moto
2025-02-18 16:29:52
1327文字
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退屈は、ない

さまささワンドロワンライお題「クレープ」


前もって聞かされていたとはいえ、実際にその行列を見ると、思わず怯んでしまった。そんな左馬刻に早々に気づいた簓は、どうする?と聞く。その様子は左馬刻のことを心配しているのではなく、どちらかといえば挑発しているような、興味深げに左馬刻の顔を覗き込む。そして左馬刻は「並ぶに決まってんだろ」と簓の思い通りの台詞を言ってしまうのだった。簓はさすがサマトキサマや!とこちらも思っている通りに喜んだ。
「簓さんが絶対に退屈させへんからな!」
 左馬刻の背中を力強く叩き、二人は行列の最後尾へと並んだ。
 列は少しずつ動く。最後尾だった二人のあとに続々と人が集まって、行列は長くなっていく。
「左馬刻、何にするか決めてきた?」
「決めてねえよ」
「俺はな、決めてきてたんやけど、メニュー見てたらまた悩んできた」
 簓が真剣な顔で見つめているスマートフォンの画面には、この行列の先にあるクレープ屋のメニューが開かれていた。
 季節のクレープ、人気のクレープ、定番のクレープ……簓はどれもこれもに目移りしている。
「やっぱり季節限定がええなと思っとったけど、人が食べてるのん見てたらそれもええなって思ってまうし」
 左馬刻はどないする?スマホの画面を向けられたが、左馬刻はちらりと見ただけで「俺様は普通のやつ」と答えると、簓は嬉々として「普通のやつってなあ!お前!なんと、ド定番がありますぜえ、旦那ァ」と途中からよくわからないキャラに豹変し、手もみする勢いでスマホを操った。
「これやな。バターとシュガーだけのやつ!」
「それにする」
「そうやねん、このシンプルなやつがいっちゃん美味いってなあ。わかるわかる。でも盛もりのホイップも欲しいしチョコもキャラメルソースも欲しいしバナナもいちごもほしいやん!?ああ!どないしたらええんやあ!」
 あまりにも次から次へとペラペラと出てくるので、思わず吹き出してしまう。
「ッハ、欲張りすぎだろ。全部盛りはねえのか」
 全部盛り最高やな、と簓は笑い、突然前に並んでいた客に「何するか決めました?」と話しかけ始めた。季節のクレープにするとにこにこと答えた二人組は、簓に気づき、「えっヌルサラ!?」と驚いたあと、左馬刻にも気づき、アッと息を飲み、なぜか粛々と会釈をされたので、左馬刻も会釈を返した。簓は後ろに並んでいた三人組にも話しかけている。皆それぞれお気に入りのクレープ話に花を咲かせる。甘い匂いがただよう中、明るい簓の声と笑い声にみんなつられている。確かに左馬刻が退屈することはなかった。
 注文する直前まで悩んだ簓は、初志貫徹!と最初に考えていたらしい季節のクレープ、ホイップ多めに決めた。焼きたての生地の温かさが包まれた紙越しに伝わってくる。バターと砂糖だけのクレープは生地の美味さがよくわかる。簓も溢れんばかりのホイップにかぶりつき、満面の笑みである。それぞれのクレープを味わったあと、お互いのクレープを差し出しひと口。シンプルなん美味いなあ、とご満悦な簓の頬にホイップクリームがついている。左馬刻が程よい甘さのホイップを味わいながらじっと見ていると、簓が瞬き「クリームついてんで」と笑って左馬刻の頬へ指を伸ばした。