moto
2024-08-21 19:08:01
1883文字
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どっちもほしい

さまささワンドロワンライお題「よくばり」「宿題」

降って湧いた二日間の休日である。睡眠時間を削るほどの過密スケジュールではなかったが、丸一日オフの日など何ヶ月ぶりのことだろう。この休日のあと、また果てしなくスケジュールが詰まっている。貴重な休日だ。何をして過ごそうか。忙しい中でも週に一日家事代行サービスを使っているので、部屋は荒れ果てることなくほどよく片付いている。ゆっくり部屋で過ごすか、どこかへ出かけるか。アプリで共有している左馬刻のスケジュールを確認する。この二日間は連絡不可とあった。たまにこういう日がある。そういう仕事もあるということだ。盧笙、零の顔が次々と思い浮かび、それからふとひらめいた。
 翌日は8時に起きた。最近は5時起きだったのでたっぷりと眠れたし久しぶりの休日にわくわくしていて目覚めも良い。そそくさと支度をして用意していたリュックを背負い家を出る。シンオオサカ駅の近く、路地裏の奥まった場所にある喫茶店でモーニングを注文する。バターとはちみつがたっぷりかかった分厚い食パンとゆで卵、サラダにアイスコーヒー。喫煙可の店内は常連客の老人たちが煙草を吸いながら新聞を広げている。零に教えてもらった喫茶店だが、静かだし来るたびに懐かしさを感じ、簓は気に入っていた。
 新幹線と在来線を乗り継ぎ、降り立った駅前の寂れたラーメン屋の暖簾をくぐる頃、昼はとっくに過ぎていて、しょうゆラーメンが空腹に染み渡る。ここに来る時はこのラーメン屋でラーメンを食べて、スーパーに寄ることが日課になっている。バスに揺られて坂のふもとの公園前で降りる。そこからしばらく徒歩で坂を上り急な階段の先にある平屋の前で、ふうーっと息をつく。左馬刻と借りた別荘では、二人で一緒に過ごすこともあれば、一人で来て一人きりで過ごすこともある。今回は一人だ。管理は人に頼んでいるがそんなに頻繁に来ることはないので、到着後はまず換気と掃除からと考えていたが、中に入ると空気は悪くなく、部屋もこざっぱりしているように感じる。
「なんだよ」
「ワッ!?」
 突然背後から低音が聞こえて飛び上がる。
 振り返れば、左馬刻が立っていて、軍手をした手に大きな袋を持っている。
「さ、左馬刻ぃ!?」
「おう、てめえも来たのか」
「えっえっ、今連絡不可やったんちゃうん?」
「早めに終わった」
「ほへ〜」
 まだ頭がついていかずぼんやりしている簓を置いて、草引きを終えた左馬刻は近くの温泉に行くと言って出て行った。
 奇跡的に休みがかぶり、奇跡的に同じ場所で遭遇するなんて、簓は楽しくなってしまいにやにやと頬を緩ませて、自分も休日を満喫するためにソファに身体を沈めた。
 持参した本を読んだり、うとうとしていると温泉とサウナで整った左馬刻が帰宅する。入れ替わるように今度は簓も温泉へ向かう。ゆっくりと熱い湯につかり地元の人と会話をする。少し冷えた夜道を散歩して帰ると、左馬刻が夕飯の準備をしている。当初は一人で晩酌の予定だった簓はビールと軟骨の唐揚げとマカロニサラダしか買っていない。それはもれなく夕飯のおかずの一部となった。久しぶりに食べる左馬刻が作った豚肉の生姜焼きは震えるほど美味しくて、土鍋で炊いた白米は二杯おかわりした。簓が食器を片付けている間、左馬刻は外のデッキで煙草をくゆらせながらビールを飲んでいる。簓はまたソファに横になって読書を続ける。静かな夜が更けていく。
「寝るわ」
「うん、おやすみぃ」
 あと少しだからと読み続けた本は日付が変わる頃読み終えた。出発前にシンオオサカ駅の本屋で買った本だったが、久しぶりのミステリは楽しかった。自分が出ていた番組で紹介されていた本だったが、やはり間違いはない。忙しいといえどももうちょっといろんなジャンルの本を読もうと決意を新たにしたところで、大きな欠伸が出る。寝室は別々にある。片方の部屋で一緒に寝ることもあれば、一人で寝ることもある。簓は荷物を置いている自分の寝室へ行き、ベッドに横になった。リュックの中にはいちおう持ってきたこれからの仕事の資料や台本があった。これらの宿題はおそらく、きっと、目を通されることはないだろう……
 簓はおもむろに起き上がり部屋を出た。左馬刻の寝室のドアをそっと開ける。耳を澄ますとすこやかな寝息が聞こえる。布団をめくり身体を滑り込ませると、すぐに左馬刻は気がついた。
「一緒に寝るか」
 寝ぼけた口調に笑みが漏れる。
「うん、久しぶりやんな」
「おう」
 一人になりたかったり、二人一緒になりたかったり、よくばりな俺を、左馬刻はゆっくりと抱きしめた。