moto
2024-12-11 22:34:30
1269文字
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愛用品

さまささワンドロワンライお題「手袋」


簓の手は冷えていた。自分でもそのことがわかっているので、左馬刻の背後からこっそり近づき、突然頬に手のひらを当てて驚かせることが多かった。毎回、冷てえ、と振り向くと簓は手のひらを擦り合わせて楽しげに笑っている。
 誕生日プレゼントに手袋を贈ったとき、これからはそうやって驚くこともなくなるのかと少し残念に思ってしまったが、大喜びで手袋をはめて、あったかいわぁ!ありがとう左馬刻、と自分の頬に当てたあと、左馬刻の頬も包み込み笑っていたので、これはこれでいいかと勝手にひとり満足した。
 今年は冬の寒さがなかなかやって来なかった。12月も半ばになり、ようやく気温も一桁になると、やっと出番が来た!と簓は嬉々としてどこにでも手袋をはめて行った。仕事の行き帰りも左馬刻と会う時も、外ロケでも重宝すんねん、と言っていた通りに、簓はいつもの手袋をしてテレビに映っている。そのことを銃兎と理鶯にぽつりと話したことがある。銃兎はなんとも言えない顔をして黙っていたが、理鶯が「それは嬉しいものだな」と言い、素直に腑に落ちた左馬刻は「そうだな」と頷いた。
 ある日オオサカにいる簓から電話がかかってきた。左馬刻の応答を聞く前に開口一番「スマン、左馬刻」
「手袋片方なくしてしもた」
 申し訳なさそうに、滅多に聞くことのない途方にくれた声だった。左馬刻が面食らっている間に、簓は失くした経緯を早口でまくしたてる。
「それは……まぁ、しょうがねえな」
 簓は決して、うんとは言わなかったし、決して諦めなかった。思いつく限り各所に問い合わせをし自分でも探しに行ったりと手を尽くしている。変わらず仕事をし、左馬刻と会って、いつものように笑っていても、簓の手は冷えたままだった。左馬刻がまた、同じものを買ってやればいい、簓が望んでいるのはそういうことではないとわかっていた。それでも何とかしたいという気持ちは収まらず、新しく同じものを買ってしまったその日のことである。
 簓からの電話の第一声「左馬刻!見つかってん!」が、あまりに大きな声だったので、スマホを耳から離した。
「手袋!片方!見つかってん!」
「声でけえ」
「今でかい声出さないつ出すんや!手袋見つかったんや〜!」
「よかったな」
「うん……
「ハハッお前泣いてんのかよ」
「泣いてへんわ!」
 ズッと鼻をすすって、見つかってよかった、と簓がつぶやく。大事なもんやったから。今、傍にいないのに、簓に抱きしめられたかのような心地がした。
 それからさらに気温が下がり、午後から雪予報も出ていた日、耳あてとロングコートを着用し、しっかり防寒対策をした簓は、両方そろった手袋をじゃーんと見せつけて、すぐに左馬刻の手袋に気づいた。
「左馬刻もおそろいにしたん?あったかくてええやろ」
 聡い男が、左馬刻が簓と同じ手袋をしている理由がわからないはずがない。素知らぬ顔をしているその頬を両手で挟んで「ああ、悪かねえよ」と力を込める。ぶへえと潰れた声を出して、左馬刻の手もあったかなったわ、とご満悦に笑っている。