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溶けかけ。
2025-03-06 22:09:49
1045文字
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ほぼ日刊
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時よ止まれ、汝は美しい
世界に呪いをかける二人のお話。
──キミの瞳に僕はどんなふうに映るのだろう?
ふと、気がつくとキミを探している僕がいることに気づく。太陽を乱反射する眩い銀糸を見つければ、つい目で追ってしまうし、雨が降っていればキミが泣いているのではないかと僕の心にも雨が降る。そんな時は傘の柄をぎゅっと握りしめて、三つ数えるんだ。そうでなければ、傘を放り出してパレ・メルモニアに駆け出してしまうかもしれないからね。
「やあ、ヌヴィレット。ごきげんよう」
「フリーナ殿か。息災か?」
ただの日常会話ですら気が抜けない。煩いほどに高鳴る鼓動がキミに聞こえやしないかって考えるといつもは雄弁に物語るこの口も少しだけ動きが鈍るんだ。悟られないようにするのは至難の業さ。──キミはちっとも気づいてはいないけどね。
「またね、ヌヴィレット」
「ああ、また明日」
この時間が終わってしまうことが口惜しい。それでも時間は有限で、いつまでも続くことはあり得ない。
けれど、もし、この時間が止まってくれるなら────。
「フリーナ殿」
その名を呼べば、振り返った彼女が見たことがないほどの笑みを浮かべて「なんだい?」と返した。
鼓動が僅かに跳ね上がるこの感覚はこの国に招かれ、彼女の舞台を初めて見た時とよく似ている気がした。
「僕がいなくても休んでいるかい? 仕事に集中すると寝食を忘れるのはキミの悪い癖だよ」
きらきらと眩く輝く瞳は太陽の光を余すことなく取り込んで、より一層輝きを増す。きっとどれほどの宝石を以てしても彼女の瞳には敵わないことだろう。
「まったく。キミは僕がいないと駄目なんだから!」
呆れて、笑って、くるくると雨季の空のように表情を変える彼女との時間は貴重で、通り雨のように終わりを迎えてしまう。
「ああ、もうこんな時間だ。そろそろ僕は帰るよ」
振り子時計が時間を告げる。立ち上がったフリーナに釣られて立ち上がる私を彼女の華奢な手が制止した。
「見送りは必要ないよ。まだ明るいからね」
バブルオレンジのような見事な夕日がフォンテーヌ廷を橙色に染め上げる。帰路につく子どもたちが夕暮れの曲を口遊みながら私たちの横を通り抜けていった。
「またね、ヌヴィレット」
「ああ、フリーナ殿も道中気をつけるように」
「ふふっ
……
大した距離じゃないから大丈夫だよ」
何度目かの「またね」を彼女が言って踵を返す。その背に声をかけることも出来ずに、私はその場に立ち尽くす。
──時間なんて止まってしまえばいいのに。
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