moto
2024-09-23 16:17:37
1744文字
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よき朝をむかえて

さまささワンドロワンライお題「靴」「ダイナー」


夜通しの仕事がようやく終わった。夜明けにはまだ時間があった。まばらな灯りを頼りに路地を歩いて行く。目的の店にたどり着きドアを開けると別世界のような明るさに目を瞬かせる。まだ深夜に近い早朝である。客は誰もいなかった。ダイナー風の派手なインテリアとはちぐはぐな年老いた店主が不機嫌そうに左馬刻を見やり、黙って奥を指さした。素直に足を向け手洗い場の鏡を見れば、ひどい有様であった。手と顔をしっかりと洗い、埃まみれの髪を適当に整える。シャツはクリーニングか、デニムは膝が破れてしまっている。ブーツも汚れていて舌打ちをする。帰宅後即磨いたらなんとかなるか?手洗い場を出て奥の席に着き煙草を吸っていると、二人目の客が現れた。左馬刻の前でキャップを脱ぎ、にこやかに挨拶する。
「ひどい顔やなあ」
「眠ぃし腹減ってんだよ」
「お仕事ご苦労さん」
 簓は明るく笑い、重そうなリュックとスーツを入れたガーメントバッグを椅子に置き、左馬刻の向かい側へ座る。
「別に迎えに来てもらわんでもよかったのに」
「ここわかりにくいだろ」
「まあ、そうやけど」
 きょろきょろと物珍しそうに店内を見回す。店主は客に興味を示すことなく新聞を読んでいる。
「なんでここ?おもろそうな店やけど」
「てめえがパンケーキ食いてえつーから」
「えっここパンケーキあるん?」
 ふわふわじゃねえよ、と新聞を読みながら店主が口を挟む。
「定番のやつな!最高やん。おっちゃん、パンケーキひとつ!」
「あとハンバーガー」
 ようやく立ち上がった店主が準備を始める。あっという間に肉の焼ける匂いと甘い匂いが入り交じる。
 煙草を吸い眠気に抗いながらふと気づく。こういう時、お構いなくしゃべり続けるはずの簓がやけに静かだ。閉じかけていた目を開くと、にこにこしながら左馬刻を見つめる簓と目が合う。
……なんか喋れよ」
「いや、左馬刻と会うの久しぶりやし、疲れとるのも珍しいし」
 堪能してんねん、にこにことそんなことを言う。ここ数ヶ月すれ違いばかりだったので、今回の強行モーニングとなったわけだが。精神的な疲労もあったのか、思わず、こっち来いよと口走る前に、料理が目の前に揃った。簓が美味そう!と声を上げ、手を合わせる。薄いパンケーキ三枚にバターと自家製のメープルシロップをたっぷりかける。フォークを咥えて美味い〜と顔をゆるゆるにしている。ガーリックのパンチの効いたパティが二枚挟まったハンバーガーにわしわしとかぶりついていると左馬刻の眠気も少し収まった。静かだった簓の調子も戻ってきて、とりとめない話が耳に心地よい。ポテトもーらい、と途中で左馬刻の皿からポテトをつまみ食いし、甘いのとしょっぱいの最高や、とご満悦である。
「こっから取るなよ。新しく頼め」
「これくらいがちょうどええんやって」
 悪びれることなくもうひとつポテトをつまんでいく。店主がハンドドリップで入れるコーヒーの匂いが店内に漂い始める。
 食後のコーヒーを飲み終えて、簓が時間を気にし始める。これから始発の新幹線に乗ってオオサカの仕事へ向かうのだ。
「今度は晩ご飯一緒に食べよな」
「俺様が作るから何食いたいか考えてろ」
「うははは、楽しみやわ」
 簓が立ち上がり身支度を整える。
「帰ったらシャワー浴びてしっかり寝るんやで。起きたらメッセージちょうだい」
 左馬刻の埃まみれの髪を撫でて、額にくちびるを寄せる。にかっと笑ったあとキャップをかぶり、おっちゃん美味かったわ!ごちそーさん!と笑顔で挨拶し、財布を取り出したところで、お代はもうもらってるよと言われ、目を見開いて左馬刻を指さし、笑って手を振って店を出ていった。
 もう一杯コーヒーを飲み煙草を吸っていると、腹も満たされて眠気が襲ってくる。店主がカウンターに紙袋を置いている。送迎係の舎弟の朝食を手に取り、左馬刻も店を出た。
 帰宅しシャワーを浴びて、ひと眠りする。そんなに眠れなかったが、起き抜けに「起きた」とだけ簓にメッセージを送った。洗濯機を回し、破れたデニムは保留とする。ブーツを磨く準備をしていると、ボイス付きの本人のスタンプが返ってきて、爆音の「おはよーさんさんサンフランシスコ!」が響き渡った。