しちろ
2025-03-05 10:23:23
881文字
Public LOM
 

きこえる

ワンドロワンライ。LOM。お題「きこえる」
ギルバート。

 恋をしようと思いました。
 誰かを愛そうと思いました。
 たった一人に愛されたいと思いました。
 キミではない、素敵な誰かと。

 ひとつの恋が終わった日、新しい愛を探して、僕は旅に出た。
 たくさんの愛がほしいんじゃない。いい加減に愛したいわけじゃない。世界のどこかにきっとある、僕と運命の誰かとのハーモニー。たった一つの、僕だけの、本当の愛。
 そして僕は、旅の中でいろんな女性に出会い、何度も、何度も、恋に落ちました。
 キミを忘れたいなんて、そんな理由じゃないよ。僕の恋はいつでも本気さ。
 僕の出会った女性たちは誰もが魅力的で、キラキラとまばゆく輝いていて、この女性こそが僕の運命の人だと、僕の心は何度でも打ちぬかれた。激しく恋をしては、その人のためだけを想い、その人のためだけの歌を作り、その人のためだけにリュートを奏でた。その人だけに捧げる愛の歌を、僕の想いのすべてを込めて歌った。

 そうなんだ、みんなみんな、素敵だった。
 素晴らしい女性たちだった。今でもみんな、とっても大好きなんだ。
 
 なのに、どうしてなのかな。
 今、こんなにも思い出してしまう。
 幼い頃、キミと陽気に歌い、子どもらしい無邪気な歌を互いに作り、夢を語り、時にケンカした日々を。愛や恋なんか知らなくて、ただただ、楽しく笑いあっていたあの頃ばかりを。
 キミとは一緒にいるのが当たり前で、ずっとずっと友達で、なのに僕はいつから、キミのことを好きになっていたたんだろう。こんなにキミのことばかり考えるようになったんだろう。
 あの日、あの夜、キミとのハーモニーがうまく奏でられなくて、長かった僕の恋は終わったはずだった。
 キミへの想いは心の宝石箱の中にしまい込んで、その中でひっそり光り続けるだけのはずだった。キミに捧げた歌も、キミの綺麗な歌声も。
 そうなんだ、もう僕に届くはずなんかないのに。
 

 僕は石になってしまったのに。
 もう何もきこえないはずなのに。

 きこえる。あんなにききたかった、キミの歌。

 ……リュミヌー、キミの歌がきこえる。