら。三日月狼のキャスティングが決まった彼ならきっと手放しで喜んでしまうだろう。そこまで考えて宗助は思考をやめた。純粋に羨ましい。
「キットヨロコバレルトオモイマスヨ」
「正気か!?」
壮志の今年初のツッコミ。
「そうかい? そう言ってくれるかい? いやぁ僕も大和から写真を貰ったら嬉しいからね。そうなんじゃないかって思っていたんだ!!」
心底嬉しそうな志津雄と思考を放棄した宗助。彼ら二人はどんな写真がいいかともう話を進めてしまっている。壮志だけが疑念を抱いている、この中で彼だけが知っていた。
自分が嬉しいからといって他人も喜ぶとは限らないこと。
自分が良かれと思い押し付けたことが息子にとっては暴力でしかなかった事実を彼だけは経験していたのだ。「それはイジメ」だと訴えてくれた誰よりも息子思いの青年を知っている。だからこそ。
「待ってください」
止めずにはいられなかった。

「どうしたんだ逢坂くん」
「よく考えてみてください。確かに我々が息子から彼らの写真を貰ったならそれは喜ばしいことでしょう。しかし私達は"許せないことをした父親"であることに変わりないんですよ? ここで下手をすればまた嫌われ避けられる日々です。一度慎重になりませんか」
──父さん、あんたのせいだ。
震える声で泣きそうになりながら電話してきた息子のことを思い出す。片意地を張っていた情けない自分に手を差し伸べてくれた大和の言葉が戒めのように繰り返される。
「.......逢坂くんの言う通りもう少し慎重になった方がよさそうだ」
息子との関係を縮めたいあまりことを急いてしまったと志津雄は反省した。
大切なのは大和が喜ぶこと、そして彼を傷つけないことだ。もうあんなセリフを吐かせるわけにはいかない。
「そこで私に考えがあります」
壮志はそれだけ言うと手持ちのスマホを取り出した。
「ご子息が気に入りそうな物を彼により親しい人間から聞くんですよ」
志津雄と宗助の頭に浮かぶのは千の顔だ。しかし当人の壮志とは面識がないはずなので首を傾げる。
「まさかお前」
「壮五に電話してみよう」
(その発想はなかった)
志津雄、宗助は別の意味で同じことを思っていた。

志津雄は単純にありがたい話だと喜び、宗助はまたもや「こいつ正気か」と震えている。まだ完全には関係を修復できていない息子にいきなりメンバーの誕生日プレゼントについて話題を振るなど自殺特攻に他ならない。
そんな二人の思いを抱いて壮志は高揚した気分で電話を掛けていた。
番号を押し、なる筈のコール音を待つ。
『おかけになった電話番号は、お客様のご希望によりお繋出来ません』
無機質な音声が部屋に響き渡った。

「.......おかしい、壮五の奴いつの間に番号を変えたんだ」
「逢坂くん言いづらいけどそれ着信拒否の音声案内じゃないかな」
「FSCのしてきた事を考慮すれば妥当だろ」
「お前にだけは言われたくない」
ここにいる人間は他人の気持ちに寄り添うのが苦手なんだと身を持って実感した壮志は一人部屋の隅で膝を抱えた。
「やはりここは千くんに頼むしか」
「奴を巻き込めば最後取り返しのつかないことになりますよ!!」
「君は彼に何か恨みでもあるのかい?」

話が振り出しに戻り一息つく為に彼らは用意されていたお茶を啜った。冷めきってしまったが今はそれすら身に染みる。
「.......恥ずかしながら僕は息子のことを何も知らないみたいだ」
「.......」
それに返事ができる者はこの場にいない。

