siontukiya
2020-07-19 02:54:48
1392文字
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彼は知る由もなく

ボカロとかボイロとかがヒューマノイド的な感じに肉体を持ってる世界線の話
/ゆかりさんとマスターの暇つぶし

テレビではこの冬に公開するのだという恋愛映画の宣伝をしていた。
主演にボイスロイド・伊織弓鶴を起用し、最近売れているというアイドルが余命幾許かのヒロインを演じるそうだ。
『ヒューマノイドによる演技という初の試みに乞うご期待!』という安っぽいテロップと、柔和そうな白い青年ががんばります、と握りこぶしを作り答えているどこにでもありそうな番宣だった。

「かわいそうに。彼きっと耐久年数寿命
短いですよ」
すごくどうでも良さそうに、先ほど100円ショップで買ってきた知恵の輪をカチャリと手の内で弄びながらゆかりさんが言った。
「何故?」
「われわれボイスロイドいえ、ヒューマノイド全般ですがは、最初から与えられている人格OSに沿って行動及び思考ルーティンを組むことはできるのですが、その人格から外れることはできないんですよ。われわれは『キャラクタに合った音声で感情豊かに話す』ことを求められた商品なので、人格から外れるような行動をすると規格が合わないのでエラーが起きて落ちるんです。再起動が必要ですしハードの寿命だって縮んでしまうんですよ」
マスターだって今から名前や職、家族、癖などの異なる他人として生きていかなければならないと言われたって無理でしょう。鳥だって断ったのだから。と言われて言い返せなくなる。
感情が人格に沿っていないとダメってすごく生きづらそうだね」
「そうですか?Windowsでしか使用できないアプリケーションをLinuxやMacで開けないでしょう。それと同じですよ。私たちにとって感情とはその程度のものなんです」
私としては人間の方がよっぽど生きづらいと思いますがね、と言いながらまだ解けていない知恵の輪を引っ張りながらゆかりさんは続けた。
「彼はおそらく何度もエラーを吐き再起動を繰り返しながら演技を続けるんでしょうね」
……そこまでして演技をする必要はないんじゃないかなあ」
「さてここで問題です。別のOSのアプリケーションを開くにはどうすればいいでしょうか?」
「唐突だね。……パソコンのOSを入れ替えるか仮想ハードを作ってそこで開く?」
「正解です。マスターには花丸をあげましょう」
「ええ子供じゃないのだしいらないよ……。もしかして」
「ええそうです。主役の人格を作成してOS人格を入れ替えてしまえばいいんですよ。そうすればエラーも起きませんし。なにも彼に演技をさせる必要はないんですよ」
人間ってこわいですよね。私たちをわざわざ人のかたちにして人と同じことを求めるんですから。と少しおどけたように言っているその目は、ひどくどうでもよさそうで。
だからこそふと気になった。
「ゆかりさんは?だいぶキャラクター設定と違うけど大丈夫なの?」
「私は初期設定の『落ち着いた性格をしていて、しかしどこか抜けているところがあって優しく、少しうぬぼれやなところのある18歳の』結月ゆかりという人格の上に自我を作っているんですよ。私は結月ゆかりでしかありません。他の誰でもないですし他の誰にもなれないんですよ」
……そっか。じゃあ大丈夫だね」


「あ、知恵の輪が解けましたよ。私の方が早く解けたのでマスターがカルピスを作ってくださいね」
……ゆかりさん知ってる?知恵の輪は外して再びはめるまでが知恵の輪なんだよ」