A4
2025-03-06 21:07:12
1548文字
Public 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
 

Smoke Wall

喫煙する助手2号のお兄ちゃんと喫煙しないチャンピオンのイトアキのつもりの話パイパーも出る

ルミナスクエアは一本裏路地へ入るとその装いをガラリと変える。
真昼間に買い出しでしか来たことがなかったライトはそれを知らなかった。

「ライト、ちょっと待っててくれよ。すぐ修理するからさ」

用事を済ませてさて郊外へ帰ろうとアイアンタスクのエンジンをふかしたとたん、数十センチ前に進んだかと思うと、まるでカートゥーンのようにのろのろと蛇行し、ぷすんと音を立てて止まってしまったのだった。

「点火系のトラブルじゃなさそうだから、どうにかできるだろ。ライトはそこらをぶらぶらしてるといいさ」
「あんただけに仕事をさせるのはな」
「おいおい、こいつが今動かなくてどうするんだよ。ライトが気ぃ使うことはないんだぜ。さ、行った行った」

パイパーは手を振ってしっしっとライトを追い払った。犬のようにあしらわれるのは慣れているが、パイパーにされると、彼女の労りを感じて妙に嬉しくなる。
かくして夕暮れのルミナスクエアをうろついたライトであったが、そう広くはないのであっという間に手持ち無沙汰になった。突っ立ったままでいるのは得策ではない。ライトは悪目立ちするところもあり、人目を引きやすいのだ。
そこで、表通りではなく裏路地へ入った。もしここで絡まれたとしても一撃で地面に沈める自信があった。
ビルの間の道は狭く光も差し込まない。ふと振り返ると夕日に照らされた表通りが目に入り、強烈なコントラストを視界に残した。
ゆっくりと歩いていると、煙草のにおいがした。顔を上げる。紫煙の向こうに見覚えのある姿。
サングラスを外してじっと見つめると、相手もこちらに気づいた。
近づくと、煙草を持つ手を揺らして挨拶をしてくる。

「やあ。偶然だね」
「一人か?」
「幽霊がいなければ、そう」
……あんたの返しは気障だな」
「ライトさんに言われたくないなあ。あなたこそ、一人?」
「パイパーとだ」
「ああ、買い出しだね。今度チートピアにリンと二人で行く時はぜひ僕らに依頼を」

アキラは目を細めて、ふうっと煙を吐いた。
その煙はふわりと彼の周囲を漂い、もやを作った。時間とともに薄れて消える。

「あんたが喫煙者とは知らなかった」
「1日に一本だけって決めているんだ。毎日は吸わない。体に悪いからね」
「たまの楽しみに遭遇したというわけだな」
「うーん、楽しみでもないんだ。薬のようなものかな。悩んでる時とか、寝起きの頭がはっきりしないときに吸うとシャキッとする、そういう感じ。中毒性があるから気をつけてるんだよ」

アキラの話し方は理屈っぽかった。
ただ煙草が好きだというわけではない、それをわざわざ説明するところが、彼の複雑さを表していた。

「ライトさんは今日はもう郊外に戻るのかい」
「アイアンタスクが故障してな。パイパーが見てる」
「そんなときこそ僕らに言ってくれたらいいのに。エンゾウおじさんに来てもらおうか」

携帯端末を取り出したアキラにライトは肩をすくめた。

「パイパーがもう修理してるさ」
「そう?」
「ああ。ほら、ちょうど、呼び出しだ」

ライトの端末がぶるぶる震えた。画面にはパイパーのノックノックのアイコンだ。
アキラは短くなった煙草を携帯灰皿に捨てると、ライトの横に立った。

「なんだ?」
「僕も行くよ。パイパーに挨拶して、二人をお見送りする。リンがいたらな。会えて喜んだだろうに」

かのパエトーンの片割れの横顔からは考えを読み取れなかった。まだ煙が彼を覆い隠しているようだ。
ライトは黙って自分のお気に入りのペロペロキャンディーをアキラに差し出した。アキラはそれを手に取る。
にこっと笑ったその顔は、もう先ほどの、得体の知れない男のものではなく、ライトの知っているアキラだった。