志津雄は大和がメロンを好きだったことを覚えている。今そんな話を本人に振れば「いつの話だよ」と渋い顔をされることも分かっているがそれでもずっとそれだけは忘れられなかった。
好きな物も嫌いな物も長すぎる期間息子と向き合ってこなかった彼には知る由もない。いつまでも過去に縋ってあの日嬉しそうに頬を綻ばせた幼い宝物のことを幾度となく思い返してしまうのだ。
そんな自分の姿を知ったら大和はきっと呆れるだろう、笑われるかもしれない。
「ただ喜んでもらいたいだけなのにそれすら難しいなんて情けない話だ」
「──情けなくなんてない、あるはずがない。貴方が頭を下げてまで子息の為を思っていることはきっと彼にも伝わるはずだ」
「逢坂」
「逢坂くん」
力強く否定したのは先程まで肩を落としていた壮志だった。
(こいつどんなメンタルしているんだ)
と宗助だけは思っていたがそれをおくびにも出さず便乗する。
「そうだな、呼ばれた身で何も力になれないなんてこちらの方が情けない。千葉さん、よく考えて下さい。本当に息子さんの好きなものに心当たりはないんですか?」
「一つだけ.......」
躊躇いがちに呟いた志津雄は覚悟を決めて言い切った。
「大和にとって今最も大切なのは間違いなくアイドリッシュセブンだろう」
彼らの為なら長い間避け続けていた父親と向き合う勇気を振り絞る程に大和にとってかけがえのない存在なのは確かだ。
「ならいっそ二階堂大和一人を喜ばせる路線から二階堂大和を含む複数人を喜ばせる物に変えるのはどうでしょう」
「それは妙案だ!!」
壮五の誕生日の際はあの四葉環という青年も一緒に喜ぶ物を贈ってやろう。そんな考えが透けて見える壮志を放って宗助は話を進める。
「例えばですが全員で楽しめるもの、食事券や生活用品がよろしいかと」
「確かに。それなら大和くんも喜んでくれるだろう」
腕を組み暫し物思いにふける志津雄。ようやく開かれた彼の口からは他二人が予想していない答えが返ってきた。
「物件か防犯設備か」
「そういうことをするから引かれるのでは?」
過保護なんだよ全体的に。
姉鷺から過保護認定された宗助でさえ共感しえない域に達している。無言のまま横で頷いている壮志もきっと千葉志津雄と同類なんだろう。そう思い遥か明日へと目を向けた宗助は次の言葉で現実に引き戻された。
「なら事務所の建て替えの方が喜んでくれるだろうか」
「千葉志津雄が小鳥遊事務所を買収したなんて馬鹿げた新聞記事が出回りますよ」
(クソっなんでこの私があんな奴の為に引き止めなければいけないんだ)
忌々しい相手の為に咄嗟に動いてしまったことを悔しがりながらもわざとらしい咳払いで誤魔化した。
「セキュリティの強化は賛同しますが流石に事務所の許可無く出来ないので現実的ではないかと」
「それもそうだね.......」
「現金のくだりから何一つ学んでないのは気のせいか」
最悪千を呼んでこの場を収めてもらうのが最善か? いや奴を呼べば生涯ネタにされる。そんな葛藤と戦う宗助の気も知らない志津雄はふいに思いついた。
「遊園地」
「はい?」
「昔大和に遊園地へ連れて行って欲しいとせがまれたことがあるんだ。僕のせいで叶えてやれなかったんだが.......なんて今更こんな話役に立たないだろうか」
「そんな事ありませんよ、十分使えます。遊園地のチケットをメンバーの数だけ用意するというのは?」
「遊園地か。ロケで行ったことならありそうだがプライベートとなると話は別だ。しかし期限付きのものは厳しいだろう」
一度良い案が挙げられれば仕事の早い面子だ。トントン拍子に話し合いが進み某夢の国の年間パスポートをメンバー分入手することまで話が進んだ。
「壮五と四葉環の分は私が出します」
「いや彼らも大和の傍であの子を支えてくれる大切な人達だ。ここは僕の顔を立ててくれないだろうか」
逢坂壮五は分かるが何故いきなり四葉環の保護者面をしているのか、壮志の考えが読めない宗助は黙って二人のやり取りを見守っている。
「君はまた壮五くんの時に機会があるだろう? これっきりじゃないんだ、時間をかけてゆっくり行こう」
「.......そうですね」
これっきりじゃない。志津雄の何気ない一言に思わず口元を緩める壮志。
「そうだ! 八乙女事務所さんの分もご用意しましょうか?」
「怪しまれるのでやめて頂きたい」
それに彼らはもう自分の手から離れている。
次に宗助が誕生日プレゼントを贈るのは彼がまたTRIGGERが所属する八乙女事務所の社長として返り咲いた時になるだろう。
「あと年間パスポートってどうやって入手するのか聞いてもいいかな」
「大丈夫ですよ千葉さん、最後まで付き合わせてもらいますから」
壮志の返事に宗助が頷いた。
「千葉さんには息子がこれからお世話になるのでこのくらい当然です」
「あぁ、君のとこの楽くんは確か三日月狼に出るんだったね。舞台挨拶で見かけたが君に似て凛々しい顔つきをしていたよ」
「壮五の方が私に似ていますがね」
「何故今張り合った!?」
「まぁまぁその話はまた後で。うちの大和が一番僕に似ているのをアルバムでも見ながらゆっくり語らいましょう」
「あんたも譲らないな!? どう見たってうちの楽が一等賞だろう!!」
「一等賞ってかけっこじゃないんだから.......」

不甲斐ない父親が三人それぞれの事情を抱えながら息子への思いをぶつけ合う。
いつか彼らが面と向かって息子の誕生日を祝えるまでまだ途方もない時間がかかりそうだ。
「大和が一番可愛い!!」
「そんな話してなかったでしょう!? ありとあらゆる一番をうちの楽なら取ってくれるはずだ!」
「逢坂家の人間が他に負けるはずがない!!!!」
騒がしい事態を見兼ねた二階堂の奥方が乱入するまで後.......。



















〔後日談・ラビチャグループ『パパ友の会より抜粋』〕

千葉「先日はお世話になりました。」
千葉「おかげで無事息子に誕生日プレゼントを贈ることが出来ました」
千葉「これも御二方のおかげです。本当にありがとうございます」
逢坂「いえお気になさらないで下さい」
八乙女「こちらこそ貴重な時間をありがとうございました」
千葉「それで御礼とご報告を兼ねまして」
千葉「大和からお友達と遊園地に行った写真が送られてきましたので、そちらを現像し御二方にお送りしたいと思っています」
千葉「写真には壮五くん、楽くんも写っていますので喜んで頂けるかと」
逢坂「現像ではなく今ラビチャのグループに送って下さい」
逢坂「壮五と四葉環のツーショットがあればそちらを優先してお願いします」
八乙女「図々しいなお前」
八乙女「千葉さん、送信方法を記載したメモを貼りますので参考までに」
千葉「ありがとうございます。少々お待ちください」
千葉「送れましたか?」
逢坂「写真は送れています」
逢坂「壮五の姿が見えないんですが?」
逢坂「誰ですかこの腑抜けた面の男は」
八乙女「写っているのが忌々しい男なので今すぐ厄祓いに行ってきてください」
千葉「間違えました!!」
千葉「大和がお世話になってる小鳥遊事務所の社長さんです」
千葉「良ければ保存して下さい」
八乙女「不要です」
千葉「ちょっと写真が送れないので」
千葉「千くんに聞いてきます」
八乙女「待ってください」
八乙女「早まらないで」
八乙女「せめて私のトーク履歴が削除できるまで待ってください」
逢坂「必死か」
千葉「えっヤバ」
千葉「何このグループ笑」
逢坂「千葉さん乗っ取られたな」
八乙女「言い方」
千葉「最高」
千葉「僕の腹筋返して」
八乙女「元々ないだろ」
千葉「ここのスクショ大和くんに誕生日プレゼントとして送っていい?」
千葉「お願いパパ」
八乙女「お前のパパじゃない」
逢坂「出直せ小僧」
千葉「それで大和くんが喜ぶなら」
逢坂「千葉さん?」
八乙女「おい嘘だろ」
八乙女「だからこいつ呼んだら終わるって言ったんだ!!!!」